貴方は一般的な生徒である。   作:ホシのユメ

20 / 26
二十話 ん、視点を変える

 夏の夜は暗く、少し涼しく、心地いい。日が出ている時間帯とは打って変わっていて、むしろ少し肌寒さを感じてしまいそうにもなる程。

 それに星も綺麗だ。人も灯りも少ないからこそ、他の所だと見えない星もくっきりと見えてくる。

 私はそんな夜空が好きだ。

 少し前にスミカがミレニアムに連れていった時も、浮かんでくる星の数が少なくて物足りなく感じてしまうくらいだった。

 その時はスミカも「味気ない夜だよ。過ごしやすさなり何なりはさておくとして、見上げても特別明るいのと月しかない」なんて言っていたっけな。

 ユメ先輩もよく見上げていた。今でも覚えている。

 今ここにいたら、なんてことを言っていたんだろう──そんなことを思う時だってある。

 それくらい、私にとっては身近で、よく見ていて、色んな思い出がある時間だった。

 

 ……でも、そんな夜もいい事ばかりじゃない。困ったことに悪いことをする人も多い。

 闇取引に不良のたむろ、強盗に空き巣に、地区荒らし。

 ……うへ、と口癖を漏らす。

 困っちゃうよね、そんなの。

 私たちのアビドスを好き勝手に荒らされちゃあかなわない。

 ユメ先輩が想っていた故郷を、スミカの帰る場所を──私とシロコちゃんと、ノノミちゃんの通う学園を。

 だからこうやって夜に一人で見回りをする。3人で見た星を思い出しながら、一人で。

 

 

 

「パイル──バンカァッ!」

「ベブラートッ!?」

 

 ……まあ、今日は一人じゃなくて二人だけれどね。

 私が一人を撃破しながら考えていると、まだ意識のあった片割れがスミカのレールガン(今もあの規模はレールキャノンの間違いじゃないかな、と思う)の金属の杭……棒? を腹部に叩きつけられ、更に追撃を受けたことで沈んだのが見えた。

 今やミレニアムの制服と白衣に袖を通したスミカは……正直、とても似合う。イラっとするくらいに似合う。

 髪色の銀髪だったり肌の乳白、ヘイローの青みを帯びた白、目の緑がアクセントカラーになっているものだから、どこまでも白色が似合うようにできていた(スミカは「ユニコーンカラーイェイ!」なんて言っていた)。

 でも時々、アビドスの制服を着ていたらな、なんて思う時がある。スカートは絶対に履かないだろうからズボンに変えるだろうけれど、それでもきっと良い制服の着こなしをするはずだから。

 ……今からでもアビドスに転校してこないかな。できれば穏当な理由でこっちに戻ってきてほしい。

 ──なんてことを考えているうち、スミカがほうと息を吐いたのが聞こえた。気を抜いた時の息遣いだった。

 無線イヤホンを耳から取って音楽を切ったあたりを見計らって話しかける。

 

「これでもう一団体を落とせたね。……こんなことに付き合わせちゃってごめんね?」

「すまないって思ってて何よりだよ……で、もう一発やっとく? 具体的には後頭部の位置に、最大出力で」

「やめといたら〜? 多分死ぬよ?」

「死んどけばいいんだよこんな粗大生ゴミなんて。とりわけ特撮ヒーロー真似ただけの恥一行なんて地獄道に落ちればよろしい」

「うへ、随分と言うねぇ」

 

 変わらず特定の不良たちには過激すぎる発言で、ある意味変わっていなくて安心した。

 前も仮面ファイターを見かけた時は「穢れだ穢れだ浄化すべき異端がいたぞその穢れを除き去らせてやる」と、早口を回しながら撲殺の体勢に入りかけるくらいだ。心底嫌いなんてものじゃない。

 最近はストレスが強いのか、聞き返しが多くなったり食べる量が少なくなっていたり、調子が悪く見えていたりしていたけれど、末期ほどじゃない……と、思う。

 どちらにせよ近いうちに休ませておかないとまずそうだけど。

 でもそれはそれでこれはこれ。スミカを殺人犯にさせる訳にはいかない。

 

