貴方は一般的な生徒である。 作:ホシのユメ
ホシノと遊んだ日から数日が経った。
「いい加減に家で休みたいし積みプラを消化したい」という貴方の意向に合わせて部屋で過ごすことになったので、久々のプラモ制作をしたりゲームをしたり、ついでに貴方の某機動戦士のOS並に無茶苦茶なスケジュールについて説教されたりと色んなことをやった。
銀髪に紛れた白髪と「今から社員だから!」と半ば強引にスマホに登録してある受領中の契約内容を見つけられた時の表情と言ったら。それはそれはかのユメ先輩のごとき表情であった。
ただし貴方とホシノが殴り合いの決闘をした時の表情であるものとする。
つまりすごく怖かった。
貴方も通知表の中身がバレた時の「一般家庭の」子供の顔をしていた。普段の生活では到底考えられないような青ざめようであった、と後日のホシノは語っている。
あんまりにも叱られ、詰められ、そして長時間の正座で足を痺れさせた貴方は二度と5つの納期が重なったデスマーチはやらないと決心した。ついでに半月点滴食生活と1徹と寝袋の交互に寝る睡眠生活も。
ちなみに、その時の説教とはおおまかこんな内容である。
「しよっか……正座。大丈夫大丈夫、ちょっと説教するだけだから、怖がらなくてもいいよ……じゃあ今までやってたこと全部吐け、仕事内容から納期に間に合わせるまで切り詰めたこと全部」
「ここってさ、現代キヴォトスの、しかもミレニアムって知ってる?
「4つの納期と6つの契約日が同じとか文化人として恥ずかしくないの?」
「栄養補給の手段として点滴打ってるの健康な人間として恥じてほしいんだけど。というかやりたくないだろうことのために職場で寝るのはもう社会生物として恥じて?」
「これ、なーんだ? ……そうだね白髪だね。しかもこの髪の長さと根元の銀色を見るにスミカのだね。どうしてこんな真っ白けーの毛ーなことになったんだろうね? 笑ってんじゃないよぶっ飛ばすぞ」
「そっか! スミカはなまじ全速力を8時間も出し続けられるような脳筋ロボオタ特撮バカだからこんな常人なら死んでるトンチキチンチキチンなスケジュールもできちゃうんだね! かわいそ……」
なんかもうホシノが怒りすぎて所々名誉毀損なんじゃないかという発言まで飛び出していたが、貴方を過労死寸前まで追い詰めていたのは他ならぬ貴方自身(他責するなら依頼人、それもクソの方だが)であるのだから、何一つとして反論できなかった。
して結局、「今度同じことやらかしたら解釈違い罪で仕事没収するからね」という言葉を最後に、約1時間半にもわたる説教から解放されたのだった。
……最近語彙がかのクズ四天王に近づいてきている気がするが、気のせいだろうか。気のせいでなければあやつらに灸という名のハメコンを据える必要があるので是非とも真偽を吐いてもらいたい所だ。
いつもやってると言われたらそれはそうだが。
閑話休題。
さて、これ以降、貴方は少しずつではあるが断ることを覚えた。
優良な顧客様は変わらず積極的に引き受け、しかしクソのように不利すぎる条件をクソのように低い価格でやらせようとするクソ顧客様には中指を突き立てながら電話を切る。
それを随時使い分けることで(当然依頼の選抜に伴い金の入りも減ったが)、名付けるなれば『ミレニアムギムカンゾンビ』だった貴方のメンタル状況は遥かに良好な状況となっていた。
事実、一時期は人の倫理観をかなぐり捨てた武器たち(代表例:人間追跡丸ノコ、失った手足より可動域の自由な武器腕、全生物一斉レンチン砲)の設計図を本気で製図し、本気で実現してやろうかと目論んでいたあたり、かなりキていたのがうかがえる。
ちなみに設計図自体は最近制作した自爆機能付きの金庫に収納している。カスの大人がやらかすか、さもなければ面白半分で作られて稼働させられるか。そのどっちかが容易に想定できる。どっちにしても貴方なら「人の数多持つ予言の日だ!」などと抜かして笑っていられるが、ホシノを思うとまだ堪えるべきだろうと判断していた。
もちろん以前よりは低評価の数も増えている。業務形態を変えたら保守派から反発をされるなど、どこの世界にもよくあることだし、自分の思った通りに動かないと癇癪を起こす人は割といる。ソースはアビドスとクソ顧客。
そんなときもはいはい人の業人の業、はいはい人カス人カスと、ある一種の諦観をもって貴方は放置していた。
そうやって過労死ラインをどうにか踏み越えないように調整し、あるいは調整されながら仕事に勤しんでいたその最中のこと。
1つ、通知が鳴った。連絡を見てみればいつしかに出会っていたヒフミから。
貴方はある悪寒と似た感覚を覚えつつ、できれば当たってほしくないとも願いつつ──まだそうじゃないだろうと思いながら、貴方はモモトークの内容を覗くようにして見た。
『カメラが赤く光ってて、暴れてる機械を見つけたんです!』
……そして、そういう時に限ってばっかり当たってしまうというのが、貴方の予感であった。
顔に落胆の色はない。人なんてそんなものだと確信して疑わなかったからだ。だからこの乾いた笑いに落涙はない。当然、大きすぎる期待が砕け散る音もない。
……ただ、強いて言えば、後悔だろう。
どうして人を信じようと思ったのだろう?
