貴方は一般的な生徒である。   作:ホシのユメ

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十五話 二年生始めての埋まり芸

 1年。

 ミレニアムに入学してから、1年が経った。

 その1年でどれだけ面倒かつ嫌な記憶が発生しただろうか。

 

 エンジニア部内で同級生の制御役を自然に任されていた。

 ありがた迷惑な自称友達が増えた。

 無意識に親しく見ていた先輩が死んだ。

 

 ……思い返しても良い思い出がない。貴方はできることなら今年はそうでないでほしいと密かに願った。

 

 ──とはいえ、一方で、何もかもが悪かったということでもない。

 

 拾い子が思っている数段貴方を慕っている。

 ホシノは未だに貴方の友達である。

 そして何より、人は思っているより見下げ果てた存在ではないと、朧げながらも言えるようになった。

 

 貴方は未だ変わらず人間はどうしようもない悪だと認識しているし、人に対して信用も信頼も、ましてや友情も恋愛さえも感じていない。

 人は悪意と作為に満ちた存在。だからこそ、人はその悪意と作為によって滅びればよろしい。──その極端な性悪説はまだ貴方の中に燻っている。

 

 だが無垢も無垢な子に慕われて、それを跳ね除けて威嚇するほどまだ外道になってはいない。それが理由で、他への人当たりも1ナノメートルちょっぴりは心を許すようになった。

 唯一の心の拠り所な友人も、貴方を友人と気兼ねなく呼んでくれている。それが理由で、貴方がいよいよ発狂して自傷に走る事態にならずに済んでいる。

 あの時の看病が理由で、ホシノと祖母以外の誰か以外も信じてもいいと考えるようになった。

 あれくらいだったのだ。病気の看病をしてもらえたことなど。

 あれくらいだったのだ。純粋な善意だけで助けてもらったことなど。

 だから、1度くらいは信じても良いと、祖母の死からずっと経った今、ようやくそう思えるようになった。

 

 ──だからこそ、この1年は決して無駄ではなかった。

 もし誰かから「この1年間、どうだった?」と聞かれたとして。

 貴方は苦々しくも、しかし一切の皮肉のない言葉で、そう答えられた。

 

 

 

 ちなみにだが、かの【RX-0-NR:奇跡の護り手】はソフトウェア部分と制御用AIのみを残して解体し、倉庫の守り神になってもらう事にした。

 

 貴方は「公的に使用するにはあまりにも危険物が過ぎる」「他人に使われてしまう可能性を危惧した」「装甲そのものは他に使う可能性がある」と様々な理論武装をかましていた。

 しかし本音を言えば、壊して何も無かったことにするのはメンタル的に無理だったからである。

 いくら紛い物であるとはいえ、貴方にとっての思い出を壊してしまうなど、到底できる所業ではなかった。

 

 現在はソフトウェアとAIをひとまとめにし、臨時で開発した腕部に装着できる高性能デバイス(貴方は【シェルター】と呼称している)に突っ込んで貴方の手元で丁重に管理しており、使用には複雑な認証をパスしなければ不可能、という形式にしておいた。

 

 

 とはいえ、いつか好奇心で認証を強引に割ってきそうなイカレ女郎もいそうなので、そこは危惧しているポイントだ。

 例えばヒマリだとかだ。

 奴は掌握した機械を自分のもののように扱う、いわゆるジャイアニズム的なメンタリティがあるのでそこが心配である。

 

 

 

 さて、数日前に風邪を完治させたばかりの貴方は今日も今日とて設計図を製図していた。

 今の貴方は真剣な顔そのもの。

 ゆえにか、この状態でわざわざ話しかけてくる人はいなかった。

 

 

 ──この間に、今回貴方が一年を通して制作してみようとしているものについて説明しておこう。

 今年度の貴方はなんと2つも制作をする予定であった。

 中身こそ昨年のそれと比べればまだ複雑怪奇でもなく、また1つに関してはヒマリからの手ほどきを受けたのもあって、開発は夏休み前に終わる目処は経っている。

 それでも1つ増えたということは大きいものであった。

 

 

 1つは「(Hyper)操作的(Operational)反応(Response)合一(Unite)機構(System)」──それぞれの英文の頭文字を取って、『H.O.R.U.S』。

