貴方は一般的な生徒である。   作:ホシのユメ

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〘前回の誤字報告者〙
【ソーシロー】さん、【KJA】さん、誤字修正サンクス!


十二話 雪合戦の時間だ、拒否権はない

 さて、どうもアビドスのためにアビドスに進学したいという様子のおかしい物好きと助けてもらったお礼にとアビドスに進学しようとする義を重視する物好きが現れてからはや数日。

 本日は平日でありながら授業がない休みであったので意気揚々とプラモ制作──ではなく、理由があってアビドスに訪れていた。

 というのもホシノが『ちょっとだけやりたい事があるから来て』とメールを送ってきたのだ。

 大した理由でもないじゃないかと傍から言われそうだが、貴方からしてみれば立派な行動すべきに値する理由である。

 道中の前半ではノンコードのネッ友会、そこのトリニティ出身があるゲームの発表に対して『わ゙だじのね゙ぇ゙! 幼少期の思い゙出がね゙ぇ゙! ふっがづじでぇ゙!』と嗚咽と共に情緒を爆発させていたのを聞き流しつつ(後半からは絵文字を発音していた。何を言っているのか分からないが本当にそんな状態であった)、自転車を片手で引きながら歩いて移動。

 通話を抜けた後半からは体力の温存と速度の両方の兼ね合いもあって、貴方の自転車へと乗り込んでは立ち漕ぎで移動。

 その両方が理由からか今までよりは少し遅い。体力も若干普段より摩耗しており、いよいよ運動不足が覗かせてき始めただろうかと自嘲しつつもホシノの元へと歩みを進めていった。

 

 

 

「──ってことでさ。こんな辺境な所に入学してきた、とっても可愛い後輩のシロコちゃんのために何か1つプレゼントを渡してあげてほしいなー……なんてね」

 

 もしかして耳が詰まってしまったのだろうかと耳を疑ってもう一度聞いた。

 もしそうであったから聞き間違えたというのであれば耳掃除を前向きに検討せねばなるまいし、そうでなくとも念の為に今日か明日にはやっておくべきか。そんな事を考えつつ。

 

「おじさんって自称したら凄く嫌そうな目で見るのに自分がそれっぽい事するのはいいんだ……まあともかく、アビドス高校ってほら、今は何も無いでしょ? だから、他にも行ったって良いってのを無視してここに入学することにした後輩のシロコちゃんに何かプレゼントしてって話だよ」

 

 何も間違ってなかったことに貴方は泣いた。

 そしてまずもって貴方には反論したい点……いや、反論しなければならない点がこの時点で2つもある。

 1つはおじさん云々についてである。

 小鳥遊ホシノは貴方やノノミ、シロコなどの誰が見てもわかる通り、女子高生で十代後半、そして少なくとも前世の記憶も現世を繰り返した記憶もない(もしそうなら前々から自称しているだろう)、立派な若い女の子である。

 貴方のような、前世の人間関係を拗らせて死ぬほど面倒臭い性格になった、精神年齢が既に成人年齢を超えている転生美少女受肉系の、唯一無二の友達に様々な感情を拗らせたクソボケアンポンタンのバカ野郎ではない。

 ホシノが自己自らをおじさんと呼ぶ場合、貴方も自動的におじさん、もしくはおっさんかジジイ、肉体に合わせるならおばさんかババアかに第一人称を変更しなければならない訳だ。

 それが、使い回された表現をするなら、死ぬほど嫌であった。

 まあこの点はホシノにも未来永劫明かすつもりのない(ホシノにもこれであるから他など一目瞭然である)情報はさておいて、問題は2つ目。

 貴方が何度も主張する、「還来地スミカはアビドス生徒ではない」という話であった。

 少なくとも2桁後半ほどは繰り返したであろう事実確認はもはや貴方とホシノの間ではよく繰り広げられる、日常会話も同然の話となっていた。

 

「ほら、アビドス生ではなくても名誉アビドス生だし。ここに来てる頻度も他と比べたら断然多いし、それに元アビドス出身だしね?」

 

 だが貴方は今やミレニアム生だ。誰もが認め納得する立派なミレニアム生であり、この通りそれを証明するタグと生徒証が手元にある。

 これで名誉もアビドス出身をも理由にアビドス生であるとは言えないだろう。貴方は見せつけるようにしてそれを構えた。

 

「あ、念の為言うけどスミカ用のタグと制服はあるよ。いつ転校してきてもいいようにね」

 

 「流石に生徒証までは用意できなかったけどね」とうへうへしながら平然とのたまうホシノをよそに、貴方は宇宙を背中に展開していた。

 普通に理解できなかったし、それ以上にただただ情が重すぎるだろうと貴方は思った。

 またしてもドデカいブーメランの刺さっている貴方はさておき、少し悩み、しかし決めたようにして言う。

 

