貴方は一般的な生徒である。   作:ホシのユメ

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叩けば叩くほど闇と厄ネタがポンポン出てくるアビドスはなんなんですかね。

そして懺悔します。
私は少しづつ精神を持ち崩していっておかしくなる姿を見るのが大好きな愉悦部です。

〘前回の誤字報告者〙
【橘 雪華】さん、誤字修正サンクス!


十話 ギリギリセーフの集まり場所

 アビドスからミレニアムへと帰ってきてからは数多くの友人に心配されていた。

 ウタハは貴方の抜け出しに対して少し怒った後に「……でも、元気そうで良かったよ」と安心した顔を見せ、ネルは「なんで何も言わなかったんだ、アァ!?」と凄むようなトーンで心配半分怒り半分。とはいえ心配が勝ったか貴方を犬神家にすることなく「次はちゃんと連絡しろ」と伝えていた。

 なんだかんだ少なくない交流もあるリオ(適切な距離感を保ってくれるので貴方的には大助かりである)からはこの事をキッチリ合理的に詰められつつ、去り際には遠回しながらも安心の声を掛けられた。

 なにせ貴方は友人と名乗る人の誰にも連絡せずに姿を消し、ミレニアム全体に対する通信であってもエンジニア部に向けたドローン要請という事務的なもの一つのみ。普通の友人関係なら、そんな事をしでかしたのなら誰もが心配する。

 貴方とてホシノが対象であるなら同様に心配するだろう。

 バカな話で同じ事をやろうとしていたならまた一人で背負い込もうとするなと腕ひしぎ十字固めをし、その後に本当に良かったと心から安心し、茶々を入れながら対応していたことだろう。

 ──あくまでも貴方が友人と認めた誰かにのみ、であるが。

 貴方にとってみれば、その認めた人──ホシノの他は心底どうでも良い。

 それこそ勝手に死んでいようが勝手に生きていようがどうでもいい。ホシノと貴方に実害が起きないのなら自由に、好き勝手にやっていればいい。

 ただそうした方が後々に得をするから表面上は同様に振舞っているだけでしかなく、ホシノ──そして今は死んだユメ以外で心から彼女たちの事を思ったことなど1度もない。

 その証左として他所行きの時の作り笑いとホシノにはしない強固な閉心、事情を断固として話さないという事実が貴方と他との心の隔たりを示している。

 

 

 

 そうする理由など簡単である。

 第一に貴方は自分自身と死んでいるかそもそも空想かで現実にいない存在、曲、そして特例のホシノ以外は全て敵として見なしているからだ。

 親も親戚も、大人も子供も、男も女も、身近な人もインターネットの人も、全て暫定的かつ潜在的な敵と見なす。

 この世にいる人間の全てが牙を向く可能性があると思わなければ、気づかないうちに首を食いちぎられるのだから。人間の本性は悪だから。人間は欲と優越のためならどこまでも醜態へ堕ちていけるのだから。

 第二に貴方は人の心というのをどこまでも高く、ある意味ではどこまでも低く見積もっている。

 人間の心は不安定で、時に不合理的な決断をさせる。

 自分とてそうだ。

 思いつきや目の前にある貴重品という誘惑に負ける。

 アビドスという辺境を見捨ててミレニアムに専念すれば良いのに、感情と望郷の念がそうさせない。

 合理的判断を下したと思っても実の所は無意識に情の混じっていた非合理であることもある。

 それほどに、人の心は不安定で。

 だからこそ、その判断基準も思考もわかるはずもない他の考えなど信用も信頼もできない。できるはずがない。

 「自分の性分に合わないから」「自分が誰よりも得をしないから」「自分が損をしているようで嫌な気になるから」「友達と一緒がいいから」──挙句の果てには「気に食わないから」などとふざけた理由で可能な限り合理を煮詰めた作戦に反対する。

