推しの子 ルビーちゃん大勝利√ 作:ルビーちゃん可愛いやったー!
五反田泰志は有能な監督である。
だが、低予算小規模な現場監督であり、実家で寄生虫をしている子供部屋おじさんかつ婚活では敗北しまくってるまるで駄目なおっさん。マダオになっているのか? その原因はテレビ業界と本人のこだわりにある。
テレビ業界は負のスパイラルに入っている真っ只中である。その原因は視聴率の重視。正確には世帯視聴率の重視だ。
世帯視聴率は1つの家庭のテレビがAという番組を見ていたら、その家庭全員がAという番組を見ていた事になるシステムだ。実際にそんな事はないのだが、テレビ業界は全国民の20%が見ていたと宣伝してスポンサーにCMを出して貰っていた。
なんで世帯視聴率に固執したかというとCM単価が視聴率によって決まっていたからで、単価を下げたくないからとか、細かく調査すると実際に個人単位で出すと視聴率が半分以下、さらに少子高齢化している為、高齢者の世帯が50%近くあり、さらにそれ以下のスポンサー企業が本当に見て欲しいコア世代は視聴率が低いのがバレるので向き合いたくなんてなかったのだ。
ただし、そこら辺を見ない振りをして視聴率を取ろうとするとどんどん高齢者向けになる。高齢者向けになると知らない10代、20代の芸能人より、高齢者の知っている高齢者世代に活躍した芸能人の出番の方が増えたり、健康番組のような高齢者向けのものばっかりになったりして若者はテレビがつまらなくなるので見ない。そうなるとさらに若者向けが無くなったり、見にくい時間へ移動するのループに入る。
問題視され始めてから20年ほど経つとどうしようも無くなって、個人視聴率を計測し始めたり、コア視聴率なんかを重視し始めたり色々するが、それはまだ10年は後の話。五反田泰志は自分にとって面白い作品。主に10代、20代向けの作品を頑張って良い作品を作っているのだが、アイとアクアの出演の映画が高齢者受けの悪い整形をテーマにしていたり、その前のドラマも学園もので年寄り向けでは無かったので、最も重視される世帯視聴率が取れず評価も辛かった。
そんなこんなで若者向けは(アニメ以外だと)テレビでは評価されない項目ですからね。と、どっかの劣等生のような事になっていた。それでも、そういう作品も必要だ。俺は俺が面白いと思う作品を作る! と頑張っていた熱いこだわりをもっていたが、そこが評価されるように業界が変わるのは10年くらい後の話になる。
そんなこんなでこれから10年くらい報われない人生を送るはずだった五反田泰志に転換期が訪れる。
頭のおかしい赤ん坊達との出会いであった。
「どう? 監督。こんな感じでいい?」
「どうってなんだよ?」
「いや、監督が言ったんでしょ? 新人役者に演技力なんて期待してない。画面に新鮮さをくれれば及第点。客に売れるか現場に好かれるかどっちかがなきゃ次の新人に席を奪われるって。それを俺なりに解釈して、対策をとってみたんだけど」
「あれはアイの世代というか大人を想定して話した事だ。赤ん坊がするなよ」
「出来ないより、出来た方がいいでしょ?」
「まあ、それはそうなんだが……絶対おかしいだろ」
(現場入りした後、俺の手が空いてない時間を共演者やスタッフと談笑をしてコミュ取ってたんだがこの赤ん坊。この間、話していた時はなんかくだけた態度だったのに、共演者やスタッフに対してはその貴方の事を尊敬してます的な態度をしてるんだが? この間のと比較すると違和感がやべぇ)
そこにはこの間話した新人が成功する為に求められることを自分で解釈して実行に移している姿があった。それを見て頭の良さがそこら辺の役者どころじゃないな。と、賢い赤ん坊という認識から、大人並みの知性がある赤ん坊に切り替える。
「ああ、もういいか。じゃあ、仕事の話だ。俺が何を求めてるか? 分かるか?」
「俺が事務所に所属していないし、演技の経験がないのが分かっていて誘ったって事は演技力そのものを要求しているわけじゃない。本来、小学生以上の子役じゃないと言わせないような長い台詞をわざわざ言わせて違和感を大きくしていて、役柄が気持ち悪い子供。ここまで材料が揃えば分かるよ」
「分かってるならいい」
そう言って、自分が存在自体が気味が悪いと言われたのも同然なのに気にもしない態度を見て……そして、初めての撮影なのにびびっている様子すらなく、当たり前のように撮影を終える姿は、中に命の掛かった修羅場をいくつも体験した大人が入っていると知らなければ大成する未来を感じさせるものでしか無かった。
(少し面白そうだと思って映画の撮影に呼んだ赤ん坊が、こっちの意図を呼んであえて演技をしない事を選び、その結果、良い画を取ることが出来た。それはいい。それくらい出来るだろうとして誘った。問題はそれ以外の事だ)
演技面については五反田の想定通りだった。話してみた感覚ではそれくらいは出来ると踏んでいた。だが、色々と想定外な行動がある。それは現場入りしてからの対応とその後。
(自分は大人の対応が出来る事を証明しただけでなく妹も自分がフォローすれば似たような事が出来る事をアピールして、妹も試して見ないかとか言い出すとか……どれだけ先を見据えて動いてるんだ? こいつ?)
