貴方は一般的な生徒である。   作:ホシのユメ

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前半の一部分だけほんのりと汚いです。
どれもこれも汚いゲーム開発部にして汚いエデン条約のやつらが悪いんだ。


十三話 ん、サンタクロースを襲う。

 月日は経ち、クリスマス。

 人によっては普段とまるで何も変わらない日常であったり、またほんの一欠片も柄に合わないことをしては「何がクリスマスじゃあい!」とクリスマスボッチを嘆いて自暴自棄になったりと特有の哀しみを背負ってしまう人たちが異様に多い日である。

 かくいう貴方とて前世では人間不信を発症して以降、男女間で交際しているカップルに醜い嫉妬(人間不信の貴方であるから、理由に関してはとやかく言うまい)をしたり、そうでなければ普段から打ち込んでいた何かへと(具体的にはゲームやアニメ、曲など)現実逃避したりと、俗に言う非リアであった。

 だが今は違う。心から気を許していられる友人のホシノがいるし、相手から貴方への一方通行とはいえミレニアムに友人もいる。

 友人というよりはゲーム仲間だが、インターネット上の友人もいる。

 そういった点で、前と今とでは状況が違っていた。

 さて、キヴォトスの高校生として始めてのクリスマスを唯一無二の友人であるホシノと共に迎えようとしたのだが、「スミカは私よりもミレニアムの方で交友関係をもう少し深めていった方が良いと思うよー」という説得を受け、不承不承(しぶしぶ)ながらもその考えを引き下げた。

 

 

 

『第1回、クソゲー発表会〜』

『いぇ〜。今回はヴァルキューレのカスとゲヘナのカス、私ことトリニティのカスの3人のでお送りするよー』

『なおカス四天王の1人はクリパするので通話参加だけな模様。許されぬ許されぬ。お前のことだぞカスプのボケがよ』

 

 と、釣り動画の曲として名高い『Never Gonna Give You Up』と若干の怨嗟をバックに流されながら始まったのはおふざけの極まった遊び。

 ルールは単純、自分が今までに買ってクソゲーだと判定したゲームをどれだけクソかとプレゼンし、納得させた数が多かった人が優勝というだけのお遊戯である。

 ただしアセットゲーや個人販売、ダウンロード限定のクソゲーは挙げるとあまりにもキリがないので禁止となっている。

 発案は随一のクソゲーマニアにして修羅の国でトレーニング中のヴァルキューレ出身。

 取り決めも各々の考えもゆるいまま、緩やかに進んでいった。

 ……ただし貴方の部屋で行われているクリスマスパーティ──ウタハ、ネル、チヒロ、アスナ、コタマが参加している──と同時進行で、である。

 その結果なのか、ネッ友たちはいつもよりも爆発していた。それも暴言的な方面ではなく、汚い方面で、であった。

 

『そういえば今現在進行形でカスプの方だとクリパあるんだろ? ……いぇーい、ミレニアムのみんな、見ってるー?』

『NTRビデオレターの出だしはやめるんだ』

『こんな所にいるのは変なやつ、はっきりわかんだね』

『仮にもトリニティのお嬢様が汚い語録を使うのはもっとやめるんだ。それとそうじゃない1人のが可哀想だろ』

『ヴァルキューレってここまで規制強いんですか、失望しましたミレニアムのファン辞めます』

『ミレニアムのファンなら辞めてもまあ……』

「いやぁ、誰も彼もが癖が凄い! どんな人かとは思ってたけどここまでとは!」

 

 いつもより1割増でより汚いネッ友らに(恐らく気づいていないからこそ)軽快そうに笑うウタハだが、お願いなので妬み嫉みの結果更に汚くなったコレらを癖の強い友人と認めてほしくない。貴方はその一心の思いで彼女たちを擁護した。

 分からない訳ではない。

 元の理由が『どうせならクソゲー引いた時の絶望と後悔と鬱憤をクリスマスの日に発散しようぜ』などと、あまりにみっともなくあまりに哀しい理由であった。

 そんな非リア充の集いが傷の舐め合いで最中でリア充の極致であるクリスマスパーティなど、そりゃあ僻みもするし羨望もする。貴方とて同じ立場であれば同じ嫌がらせをする。

 当時に知らせた時は『貴様ァァァ! 逃げるなァァァ! クソゲーから逃げるなァァァ!』『お前、お前、お前ェーッ!』『許されぬ許されぬ、お前の罪だけは許さぬ殺す』とカス四天王の内の3名から非難轟々であった。

