貴方は一般的な生徒である。   作:ホシのユメ

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ルーキー日刊46位やったぜ。
〘前回の誤字修正者〙
【foy】さん、誤字修正サンクス!


二話 労基があれば良かったものを

 貴方はすこぶる不満であった。

 地元の学園の方がまだ良さそうだった? そんなことはまずない。

 ウタハに騙された? 否。少なくとも貴方はそう思ってはいない。むしろ現状が楽しいのでオールオッケーである。

 ネルの屈服性癖(どう考えても風評被害だが)が貴方の想像通りでは無かった? 違う。いやある意味不満ではあるが本題ではない(ちなみによりにもよって本人に問いただしたので数十分ほどミレニアム名物『還来地スミカの犬神家』になっていた。一応後で謝っておいた)。

 答えは思っているより時間が残らないことである。

 

 

 

 初日は歓迎会というのもあって今までの発明品を見せられたり。同級生たちは声を上げて興奮していたし、貴方も心の中には男子小学生が眠っているので同じく興奮した。なんかよく分からない発明品、具体的には入れたものを温くする冷蔵庫とかには目を逸らしていたが。

 なぜ先輩方はあんなものをロマンと言って作るし、それに同級生はロマンを感じるのだろうか。技術者は何か面妖な所がないといけないのだろうか。

 これは貴方が帰宅後、旧友にひっそり愚痴を吐いたことである。ちなみに塩対応であった。解せぬ。

 その後は同じ部活に入った同級生という好で、カラオケに行って親睦会。ウタハは演歌を歌っていたし、貴方はちょっと古めのアニソンや主題歌、洋楽を好んで歌った。

 その最中で好きなロマン語りになったのだが、その時に特撮モノとロボットモノが好きだと言った際に共感の嵐が飛んだのだ。

 例えばカイテンジャーのロボット良いよねとか、仮面ファイターのデザイン良いよねとか、仮面ファイターカッコイイよねとか。

 それには肯定も否定もせず、慣れたように曖昧に笑って誤魔化した。

 こんな状態でそんな訳ないだろと否定したり対立したりして荒事の火種は作りたくないのだが、しかし内心は寛容な精神でいられない程度には大荒れであった。

 アレ、というかアレ共は貴方から言わせてみればクソッタレのパチモン畜生である。

 暴れたいから暴れる。主義も思想も正義もなく、ただ暴れていたのを正義執行を題目に自己正当化しているだけ。それは正義の体現者ではなく、ただの怪人に成り下がっただけの、パチモンで、面汚し野郎の、頭のスッカスカなテロリストなのだ。はっきり言って姿形も立ち振る舞いも認めたくない。解釈違い極まっている。

 その癖無駄に数もあるのが腹に立つ。失礼だとは思わないのか。いっそ全員本物に成敗されればいいと貴方は常日頃思っていたりする。アレ共は本編にいたら1号と2号の必殺技で強制退場させられる側だ。そんな考えも添えて。

 同様に挙げられたカイテンジャーという子供の夢デストロイヤーな戦隊モノのパチモンなテロリスト集団も、貴方の中では立派な旧友ミサイルの対象である。

 ちなみに旧友ミサイルとは、貴方が発見したテロリスト(面汚し)共に対し、旧友を高めの賞金で釣って特攻させる方法の事である。旧友はありえないくらいに強いからすぐに終わる、というのもあって乱用回数は多い。

 

 

 

 そんなキヴォトス視点における拗らせ厄介オタクの戯言(たわごと)はさておき。

 その歓迎会以降はもう大忙しだ。

 朝早くから始業まで活動し、授業が終わればまた部活に直行。そこからは外の施設の修理や銃器の修理、暇があれば理論の履修や開発。

 春の太陽が地平線にしっかりと沈みきってからようやく帰宅できるほど。

 エンジニア部は好きな開発ができるとはいったが、その実情はミレニアムのインフラ整備も兼ねたやり甲斐搾取メインな部活であったのだ。

 貴方は睡眠時間が短くとも事足りる、いわゆるショートスリーパーであるためどうにか数多くある趣味と部活、それと思い付きの両立をこなしているが、ぶっちゃけ凄まじく疲れる。