「だってさ……面倒でしょ、後始末」

「……確かにそれもそう。今からコレらを自然に還すのは自分の首を斬るより簡単だけれど──」

「その例え方は嫌いって何回も言ったつもりなんだけどなぁ?」

「でもわかりやす──わかったわかったなるべく言わないようにするので脇腹から指2本を離してもらえるとアダダダダ!?」

 

 なるべくじゃダメだし、また私の嫌いな例えを使ったスミカはお仕置きだ。脇腹の辺りを指でつまみ、そのままつねる。ちょっと、それなり、まあまあ……結構強めに。

 

「絶対言わない?」

「わかったわかった言いません! 言いませんから! 手を離して!」

「よし」

「ああよかった離された……ッタイなぁ本当……」

 

 「暴力反対だ脳筋ピンク髪」とのたまうスミカに「うるっさいな銀髪ロマンバカ」と返して、そこで一旦会話は終わる。

 なにかしらの会話が思いつかないというより、どれを切り出そうかなといった感情だ。

 シロコちゃんにドローンを送ってくれたお礼から言おうかな。それとも調達品をどこで入手しているかでも聞こうか。

 ……でも、その前に言っておかないといけないことがある。

 

『最近ちょっと……ご友人がゲームすらやってないのよ。毎日数十分でもやってたあのご友人が1週間も手をつけてないのは流石に異様だから、ちょっとご友人のご友人さんに休めって勧告してほしいなって。ほな自分は引き続き傭兵家業やってますので……スロースロークイッククイックスロー……』

 

 スミカのゲーム友達の話で、内容は「休まなさすぎだからどうにかしてほしい」みたいなことだったと思う。

 後半のよくわからない戯言はさておき、言ってることは本当だと信じたい。

 

「ねぇスミカ。最近聞いたよ。仕事ばっかりで、まるで休んでないってさ。今は夏休みだよ?」

「ホシノ君どこからそんなこと聞いたの。まあさておき、ちゃんと休みも入ってるよ。少なくとも私生活に影響は──」

「嘘はダメ」

 

 やっぱりだ、と確信した。

 ほのかに漂ったごまかしの雰囲気。

 ちゃんと休んでいるならその隈は濃くならないし、疲れたような顔なんて不意に浮かばない。

 推測するに、「休みも」と「入ってる」の間にカッコがある。内容は「仕事が」だ。

 そんな稚拙なごまかしがバレて、舌打ちと頭を掻く音、その合間に聞こえる「どこから漏れたんだか……」なんて声。

 

「いるでしょ友達とか。そこからちょっと、ね?」

「誰だ……?」

「インターネットのなんか社交ダンスのステップ刻んでる人だけど」

「あぁ理解したわあの死にゲー狂いか今度相手したらエル・パサではめ殺してやる」

 

 かわい──いや……いつもやってることじゃないか? うん、いつもやってることだな。

 憐れみかけた所で、割といつものことに気づいた。

 

 ともかく。

 そんな嘘つきのスミカには、罰が必要だ。

 通知が来たらしいスマホの画面を見て「……あぁ、また仕事か……」と漏らした言葉を聞いて考えを改めた。

 より強度の高い罰を用意しないといけない。それも一日たっぷりと。

 

「ねぇスミカ。今日もまた休まないってつもりなら私にも考えがあるよ」

「ん、どうしたよホシ──グワーッ!? 離せーッ! 今日も通知が来てるんだーッ!」

「じゃあ明日は休みって連絡しといて」

「仕事には信頼が必要なんだよ!」

「ずっと休まないで働く事でしか得られない信頼なんて苦しいだけでしょ!」

 

 つまり、「今日の添い寝と明日のお出かけの刑」だ。

 暴れるスミカをかつぎ上げながら私の寝ている場所へと帰っていった。

 しばらくはアルバイトと賞金首狩りでたくさん働いたんだ。一日くらいどこかに行って楽しむ時間があったって悪くない。

 

 

 

 

 

「……何日ぶりに着たんだっけな、こんなの」

「嘘でしょ? とうとう着替えすら面倒くさがるようになったの?」

「違うわ! 仕事仕事で着替えるより優先順位が高いものが増えたんだよ!」

「それもそれでどうかと思うな?」

 

