推しの子 ルビーちゃん大勝利√ 作:ルビーちゃん可愛いやったー!
星野アイがアイドルから復帰して数ヶ月。復帰明けからB小町は快進撃を続けていた……わけでも無かった。
「今月のお給料2◯万円……」
アイは暗い表情でそう呟いた。
「ねぇ、うちの事務所の給料渋いよ~。この間のシングルもオリコン3位とかだったのに……中抜きエグすぎない?」
社長夫人兼双子のお世話係兼マネージャーのミヤコに当たってしまう程度にアイはお金の危機感が沸いてきていた。
「ウチは弱小芸プロなんだから仕方ないでしょ。今更どうしたの?」
別に理不尽にお給料から抜くようになったわけでもない。いつも通りの処理をしただけ。お金の事なんて気にしたことが殆ど無かったアイの変化に疑問を抱く。
「私一人の時は今のままでも良かったんだけど、この子達を良い学校に入れたり、習い事をさせたり、色々な選択肢をあげる為には、私がもっと売れて、バシバシ稼がないと駄目なんだよね?」
「……そうね」
「このままじゃこの子達を幸せに出来ない」
アイは暗い表情でレッスンに向かう。仕事が無いなら仕事が貰えるように芸を磨くしか無かった。
B小町が売れていない訳ではない。地下アイドルの平均月収が5万円な事を考えればアイドルとして破格な給与だ。単純な額面で言えば一人当たり30万円以上ある。事務所が6割は持っていっていた事を考えればB小町はグループとして月に500万円以上は稼いでいる。
だが、芸能界では、メディア出演料で新人が単価数千円~10万円、売れっ子やベテランと呼ばれるひな段に居たり、メインロケ、トークゲスト、クイズ番組の回答者で10万円~30万円、冠番組のレギュラーMCになると100万~300万円、業界で5指に入るような大物なら500万まで行くケースもある。
売り込み目的で利益率の低いメディアの出演料単価ですらこれだけあり、CMなどの企業案件の広告をすると、これらの10倍以上の案件も珍しくない。台頭してきたネットビジネスだと売れっ子の有名人のステマが300万円、コラボ企画が500万円ほどなのを考えると、7人がかりで一ヶ月かけて有名人のコラボ企画一回分程度しか稼げていない。
B小町は単価としてまだ新人としてはかなり高い。ただそれを7分割している為、なんとか専業で食べていけるギリギリのラインを確保するので精一杯。子供が2人居る事を考えると物足りないどころか生活保護費以下の生活しかさせられないものでしか無かった。
六本木や港区でのいわゆる◯◯女子なんて言われる子の時給はなんのスキルもない大学生でも5000円からが相場という事を考えると、そっちの方が時給換算するとよっぽど稼げたりする。
アイは努力をしている。
仕事でいろいろな所に出向き、仕事がない日は厳しいレッスンを受ける。家に帰ってからもレッスンにボイトレ、振り入れを行い、努力に努力を重ねている。
それでもアイはトップクラスのアイドルでしかなかった。もちろんそれは凄いことではある。何万人、何十万人の中から選別されて生き残っているという事なのだから。
だが、売れっ子やベテランタレントは各業界のトップの中から選別された人達であり、何十万、何百万を出しても惜しくないと思える『なにか』を持っている人、『なにか』を持ち続けている人しか生き残れない世界であり、その壁は厚い。
アイは子供の養育費の多さを子供を持ってから初めて意識した。
そして子供に恵まれた環境を与えようとするならどれくらい稼がないといけないかもネットを見れば直ぐに分かってしまう。ただでさえ双子はお金が掛かる。かつてのように賑やかでいいなんて言っていられない。16歳の女の子から一気に母親としての自覚を求められる生活になった事を嫌でも実感させられる。
シングルマザーが生活保護に頼らずに生きていく厳しさを16歳の少女が一身に受ける精神的負荷は計り知れない。『なにか』を手に入れないといけないのは理解しているが、その『なにか』がどうすれば手に入るのかが分からない。
B小町がアイドルとしてある程度成功しているから斉藤夫妻が協力してくれている。ならこのまま停滞してアイドルとしての旬が過ぎれば? その答えは明白だ。10代の女の子とその子供が残されるだけ。
「もっと売れないと……」
焦燥感が星野アイの心を蝕んでいた。
そんな中……
「せんせ! 今日は待ちに待ったママの生ライブでデートの日だよ!」
当の娘のルビーは今日も元気いっぱいに幸せに過ごしていた。
*****
side:ルビー
楽しみ過ぎて昨日はよく寝られなかった! けど、きちんとお昼寝もしたし準備万端!
「せんせ! 今日は待ちに待ったママの生ライブでデートの日だよ!」
「デートじゃないからね! 心配だから様子を見に行くだけだから!」
「わかってる。わかってる」
「大丈夫? ほんとに分かってる?」
「もちろん!」
もちろん、ママが悩んでいるのを心配している。
最初、せんせは、「やっぱり産後うつかなぁ」と言ってたけど、私はちょっと違うと思ってママのスマホの閲覧履歴を見たら、私立の幼稚園とか小学校、中学、高校、大学とかのページだけじゃなくて色々な習い事の金額が載ってるページを見てた。
「つまり、ママは見る目のない人達に呆れてるって事だね!」
「なんでそうなるの!?」
「だってママのお給料が見合ったものになってないのは業界の人達の見る目がないからじゃん!」
「いや、まあ、見る目がないのはそうだけど……」
「だよね!」
「でも、アイはそんな尊大な人間じゃないよね!」
「はっ! そうだよね! ママはキモオタのファンすら推してくれる超天使だからね!」
アイの才能が知れ渡ればお金なんてジャブジャブ稼げるのに、業界人のじじいどもは~。
「はっ! オタがママに肝臓を捧げて回れば解決するんじゃない?!」
「どこの世紀末なの?! それ、アイドルじゃなくて怪しい新興宗教の教祖とかそういうやつだから!」
そんな風に話しているとせんせがぽつぽつと独り言のように話し始めた。
「別にお金なんて気にしなくて良いのにな。今は学費なんて無償化してるし、前世でも高校とか大学の学費なんて家庭に事情があって学費が払えなくても勉強ができれば奨学金とか学校の制度を使えばタダに出来た。今はネットもあるし、翻訳とか卒論肩代わりとかそんなので稼げばいいだけなのに」
「私もアイドルになって大学とか行かないつもりだから良いのにね」
「アイドルになったとしても後の事も考えて大学は……」
「だってアイドルを引退したらせんせと結婚して毎年子供産むつもりだからへーきへーき」
「えっ?」
「サッカーチームを作れるくらい! きっと超可愛いよ!」
「俺たち兄妹だからね!」
そんな感じでアイの事を心配して色々話し合ったけど、結局解決策はなかった。養育費とかそういうのは、特待生になるとか、私たちがお金を稼げる事を証明すれば解決するだろうから、それまではアイが成功出来るように出来る事をしていこうという話にはなった。
結論は出た。ならちょっとくらい楽しんでもいいよね。だって……
「せんせと一緒にライブに行けるんだよ! 楽しみじゃないはずないじゃん!」
死ぬ前に……最後にせんせとアイのライブに行こうとして行けなかった。あの時の続きが出来るんだから……
「……うん、そうだね」
そしてライブでせんせと私は目立っちゃいけないと言われたけど、興奮して前世で特訓したオタ芸を大公開してしまった。
でもなんかママが元気になったから、よし!