 人の心は簡単に移り変わる。昨日までは友人と名乗っていた人もいつ敵になるかわからない。親も何が理由で敵になるのかわからない。師もどこで敵になるかわからない。

 事実親も敵になった。友人と名乗っていた誰かも敵になった。師も敵になった。どれもこれも欲と優越が理由で敵になった。

 それを考えれば、最初から何も期待せず敵になり得る存在だと思った方が心へのダメージも、また計画へのダメージも少なく済むのだと。

 最後に、貴方はその醜悪な人間を見ていたからだ。貴方の過去ではなく、今をもって。

 醜悪な人間が過去だけの存在ならただ自分の運勢が腐っていただけだと、過去の全てを呪い、憎しみ、不条理に怒りながらも潔く、悪への殺意や膨れ上がった善への羨望と共に割り切っていたことだろう。

 だが貴方は見た。己の優越感と暴力欲のために弱者を虐げ、あまつさえ正義の味方を騙る仮面ファイターを。

 頑張ろうとする善人の労力を食い潰し、合法であると声高らかに欺瞞しては己の利益だけを貪る大人たちを。

 正義だと信じ、わからない物から逃げ、何も知らず、その癖聞こうともしない悪の権化を。

 そうであるのになぜ貴方の築き上げた性悪論を割り切ってしまわねばならない? それならばなぜ何も備えず何も抱かず、ただ食い潰されているだけの存在に成り下がらなくてはならない?

 貴方は心底疑問を覚え、より絶望し、より怒り、より強く人を嫌った。

 

 

 

 そうであるのに一体、偶然出会った少数の他者が優しいからの一つだけで容易に心を解く理由になり得るのか? 貴方の答えは否であった。

 所詮は少数でしかないと、あるいは優しさを騙った悪である可能性も否定できないと、最早負の思考に振り切れすぎた割り切りをしていた。

 だが貴方はその考えを他者に押し付けるつもりは一切なかった。

 白石ウタハは様子のおかしいロマン狂でいるべきだと勝手に思っているし、美甘ネルは美甘ネルで喧嘩大好きなマゾメイドでいるべきだろうと、貴方は思想の自由を尊重して考えている。

 ──俗的な世界に程よく浸かりながらも現状に希望を持ち、そのためなら躊躇い一つなく誰かと力を合わせて努力できる。

 つまりは貴方の考える、理想主義者の本来あるべき姿であった。だからこそ羨ましいのだ。だからこそそうありたかったのだ。自分自身がそうなれなかったことが悔しくて悔しくてしかたなかった。

 そしてそれと相反する貴方の理論が極限まで人間関係で腐った出目を出し続けた果てに生まれたものであることも、また人の悪意の側面ばかりを見てきただけの極端かつ古臭い理論であることなども、どこまでも重々承知していた。

 だが貴方は今更長年固持し続けていたその考えを変え、かの葬式前のように仲良しこよしをするつもりはなかった。

 そうするにはあまりにも人の夢を、人の望みを、人の業を見すぎていた。

 誰よりも強く、誰よりも先へ、誰よりも上にと、競い妬んで憎しみ合い、足を引っ張っては自滅して、しかし尚も反省せず学ばず、己の利益のためにくだらない大義名分を振り回しては何も変わることなく、そのまま互い同士を食い潰しては悪意の輪廻に囚われていくという人の果てなき悪意を見すぎた。

 最早信じられなくなったのだ。人の良心という奇跡を。人の善意を。──非道な強者に虐げられている弱者を救ってくれるヒーローの到来を、実在を。

 ことさら、また大切な人を喪った貴方は、元より厚い壁をより一層と築いていた。

 ──白石も美甘も、一ノ瀬も各務も音瀬も、誰も誰も誰も誰も。

 親しい誰かと死に別れなんてしていないだろうに。

 それが由来で、人から逃げた結果の精神的孤立と傾倒しすぎた悪意嫌いが、貴方自身をより冷血で機械的で、異質なまでの人間嫌い──マッドサイエンティストじみた内面へと仕立て上げていた。

 ──ほんの少しづつ、だが確実に貴方という一人は極端で不完全な性悪説の狂気に蝕まれはじめていた。

 

 


 

 