 というか疲労が蓄積しにくく発散されやすい貴方でさえ疲れがそこそこ残っているのだから、他などより酷いだろう。

 現に同級生の中では「気味の悪い笑みを零しながらエナドリとエナジーバー、眠気覚ましのガムを齧って生活する」という人型生物、通称ミレニアムヤリガイゾンビ(貴方命名)が既に何人か湧いて現れている。

 未だイキイキと輝いた表情で開発と修理をこなしている白石ウタハ(いつの間にか1年生前期にして開発許可という特例措置を掴んでいたらしい。バケモノかと貴方は思っていた)はまずミレニアムヤリガイゾンビにはなり得ないだろうとはいえ、ああも変貌したらいよいよ人として何かが終わるという反面教師で日頃から三食しっかりと自炊したものを食べている。

 なおたまに食事さえ面倒くさがってゾンビ未満のことをやらかすことがあるが、そこはまあ、ご愛嬌である。

 またそれ以外にも、貴方が肉体的にではなく、いわば精神的に疲れる要素は数多くあった。

 まずひとつに、エンジニア部が変な付け足しをすること。

 求められるものをそのまま作るのはロマンに欠けるとはなんだ。貴方の抱えている常識の中では求められたものを求められたように作るのが当たり前、当然の事なのだ。

 それをロマンに欠けるという理由でどう考えても使い道がないものを付け足す──例えば生産設備に音楽プレーヤー機能を突っ込むとか銃器にモバイルバッテリーを搭載するとかである──というのは製作者の精神として何かがおかしい。

 そしてそれにウタハは共感してほしくない。

 早くも貴方の中では自分がエンジニア部のブレーキ役なのではないかという仮説が立っている。

 ふたつに、外出頻度が色んな意味で多いことである。

 繰り返すが、貴方は元は出不精な性格。ゲーマーでプラモ改造スキーで音楽スキーである。

 だがエンジニア部の活動であれ友達付き合いであれ、思っているよりも外への露出が多い。

 エンジニア部の活動はともかく、友達との交友を断っているのは評価が下がるだろうと日本人的な感性が良くも悪くも仕事して、現在貴方の趣味事の時間は深夜帯のものと化している。

 そして最後に、車の運転である。

 貴方は前世も含め運転などしたことがない。あってもゲーセンのマリオなカートか湾岸ミッドナイト*1のアーケードゲームくらいである。

 そもそも学生なのだから自動車の運転とは無縁だとたかをくくっていたが、ある日のこと。

 

「今日はミレニアム自治区でちょっと遠い所の設備の修理に行く予定だけど……そうだね、車の運転とかやってみる? ほら、一度やってみるだけでもいいからさ!」

 

 貴方は貴方自身の耳を疑った。耳にでかいゴミでも詰まっていて妙な聞き取り方をしたのだろうかともう一度聞き返したのだが、返答されるのはまた車の運転についてである。

 “huh?“という顔がこれでもかと強調されている……というか、何か自分自身の根底にある法律を冒涜されたかのような表情がそこにあった。

 

「どうしたの、そんな何かを冒涜されたみたいな顔して〜! 事故るのが心配なのか〜? 可愛い所あるね〜!」

 

 心配でもなんでもなく今までに培ってきた常識への冒涜である。

 どこぞの天パでもそうでもしなければ死ぬという状況に追い込まれて乗り込んだというのに、こんななんか、死ななければ安いみたいな軽いノリで貴方は自動車に乗りたくねぇのである。

 その点で貴方は猛烈に抗議したのだが。

 

「えっ!? いやだって私たちの所だと普通だったよそんなの!? 戦車とか中学生の頃に運転してた時あったし! ……あ、そういえば小さい自治区の所から来てたんだっけか……それじゃああまりそういうのも見ないかぁ……」

 

