推しの子 ルビーちゃん大勝利√ 作:ルビーちゃん可愛いやったー!
転生してから一週間が過ぎようとしていた頃、ルビーはある事に気がついた。
(あれっ、なんか変なのがずっと隣に居る)
共に生まれた双子の兄の存在に気がついたのだ。もちろんずっと近くに居た。だが、目に入ってなかったというか、推しのアイドルに気を取られていた事もあってまったく意識をしていなかった。兄はおとなしく、ほとんど泣くこともなかったので、置物感覚でいた。
双子という事で推しのアイドルから愛情を向けられる時間が減ることが分かったルビーは少し面白くない思いをしたものの、他にやる事の方が大切だった事からスルーした。
(まあ、いいか。アイとの時間が減るのは嫌だけど、推しの子供だし。仕方ないか。それよりも一刻も早くせんせと再会しないと!)
ルビーの脳裏には、推しの子としておぎゃバブしつつ、将来的にはアイドルになって研修医の青年、雨宮吾郎に推してもらい、将来的には結婚してイチャイチャするという夢があった。正確には夢というより、もはや確定事項の予定である。
ルビーの脳裏にはお花畑な未来しか見えていなかったし、その為に行動することに迷いなんてなく、双子の兄の事なんてまるで気にせずに過ごしていく。
だが、その明るい未来に陰りが見えたのが最近の事。母親が寝ている時にスマホを奪って、生前に雨宮吾郎と出会った病院に電話をかけたときの事だった。
「えっ、雨宮先生が居場所も連絡先も分からないってどういう事ですか?」
「雨宮先生は少し前から出勤して来なくなってしまって。今はどこに居るのかまでは…………」
自分が生まれる前くらいの頃から居なくなってしまったと聞いて、ルビーの脳裏に浮かんだのは、女関係でやらかした雨宮吾郎の姿。
雨宮吾郎はルビーの想い人であり、脳内補正がかかりまくっている。そして過去に看護師さん達が雨宮吾郎に対して話していた事から推察し、あんなに素敵で格好いいせんせがモテないはずもなく……自分という婚約者が居なくなって、女関係でやらかして逃亡したのだろうと当たりをつけた。
なお、別に前世で少女と青年は別に婚約者でもなんでもないが、ルビーの脳内ではそうなっていた。
ルビーは計画が上手くいかなくなり、明るい未来の妄想に耽る事が出来なくなった。ルビーはそれからスマホを母親が寝ている時に操作し、スマホを弄る。母親と戯れている時と寝ている時以外の赤ん坊の日常は元12歳のルビーにとって退屈すぎたし、憧れの生活が怪しくなったストレスから現実逃避したかったのもある。
そうすると休業中の母親についての悪口が目に入る。活動中であれば応援の声などが表に出てきて目に入らないが、今は活動もしていない為、暇すぎて気に入らない人にアンチ行為をするような人の熱心なアンチコメントが目立つようになる。イライラしたルビーはそんなアンチと激闘を繰り返すようになった。暇人対暇人のネットバトルだ。
「はぁ死ねよ!? ママの才能と美を理解しない類人猿が……!」
「どうせてめぇブスなババアだろ! 鏡見てからもう一回言ってみろ! ぶーす!!」
そこには少し前まで病弱な少女だった面影はなく、インターネットの闇に飲まれた赤ん坊の姿がそこにはあった。
そこに声をかける人影が現れた。それはルビーの双子の兄だった。
「お前、もしかして俺と同じか?」
「え…………」
少しの沈黙と共に叫び声が響く。
「赤ん坊が喋った! キモッ────!!」
少し前まで置物のような扱いをしていた兄が喋り出した事にお化けでもみたように騒いだルビーを見て、兄は思わず突っ込んだ。
「お前もだろ」
*****
side:ルビー
「はぁ~、あり得ないんだけど」
ほんとあり得ない。せんせと再会出来なくて落ち込んでいた時に、さらに兄が同じ転生者なんて。ママとの時間が減るのを、推しの子供だから海よりも広い心で許してたのに…………
「いや、こっちの台詞なんだが」
「えっ? なにが? アイのおっぱいしゃぶってオギャれてなにか不満でもあるの?」
「オギャる??? 食事に関しては……し、仕方ないだろ! 生きる為にはそうしないといけないんだから」
いや、こんな機会があってそれだけなんてはずがない! 中身が転生者なら私と同じくオギャばぶしてねっぷりとしゃぶっていたはず!!
「あんた前世で男? 年齢は?」
「男で28だけど……」
「おっさんじゃん! きっもー!」
「おっさん言うな!」
ああ、最悪。28歳のおっさんがママのおっぱいを吸っている姿を想像するだけで気持ち悪い。ママ可哀想すぎ。ママは私が守らないと。私はそう心に決めた。
そんな事を考えて居ると兄がムッっとした表情で説教をしてきた。
「俺の事をどう思おうがどうでも良いけどさ。お前、アイのスマホでSNSはおろかアンチ行為とかするなよな。もしミスってアイのアカウントでやらかせば炎上どころじゃすまないだろ」
「はぁ? そうならないようにアカウントの管理とかも気をつけてるし!」
「俺はよく知らないけど、そういうのって情報漏洩する可能性とかもあれば、暴言なんかで訴えられる可能性もあるんだろ? それで個人情報の照会とかされればアイのアイドル人生が詰みかねないのは分かるよな。アイのアンチが気に入らないならアイの事が好きなんだろ? ならアイの為にならない事は止めろよ」
悔しいが正論だった。アイのオタたるものアイに迷惑をかけちゃいけない。それを守らないとオタ失格だ。
「わかった。もうやらない。それで良いでしょ!」
「ああ」
こうして最悪の形で兄、いや、アクアとの関係がスタートしていった。
アクアはアイのオタクだった。
私は12歳で死んだからアイのその後を知らないけど、アイが16歳になるまでの事をアクアは詳しく知っていて、私ともその話をしようとしていたが、私は死んだ後だから知らない。
12歳時点のものだけでアイのアイドル人生の殆どを知らなかった私に対して「お前、本当にアイのファンだったのか?」と言われて、「死んじゃったんだから仕方ないでしょ!」と泣きながら抗議してからはなんか態度が柔らかくなった。
少しだけだけど、せんせとの初対面の事を思い出した。あの時、脱走しようとした私に対する態度とかにそっくりだった。男の人というものに殆ど触れてこなかったから、男の人ってそういう感じなのかもしれない。
人生の殆どが病院での生活だった私は男の人はパパと病院の先生、そしてせんせくらいしか知らない。
だから、なにを話せばいいのか分からなかったけどアクアは結構気安く話せた。初対面の印象は最悪だったけどお互いアイのファンで、その事で暇潰し感覚で何時間も何十時間も話せば、悪い人ではないということも分かってきた。
お互い寝る時間以外は暇すぎてしゃべって暇を潰すしかなかったから、アイに甘えている時間よりもアクアと話している時間の方が長かったくらいだ。
なんだかんだで私が死んだ後のアイの快進撃を聞くのは楽しかったし、アクアもおっぱいを吸ったりとか気持ち悪いと言ったことはなるべく避けようとしているのも分かったので、まあ、妥協してやるか。と思うようになった。
あっ、アクアがママに抱かれて気持ち悪い顔してる。妨害してやる。
「おぎゃ──!! (ママー! こっちだよ)」