貴方は一般的な生徒である。 作:ホシのユメ
A.書く時間が取れないレベルで忙しかった
しばらくは時間が取れるのでできる限り早く更新していきます。
「──そこっ!」
砂狼シロコが貴方めがけアサルトライフルを連射し、それを回避し、時には武器をバットのように持ち替え、弾丸を打って反射しながら空を舞う。
連射の隙を縫っては金属の包みから開封した多重連結爆弾をばら撒き、広域を爆破し、回避先を予測して狙撃。それを更に避けるシロコ。
「ずっと逃げてばっかりで……!」
逃げるばかりの卑怯者で上等。勝てば官軍、負ければ賊軍。戦いの誉れなど浜で捨てるもの。よってこれは勝つための立派な戦法であり、それに対応できなければ負ける他に道は無い。
貴方は煽りと自己正当化も程々に指南する。
「それはそうだけど、どこまでも引き撃ちしてくるのが鬱陶しい! ちょっとくらいはこっちに付き合って!」
「だってさ、スミカ。おじ……私から見ても流石に引き撃ちのし過ぎだから、流石に少しくらいは付き合ってあげなよ。一応だけど、何も舐めプしろなんて言ってはいないんだからね」
それになんでさと口答えしつつも、しかし先程よりは格段と引き撃ちの回数が減る。今度は真っ向正面から突っ込む、いわゆる凸砂とパワー任せの格闘戦、ついでとばかりかじった、長物を利用したCQCを駆使しながらの戦い方へと変化した。
「格闘戦がちょっと雑すぎないかなぁスミカぁ、ねぇ? そこは私に教えてもらった方がいいんじゃないかな……なんてね」
ニヨニヨと意地の悪い笑顔を浮かべながら煽りを入れるホシノに青筋を立てつつも、シロコに拳を振るい、しかしフェイントと回避狩りを交えながら脚での攻撃も狙う。
ゴウと左拳に押された風がシロコの右頬を掠め、寸前で避け、体幹が僅かにブレた所を勢いを利用し右足で払おうと判断し。
しかし奥に飛ぶことで回避され、その着地もグレネードの投擲とアサルトライフルの連射で通される。
攻め切ることも叶わず、着地狩りもできず。戦況こそ優位なものの、しかし以前よりも格段と上達してきていることに貴方は早くも引き撃ちを解禁したい気分になっていた。
「目では動きがわかるけど……追いつくのがギリギリ……!」
「……ま、ここは流石にスミカのパワーが上回ってるかな。シロコちゃんも衝撃の逃がし方を覚えてきてるし、スミカは近距離が相対的に苦手なこともわかってきてるけど、完全には捌ききれてない」
何が「追いつくのがギリギリ……!」なのだか。これでも速度と膂力には自信があったのだが。貴方はいよいよ猫騙しでも使わないと勝てなくなってきたなと己の身を自嘲しつつ、武器を再びバットのように持ち替えた。
──さて、今貴方とシロコの間で繰り広げられている戦闘であるが、これは断じて喧嘩ではない。
ホシノの茶々が入り、それにわざわざ貴方が応えていることからわかるように、いわゆる戦闘演習中である。
シロコが「私も強くなりたい!」と切実な態度で頼み込んできたため、可愛い後輩の頼みならとホシノとの共同作業で鍛え上げることにしたのだ。基本的にホシノが動きの指南で、貴方が戦闘演習の相手という形である。
とはいえ貴方は立派なミレニアム生。そこまで相手をしてやれず、大体はホシノに任せ切りな現状になっていた。
なお貴方の訪問数は割と多い。具体的には週に2回、時には3回である。
「本当にアビドス廃校対策委員会の一人みたいですね☆ (最近のノノミの様子はこんな状態である)」とはノノミの言伝。
まあさておき。
戦闘演習の勝率に関しては、現段階で17戦14勝3敗である。これでも立派な先輩、かつ鎌倉武士精神でやってきたというのもあって、そう容易くは負けてやらなかった訳である。
なお、シロコに負けた3敗は貴方が仕掛けた罠に引っかかってのみっともない自爆。つまりは貴方のガバである。
その際にはホシノに大人気なく煽られたのでピキった貴方は戦いを挑み、そっちでも3つの敗北を増やしていた。
貴方としては不承不承やっていることであったが、いざやるとなれば話は別。舐めプは良くないという信念の元、心を込めて相手していた。