 貴方はまた貴方自身の耳を疑った。“huh?“という表情をまたしても浮かべながら、わっといずじょうしき、わっといずふつうという言葉を繰り返し脳内で響かせながら振り返る。

 貴方の知る限り、自動車免許というのは18歳以上から取得可能なものであり、持っていない対象は当然警察、キヴォトスであればヴァルキューレが該当する所にしょっぴかれる。その認識は少なくとも貴方は変わらず、またキヴォトスでもその認識で合っている。

 だが貴方の認識と齟齬を起こしていたのは、通っている自治区内であれば自動車の運転も免許無しでできるということである。

 ……まあ、そこは、まあ。

 そもそも貴方が生まれ育った所は自治区の範囲が小さく、また生徒の人口もかなり少ないので未成年運転など1度も見かけたことなどなかった訳で。

 実際日本でも私有地での運転なら道路交通法には反していないので捕まることはない。

 要は自分の無知を晒しただけだったりする。

 結果上手く丸め込まれ、自分の常識が死んでいく音がするとうめき声を出しながら前世も含め初めて握るハンドルを捌き(評価としては「慎重すぎるけど及第点」とのことだった。貴方は少なくとも普通の運転を心がけたつもりである)、修理自体は上手くいった。

 というように、貴方は小さな積み重ねながら、しかし確実に気疲れを起こしていた。

 開発は楽しい。それは否定しない。修理も楽しい。それも否定しない。ウタハ程ではないにしろ、並の同級生よりも才がある。それは否定してはならない。

 だが疲れない訳ではない。貴方は白石ウタハ程ストレスに対する耐性が高い訳でもなく、また今まで開発に携わったことも無い。開発が趣味という訳でもなく、件の計算機付きスコープだとて必要かつ便利だから誠意をこめて開発しただけなのだ。

 メカ弄りをする人がメカの開発を本業にしないのと同じことである。ただし某天パと某スパコは除外されるものとする。

 どこでどうやって休もうかと貴方は考え、折角だから帰省しようと、ふと思いついた。

 まだ1ヶ月と数週間程度しか経っていないが、貴方の旧友はそこそこな塩対応をする癖して寂しがり屋(貴方叙述)なのだ。顔を覗かせておけば旧友も塩対応しながらも喜ぶだろう。

 大事にはならないようウタハと、プラスアルファで懇意にしている先輩には報告しておくが、ちょっとくらい席を外した所でモーマンタイ。

 それに貴方の地元に行くくらい、貴方の無駄に鍛えられている身体でなら一日程度でも戻ってこられる。

 ではそうしようと貴方は早速日帰り帰省のために軽く荷造りをし始めた。

 モバイルバッテリーとリュックサック、それと水筒。忘れないよう傍にはいつものスナイパーライフルを。後は貴方の普段使いであるマウンテンバイク(当たり前だが強奪品ではない。企業の公式通販サイトから正規に購入したものであり、ちゃんとメーカー保証もある)の軽い整備も。

 貴方の地元は砂が酷い。そのために毎回チェーンの砂払いやビニールシートに包むなどの作業をしなくてはならなかったのだ。そういったことをしなくても良いという環境面ではミレニアム程良い所はないだろうと新入生ながら自負している。

 少なくともゲヘナなら貴方ごと爆発四散しているのが目に見えるし、トリニティは……これは凄まじい偏見だが、貴方の相棒とも言えるこのマウンテンバイクを貶されそうだったからだ。具体的にはブリティッシュ的に。

 少なくとも貴方は(一応殴り会える程度の財力もあるとはいえ)ソシャゲ並の札束ビンタをしあっている環境に首は突っ込みたくないし、当然万年抗争状態なゲヘナもできればごめん被りたい訳だ。その結果がブラック企業スレスレなミレニアムだった訳だが。

 貴方は苦笑いを浮かべながらも、しかし着々と準備を進めていた。

 少しだけ帰ろう。

 貴方の地元、アビドスに。

*1
1990年から今も『週間ヤングマガジン』で掲載されている漫画。カーレースがおおよその主軸。

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