貴方は一般的な生徒である。   作:ホシのユメ

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マリナの顔が良すぎて寿命が五時間伸びた


十七話 突撃!ブラマの人の業

 外はそろそろ夏の兆しが見えてきた頃。

 そろそろホシノの「うへぇ〜! 動いてないのに暑いよ〜!」が聞こえてくる時期であり、またクズ四天王の1人が『クーラーと扇風機ガンガンに回しながら部屋でゲームするの最高』とほざく時期だ。

 実際動かなくても冗談のように暑いし、そんな環境だからこそ部屋で怠惰を極めているのがとても楽しい。怠惰が完全共鳴である。

 こんなファッ○ンホットな環境で外で撃ち合う(遊ぶ(笑))など控えめに言って狂気である。誰とは言わないが。どこの赤髪チビのマゾメイドとは言わないが。

 まあさてそんな中、点滴を打ちながら部室にこもって開発を続けるという缶詰作業を2週間も続け、そろそろ嫌気と飽きがものすごいことになってきていた貴方はさらっと逃げ出し、気分転換にとブラックマーケットへと出向けていた。

 

 ──ブラックマーケット。

 それはキヴォトス内でもトップクラスの規模を有する闇市である。

 連邦生徒会の管理が及んでいないために治外法権がまかり通り、その為か違法な物品や違法な活動を行う団体が巣食う魔窟。

 人の本性が最も色濃く映し出される地区。

 そして貴方にとっての、人の悪意の吹き溜まり。

 人の夢、人の望みと人の業。

 競争が生まれ、悪意と嫉妬と憎しみが蹴落とし合いを生み、敗者を嘲笑い勝者に媚びる。媚びる者も首を狙い、気を張らねば落とされるやもと考え、悪意を張り巡らせやはり競争し続ける。

 最終的な結果だけが尊重されるだけの、まるで面白みも救いもない悪意だけの世界。

 なるほど、どこまでも汚らしい世界である。困ったことにその汚らしい世界というのが大人の社会であり、ひいては人の社会、すなわち人類が構築したシステムなのだが。

 人類の全てが皆そうだ、とまでは言わない。ホシノやネル、ウタハ、コタマなどといった友達を名乗る彼女ら(クズ四天王の3人は除く)を鑑みれば、そんなことはありえないとひとまず貴方の口からは言える。

 そうでもなければ貴方が1度とて人を信じてみようとは考えなかった訳だから。

 

 ──だがそれはそれでこれはこれ。

 そうは言った所で全てが良い人である訳でもない。

 その悪意の吹き溜まりの環境が生まれているのが今の純然たる事実だし、そもブラックマーケットの存在そのものが本来違法である。

 その上で大規模な検挙も行われず(ブラックマーケットそのものが自治しているのがそもおかしい)、なぜか規模が大きい状態で成り立っているのだから、やはり人の夢と人の望みと人の業、その3つがぎっしりと詰まった場所でしかない。

 やはり人とはこういうものである。だから理性を──最低限の善性を信じるために試すのだ。

 できなければ見放すだけであり、つまりは元に戻るだけである。

 貴方はホシノやウタハといった友達にはまるきり見せない笑顔を浮かべた。

 やっぱ人類は末端まで腐りきったクソだなと思っている時の清々しいまでに卑しい笑顔である。

 高笑いし、悪意こそ本性と唄いかける寸前の笑顔である。

 過去の貴方の末期も大概こんな状態であった。

 

「あわわわわわっ、誰か助けてくださーいっ!」

 

 と、1つの叫び声。それに追随する誰かしらの声。

 その方向を振り向くと追われているのが見えた。ここに見合わない普通そうな1人──制服を見るにトリニティのはずだ──と不良が2人。

 別に関係ないと見捨てても良かったのだが、無視は正直気分が悪くなるので助けることにした。

 ただしわざわざ助けるに銃で撃つ必要もない。弾薬の無駄である。ましてや殴打術で銃を使う必要もない。

 知っているだろうか。──人は、良い角度で殴れば気絶する。

 貴方は駆け出した刹那に姿勢を屈め、接近し。

 

「お前はだっ、ゴフッ」

 

 1人は腹に掌底を叩き込む。

 

「何をすっ、アベシッ」

 

 そしてもう1人は身体を起こすついでの裏拳で強く側頭部を殴って終わらせた。

 誰が見たって完勝である。これにはホシノも拍手喝采であろう。ホシノならもっと早く終わらせてたという発言は許可しない。

 

「え、えーと、ありがとうございます。おかげで助かりました」

 

 そう礼を言った彼女は阿慈谷ヒフミと名乗った。貴方もそれに合わせ、還来地スミカとフルネームで名乗る。

 

「スミカさんですね! ところでスミカさん、ここには何をしに?」

 