「……んー、じゃ、後輩のことだけど……私っていう友達──そしてホシノっていう1番の相棒からの頼みってことでさ、良い?」

 

 ほんの少し顔を赤らめたホシノに貴方は一瞬で手のひらを返してプレゼントを買うことにした。

 相変わらずホシノに対してはゲロ甘でチョロいの極まった貴方であった。

 つまるところ、とても人聞きの悪い言い方をするなれば、貴方は今回におけるATMもしくは財布という認識で良いのだろうか。貴方は意図して嫌味ったらしく問いただした。

 

「本っ当にとんでもなく人聞きの悪い言い方しないでくれるかなぁ!? もうちょっとオブラートに包んでもらえる!?」

 

 一瞬で恥ずかしさの赤らみの消えたホシノに何も間違ってはいないじゃないかと反論する。つまるところこんな反応であるということは多少の自覚はある訳で。

 いくらでも力になっても良いとはいえ、こんな言いぶりの一言でも言わねば気が済まないというのが貴方の実情であった。

 

「いやでもさ、今回はちょっと事情が違うからね!? ……だってねえノノミちゃん、同級生が可愛いとはいえ色々買っちゃってるもの。それも多分親のものでかな? もうちょっとお金を大事にしてほしいなぁ、なんて」

 

 相槌を打ちながら、無意識に思う。

 ──悪い意味で十六夜家らしい子供だ。

 貴方はその無意識に疑問を覚え、首を傾げた。

 どうしてそう思ったのだろうか?

 貴方は確かに嫌ネフティスである。たとえ気前良く接してくれる人でも、ネフティス系列に勤める親がいると聞くだけで多少バイアスが掛かって悪く見えるのも事実。

 また貴方自体も金銭を得る手段は軒並み懸賞首(ロクデナシ)狩りか日払いのアルバイト、エンジニア部にいる際に支払われる給料と個人で受注している依頼の報酬である。

 並の人間であれば趣味の時間など一切が忙殺されそうなほどに仕事まみれであるし、かくいう貴方も時間を趣味に当てていられない日が幾つかは出ているほどには忙しい。

 その結果として銀行口座の方はかなりの量の貯蓄がある状況である──というのはさておき、推察するにネフティスのCEOである両親の得た金を使っている、という点に思うところがない訳ではない。

 だがここまで強すぎるバイアスが掛かるほどでもない。十六夜家という特定一勢力にここまで悪い意味で肩入れする理由にもならない。

 あるゲームの言葉を借りるなら──「ミームに汚染された」のだろうか。

 過去の還来地家か元アビドス中央銀行にあるミームのどちらかに。

 

「ん? どうかした?」

 

 だが。

 まあ今は捨ておくことだろうと取り直し、なんでもないといつもの笑顔で返す。ホシノは貴方に怪訝そうな目を見せたが、何かを聞いてくるような素振りは見せなかった。

 

「じゃあ頼んだよ。……でも、下手なものを送るわけにはいかないし……折角だから一緒に行って、良さそうなものを買ってあげてきたら?」

 

 奇遇なことに貴方が考えていたことと同じである。

 フフと笑い、そうしようと思いながら何の気なしに外を見た。雪がまだ降ってくるような外だ。アビドスの冬では、不思議な事に砂漠でありながらよく雪が降るのだ。

 雪合戦でもできそうな天候ではないか。小さい頃は接近して散弾雪玉をぶちまけてくるホシノと音速の域をぶち抜いて徹甲雪玉を投げる貴方とでよく雪合戦になっていたものだ。

 ちなみに徹甲雪玉(銃弾並にカッチカチに雪を固めたもの。一般人にヒットした場合、当たり所では気絶にまで追いやれる)の投擲速度は弾丸並みに早かった。

 貴方は小さい頃からリトル・ゴリアテであった。

 そんな記憶を振り返りながら、少しづつ下へ下へと視点を移していけば、不意に1人が視界に入る。

 話し合いの中心である砂狼シロコである。何かに釘付けになっている様子が見て取れた。

 目を輝かせながら見ている先を辿れば、そこには貴方のカバーをかけ忘れた自転車。何をどう考慮したとて、貴方の自転車に目を奪われているとしか形容し難かった。

 

「うへー、プレゼントするものが決まっちゃったねぇ」

 

 そうニヨニヨと意地の悪い顔を浮かべているホシノに苦笑いをして首肯しつつ、洒落にならない出費としばらく働き詰めになる覚悟をしながら、本人であるシロコに駆け寄った。

 口ではどう言っても一応は可愛い後輩である。

 いつもの人間不信補正でホシノ以外皆平等にゼロの壁を突破しているとはいえ、そのマイナス群の中でも様々な要因が重なって(特に記憶喪失というのが大きい。最低でクソ野郎な理由と言われればその通りだが)評価はほぼプラスになりかけなマイナスである。

 なので多少のものなら融通してやらないこともないと貴方は考えていた。

 

 

 