 ちなみに残りの1人は「ハメコン角待ち芋砂上等のグランドクソ汚物」こと貴方である。

 だが言い訳もさせてほしい。

 純粋にまさかミレニアムのクリスマスパーティが行われるとは思わなかったのだ。

 数ヶ月前から仕込みをしてきた発表会と突如として生えてきたクリスマスパーティとの両立をさせるためには、このような形式でどうにかこじつけるしかなかった。

 

「えっと、もしかして本当は発表会の方に専念するつもりだったり?」

「そうでしたらごめんなさい、スミカさん」

 

 別にそれそのものは問題ない。貴方が多少疲労するだけであるし、どうこうのたまいつつも結局どうにかなったので結果オーライである。

 

『せやぞ。気分だけは楽しめる訳だし。気分だけは』

『クリボッチ……気分だけ楽しめる……うっ頭が』

『この一、二年後にはクリスマスだろうが巡回やらで暇な時間は無いしー。……なんか自分で言ってて虚しくなってきた。ばにたすばにたーたむ』

「……あー、ヴァルキューレの……ポリス、で良いんだよな? まあ、元気出せよ……アタシはそれしか言えないけどさ」

『励ますくらいなら時間くれ定期』

 

 と、今後重労働が確定している『p01ise-UME』(通称『ポリス』)という可哀想な1人はさておき。

 その前述の理由以外にも色々あるが、まあ。

 こうした理由の1番は日頃から受けてきた煽りの億倍返しである。

 貴方はそのプレイの性質上ものすごく罵倒されるし、負けたときにはそれはもう親の仇を討ったかのように煽られる。

 貴方も煽り返してこそいるが、『でもお前煽られるようなことしてるからじゃん?』と言われたら閉口せざるを得ないのが貴方の常であった。

 だからこそこうやって今貴方を揶揄うことでしか対抗するしかできない彼女らの今の状況がものすごく笑える。

 貴方は今完全に精神的優位な立場に立っていた。理由はあまりにもカスだが。

 

「ものすごく綺麗な笑顔で人の柔らかい所を躊躇い無しにいたぶるようなことを言わないでほしかったなぁスミカァ!」

「自業自得なのに最低かよお前……」

『悲報、カス、やっぱりカス』

『割と通常運転では?』

『普通の2割増でド畜生なだけまあね? いや良くないな……?』

 

 ウタハとネルからどうこう言われるのを受け流しつつ、貴方は頭の中で打算を組む。

 合理的に鑑みるのであれば、今回のクリスマスパーティはある意味では嬉しい誤算だったと言える。

 合理的──もしくは冷酷に、人間の持つ才能と実力だけで測るのであれば、彼女ら3人は現状だと二束三文でも値が付けば良い方だろう。今後に株価が上がるかどうかはわからないが、今は大して役に立たない。困った時の保険程度にはなりえるだろうが。

 だがネル、ウタハ、チヒロは違う。その才と実力だけでも値千金でありながら、努力を怠らず精神状態も至って健全。

 確実に暴落しないとまでは言えない(言ってもいいのは失敗するか、失敗した時だけである)が、少なくともこれからも株価が上がっていく可能性は大いにあるだろう。

 今からでも親交を深めて今後のための備えにするのも悪くない。

 コンコンと扉が叩かれた。何か頼んでいた覚えはないし、誰か来たのだろうかと貴方は推測する。

 できれば厄介事でなければ良いと願いつつ、扉を開け。

 

「こんばんわ、スミ」

 

 バタンと貴方は扉を閉めた。

 貴方は何も見ていない。扉を開けた先の何かなども見えていないし、一枚を隔てた先の音もおよそ何かが擦れて、それが人の声に聞こえているだけの偶然の産物だろう。

 明星ヒマリなど見ていない。良いね?