どうして温く考えてしまったのだろう?
どうして信じ込もうとしたのだろう?
……きっと、こんな善良すぎる所に染まりすぎたからなんだろうな。
どうせ誰も答えちゃくれないから、と。貴方は貴方自身で結論を導き出してから早急に鎮圧をするために銃器を手にし、向かうことにした。
こういった、バカのやらかした後の尻拭いというのはいつも責任者がするもので、その責任者が貴方であるという以上はそうしなければいけないからだ。
ついで言えば、この事業を畳む必要もあるだろう。一つは責任を取るためでもあり、またもう一つはやらかしてくれた畜生未満を、契約書通りに真摯に扱ったであろう人物たちの蔑みの目に晒させるためにも。
──一瞬、ガラスでも割れたような音が響いた気がしたが、きっと気のせいだ。
現場へ赴けば、現状は思っているよりは軽微な損傷ではあったものの、やはり目の前は変わらなかった。
アレはどう疑っても貴方の制作したシステムによるものであった。万に一つ違えばただの早とちりなのだろうとほんの、やはりかすかに期待をしてしまう貴方もいた。
左手に装着したデバイス──シェルターに問う。
アレの型式番号を完全一致と部分一致の双方で検索してくれ。
【シェルター】は答える。
完全一致、《RX-02》シリーズより検索──該当なし。
部分一致、《RX-02》シリーズより検索──《RX-02-J》から違法に移植もしくは開発された物品と推定。
……現実は変わらず、しかも、よりによってJか。貴方は大きくため息をついた。
それそのものに深い意味合いはない。高品質に設計されたので上位の立ち位置としておかれた程度の名である。
しかし、貴方にとってのJと言えば、
貴方が大好きな、かの特撮ヒーローと被って、よぎる。
さながら尊厳を破壊されているような思いだった。いっそ手荒に扱われて壊されていた方がまだマシだったろうに!
思わず乾いた笑いを発した。聞いただけなら何も思わなかった。ただ、いざ直面するとなれば、やはり後悔以外に思うことというのはいくつもあった。
「どうせ、人は愚かな過ちをするだろう」というを油断とするなら、そうかもしれない。
「どうせ、人は争うためにお互いを殴り合う」という諦めは、一種の思考放棄とも捉えられよう。
「けれども、まだ人は反省出来る生物だろう」という希望的観測をバカの浅慮と言ってしまえば、その通りであった。
「それでも、まだ人は自分を律して生きていける」という祈りは、愚者の詭弁でしか無かった。
ああ、これほどまでに一体面白いものがどこにあるだろう? 簡単にできるようなことすらマトモにできないのが人間だなんて!
ひとしきりに奥底から湧き上がってくる嗤いを堪え、怒りを抑え、落涙を耐えて、やはりなと思った。
いくつもあった道を選んで行き、辿った先にはやはり願ったものなど存在しなかった。
心の奥底で、ほんの少しばかりは期待をしていたのだろう。今までに出会っていた連中がどいつもこいつもクズばっかりのどうしようもない奴らで、つまりはただ巡り合わせが悪かっただけであると。
それなら今までの人生がよほどどうしようもなくて、今の自分も大概どうしようもない、偏見まみれな考えに染まったのだと理解して、それで人を見捨てなくても良かったと安堵するだけだった。
しかし、これだ。現実は暴れ回る機械が、貴方の制作したOSの他ならぬ『仕様』によって明らかにされていた。
やはり人間は、極小数以外の何もかもが地に落ちた間抜けで、愚かで、心の薄汚い自己中心どもでしかないのだと。
信じられるのは極一部──どこまで絞り込んでもまだ足りない、人が人を救うには永久に足りない極少数に過ぎないと。
薄汚れた、ではすまないこの世界に何を期待したところで何があるのだろう?
貴方はただ自問自答しながら、一発の弾丸を入れた。弾丸は徹底的に壊せるよう、榴弾と徹甲弾の仕様を同時に備えている特殊な弾丸だ。
同時に、【シェルター】に指示する──アレを止めろ。数秒でも良い。
【シェルター】は答える──承知。
その刹那に、乗っ取られたかのように動きを止め、しかし確かに刹那だった。
貴方の技術の端くれ、そして劣化ではあるが、それでも最先端なのだ。適応には成功していた。
──それを貴方が逃がしてやるかは別問題であり。
それが動こうとした時には、既に脳にあたる部位を打ち壊されていた。
無駄に鍛えられた射撃技能が発揮され、無意味に向上した反射神経とフレーム単位の間に判断できるようになった努力の賜物。
けれども、やはり、違う。
やりたかったのはこんな事などでは無くて、ただ……。
……わからない。今となってはわからなくなった。
……そうだ、そうだ。まずはヒフミによく分からない、なんといったっけか……そう、ペロロ様とやらを作ってやらないと……。
ああ、でも、もうしばらくは何もやりたくない。
貴方はぼんやりと、思考に墨が塗られたような思いで、その違法製造品を持って帰りたいという気力も無くして、その場に座り込んだ。