貴方は一般的な生徒である。 作:ホシのユメ
GSメカニカルワークスの閉業お知らせの文面、確認ヨシ。全依頼の完遂と、ついでにペロロ様なるニワトリ人形の配送確認ヨシ。ファッキンカスタマー宛てのメールにコンピューターウィルス(明星ヒマリ謹製)の仕込みもヨシ。退部届けを出した覚えもヨシ。
貴方は一つ一つに指さしと口頭を含めて確認をとりながら事を進めていく。
ストレスの過負荷で五周はまわってダメな方の笑顔をさらけ出している貴方が今は何をしているのかというと、貴方が今まで「人民共に施してやっていた」(原文ママ)稼業の終業である。
あの一件で貴方はもう辞めると決意したのである。前々から言っていた話だが、貴方はもし悪用が見られたら辞めると決めていた。
世間どころか貴方も頭があったまりすぎてよくやらかす、格ゲーや某猿山ロボゲーで「負けたら帰る」といっておきながら顔面エグ……ではなく、顔面を真っ赤にして連コするあの現象ではない。
心の奥底から、確実に実行すると決めていたのである。貴方が心に住まわせている神──もとい、純白の人型兵器に誓うくらいにはねじ曲げまいとしていた。
基本的に三枚舌を口内に備え、多様な解釈を見出す脳と目を持つ(みっともない足掻き癖があるとも言う)貴方が「それ」に誓う、というのは滅多に無いことであり、同時にこれを裏切った事象は一つとして無い。
裏切るなんて真似をしたが最後、自分で自分を生涯苦しませ続ける努力で今後を生きていく事にするという心持ちがあるためであった。
さて、そうこうしているうちに貴方もほとんどの確認を終え、残るはメールの送信のみであった。
短いようで実際にそう長くない、ワンマンワークのクソみたいな労働環境であったと貴方は思い返して辟易としながら、カチリ、愛用のマウスでクリックする。
送信確認……ヨシ。
貴方は最後に指差し確認をしてから「送信」をクリックし、送信完了を視認したところで脚から骨をとっぱらったかのようにソファへと倒れこんだ。
さて、これで晴れて貴方は職なしである。
最初の最初からあまりにも酷い物言いであるし、それに、より正確な言い方をするなら失職者と呼ぶ方が近いのだが、しかし職なしなのは事実である。
今後は何かに就労するつもりも無いし、何かの職業訓練を受けるつもりもない──かのミレニアムに惰性でも通う事は一応訓練かも知れないが──ので、正真正銘未来の無い、将来有望ならぬ将来絶望のニートが完成していた。
……これでも市場がほんのり揺らぐレベルの無駄遣いさえしなければ、推定4生涯分は悠々自適のニート生活が出来るくらいには、預金が溜まっていたりもするのが貴方でもあったりする。
実際、貴方が働き詰めだった状態の頃など、ゲームの課金や購入はもちろん、プラモデルやフルスクラッチ用の素材、自転車の改造、寝具のアップデート、果てはお菓子の一つに至るまで、無駄遣いと呼べるようなものができていなかった
あんまりに虚しい貯金の由来だが、しかしそれで構わない。だって働きたくないから。
ありとあらゆる就労意識に対して足と手、プラスで全プラモたち(基本は
話題に戻るが、貴方は激しい苦痛も要らず、その代わり深い歓喜も必要ない。苦難で人は伸びるとは言うが、これ以上の苦痛はもう要らない。ただ怠惰で、ただ苔の生えそうな生き方で、ただ自分を不必要に傷つけもしない、無為に時間を浪費するだけの人生でしばらくはいい。慌ただしさなど今は切り捨てたい。
というより、自分の気ままに生きていたいのである。無論、他人に迷惑をかけない範囲で、という制約は付くが。
思えば自分、割とこんなクソッタレ人類に献身が過ぎたんじゃないのか? そう訝しむくらいに貴方は自分自身にストレスの過負荷をかけ続けていたのだ。
実際、今の貴方には、白髪がもはや無視していられないくらいに生えていたし、目元の隈も染み付いている。時折肌色の蒼白や脂汗を心配されてもいたし、めまいも吐き気も同居人だった。これ以上の負荷は間違いなく過労死ライン一歩手前であるのを誤魔化していた状態である。
それを自覚していたのもあって、辞める事にした。実際入社(笑)していたホシノも、これを危惧していたのだから仕方がない。