 そう問いかけてくるヒフミに対し、あなたこそなぜここにと問い返した。

 ここにいるのは(今の貴方を除き)大抵が普通の場所では売っていない何かを求めた末に来ている。

 およそろくでもない代物であろうにしろ、暇潰しには調度良い。それなら暇潰しにと貴方は協力することにした。

 

「私ですか? 私はこれです、ペロロ様のぬいぐるみです!」

 

 そう言われながらヌイグルミを見せつけられた。

 曰く、ペロロ様だとかと言うらしい。

 白くて丸い形状の……おそらく鶏?をかたどった形状で、舌を長く垂らした焦点の合わない目玉。

 ……なんともまあ、キャラクターの外見的な特徴にとても趣のあるヌイグルミである。良く言えば気に入る人はとても気に入る、マニアックな人気がありそうな造形だ。

 

「それがタコス販売店とコラボした特別なバージョンがメキシカンペロロ様のぬいぐるみなんです! 可愛いと思いませんか!?」

 

 そのよく分からん生命体がソンブレロ帽を被り、両手……両翼?にはマラカス、口にはタコスを加えた格好のヌイグルミを探しているとのこと。

 ……なんと言うべきか、誰が見ても趣しか感じられないほどに素晴らしくデザイン性のあるヌイグルミだ。良く言えば販売終了したその後に高値でプレミアが着きそうな造形である。

 デザイン係がアバンギャルド……ではなく、こんなものを買う奴の気が知れな……でもなく。

 ……まあ、その。悪い趣味ではないと思う。

 貴方は包める限りの大量のオブラートを出してそうのたまった。

 

「そうですよね! ペロロ様は良いんですよ! わかってくれましたか!」

 

 そんな輝きたっぷりの目で言われてもかなり困る。貴方はいい具合に笑って誤魔化すことでしか返答できなかった。

 

 だがそれはそれで、これはこれ。好きなら好きでいいじゃないか。否定などできようものか。

 それこそ貴方の特撮スキーやロボットスキーなど否定されてもおかしくない。ソースは貴方の経験談。

 というか、貴方の好きなアニメはキヴォトス人から見たら人死にが無闇に出続けるトラウマ化待ったナシのえらく悪趣味なアニメーションである。

 なので寛容な精神を持ってこそ対応するのが現段階だと至上。貴方はそう考えた末のこの言いぶりであった。

 

 ただまあ率直な感想を言うのであれば、身近には1つたりとて置いておきたくない代物である。料理に使わないタイプの白い粉末をキメてそうな顔だ。

 トリニティのとある企業推しな誰かさんの言葉を借りるなら「あんなものを並べて喜ぶか、変態どもめ!」と言いそうなそれだった。

 とはいえ、好きなら好きでいいんじゃないだろうか。過去には好きだった先輩のゴミを集めていたどこぞのピンク髪のちっちゃい同級生もいた。誰とは言わないが。

 どこか遠くでクシャミをさせたような予感を覚えつつ、貴方は彼女のとあるもの探しを手伝うことにした。

 

 


 

 

 そんなこんなでそれなりに時間を掛けた結果、そのメキシカンペロロ様ヌイグルミなるトンチキを入手することができた。人気だったのか単純にコレクション目的か、はたまたネタなのかで割と人が群がっては争っていたため、力で押し通る形での入手である。

 中には「私のお金がぁー!?」「高く売りたかったのにー!」と抜かす人畜生未満が湧いていたので、ソイツらはひっそりと10発余分に、それも全力を入れてぶん殴っておいた。理性ブレーキ(ユメ・クチナシ型、外付け仕様)で対異端特攻の釘を打ち込んでやらなかっただけ感謝してほしいものだ。

 転売ヤーは死すべし、慈悲は無い。青く清浄な世界のために浄化すべし動物である。どこかの偉い人もそう言っていた。

 

「え、ええと……あはは……」

 

 貴方の憎悪たっぷりな妄言に苦笑いのような形で返答するヒフミ。

 

「それで、こんなにも助けてもらっちゃったので、何かお返しのために手伝いたいんですけど……何か欲しいものってありますか?」

 

 それを聞き、ようやくハッと思い出した。記憶から抹消していたのだ。

 ぶっちゃけ何も考えておらず、ずっと開発しているのがなんか堪えてきたので逃げ出してきただけであって、ここにいる深い理由はない。

 実際気分転換のために外に出ていただけというのもあるし、付け加えれば人の意地汚さを見てホッと一息するために来ていたに過ぎない。

 だったら適当を言って誤魔化すという事もあるが、その適当を言うにしても今欲しいものは何も無い。強いて言うなら怠ける時間がほしいが、そんなものは金で買えないので仕方ない。

 なので貴方は素直に言ってしまうことにした。

 

「散策のためにブラックマーケットへ? 中々変わってますね……」

 

 実際変わってるので何も言えない。貴方は閉口した。

 

「あ、じゃあお土産ついでにこれとこれをあげちゃいますね! 私、似たようなものを何個か持ってますから!」

 

