貴方は一般的な生徒である。   作:ホシのユメ

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 ──2人の囚人が鉄格子の窓から外を眺めたとさ。
 1人は(げんじつ)を見た。1人は(ゆめ)を見た。

 ──フレデリック=ラングブリッジ『不滅の詩』より。


一話 初めましてミレニアム

 貴方は一般的な生徒である。

 前世の記憶を持っているし、長身普乳でメタルフレームの伊達メガネを掛けた綺麗系な顔立ちをした銀髪、かつ緑色の目を持つ美少女という、キヴォトス外からみたらエラく癖の強い外観を持っているがそれでも一般的な1人の生徒である。

 貴方曰く「しょうもない」死に方をし、転生をして、まあそれからなんか色々とあって、今はミレニアムサイエンススクールに進学する事を決めた。

 明日からは本気出す。何度も唱え続けた結果、言う度に旧知の友人から呆れられた常套句の一部を変え、今回も今回とてまた唱えた。

 高校生からは本気出す。

 

 

 

 さて、そんな貴方は階段の隅に座り、1つため息をついていた。進行中のゲームと作りかけのプラモに思いを馳せ、細い太ももを机替わりに頬杖を付いて掲示板でのみっともない言い争いを見ることで、どうにか今の現実から目を背けていた。

 貴方こと還来地(げんらいじ)スミカは思い付きで6泊7日の旅をする程度には活動的だが、元来は割と出不精な性格である。

 中学生の頃は、必要な時以外は自分の部屋にて少数のネッ友と遊び、気分転換に遠くのゲーセンやプラモを売っている店を巡り、あるいは旅に出たりという生活を楽しみながら、程よく楽しく過ごしていた。

 中学2年生から貴方が始めている武器いじりも幾度と外に出る必要がないからであり、元来の趣味であるゲームも同上、プラモ改造や音楽鑑賞も同上。旧友に引きずり出されることこそありはすれ、喧嘩の怒声の変わりに響いている銃声や友達と交流でスイーツ店を渡り歩く、なんてアクティビティなものとは基本的に無縁な生活を送っていた。

 そんな貴方も中学校3年生となればいよいよ真剣に進路を決めないといけない時期になる。その際に旅ついでに見ていた雰囲気を参照してみたのだ。

 ゲヘナは色々と自由すぎて逆に気に合わず、トリニティは行く金があるにはあるが雰囲気がお嬢様すぎて気を病みかねない。ヴァルキューレやSRTは世の中を正すなどという崇高な思いに満ち溢れていないので除外され、百鬼夜行や山海経は内部闘争が激しいと聞いているので関わりたくない。アビドスは砂と借金と廃墟以外はいっそ笑えるくらい何もかもないので論外も論外。

 それら強い癖まみれな学園に比べてミレニアムは程々に自由で、程々に規律があり、平和的でお嬢様がすぎない。ついでに言えば頭も良い。

 半ば消去法的な方法で選んだミレニアムだが、ここで誤算だったのはここに入学する子供なんて軒並み重度(マジモン)の研究フリークや機械オタクなことであり、平和であっても結局は殺人の起きない初期のGTAオンラインと名高いキヴォトスの域は出ないこと、そしてフリークと「アオハルを満喫する」は両立できるということ。

 貴方の苦手な火薬の炸裂音は普通にするし、耳に入るのは軒並みどのお店に行こうかという話題か、そうでないなら深淵がすぎて理解できないオタトーク。

 理解できぬ。ナンタラ理論もウンタラ法則もクンタラ仮説も聞いただけでは理解できぬ。貴方が瞬時に理解できるのはゲームとプラモとロマン、プラスでいくつかのリアル系ロボットと特撮くらいである。貴方は周囲から漏れ出る話題を聞く度にこう叫びたくなった。

 そんな訳で消去法的な形、かつ特別な信念も思いもリア友もなく入学した貴方はついていくなど到底不可能。あるいはミレニアム自治区ではない遠い所から進学してきたというのも若干の悪さをしているのだろうか。

 結果、ものの見事にボッチをキメた。

 例えるなれば修学旅行の気分であった。余り物としてどこかの組に入れられ、自分を置いてけぼりに話題が進んでいく時の疎外感で心が死んでいく、あの修学旅行である。

 まあ別に? こんな事になる想像なんてある程度できてたし? それにネッ友と視聴者がいる訳だし? だから寂しくないし? ……これなら素直に地元のに進学すべきだった? いやでもな。

