推しの子 ルビーちゃん大勝利√ 作:ルビーちゃん可愛いやったー!
ルビーとアクアがお互いを転生者だと認識しあって数週間が過ぎたある日から二人の生活が大きく変わった。
きっかけはアイのアイドル復帰だ。
約8ヶ月に及ぶブランク明けの復帰を果たしたアイは仕事にレッスンと忙しい日々に戻る事になる。仕事に戻るとはいっても赤ん坊を放置するなんて事はできない為、代わりに社長の斉藤壱護の嫁のミヤコが面倒をすることになったのだが……
「はー……なんで私がこんな事を」
絶賛、不満爆発中だった。
不満の内容は小さい事務所とはいえ社長夫人になったはずなのに与えられた仕事が双子のベビーシッター。自分の子供もまだなのに他人の子育てをしろ。そんな事を言われて不満に思わない方がおかしいので当然の結果だった。
「はぁ? ママに尽くせるのは幸福以外の何物でもないでしょ?」
「いや、普通は嫌だろ」
どんどん出る文句の数々に二人はどうするか話し合うがそんな間にもどんどんヒートアップしていく。
「ていうか、これって不祥事の隠蔽よね。これを週刊誌に売ったらお金持ちになれるんじゃない?」
週刊誌のネタ提供で貰える金額なんて多くても5万になるかならないか程度なので、やるときは私怨だったり、不倫などの示談金目的だったりなのでまったくそんな未来が訪れる事はないし、自分も職を失う上に、自分の事務所のスキャンダルのリークなんてすれば芸能界での再就職なんて不可能になるなどデメリットだけしかないのだが……
「もー! 全部どうでもいい! やってやる!」
苛立ちが極まった結果、後々の事まで考えず行動しようとしようとしていた。それに対してアクアは考えを巡らせる。
(放っておいたら危険だ。だが、これを逆にチャンスに出来ないか?)
ついにはミヤコがアイの母子手帳をスマホのカメラで撮影しだした事に焦るルビーに対して、アクアは耳打ちをする。
「俺に考えがある」
だが、考えはルビーの計画性程度にガバガバだった。赤ん坊なのに喋れる事、赤ん坊ではあり得ない事をすることで自分を神の遣いであると誤認させようとするというもので、当然、ありえないと、一蹴されそうになる。
だが…………
『慎め、我はアマテラスの化身。貴様のいう神であるぞ』
ずっと、いい子を演じてきた子が居た。生涯を通じて演技をし続けた天童寺さりなの渾身の演技は、元々赤ん坊が話すというあり得ない事と合わさって本当に超常のものなのでは? と思わせるに足るものだった。
こうして、2人はアイの妊娠バレという爆弾の爆発を防いだだけでなく、赤ん坊の頃から行動する為の協力者を得た。それに、これで外に出られるようになった。と喜び合う2人だったが、ルビーがあっと思い出したように言い出した。
「じゃあ、アイの過去のDVDとかも持ってきて貰おっと! 私が死んでる間のアイの活躍も目に刻んでおかないと!!」
その言葉にアクアは苦笑するしかなかった。
「やっば────!!!! 今の見た!? ほんとアイ可愛すぎ!!」
星野アクアは目を光らせてテレビを見るルビーを見て、懐かしいものを見るかのように温かい眼差しを向けていた。
そうして、アイが帰ってくる時間になっても見続けようとするルビーを引き留めて、アイが寝ているのを確認するとまた視聴を再開して……直ぐに寝てしまったルビーを見て、こうなると思ったと掛け布団をかけ直す。
「まったく、このまま寝て、アイが起きたときにテレビが付いていたらどうするつもりなんだ」
ため息をつきながら、アクアは過去の事を思い出していた。
かつて自分を慕っていた患者の子供の事を。
「アイについて語る時の熱量は君にそっくりな子だよ……さりなちゃん」
「えっ……」
「悪い起こしたか?」
「ちょっと、アクア。なんで私の前世の名前を知ってるの?!」
*****
side:ルビー
体の上になにか軽いものが乗っかった感覚がした。
眠い気持ちを抑えて見ると、小さい赤ん坊……アクアが私に掛け布団を掛けていた。
あの演技でマネージャーの人からアイの過去のDVD。私の死んだ後のアイの活躍を見ることが出来るようになった私は、あまりに楽しくてアイが寝た後を見計らって昼間の続きから見ていたけど寝てしまったみたい。
起きるのも億劫だからふたたび寝ようとすると、アクアから私に声をかけているみたいだった。なんだろう? と意識を傾ける。そうすると一気に目が覚める言葉が出てきた。
「アイについて語る時の熱量は君にそっくりな子だよ……さりなちゃん」
「えっ………」
さりなは私の前世の名前だった。前世の事はアイとせんせ以外はあまり話したくなかった事もあって、アクアには話していない。だから知っているはずがない。
「悪い起こしたか?」
私が起きている事に気がついたアクアはなんでもないように話しかけるが聞かないといけない。
「ちょっと、アクア! なんで私の前世の名前を知ってるの?!」
そう言うとアクアは少し驚いたように答えた。
「いや、お前の前世の名前じゃなくて、前世の知り合いにお前に似た子が居て、それでその子の名前がさりなちゃんって名前で……その子に対して言ったつもりだったんだけど……」
アクアはそういうと信じられないような顔をしていた。いつもぶっきらぼうなのに珍しく慌てているみたいだった。
その言葉を聞いてもしかして前世での私の知り合いなのかもしれないと思った。
私は物心ついた頃には病院に居たし、何度も何度も転院を繰り返してきた。だから私を知っている病院の先生だったり看護婦さんは沢山いる。けど、思い当たる人は居ない。正確には今の私を見て、天童寺さりなだと思うような人が思い当たらなかった。
私はずっといい子で居ようと心がけていた。今は死んだから、赤ん坊だから好きにやってるけど、それまでの私は素の自分なんて出せたのは、昔のお母さんとせんせだけ。今の私を見て分かるのは2人しか居ない。でもアクアは明らかにお母さんじゃないし、残るのは……そこまで考えていると、アクアが真剣な表情でこちらを見ていた。
「宮崎総合病院は知ってるか?」
アクアから問いかけられる。私達が生まれた病院だ。知ってると答えようとしたけど、もっと違うものを聞かれているような気がした。
「うん、知ってる。私達が生まれた病院で……私が死んだ場所」
それを聞いて、アクアは深く息をついて私に聞いてくる。もしかして、アクアの死んだ場所も同じなのかもしれないと思った。それならせんせと私の会話を聞いた事があったりするのかもしれない。
「……もしかして雨宮吾郎って知り合いか?」
やっぱりそうみたいだ。
「うん、私の婚約者だった人!」
そう言うと、アクアはなぜか慌てたように言い訳を始めた。
「いや、俺は16歳になったら真面目に考えるって言っただけだから! 婚約はしてないから!」
その姿はいつもぶっきらぼうで皮肉屋なアクアじゃなくて、かつてのせんせを思い出す仕草だった。
1度、そう見えてしまうと、過去の会話が、初めて会った時のせんせのような雰囲気をしているように見えてくる。そして、16歳で結婚しようと約束はしたけど、
答えは一つしかない。
「ねえ……もしかしてそうなの? あなたはせんせーなの?」
そう問いかけるとアクアはかつてのせんせを思い出させる顔をした。
「ああ、そうだよ。さりなちゃん」
この日、私は運命の人と奇跡の再会を果たした。