……ちなみにFPSなり格闘ゲームなり、そもの対戦ゲームをプレイしている人たちに対してはかなり、なんてものではないくらいに迷惑を掛けているが、そこは貴方曰く「対戦ゲーやってる奴は人じゃないのでOK」らしい。酷い理屈だ。
という訳で貴方はその人じゃない奴らに沢山の迷惑を掛けにいくなどというゲスな目的で、ゲスな笑顔を浮かべながらホコリを被りつつあったゲーム機の電源を付けた。
後から掃除をせねばなるまいし、期間が空いたのもあって実力も大きく落ちている事は間違いない。とはいえ掃除は面倒で、次いで言えばリハビリも面倒。ひとまずは感覚を取り戻すがてら、普通に遊んでみることを決意し、胡座をかいてコントローラーを緩く握った直後。
「──スミカ……スミカ! これは一体なんだ!」
ガゴン──と、扉がまさしくぶち割れそうな勢いで開かれた。開かれた先に立っていたのはホシノが過労を指摘したときと似たような顔をしているウタハであり、同時にその手に持っていたのは貴方が脳死ヤケクソブッチッパで出した退部届けであった。
貴方はうわぁ、といいたげな……というか言いながらすこぶる嫌そうな顔を浮かべた。
衝動の果ての行動だし、退部届けを直接出した訳でもない以上、何かしら面倒事に繋がるのは知っていた。しかし少なくとも今でなかった方がせめて良かったのに。
どうしてこうも上手くいかないんだか。貴方は深くため息をつきながら、コントローラーを元の位置に置いた。
「……とりあえずは良かったよ、何か強く追い詰められたとかでも無くって。いや、本当はそれも十分に追い詰められた事柄ではあるけれど……」
心底心配していたらしい表情のウタハを見て、鼻で笑うようなろくでもない人間がいる。
貴方のことである。
悪い意味で無敵の精神一歩手前になりかけ、他人に迷惑をかけるドブの性根な人間がいる。
これも貴方である。
動画にしたら赤文字が画面いっぱいに広がっていたっておかしくないくらいアレなオリガバチャーをかまし、それなのになんの反省の欠片もなく缶入りの冷えたメロンソーダを呷るクソッタレな人間がいる。
まさしく貴方である。
マジでびびるほどだ。おいおい、神様はどうしてこんなクソをこの世に配置したのだろう? ──短編小説の一部を一部改変しながら、貴方はぬぼっとした面でウタハと相対していた。
およそ対個人とは思えないくらいにはかなりの時間をかけてなだめ落とし、落ち着いたところで、まあ座れよ、疲れているんだろう? と元凶の言う言葉では無いのをほざいていた貴方は、ようやく説明を終えたところである。
「……なんとか考え直さないか? なにも辞める必要は無いとは思うんだ。元はと言えば悪いのはスミカじゃなくて悪用した側であって、それを間違いって言うのはおかしい問題じゃないか」
とは言え、やる気がないのはやる気がない、と貴方は中身の飲みきった缶ジュースを左手でクシャンと潰しながら鈍くボヤく。
実際、もうありとあらゆるやる気が失せているのだ。何を作ったところで悪用されるのがわかっていて、何をした所で悪し様に捉えられるのも知っているなら、いっそ誰かに何を言われたって、何もやっていない方が気が楽でいられるのだから。
……いや、もちろんアクト──漏斗の英語読みが元ネタの武器──くらいは進級のためにも開発を進めるし、第三学年の最終発表、中間発表の品も作る予定ではある。それすらやらないとなると、留年が現実的になる。それは基本品行方正でありたい貴方としても困ってくる事柄になるので、なるべく避けておきたいのだ。
それに色々満足していない。なんだかんだ言って、貴方も元は男である。いくら人間はクソだクソだと言っていたって、「それでも!」と光に進み続けるロボットものは好きだし、暗さを乗り越えるヒーロー特撮ものも大好物だ。画面越しの理想でしかなかったものを実現できるなら、そりゃあ実現したいに決まっている。
しかしそれ以外は絶対に何もやらない。テコでも動きたくない。余程貴方が「人類はクソ! ソースは僕とお前!」と悪い意味で吹っ切れて無敵の人にならない限りは何にも手をつけたくないのである。