 さて、続けようか。貴方は何も無かったかのように振る舞い。

 

「一応入れてあげなよ!?」

 

 できればすぐに帰っていただきたいのだけれど。

 貴方は苦虫を百匹かみ潰したような思いを内心にひめつつ、チヒロの言葉に仕方なくヒマリを出迎えることとした。

 正直、リオかその他であるならまあ良かったが、よりにもよってコイツかという感想が貴方にはあった。

 例えるなれば、そう。

 メガトンヒマリ。

 あまり好きではない人物が唐突に来てしまったため、腹の据わりが少し悪いのでどうにか外で頭を冷やしていられる口実があるだろうかと考えていたところ、丁度よく電話が鳴った。貴方は電話で席を外すとだけ伝え、駆け足気味に自室を出た。

 

 

 

 

 

 雪のしんしんと振りゆくホワイトクリスマス。

 電話してきた相手はつい最近にスマートフォンを買ってもらったらしい砂狼シロコからであった。

 

『ん、どうかな。間違ってないはず』

 

 その反応に鷹揚に笑って答える。キッチリと聞こえているし、そもそもスマートフォンは電話番号をあまり使わないのだからそりゃあ通じる。

 

『ホシノ先輩? ──そうなんだ。じゃあ心配しなくてもいいってことか。じゃあスミカ先輩、そっちは元気? 私は元気だよ』

 

 心配されるまでもなく、(精神のそれはともかく)今でも元気である。

 

『そっか、それは良かった。……先輩。クリスマスだよ。クリスマスってサンタクロースからプレゼントを貰える日なんだって。サンタクロースを襲撃したら他のプレゼントも奪えるかも』

 

 またしても倫理観に欠けた提案に苦笑しつつ。

 ──サンタクロースを信じているのかと、その純朴さに目を背けたくなる感覚に陥る。

 ──貴方は、クリスマスに全く良い思い出がない。

 正確には、知らなくてもいいことを知った。知ってしまった。

 サンタクロース、クリスマスプレゼント、特別な一日──全て虚構でしかない。

 サンタクロースはいない。良い子にしていた所で、サンタクロースは人を選んでものを届けるから。

 クリスマスプレゼントはない。自分の子供を表面上だろうと思ってくれる親が渡すものであり、つまりは貴方にとっては無縁なものであったから。

 特別な一日はない。宗教的な儀礼を持っているだけの一日であり、本来その一日そのものに大きな意味はない、普通の一日だから。

 そんなことを、貴方は知っていた。

 サンタクロースが来ないことを薄々悟り、何年も両親からのプレゼント──あるいはクリスマスカードだけでも良かった──を待ち、結局何も渡されず、仮初でも良かったからと願った、優しい家族との一日もない。

 何も変わらない日常。何も変わらない一日。

 そんなことを、既に知っていた。

 だが、シロコはそうではない。純朴に信じているし、プレゼントも貰える。きっとクリスマスカードも。しかも優しくて親しい誰かと一緒にいられる。

 きっと幸せな時間なのだろう。主観でしか表すことのできない幸せという概念だが、しかし今の砂狼シロコは、今はキヴォトスの誰よりも幸せなのだろう。

 だからなのか──柄にもなく、叶うはずのないことを願った。

 ──こんな皆の幸せそうな時間に、お祖母様がいたのなら。

 

『……お祖母様?』

 

 気づかないうちに零した言葉がシロコに聞き取られてしまったらしい。

 こちらの話であるといつも通りに笑って誤魔化し、だが懐古の思いに、誰にも悟られぬよう、口数を減らし目を少しだけ細めた。

 

 

 

 ──祖母は、貴方が前世にて唯一敬愛していた人であった。

 凛々しい人。誇りを失わない人。その割に現代にも生きている人。

 昔の栄華の誇りをいつも携え、成金のような傲慢さを一欠片も感じさせない凛々しさを身にまとっていた。高嶺の花というのとは違う、だが相対したのなら確かに敬いの心を持つ気品の高さが、その人にはあった。