 そんな強がりだか後悔なんだかわからない事を反芻しながら手元にあるパンフレットに目を落とす。

 素人作成らしさが垣間見える部活紹介用のパンフレット。スマートフォン、生徒証、ミレニアム在籍を示すタグに次ぐ現状の貴方の持ち物である。

 貴方が目指しているのは、雰囲気が緩く趣味事との両立ができる部活である。思い付きな以上短期に終わりがちだが、思い付き生まれである武器弄りも現状は割と楽しいので続けていきたいと思っているし、それはそれとして部活もある程度こなしているという実感も欲しい。ワガママだが、そのワガママがある程度認められるのも1つの高校生の特権だろう。

 こういうのは後ろ側に程よい部活があるのが相場だとパンフレットを後ろ側からパラりとめくり、ミレニアムのいわゆる生徒会的役割を持つのだろうセミナーが大きく写る写真が見えた。少しだけ眺め、まあ、無いなとだけ考える。

 貴方は、貴方と数少ない旧知の友人が認める通り、俗っぽく衝動でやらかしがちな人間である。事実時間があったら一日中趣味に入り浸り、思い付きで変なことをやらかす悪癖がある。それで1度や2度ならず、幾度も友人の手を煩わせたことがある訳で。入ったら近い将来に悪癖でミレニアムに大事故を起こしかねない確信があったので止めることにした。

 それに軽く話していた調月リオが入ると言っていたのだから、まあ問題はないだろうという貴方の判断もある。4、5言程度話すだけで賢さが垣間見えていたので運営は多分問題ないという考えも添えて。

 してその下でこじんまりと書かれていたセミナー保安部、貴方の予想だと風紀委員会だと思われるものだが、一目見た瞬間まず却下。

 そもそも貴方は撃ち合いたくない。というか前述の通り、火薬の炸裂音そのものが好きじゃない。

 また別に、絶望的に弾が当たらないとか、トリガーハッピーすぎて目の前の敵以外が見えなくなるとかではないのだが、日本人的な感覚が残っているのでしょっちゅう銃を部屋に置いていく。思い付きのキテレツを良くやる貴方とは言え、流石に銃を徒手空拳でどうにかしようと思える程の無鉄砲メンタルまでは持ち合わせていない。

 そんな仕事は強くてそこそこの正義感がある人がやっていれば良い。

 次にトレーニング部──トレーニング部だって? めくって目に飛び込んだ部活に思わず二度見した。が、まあうんと少しばかり納得もする。

 どんな方向性から千年難題への近道が表れてくれるかなどわからないから、こういった方向性の部活も認めているのかもしれない。多分そうだろう。恐らく、きっと、微粒子レベルで。

 だがなるほど貴方には案外似合っているかもしれない。思い付きで徒歩旅自転車旅などをする辺り、基礎の体力はそこそこ程度には仕上がっているだろう。

 しかしそれはそれでこれはこれ。貴方も身体の健康のために適度な運動はするが、中心に据えてまでやるつもりはない。そも積極的に動こうと思うほど貴方は殊勝な人物でもない。むしろ怠惰な方なのだ。

 したくもない荒事ごときで意地でも頭を使いたくないからと中学生時代に制作した、弾道計算機機能付きのスコープが接続された狙撃銃がそれを物語っている。大体部屋に置いてけぼりにされるので持ち腐れになっている事ばかりだが。

 まあそもそも銃を持って歩くなど、元日本生まれで日本育ち、前世で銃などという物騒な代物には微塵も関係してこなかった貴方にとっては重いし邪魔な割に必需品なのが本当に嫌なのだ。誰か日本社会基準で常識的なお偉いさんが銃社会廃止の公約でも掲げて音頭を取ってくれないだろうか。それならいくらでも応援するつもりなのだが。

 溜め息に銃社会への気疲れを乗せながら、パラりとめくる。

 C&C、クリーニング&クリアリング。もしくはメイド部。

 そもそもメイド部とはなんだろうかと首を傾げる。依頼を受けては人に使われるのだろうか。そうだとするならなんとなく気に食わないので止めておくことにした。

 ……そういえば美甘ネルとかいう不良然とした同級生がC&Cに入ると言っていたが、そういう趣味でもあるのだろうか。隣にいた一之瀬アスナ(彼女も入ると言っていた)はまあ分かるが、なんかこう、自分の気質をそういった筋の人に押さえつけられて屈服(淫語的な意味ではなく)させられるのが好きなのだろうか。