また猫騙しや卑怯に頼った戦法は制限されつつも持ち込めるものは可能な限り持ち込み、武器投げや急所への攻撃も辞さない心持ちでもあった。
場面は戻る。
武器をバットのように持ち替え、殴り飛ばす体勢になった貴方であるが、実の所ここからどうしてくれようかと思案しているところであった。
罠に関しては過去の自爆が尾を引いてかあまり仕掛けていなかった上、持ち込んだ武器もこれ1つと既に使い終わった消耗品の残骸のみ。
降参のフリをして背を向けた時に頭へ叩きつける、というのも思いついたが、流石にそれをホシノでもない人にやらかすのは言語道断であろう。
こうも考えさせられるのも軒並み今の相手をしている砂狼シロコが油断ならない──つまり、普段の貴方であれば罠設置や卑怯プレイ、それらが大前提の上で引き撃ち戦法に走るレベルの相手であるからだ。
とはいえ、仮にも貴方はかの暁のホルスと並び立つ存在だと他称されているのだから、貴方有利の条件で無かろうとて、そう容易く敗北してやるつもりはそうそう無い。
なので、貴方は旧約聖書にも載っている程に歴史があり、そして由緒正しい外道の戦法を実行することにした。
それは貴方の十八番の応用である。
それは貴方が何千回も実行した外道戦法である。
それは短期間にやりすぎると反応さえされなくなる諸刃の剣である。
だが、そうであるからこそ、シロコには1度も試さなかった戦法であった。
貴方は先程まで付けていた余裕そうな仮面を一変させ、さも深刻そうな面の皮をぶら下げ、焦りを含ませたような身振り手振りでシロコに伝えた。
──あの影はまさしく襲撃ではないか?
「嘘っ、こんな時にっ!? ──え?」
だがいない。いるはずもない。あるのはアビドスの砂まみれな、いつも通り人の少ない光景のみ。
なぜならそもそも、嘘だから。
貴方の十八番を応用した外道戦法。つまりは、嘘である。
卓越した表情の偽装技術、いかにも本当に生じたかのような身振り手振り、そして相手にとって不都合か、もしくは関心を引かれることを予想する技量を駆使すれば容易いことであり、故に貴方が得意とする戦法の1つ。
ホシノにはもうやり過ぎて引っ掛かりさえもしなくなったが、純粋なパワーの圧倒と嘘以外で対応していて、まるで使ってこなかったシロコには深く突き刺さる技であり。
「──なっ!?」
だからこそ、シロコが再び振り向いた先には突きつけられた貴方の銃口があった。コッキングも済まされた貴方の銃はそれこそ引き金を引くだけで弾丸が放たれる状態。
ホシノの「うっわぁ、コイツやったよ……」などと思っていそうな視線など知らぬ存ぜぬ省みぬ。勝てばよかろうなのだ。
……嘘である。ほんのちょっとは悪いと思っている。反省も少しだけしている。だが後悔はしていない。
「……ンッ! ンーッ! ンーッ!」
騙す方が悪いか、騙される方が悪いか、という言葉が世の中にはある。
貴方は当然騙す方が悪い、と謳う側の人間でこそあるが、だがそれが果たして戦っている時にまで適用されるはずがない。
何度でも突きつけるが、「勝てば官軍負ければ賊軍」なのだ。戦いの誉などさっさと浜で捨てるか、さもなければ誉でも食って潔く負け犬に終わるかである。
であるからこそ、戦うのならば正々堂々の精神はあまり持つべきではない。
貴方は怒って詰め寄ってくるシロコの頭を片手で抑え、諭すようにしてシロコに言う。
本来なら卑怯をした側がこんなことを言うなど、とんだ煽りに違いないが。
「ンンンンンッ!」
……というのもあってか、聞き入れられる前にまずは頭をガジガジされそうだ。
貴方は持ち前の脚力で高く飛んでシロコから距離を取り、遠くで見ていたホシノの方の隣に座る。ものすごく呆れた顔だ。理由は明白だが。
「やったねスミカ。いたいけな女の子に嘘付いて勝った。ああいうこと平気でやるからいつまで経っても性格悪いだの恥知らずだのインチキでしか勝てない弱小だのって呼ばれるんだよ」
弱小で結構。性悪で結構。恥知らずで結構。言い口こそ悪いが、有り体にいえば自己の無力を自覚できない弱小がそうやって理由を転嫁しているだけの、より弱っちい犬の遠吠えでしかない訳である。