 砂煙と硝煙が染み付いた白色の服装から一転、灰色のスウェットを身にまとったスミカはとんでもないことを言い出した。

 スミカがよく着ていた服を出したら、似たような服装を何日もしていなかったなんて聞かされた私はどう思えばいいのだろう。

 不潔だ、とか。着替える暇もないくらい忙しかった、とか。それともとうとう着替える手間すら面倒くさがり始めたのか、とかになるのかな。

 まあさっきお風呂に入れた──ウェットタオルで済ませようとしたから私自身を人質にして入れさせたから不潔はありえない。ありえるとして、残った2つだ。

 

「ベッドで寝るのも久しぶりかもしれない……腰を破壊される恐怖に怯えなくてもいいのか……休日にメールとか電話をかけてくるゲボクソクズ顧客様へと込み上げてくる殺意を我慢しなくてもいいし納期のデーモンに真綿で絞殺される実感だって感じなくたって許される……っあぁ〜……ホシノ君……ちょっとねぇ、涙腺が緩くなってきた」

「本当によく身体壊さなかったね? 私怖くなってきたよその超過密スケジュールに」

「休んだらまたあのクソ野郎どもと向き合わないといけないのかぁ……大丈夫かな、また白髪増えないかな……おかしいな、無性に悲しくなってきた……」

 

 疲労と涙からか目頭を抑え始めたスミカの姿が見える。いよいよ心の方もダメかもしれない。

 前々から一度受けたことは確実に期日に間に合わせようとする、いつもは怠惰なくせに変な所で真面目なのは知っていた。

 でも、ここまで酷い性分だとは思わなかった。ありとあらゆる依頼、度によっては大人の醜いワガママのようなものさえも引き受けているだなんて。

 このままだとスミカの死因が過労による心臓発作になりそうだし、なにより今でも酷い精神状態が更に悪化する。

 ……そういえば人手が足りないことを愚痴っていたっけな。それにかこつけて仕事の量の度合いも管理しておくべきかな。

 

「そういえばスミカって、今やってる事の人手が足りないって嘆いてたでしょ。アレの秘書役として立候補するから」

「秘書役って、その立場だと仕事に圧殺される側だぞホシノ君。アナタにゃ廃校対策委員会副会長なりアビドスの夜間警らなりと色々やることがあるでしょうに」

「そうだよ? だから仕事を管理する。されないとこの先にあるのは過労死だよ?」

「でも顧客様からの信頼が……」

「もう一度言うけど、受けられる頻度が減っただけで無くなる信頼なら最初から切り捨てた方がマシ! そんな奴らなんて軒並み子どもを利用することしか考えてないんだから! ちゃんと向き合ってくれる人としかやらないよう、私が調整するから!」

 

 その言葉にスミカは何かを言いかけたが、口を濁らせて「……そうだな。うん、わかった」と煮え切らない態度で、しぶしぶといった具合に承諾した。

 強情なのも大概にしてほしいけど……それは私もか。

 表面上は違っても中身がまるで似たもの同士で、だから今の親友じみた関係があるのだし。

 まあ、いいか。今はそんなことを考えなくても。そう考え、ベッドまで押し倒す。

 

「それじゃあ添い寝しよっか! そりゃあ〜!」

「ちょっ、まだ眠気なんてない……力強いのどうにかしろよピンク!」

「ちゃんと休もうともしないからこうなるんだ、諦めて寝るんだよ!」

 

 押さえ込み、しばらくジタバタしていたのが力が抜けていき、ようやく諦めたのか横になる。

 ……まだ抵抗はしたいのか上体は起こした。

 

「おーしわかったそれならこっちにも考えがある、ホシノ君が寝るまで読み聞かせしてやるよHAHAHA」

「私同じ年齢なんだけどなぁ!」

「題材は『嵐が丘』な」

「それ内容がとんでもなく重いのじゃん!? 幼稚園児が泣くよ!?」

「なあに、幼児の味方な桃太郎も仮面畜生の元ネタも、辿れば内容がかなり重たいんだ。これくらいなんてことないさ」

 

 そうやってスミカは笑う。なんにも問題のなさそうなように。

 ──こんな関係性のまま、ずっと続いてほしいな。

 そんなことを空想していた。




実は二十話目に入ったんですね。
とても嬉しい(小並感)ので、感想評価お気に入りとここ好きをしてもらえるともっと嬉しくなって爆発します。
オラにもっと高評価をくれ〜!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。