 夏休みが明け。

 少しばかり精神状態の悪化の兆しを見せていたが、しかしいつも通り内面を隠し通していた貴方はあるもののために情報操作部に訪れていた。

 情報操作部とはつまるところホワイトハッカー(サイバー攻撃への対応策や防衛策を見出しシステム化する人物である)の集まりである。

 結構な頻度で倫理観に欠けたハッキングや技術の悪用はしているが、ミレニアム全体を大きく貶めるようなハッキングはしていないのでギリギリホワイトハッカーである。

 それに貴方の中にある人の業アンテナならぬ人の悪意アンテナはまだ反応していないのでギリギリセーフである。それならそれで無邪気な欲がもたらした醜態という訳なので道徳の方面でアウトな気もするが、貴方は目を逸らしている。

 そのギリギリセーフらがはびこるそこに貴方がここを訪れた理由とは【RX-0-NR:奇跡の護り手】の専用のジャックソフトウェア制作のためである。

 貴方にとって、外見の元ネタの印象的なシーンといえば無線通信兵器のジャックと「進化」した姿、その後の多数の機体を機能停止させる超常現象である。

 それをかの構造資材なし(仮にあったとて貴方とは随分縁遠くなる話だが)に再現するため、ジャックソフトと高水準AIで再現することとしたのだ。

 ただし人が主軸に据えられたような判断能力は不可能であり、温かみのある光を出すことは叶わない。ましてや奇跡の完全な再現など望んだとて不可能。その点でこの貴方の作った奇跡の護り手はどうあがいたとて本物ではない(Not Real)

 本家以上に大きく成長した青色の結晶、右側が半ばで折れた2本の角、左半分だけ点灯したピンクのメインカメラ。極めつけは要所に伝えるために付けざるを得なかった動力パイプ。

 その本家との外見の差異が貴方にそう伝えている。

 だが貴方はその外見にこそ著しく不満があった。

 心の温かみのない青の光。信念が折れたという暗喩がこもったがごとき折れた角。敵だというように光るピンクのモノアイ。──知るものが知れば好きな作品の尊厳を侮辱していると見なされる動力パイプの露出。

 まさしく本物ではない。いや、それどころかもう一つの本物にさえもなれない──奇跡を騙った不完全な贋作(Fake)

 お前の作ったものは奇跡の象徴の型取りさえできない。可能性を模倣することさえも不可能だ。現実に逃げたお前が今更理想そのものな奇跡の体現など作れるものか。

 そう突きつけられたかのような思い。強い侮辱を受けたような思いを抱えていた。

 ……だが、割り切った。割り切らなければ進まないのだから。

 所詮は貴方から見た外見が気に食わないだけであり、性能そのものはまず保証できるほどに高いことも、他から見てその外見は優れたものであることなど分かる。分かりきっている。

 それを理由にまた1から作り直すなどあまりにも「非合理的」ではないか。

 そんな「合理的」な考えで、貴方はこれを割り切った。

 

 

 

 さて、そんなことが理由で情報操作部を訪れ、事情を伝え入室した貴方はとある誰かを前に内心渋い顔を浮かべていた。

 

「あら、この誰もが認め讃え、次期情報操作部の部長候補として確実、そして史上2人しかいないとされる学位の全知にも手が届くだろうと噂されている天才美少女ハッカーにエンジニア部であるスミカがお願い事をしに来るなんて……随分と珍しいことですね?」

 

 車椅子に座っていてナルシストの極まった自己紹介を口から垂れ流す白髪の生徒は誰であろう、明星ヒマリであった。

 能力については否定しない。否定するつもりもない。優れた、という一言では済ませられないほどにその腕は高いことを素人目でも理解しているからだ。

 そして貴方が可能な限り腕が高く教える能力が高い人を紹介してほしいと頼み込んだことも間違ってはいない。

 そして目の前の誰かさんのナルシストっぷりも貴方は許容している。人に迷惑をかけないでやっているなら結構(長ったらしい自己紹介が迷惑かどうかは貴方は回答しないことにしている)だし、何より貴方は性癖には寛容であろうという意識を持っているからだ。