「それに君がいなくなったら……いなくなったら、誰がブレーキを踏むって言うんだ!」
自分で踏め。貴方は幾度も堪えてきたストレスをにじませつつ言った。
そもそも貴方はブレーキ役になった覚えなどないと何千何万と訴えている。人の乗り込める人型ロボットを正気で作ろうとするだの、対戦車用の大砲を人力かつ一人で携行・射撃出来るようにするだの、挙句は生身より自由な義肢(公表はしていない)など、何をどう見たって狂人だろう。
そもそも厭世寄りな発明家など、普通に考えなくともマッドサイエンティスト枠だ。そんな奴がブレーキ役を務めて一体どうする。貴方はそろそろ最高の肉体言語こと素手の暴力で対話をせねばならないかと思案した。
自認がロボット基点の概念(いつも通り、トリコロールカラーのあのロボットが関わる)には申し訳ないが、対話ではどうにもならない相手がいるのだ。戦争好きの傭兵と同じように。
特にキヴォトスという、引き金を引く指が切手の1枚より軽いここでは、なおのこと。
「自分で踏め、だなんて……そんな残酷な! マトモな性分のスミカがいるからこうやって好きかっ……よし今のは忘れてくれ私も少しは改める努力をするつも、わかったする! しよう! 絶対にするからその振り上げた拳をゆっくり下ろそうか!?」
貴方は言われた通り、気付けばきつく握り締めた拳を下ろした。多分止められていなかったら殴っていたかもしれない。顔を。
「……ヨシ」
ヨシ、じゃない。何もヨシじゃないがこれ以上構っていても収拾が付かない気がしてきたので貴方はもう気にしないことにした。これでも貴方は引くことを覚えているカスである。ゲームでもできるかどうかは別として。
まあ、こういう話はともかくとして、貴方は現状において辞めたいという感情が……あるにはあるが、話し合って「思ったより早とちりだったかもしれない」という考えが貴方の中に芽生えていたりしている。
仕事は間違いなく、絶対に、精神状態がまる崩れしない限りは辞めるつもりだが、部活までは流石にスパッと辞めるのはどうだか……そんな考えが過ぎってくるあたり、流石は思いつきガバチャーの権化といったところか。
貴方がスミカとして生まれた今までも、生まれる前の今までも割とその傾向があるため、間違いなく貴方の悪癖である。
……ちなみに、貴方の衝動による決断については今でも反省も後悔もしていない。あそこで間違いなく精神を一度壊したし、アレで過去の自分の血筋にあった名誉を最大限まで汚せたならざまぁないね! とも思っていたりする。
それくらい、お祖母様という人以外が嫌いであるのだ。とりわけあの血筋については。
「──そうか、そうか! 考え直してくれるのか! 良かったよ!」
閑話休題。
貴方は退部について考え直しているという旨を伝えたところ、ウタハは喜んだ様子で貴方の両手を取った。苦笑いをしている貴方とは異なり、素晴らしく感情的に、しかし正の方向で爆発させている。
とはいえ、復帰をする訳でもない。シンプルにストレスチェックができていないのはその通りであるし、休みたいのも間違っていない。ブレーキだって、時には休めて、あるいは取り替えるべきであろう。
なので貴方の取った決断としては……
「……休部、ね。いいや、もちろんダメじゃない。受け入れるとも」
すなわち、休部である。
それなら貴方は所属している身ではありつつ、そう多く頼られる事もなくなる。更にいえば、設備自体はいつでも使えるのだし、これならそれなりにいい落とし所ではなかろうかと案じたわけである。
「それなら私から出しておくよ。時には休むことも重要だし……スミカの休んだところを見たことがないってのは、よく聞いていたからね。……とまあ、私からはこんなところかな」
「それじゃあ唐突の訪問ですまなかったけど、また!」と言って、ウタハは疾風のように帰っていった。
むしろ今回にいたっては、すまないと謝罪すべきは貴方の立場であるのは間違いないが……ひとまずはこれでヨシと……するべきか、すまいか?
分からなくなってきたので、貴方は一度思考を中断してゲームの続きをすることにした。根底の貴方は、だいたいこういう生物である。