「面白いな。お前が自分以上に才能があるなんて言う妹の事も試してやるよ」
どんなものが出てくるのかわくわくしながら五反田泰志はアクアにそう告げるのだった。
*****
side:ルビー
「え~! 今度はルビーも子役になるの?! うちの子ってほんと天才だね!」
ママがニコニコしながら私の頭を撫でる。は~、極楽浄土~!
お兄ちゃんといっしょに挨拶まわりをしていたら監督に私を使いたいと言われた。まあ、ママの子だし、私って超可愛いからね。使いたくなるのも分かるよ。
本当は一気にアイドルとしてデビューしたかったけど、小学生とかになるまで、そういうのはあんまり無くて、今の最年少のアイドルグループの最年少で8歳らしい。あと労働基準法? みたいなのがあって文化事業的なやつじゃないと基本的に中学生からのデビューとかになったりみたいなことをお兄ちゃんが言っていた!
幼稚園児や小学生の低学年のうちは基本的にモデルとか子役をやって知名度を稼いだり、実績とかを積むのが王道とか言ってたし、まあ、演技にはお兄ちゃんにも褒められたし、ちょっと自信があるからやってみることにした。お兄ちゃんが支えてくれるって言ってるし、アイドルになるまでの間に愛を育むのもいいよね! まあ、ママも中学生からだったし、それに合わせるのもいいかな。って思った。
「だってママの子だもん! 才能があるに決まってるじゃん!」
「役は……病弱だった時代がある元気いっぱいな女の子か~。あれ? アクアとルビーって風邪とか引いた事ないよね」
「うん! 超元気だよ!」
この体はすごい元気。風邪どころか体調が悪かった事がない。
「大丈夫? 具合が悪い人って見たことあんまりないでしょ? 元気な姿は素のルビーでいいと思うけど……」
「大丈夫。大丈夫。出来るから!」
「凄いね~! アクアもルビーも」
「えへへ、もっと褒めて!」
体調の悪い子の演技なんて簡単だ。だって、前世で嫌というほど見てきたから。
作品は漫画が原作らしくて、それをドラマ化したものだった。
役は悪魔と契約した女の娘。
私の母親役の女の人は病に蝕まれて死にかけている娘を悪魔と契約をして治してもらう。その代わりに女は悪魔の言うことを聞かなければならず、その過程でどんどん壊れていく。そこを主人公に成敗された後、救って貰う話。
私に求められる演技は病弱で死にそうになっている演技と悪魔に治療をして貰い元気になっていく姿のギャップ。女が悪魔と契約をしてまで救いたいと思うような苦しそうな姿と病弱な姿から明るい姿の娘を見て、女は自分の決断が間違っていなかったと思うような明るい姿が求められてる……らしい。
「あとから録る明るい姿はそのままで良いから、病気になってる子の顔を観察して、それを真似てみろ」
そんな事を監督に言われたけど、正直、そんな必要は無かった。台詞もなにもないならそんなの簡単だ。お兄ちゃんからも心配されたけど、余裕。余裕。
苦しくて、痛くて、気持ち悪くて、今にも死にそうになっている子の顔は飽きるくらい見てきた。演技なんて必要無い。かつての自分を思い出すそれだけでいい。
それだけで……求められている役になれる。
「お母さん……大丈夫……だから」
苦しいけど、それを隠して大丈夫だって、心配しないでって言う。本当は抱きしめてほしい、つきっきり付いていて欲しい。そんな思いをかみ殺して言葉を選ぶ。
「お母さん……」
そしていなくなった後、伝えたくなんてないけど、伝わって欲しいという気持ちが溢れ出て、つい、呟いてしまう。
「カット! OKだ!」
なんか体調の悪い演技を本気でしたら、共演者の人がなんか本気で慌ていて、本当に心配していてどうすればいいのか悩んでいるように見えた。リハーサルの時はもっと嘘くさいというか、なんというか微妙な感じだったのに、本番だと結構変わるんだなぁ。そんな風に思った。
前世の生活を思い出して、死にかけている時を再現したらほんとに気持ち悪くなっちゃった。お兄ちゃんに甘えて元気貰おっと!
そんな事を考えていたら周りの人がなんかこっちを見て黙ってる。なんで?
おかしい雰囲気の中、監督が近づいて来て私の肩を掴んできた。
「ルビー、お前、将来女優になれ!」
「えっ? やだ」
私は将来、アイドルになるんだから女優にはならないよ。