 ──たかが自転車程度で、などと思う誰かはこれを機に是非とも覚えておいてほしい。

 貴方の購入し、幾度となくチューンアップを重ねられたそのマウンテンバイクは壊されたら割と冗談にできない程度にはお金が掛けられているのだ。

 素体の方でも6桁はゆうに吹き飛んでいるし、チェーンやタイヤ、サスペンションなどもより良い品質のものを求めるのであれば1つだけでも5桁など軽く超える。

 たかが自転車、されど自転車。いくら貯蓄のある貴方でも、相当以上に大きい出費である。

 とはいえホシノの頼みである以上、喜び勇んで財布を開くこともやぶさかではなかった。

 

 


 

 

 そんな訳でシロコと共に貴方御用達の自転車専門店に足を運び、シロコが一目惚れして頼み込んだロードバイクの価格に冷や汗を流しつつ、品質の高いアタッチメントを購入。

 ついでに今まで品質のよろしくない銃器を使っていたらしいシロコのためにも費用を捻出し、信頼性と汎用性、そして拡張性、プラスで価格も高いアサルトライフルを購入。

 双方とも納入日に合わせて幾つかのチューンアップとカスタマイズを施した状態で届けられると伝えられ、これでひとまず大きな買い物は終わった。

 ちなみにいくらプレゼントだろうが両方とも値段が値段なので、もし簡単に壊したら家にある甲冑と大太刀を身につけ、戦車砲を担いでお礼参りしに行くと忠告した。かなり気持ちを込めた声で。

 シロコも真剣に、かつ恐れが若干ある顔で激しく上下に振っていたのでちゃんと脳裏に記憶しただろうと貴方は受け取った。

 実際簡単に壊されたら本当に戦車砲を腹にぶち当てて砲弾を叩き込むつもりだ。

 別に「ものを大切にしないと壊されたオモチャがオバケになるよ!」というような、いわゆる物を大切にさせるためのこけおどしだとかではなく本気も本気。大マジである。

 とはいえ体力も時間も浪費するのでできればそんな事にはなってほしくないと思いつつ、帰路のさなか。

 

「スミカ先輩はどうして強いの?」

 

 そんな事を聞かれ、どうだかなと貴方は苦笑いした。

 初手蛮族な問いをされても気軽に返せるほど、貴方の脳内は蛮族ではない。ホシノほど蛮族ではない。

 だがまあ、誠実に答えるなれば──やはり素の才能と素のパワー、そして努力という話になるだろう。

 

「じゃあスミカ先輩から見て、私はどう?」

 

 どうとは、などと陳腐な聞き返しはしない。粗方「私に才能とパワーはあるの?」と聞いているのだろう。

 貴方らしくない、客観的な視点ではなく主観的に答えてみれば──ある方だと言えよう。

 パワーも相応にあり、足も速い。そういったキャラにありがちなクソエイム(ちなみに昔の銃を握りたての貴方はクソエイムだった。スナイパーライフルを担ぐ今は治っている)も無く、努力する気概もある。

 その上高水準にバランスが良い。いわゆる器用万能である。

 それに背が小さい。

 小さいというのは一見不便に聞こえるかもしれないが、小回りが効き、また単純にヒットボックス──命中範囲が小さいという点が強い。

 代々かなり背丈の高いらしい家系に生まれ、その遺伝子に素直であった貴方とは大違いだ。小回りはあまり効かないしヒットボックスは大きい。

 そもそも小柄な人物に多いパワー不足とて、キヴォトス人は貴方やホシノを代表に、外見詐欺な身体スペック持ちが多い。

 

「──はぁいスミカ! 買い物は終わったかな? それじゃあ雪合戦をしようか、拒否権はないよ!」

 

 ……そう、このようにだ。

 例として爆速で顔に投げつけられた雪玉の欠片を拭いながら、貴方は青筋の浮かんだ笑顔で教授する。

 投げつけた主犯ことホシノの隣にはノノミもいたが、曖昧な笑みを浮かべているだけ。つまりは共犯と捉えてもよろしい。

 よろしい、そこまでやりたいなら雪合戦をしようではないか。貴方は雪玉を2つほど固く握り、ついでとばかりにシロコにも参加したければしてもいいと伝える。

 ちなみに裏には数で殴るという思惑があった。

 

「ん、参加する。今度は負けない」

「ちょっと2対1は卑怯じゃない!? ノノミちゃん、こっちも2人でやるよ!」

「ええっ、自分から始めたのに!?」

「だってウジャトの目を相手にするんだし、数揃えないと勝てないよ!」

「……じゃ、じゃあ本気でやっちゃいますよ!」

 

 どうやら元は関係ない一般人だったらしい。

 だが強制的にだろうと、参加させられた以上は区別しない。その顔面を雪玉の冷たさと固さで赤くしてみせる。

 貴方はその意気込みで雪玉を投げ始めた。




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