 まあ、うん。人に迷惑かけない分にはいいんじゃないだろうか。貴方は性癖にとても寛容な生き方をしようと心がけているのでそういう事への理解があるのだ。

 今回のはどう考えても風評被害そのものだが。

 ちなみにこれは後日談だが、実はミレニアムの極秘の任務部隊だったことを知ったそうだ。それを聞いて、貴方はつくづく本当に入らなくて良かったと思ったそう。

 とはいえミレニアムのセミナーに使われるという辺り、ある意味間違いではなかった。折角なら固く縛られる事なく、自由気ままに生きていたいのだ。

 当然、常識の範囲内という前置きがつくにしろ。規律なき自由(フリーダム)規律ある自由(リバティ)は意味が違う。

 さておき。

 野球部。新素材開発部。情報操作部。

 どれもこれもなんか違うと貴方はぼんやりと思いながらめくり、終いにはめくり終えてしまった。

 図書委員は倍率が物凄い。

 ミレニアムのAIで図書が管理されているので人手がほとんどいらないのだ。だだっ広い空間が何せ3人で事足りるというのだから驚きである。それほどまでにAIの在庫管理能力が優れていることという証左だ。

 そんなものだから立候補する人なんて図書ガチ勢か研究ガチ勢ばかりである。そんな状況では熱意のない貴方よりも熱意ある誰かがやるべきだろうと潔く勇退した。別の言い方をすれば逃げたともいう。

 生物部はこう……こう。

 なんとも言えないが、これだけは言える。

 近々通報されることは間違いない。新入生か、もしくは貴方の手によって。

 アレは存在してはいけない部活だろう。いいや、存在してはならない部活だ。

 ロボコン部には少しだけ目を引かれてブースを覗いてみたが、活動があんまりにもガチすぎてちょっと引いた。趣味事と両立できないのはちょっと不味いので止めた。

 つまるところどれもこれも貴方の思うようなものは無さそうだ。しかしどこの古い意識な学校か、部活への所属が必須になっている。

 自分の趣味に妥協をするか、自分の部活に妥協をするか。いっそ新しい部活でも立ててみようか。ここは成果を出す必要があるにしろ、立てるのも割と気楽なのだ。なんとか屁理屈を練って、例えば「電子的な遊びであるビデオゲームから千年難題の近道が発見できるかもしれない」なんて無茶な理由付けでもしてゲーム開発部でも設立してみるべきかもしれない。

 こんな事を抜かせば旧友から屁理屈言うなと正論が飛んでいただろうが、早くもその正論が恋しくなっていたその所。

 

「あれ、そこにいるのはスミカじゃないか」

 

 ふと掛けられた声に汚い声を出して遠ざかるように飛び上がり、無駄に鍛えられた身体能力でバク宙半捻りをかまし、一切無駄のない華麗な着地。

 そんな無駄な動きを挟んで振り返ればそこには白石ウタハ。貴方が割と話が通じるマトモ枠と考えている相手である。「おお、綺麗な着地」という賞賛に気持ちちょっと誇らしくなりながら何用かを問う。

 

「いや、純粋に見かけたから声を掛けただけだよ。……もしかして部活も決まっていない感じかい?」

 

 一瞬ムッとしたが、事実は事実である。首肯する。

 

「それならエンジニア部はどうだい!?」

 

 マトモ枠から訂正すべきかもしれない。

 だがまだわからない。とりあえず話は最後まで聞いてみるべきだろう。

 

「私は前々からエンジニア部を志望していていたんだけれど、折角なら友達と一緒が良いだろう? それにロマンを叶えられるからね! ここに来たのなら、少なからずともスミカ、君にとってのロマンはあるはずだ!」

 

 立派なフリークで貴方は泣いた。

 だがそれはそれとして、その論に貴方はなるほどと頷く。

 貴方にとってのロマン。

 ──何かしらをスターターにしたアーマー装着による『変身』、走破性も汎用性も優れた『人型兵器』、それらを正確に制御するために内部に格納された『専用システム』。

 まあそう言われてみればそうかもしれない。

 思わず相槌を打つ。

 

「そのロマンを叶えられるからこそ、私はエンジニア部をオススメしておくよ! もしもわからなかったのなら私に聞いてほしい! 同級生の好だから、幾らでも教えるつもりだ!」

 

 ──特定の感情を元に莫大な高性能をたたき出す変身形態、より自由な機械の挙動を実現させるインターフェースシステム、膨大な戦闘データに裏付けられた行動予測と反応性を発揮する戦闘用O(オペレーティング)S(システム)

 よく考えてみればそうかもしれない。

 面白いと貴方は思う。

 

「どうかな? 私と一緒にやってみる気はないかな?」

 

 よし気が乗った。やってみよう。

 そして白石ウタハ共々加入届けを手に勇んでエンジニア部の部室を踏みしめた貴方は、1週間後に今日の思い付きオンリーな考えなしを後悔することになる。

 そんなんだから一部ネッ友からは「オリチャーに走ってからが面白いナマモノ」だの「高いPSを思い付きのガバで台無しにするタイプのゲーマー」だのと呼ばれるのだ。




衝動的に出した。後悔はしていない。
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