 これは簡潔にいえば「周囲やインターネット、そして自身の行動から自動学習を行い、より最大限に、より効率的に稼働を補助するAIの付属したOS」である。

 人間──ここだとキヴォトス人に当たるが──は、大抵は意識的に身体を動かしている。

 無意識的に身体を動かす事柄もよくあることであるが、しかし「荷物を持つ」「身体を動かす」「力を入れる」という行動の根幹には、そうしようという操作的な意思が含まれている。

 このOSはそういった動作を補助し、備えられた学習機能によって、より効率的に人の手助けを行うためのものである。

 貴方はこれを、れっきとした名義で世間に売り出すつもりであった。

 このオペレーションシステムを民衆が導入し、正しい方法で──工業や介護などで正しく扱われるなのならば、人は善意によっても成り立つことができるというその証左になる。

 見限った人をもう一度助けてあげたいという、上からの目線でありながらも、貴方が貴方だけのために作るのではないものであった。

 

 ……ただしこれは、ある1種の試し行動も含まれていた。

 深く考えずともわかる通り、これは悪しきように転用すれば、軍事にも使うことが可能である。

 無限に学び続け、施設を用意せずとも修練が勝手に行われ、よりエネルギーをロスしない機械。

 貴方が掛けるつもりであるリミッターを外せば、リミッターがあった故に多少あった非効率を一切廃し、100パーセントの効率を理由にOSそのものが独断で動き、全てを攻撃する金属の悪魔と化す。

もし人体に無理やり組み込んだとするなら、人体を破滅させながら敵を貪り喰らう完全な兵士となりえるだろう。

 そこに「戦いたい」「戦いたくない」という、人の意志の介在は存在しない──存在できない。

 

 わかりやすくするため、パワードスーツを一例として説明しよう。

 リミッターがある状況下ならOSが「こうするべきだ」「こうした方が効率が良い」と提唱する。人はその提唱を跳ね除けるか、はたまた受け入れるかは自由である。

 人とOSの主従関係は逆転しない。

 だがリミッターを外せば、関係は逆転する。

 人体を基軸にOSが完全な独断で操縦し、人はそれを実現させるための存在に成り下がる。肉体の過剰な負荷も負傷も完全に無視し、必要とあらば脳さえもOSの最大稼働を行うための回路として用いるだろう。

 目の前の敵を『駆除』するためだけに。

 

 ──人の悪意が強いか、人の善意が強いかによって存在の罪深さが変わる無垢の象徴。

 そんな存在こそが今回の1年を通しての発明を行うものの1つ、『H.O.R.U.S』であった。

 

 

 1つは、脳波操縦式無線射撃兵装──早い話をすれば、漏斗の英語読みが語源のアレである。

 というかこっちが本命である。

 前者も当然本命ではあるが、こちらはより実用性を削ってロマンに割り振ったため、本心としてはこちらに労力を割いておきたかった。

 まあ試し行動の一環なのでこれより先に手をつけておくつもりであるが──というのはさておき。

 

 理由は? と聞かれたとて特段良い理由はない。

 戦闘時に逐一座標指定や敵の指定をする必要性がなくなる、撃破を確認した時に即座にターゲットを切り替えられる──という建前こそいくらでも立てられるが、心の奥底を言うなら「カッコイイから」でしかない。

 良いではないか、移動の軌跡を見せながら飛び回る無線兵器というのは。

 良いではないか、包囲しての一斉射撃というのは。

 良いではないか、巧みに繰り広げる操作の美というのは。

 

 それらがカッコイイから作る。

 それだけである。

 前者と後者の温度差でグッピーが死にそうだが、これが貴方の現状であった。

 その点で、貴方は少しづつではあるが、エンジニア部に馴染みつつあった。

 悪い言い方をすると、エンジニア部の価値観に汚染されつつあるともいう。

 

 

「おお、スミカか! 調子はどうだ?」

 

 と、真剣そうな顔を浮かべながら製図をしていた貴方の元に声をかけてくる不埒者が1人。

 鮮やかな緋色の髪、あえて着崩された制服、そして可哀想な事にまるで変わらない身長。

 美甘ネルであった。

 

「お前なんか今要らない所まで考えただろ」

 