第一、それを言い出せばホシノとて同じことではないか。力押しだけの脳筋、速くて固いだけの雑魚、作戦が特攻だけのバカ──そうやって罵ることだってできる。
その力押しだけの脳筋に勝てていないのがその弱小ども、というかヘルメット団やスケバン、そして仮面ファイターどもであり、同様にそのインチキでしか勝てない弱小に勝てていないのがソイツらではないか。
つまりは対応できないのが悪い。貴方は性悪そうに笑って返答する。
「本当、勝つことには貪欲というか、いざ戦うってなったらまるで容赦がないねぇ。いや、それは私も同じか」
そんな他愛もない話をしているうち、ふとホシノの声色が優しいものへと変わった。
「にしてもさ……顔が柔らかくなったね、前より」
貴方はそれを聞き、1つ疑問を生じさせた。
今までとはまったく変わらず、誰にも悟られないようにやっていたはずだ。いいや、和らげていたつもりも、燻る警戒心も解いたつもりなどもない。
どうしてそう思ったのだろうか。
「だって、シロコちゃんと話してた時にそこそこ性格悪いこと言いつつも、よく笑ったり楽しんでたりしてたからね。私とかユメ先輩とかと一緒にいる時の笑顔だった」
「そっちの方が私としても嬉しいよ」と貴方に問いかけてくるホシノに貴方は多少の本音も交えて返事をする。
何かを恨むなど、それ相応の燃料が無ければ燃えない。不信を貫徹し続けるのも、同じことである。
人間不信、および人間への怨嗟への捨て時かとしれないし、だがまだ信じるには値しない。簡単にはできない。
「……そっか。じゃあもし駄目そうだったら頼ってよ。私とか、ノノミちゃんとか、シロコちゃんとか。アビドスの子たちは思ってるより純粋にスミカのことを慕ってるよ」
その時はその時だ。貴方は大雑把に答え。
「ん、呼んだ? それに、何か話してた?」
呼んではないが、ちらと名前が出ていた子の登場である。
「いいや。スミカと私との話だから、あまり言えたものじゃないかなぁ。……それと、シロコちゃんってスミカのことって尊敬してる?」
「それなら、もちろんそうだけど……どうかしたの?」
「だってね、スミカ。だからもう少し人を信じたっていいんじゃない?」
「ああ、なるほど。……先輩。私も信じてるよ。だから先輩も、私のことを信じてほしい」
そうか、とばかりに少しだけ笑いかけた。
おそらくは、本心よりの笑顔で。
「だからちゃんと嘘付いたことを謝って」
ここまで素直な子供だと逆に笑いが込み上げてくる。こっちは多分、本心ではなかった。
当然としてそっちの方が正しいというか、普通はそういう姿であることこそ素晴らしいと言うべきであるが、相当に薄汚い社会で生きていた貴方には眩しいし、何より笑える話であった。
だからこそと、開き直って声を高らかにして謳う。
嫌でござる。
謝らないでござる。
絶対に頭を下げないでござる。
「…………いいかいシロコちゃん、これがとっても悪い人間の、とってもわかりやすい代表例だよ。こんな人にならないようにね」
「ん、わかった。こうならないようにする」
酷い言い草だ。妥当だが。
一瞬春と夏の間とは思えない生ぬるい風が吹き、それをネタとして昇華したホシノにひそかに感謝する。
……と、声色が変えられた。
「で、さ。もしあの時言ってたハッタリが実は本当になったとしたら、どうする?」
──なんて? と。
貴方が今一度聞き返そうとした瞬間、連続した銃撃音と爆発が鳴り響いた。思わず呆れた……というよりは、懲りない奴らだと、苛立ちも半分の顔で深くため息を付いた。苛立ちと疲れの溜まった息が抜けていく。
見ないでもわかる。どうせヘルメット団と仮面ファイターに違いない。
嘘から出たまこととは、およそこういうことを指すのだろう。戦力であるノノミ──彼女は今ショッピング中でいないという時に限って、こんな害獣どもが湧いて出てくる。
かつてヘルメット団と同レベルで繁殖していた仮面ファイターらはホシノによる説得(暴力)と貴方による説得(暴力)でその数を減らした。