 他人にも性癖を強要するなど言語道断であろう。

 しかしどうしてよりにもよってこれを相手しなければならないのか。貴方は心の奥底で密かに頭を抱えた。

 ──正直な所、貴方は明星ヒマリという人間が好きではない。

 気まぐれになぜ貴方に若干辛辣な対応をするのかと気になり、他者を使ってそれとなく聞かせてきた時に「細身で色素が薄い天才美少女なんて、要素のいくつかが超天才清楚系美少女である私とキャラ被りするじゃないですか!」とギャグみたいなことを抜かしていたらしいのだが、貴方は確実に違うと考えている。

 前述してきた通り、貴方には人への嫌悪や恐れから人と親しくすることをしない。

 しかし人との繋がりを持つことは得をする。だから貴方は最大限譲歩し、「誰にも手助けをする、常日頃から笑顔で時たま面白を見せる優等生」の仮面を被って人に接する。

 それをどういう訳かヒマリは貴方の仮面を破って解き明かそうとするのだ。およそそれで貴方の本性を知ったからではないかと仮説を立てている。

 なぜそうしたかの理由はわからないし、知るよしもない。

 どの道貴方にとっては札束ビンタするか奇襲で叩き潰す(少なくともネルよりは勝機があるだろうと貴方は見ている)対象が増えるだけである。

 完全犯罪なら仮面の剥がれる一因にはならないと、必要であれば一室ごと爆破してしまうこともやぶさかではない。

 だがいつでも爆破できるからと警戒も何もしない訳ではない。貴方はヒマリの気まぐれとあまりに高度なイタズラ、そして特定人物にのみ見せる悪意を知っている。

 あれは貴方と同じ、思いつきと気まぐれで生きているタイプの子供である。

 気分で貴方の内心を曝露する可能性もある。思いつきで貴方の本性を周囲に噂として振りまく可能性もある。

 それを貴方は強く危惧していた。

 

「ご心配なく、私は人の言いふらされてほしくない所を安易にばら蒔いて貶めはしませんよ?」

 

 その危惧を読んだかのようにヒマリは貴方へ声をかける。

 だからそれが不愉快だというのにな。貴方は苦笑いしながら適当な返事で気持ちを濁した。

 

「ええ、いくら可愛いイタズラっ子美少女とはいえ、触れても良い部分と触れてはいけない部分の区別はつきますから──近々ある晄輪大祭でエンジニア部はメイド服を来て出し物をすることになった、それもあなた、スミカを巻き込んで──これは問題ないでしょう?」

 

 スンと心が冷える覚えがした。確かに問題はないがそれはそれとして今から記憶に残しておきたくないものであった。

 そんなことは知らぬ、存ぜぬ、聞いておらぬ。仮に記憶したとて今消した。よって記憶にござらぬ。貴方は知らんぷりをした。

 

「あら、忘れてしまったのですか? それでは可能な限り再現して伝えておきま──」

 

 必要ないと笑顔で即答した。このド畜生はなぜ忘れようとしたことを思い出させるのか。

 

「そうですか、それは残念」

 

 残念とはなんだろうか。愉悦したかったのにできないという意味の残念だろうか。

 と、そのように表面上は和気あいあいと「友達らしい」触れ合いをしていれば、ふとヒマリが真剣な眼差しを見せた。

 

「さて、超天才ハッカーである私が技術を教えることは一切問題ないのですが、一つだけ忠告しておきましょう。……合理的な妥協はロマンに欠けますよ」

 

 その言い草に、貴方は曖昧に笑ってわかっていると伝えた。

 ──わかる訳あるまいに! 妥協しなければ永遠に完成しないものを、どうやって妥協するなと!? 理想だけでは何もできない! 自分という現実主義者には尚更!

 どうせ内心などわかっているだろうにと、貴方は熱を帯びた怒りを強く押さえ込みながら。

 ──皮肉にも奇跡を信じきれなくなった貴方への意趣返しとしてなら、どこまでもどこまでも完璧(パーフェクト)な存在であるのが、より存在そのものの惨めさを強めていた。




Q.つまりどういうこと?
A.本人自らの手で尊厳破壊モノのパチモンを作った。それも一番好きな作品のパチモン。惨めかわいいね。
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