 知らぬ存ぜぬ理解できぬ。貴方は直後に考えたことについてはすっとぼけることにした。

 決してチビメイドとは思っていない。決してこれからもチビなままのドM奉仕癖メイドなどとは思っていない。

 折角なので『H.O.R.U.S』以外の設計図は見せ、パッと見の感想を聞いてみることにした。

 貴方は一応、名目上としては万人に扱える武器を設計する側の人である。

 時折ロマンに染まりすぎた、アホンダラな兵器を作ることもあるが、そこはご愛嬌である。

 とはいえそれが独りよがりな万人受けなのかはわからない訳で。

 だからこそ聞いてみる、という訳であった。

 それを理由にしつつ、見せてもらっているネルからは「へえ、良さそうじゃねぇか」「それなりに扱いやすそうだな、こりゃ」と決して悪くはなさそうな嘆息があった。

 そうであれば、貴方としては万々歳である。貴方はひとまず安堵から、ほんの少し張っていた緊張を息と共に緩めた。

 しかし、脳波操作式無線兵器──コードネームを【アクト】と名付けられているそれの図を目に入れた刹那、ネルは少しばかり目を鋭く尖らせた。

 

「……コンセプトとしては悪かないだろうし、スムーズな自前での包囲攻撃には向いてるとは思うが、戦ってる時に咄嗟の判断とコイツらの操作を両立できるのなんてそうはいねぇだろ。さてはロマンだな?」

 

 正に正論。貴方は頷くしかなかった。

 実際オモチャなので反論できなかったし、そもそもとして反論するつもりもなかった。

 

 オマージュ元も時代が進むにつれ相対的にチクチク用の兵装になった訳であるし、最終的に意味を成さないからと後の時代には廃止されていた。

 それが生徒というバケモンまみれの環境にもなればまず十分な火力として通じるはずがない。チクチクの嫌がらせが精々だろう。

 通じると明瞭にわかるまでに拡大したところで、それは最早大砲並の大きさになっていることに違いない。下手をすれば背丈と同等になっているだろうか。

 

 当然それにもロマンはあることは認めるし、なにより見た目も良い。なんなら今後の予定にも入っている。

 

 だがそれはそれで、これはこれ。

 重さはともかく、外観があまりにもあからさますぎてブラフが過ぎるし、何もかもを無理に通してまで無線兵器に価値があるかないかでいえば、有るよりの無いである。

 あくまでも無線操作でありながら本人の手による操作もなしに戦闘補助ができるという点で価値があるだけで、それを本体にして戦うならAI搭載のドローン、究極的にはロボットでよろしい。

 

 

 なのもあって、それもそうだと貴方は言わざるを得なかった。というか自己満足のロマンの産物なので、ネルの指摘は的のド中心を射ていた。

 

 まあ、つまりは。

 貴方らしくなく、ひどく狼狽えた様子を見せた訳であった。

 

「おい図星かよ! なんでそこで当たってんだお前! エンジニア部のブレーキ役だろ!?」

 

 そもそも貴方はエンジニア部のブレーキ役になった覚えなどない。自然偶発的になぜかそのポジションに収められていただけであり、意図などまずもってしていない。

 というか予算やら顧客の対応やら、そしてその後のことを考えなければいけない役目など今すぐにでも願い下げてやりたいくらいだ。

 なので時々くらい、こんな使い道もへったくれもない、単なるロマンしかないようなオモチャを作ったって別にいいじゃないか。

 貴方はいっそ清々しいくらいの開き直りで対応した。

 

「開き直ってんじゃねぇよお前!?」

 

 知らぬ存ぜぬ理解してたまるか。貴方は精一杯の精神的反抗で対応した。

 

 

 なおなんやかんやあってとても大人気ない煽り合いに発展し、チビメイド弄りが始まり、結果的に貴方は2年生になってから始めての埋まり芸を披露することになった。

 美甘ネルは年下に手荒な扱いを受けながら奉仕したいという性癖を持ったマゾメイドというガセは絶対に1年生の間でも流行させなければならないという決意をした。

 それと同時に、いくらでも金を払ったっていいので、こうして埋まっている姿がデフォルトであるとも思われたくなかった。




『H.O.R.U.S』の理論は割とこじつけもあります。許してクレメンス。
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