しかし減ったとはいえ、残党は存在する。
これはいわば残党狩りであった。どこぞのアニメ、あるいはOVAとの相違点は残党側にカッコ良さというものがまるでないことだろうか。残党の時点でカッコ良さなどないと言われればその通りだが。
なのでいつも通り芋スナと引き撃ちの体勢を取ろうと無線イヤホンを耳に付け、銃を握り。
「たかが3人しかいない学校1つがなんだ! キンピカハオーは伊達じゃない!」
よし殺す。絶対に殺す。何がなんでもぶち殺す。
貴方は棍棒のように持って深く決意した。
「あちゃあ〜、仮面ファイターの1人、大きい地雷を踏んじゃったみたいだ。もう駄目かもわからないよ〜、これは」
「でもホシノ先輩、あの人たちは爆発してないけど?」
「……例えだよ、例え。人の嫌な所に触れて怒らせちゃうことを、地雷を踏んだ、なんて言い方をするんだよ」
「そうなんだ。ん、覚えた」
そんなこんなでシロコとホシノの2人で協力し、ヘルメット団と仮面ファイターを見事に返り討ちに合わせた。貴方も今回は前線に出ており、きっちり貢献している。ちなみに、具体的には近接戦でのフルボッコである。
特に伊達じゃないだのとほざいたのには顔面へ銃床を何度も叩きつけたので、しばらくはトラウマで同じことを言えないはずだろう。この調子で是非とも特撮のパクリをやめて頂きたいものだ。
貴方はとても満足そうな顔で気絶した仮面ファイターを縛りながら考えていた。
「これで使った弾分は補給できるかなぁ〜。今日のはそれなりの大物だからもしかしたらプラスになるかも?」
「そうだったらいいね。最近は弾も節約しないといけないから」
そんなことを耳に入れ、貴方はそのことに付いて聞く。
「今の弾の状態? ん〜……あんまり良くないかなぁ。最近は襲撃も増えてきたし、撤退していくところも多くなってきたし、それと借金のことも考えたらちょっと弾の質を下げないと厳しくなってきたんだよね」
貴方は眉をひそめる。
金銭的な余裕はそこまで無くなっているのか。アビドスの荒廃もそこまで進んでいる。ならそれこそアビドスを離れるべきだと現実的な考えは訴えかけているが、彼女たちの考えにはそれを実行するというのはおよそ有り得ないだろう。
……所詮は部外者である身分だが、その部外者にもできること。
それならと、貴方は自分自らが弾薬や整備用具、その他銃の部品といったものを調達してくることを提案した。
「うへっ、良いの?」
別にそれごときは問題ない。普段の荷物の量が多少増えるだけだし、第2に助けになりたいからだ。
それとホシノには可能な限り無用な不自由を経験してほしくないから、というのも関係している。
だがお金はいくつか取る。
当然価格は今ホシノたちが仕入れているものより遥かに安く抑えるつもりだし、質も保証する。はっきりいってタダでばら撒くも同然の大赤字になることは間違いない。
それでもタダにだけはしない。
「なん……ああ、よく言ってる信用か。信用は形にしておかないと危ないとかなんとか」
ホシノの言う通り、信用のためだ。
偉い人は言っていた。タダより高いものは無い、と。
目に見えない信用は可能な限り目に見えるものに変化させるべきである、という貴方の考えがあってのことである。
ことさら友達との口約束という信用など大抵破られるのだから、それなら紙に記すなりお金になるものとの交換で信用を形にするべきである。ソースは貴方の経験談。
「まあ、そっか。じゃあ頼んだよ〜。できれば多めでね〜」
「頼りにしてるよ、スミカ先輩」
貴方は意気揚々と請け合い、アビドスを離れてミレニアムへと戻ることにした。
「あとちゃんと謝って」
そろそろホシノからのじっとりした視線が厳しくなってきたのでシロコにしっかりと謝りつつ、貴方は今度こそアビドスの地を離れた。
余談だが、スケバンやヘルメット団といった裏社会で生きている生徒たちの間で、砂漠化した学校には妖怪首置いてけがいるという噂が立っていたことを貴方は知らない。
まあ効力はあったのか、少しずつだが襲撃は減っていったらしい。