 とヒフミが持っているいくつかを押し付、ではなく手渡された。いらない。

 

「いいんです! これは良さを分かってくれたスミカさんへのプレゼントですから!」

 

 本当にいらない。心の底からいらないが断るのも外聞と彼女からの態度が悪くなりそうだったので受け取ることにした。

 だがお前に「倉庫番」の名を与える。

 心の奥底でこれから日の目を見る機会が減ることになるだろうペロロ様ヌイグルミをよそに、「ペロロ様について話し合える人ができた!」と喜ぶヒフミの姿。

 それを見ているとどことなく騙している感覚がして腹の据わりが悪くなる覚えがしたので、モヤり解消のついでに、ある事を伝えておくことにした。

 貴方は耳元に近寄り、小声でひっそりと囁く。

 ──発光部分が赤く、強く灯った機械。もしもそれを撃ち合いで見つけたのなら、すぐにでも伝えてほしい。君にいい物を用意しよう。

 

「ひゃあっ!? ……さっき言ってたことって本当ですか?」

 

 驚かせてしまったことを謝りつつ、貴方は本当であると礼儀正しく言う。これに嘘や誇張の要素は含まれていない。

 貴方は嘘つきだし卑怯者。だが口約束や契約には誠実にありたいと願う生き物なのだ。

 

「それって、ペロロジラでもですか!?」

 

 もちろん引き受ける。可能な限り探す。なければファンメイド作品として作る。必要とあらば人間大サイズでもやってみせる。

 ただ、なければ無いでそれでもよろしい。その時も望むのなら何かを作ってみせようとも。

 

「本当にいいんですかっ!? じゃあ見つけ次第教えますね! 今日は本当にありがとうございました!」

 

 そうやってルンルン気分なのか、スキップのような足取りで帰っていく。

 貴方は1つため息を付きながら、帰ろうという気分で足取り重くミレニアムへと戻ることにした。

 ──教えられる事態にならなければ、良いけれど。

 ……そんなことを、思いながら。

 

 

 

 ──HORUS。

 貴方が今簡易的な地獄を見ながら制作しているオペレーティングシステム。

 そこに貴方はあえてある欠陥を残していた。

 そのシステムを使うと光源のカラーリング部分に干渉し、赤く光るのだ。誰から見てもわかるほどに輝かしく、らんらんと灯るのだ。

 システムを起動しているのが丸見えだなどどう考えても欠陥極まりないが、しかし貴方はわざと残していた。

 なんならそれが誘発するよう、決して安易には直せない根幹に欠陥として引き起こすプログラムさえ組んでいたのだ。

 当然エンジニア部以外からは非合理的だのと言われていたが、ロマンと言えば思っている数段は楽に通るものだ。現にウタハも乗っかったし、先輩もそうだった。

 実際は判別機能としての性能があることも知らずに、だが。

 

 ──人類がどこまでも生物の本能に忠実なのは承知の上。所詮は獣。蹴落とし合いという名の食物連鎖など起きて当然。憎しみ、妬み、嫉むなど人類全てが有する業。そんなものが未来永劫変わるはずもない。

 それならと、貴方は1つ、心の奥底で提案していた。

 ──もし人類にまだ最低限の善性があるのなら、より醜い蹴落とし合いや憎しみ合いがしたくないのなら、こんな代物を軍事転用などしない。するはずがない。

 ああ、きっとそうに違いないさ。

 そうでないのなら人は同族を憎む心と敵を見るしかできない目、引き金を引くしかできない手、そして蹴落とすことしかできない脚しか持たないことになる。

 人の作った棒で優越のために叩き合うなど、滑稽を通り越して愚かじゃないか。そこまで行き着くのなら殺し合いをすることこそが本望じゃないか。

 自分自身の最底辺の期待さえ裏切って、それでもと争いたいのなら、良かろう。そうやって争っていればいい。お望みなら主導役さえ担ったっていい。

 ミサイルが欲しいならミサイルを、核爆弾がほしいなら核爆弾を、生物兵器がほしいなら生物兵器をくれてやろう。

 その争いを元に、世界をやり直すまで。他ならない、自らのエゴでそうしてやろう。

 善人が苦しんで惨めに負け、悪人が無駄に肥えて富んでいく人間道などもう散々だ。

 善い人が正当に評価され天に昇り、悪し人が正当に裁かれ畜生か餓鬼に成り下がる、あるいは地獄に落ちる。

 それを人が望むのなら、およそ自分は地獄に落ちて罪を償わねばならないだろう。ホシノやウタハとかと言った少数の善人とは格が違う。

 だがそれで良い。それでよろしい。そうじゃないとあまりに恐ろしい。

 ……だから。

 どうか賭けに負けさせてくれよ。

 

 

 貴方は裁判官のように気丈に振る舞い、しかしどこか縋るような思いでブラックマーケットを振り返って見た。

 変わらず、いつもの風景が流れていた。

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