 だが現代のアニメや特撮、漫画、ドラマも好んでみたりと、日本のいわゆるサブカルチャーも好きな、今思えば中々に柔軟な生き方をしている人であった。

 あれが根っからの善人なのだろうと、子供心に思っていた。だからなのか、元から人がほんのりと嫌いだった貴方も、祖母だけは好きだった。

 貴方の趣味を否定しなければ、のびのびと遊ぶことを「それが子供の仕事ですから」と認め、無理に何かを強要することさえも無かった。

 だからより好きになっていったし、年内の数週間しか会えなかった分、その時間がとても待ち遠しかった。

 だから子供の頃、こんなものごときにバカバカしいと一蹴した親の代わりにと、最初にプレゼントされたオモチャをとてもとても大切にしていた。

 とてもとても大切に、誰にも見つからないはずの所にしまっていた。

 

 だから貴方は、祖母に会えた夏が今でも好きで。

 そして貴方は、祖母の死んだ夏が今でも嫌いだ。

 

 今の貴方も、楽しい青春の物語が多い夏が好きで。

 今の貴方も、一人いない物語になった夏が嫌いだ。

 無邪気なままでいてもいいと、幼年期が始まったことを囁くようで。

 無邪気でいるのはいけないと、幼年期の終わりを告げられるようで。

 

 

 

 ああ、懐かしいと。

 目頭にほんのりと浮かんだ涙を拭き取って、貴方はどこか不安定なまま、無理をして気を切り換えた。

 今の貴方は『過去の人間』ではない。

 過去の貴方という記録を受け継ぎ、そのついでとばかりに感情の焼き付いた記憶も付属した、輪廻転生をした先の赤の他人──『還来地スミカ』である。

 幼なじみの小鳥遊ホシノと先輩だった梔子ユメに心からの信頼をするアビドス生まれの人間である。

 その他を信頼も信用もしない、現実主義者の性悪説論者にして、人間不信を発症した1人の人間である。

 過去の貴方と還来地家の悪いミームも割と継承しているが、それでも貴方は固有の見た目、固有の生き方、固有の趣味、固有の信念を持った『還来地スミカ』という名の、立派な1人の人間である。

 

『──そうだった、スミカ先輩。私の方でもパーティがあるから、そろそろ切るよ』

 

 そうして考えている間にも、シロコは何事かあるらしいのか、そろそろ通話を切る所に入っていた。

 貴方は気を取り直し、クリスマス特有の掛け声と共にまたと言う。

 

『うん、メリークリスマス。またね、先輩』

 

 そのまま、通話は切られた。

 ──さて、貴方は密かにクリスマスカードと共にプレゼントを送っている。実際に置いておくのはホシノだが、きっと明日のシロコには枕元にプレゼントが2つあることだろう。

 過去の貴方が何度も何度も──もう嫌だと思っても味わうしかなかった思いを、仮にも親代わりをしている貴方がシロコに感じさせてはいけないと、過去の親を反面教師に貴方はそうする事を決めたのだ。

 それに砂狼シロコに「クリスマスプレゼントでしょ!?」などと泣き顔で言われたら、しばらく寝込んでいられる自信がある。

 何も思っていないが。何も思っちゃいないが。

 貴方は心の中で緩衝材を静かに貼っておきながら、スマートフォンに表示されている時間を見る。

 時刻はもう随分と遅い。よもやお泊まり会にまで繋げるつもりなのだろうか。

 であれば悪夢で飛び起きる姿など見せたくないのだけれど。貴方はその部分で少しばかり憂いながらも、ほんの少しだけ歩く速度を速めて自室へと向かっていった。




トリニティ通い:プレイヤーネームを「wingster9」、本名を「鬼谷(おにだに)シノ」。高難易度ゲーで縛りプレイをするのが好きなマゾ。
ゲヘナ通い:プレイヤーネームを「AA-g-barba」、本名を「月方(つきかた)ハチ」。凄まじい豪運と動物に好まれる体質の代償にリアル・ゲーム問わずおぞましいレベルのクソエイムとなった。
ヴァルキューレ通い:プレイヤーネームを「p01ice-UME」、本名を「白鳥坂(しらとりざか)アイ」。実はクソゲーマニア。今は修羅の国(詳しくは『クソゲー 修羅の国』で検索)で修行中。
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