貴方は一般的な生徒である。   作:ホシのユメ

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二十四話 どの道人とは関わり合う

 貴方が倒産と同時に休部を宣告してから、はや数週間が経った。

 倒産がどうこうは誰にも言っていないのでともかく、休部については良く言えば誰も読めなかった一手、悪く言えば某所某カテ某学会のアナグラム並にガバガバで、あんまりにもふざけた理由すぎて腹切りレベルの匙投げをカマした貴方だが、意外な事に尋問の一つもされていない。

 これについては貴方も困惑。割と何かしらは間違いなく言われると思っていたのもあって、肩透かしの感覚であったのだ。

 とはいえ、平和なら平和で問題ない。それならゲームも気分のままに遊んでいられるし、読書やプラモ作成も、思いのままに、落ち着いていて、しかもせっつかれもしない環境でやっていられる。なんなら、長旅だって不可能じゃない。これらの、精神をいかに和らげることか。

 故に、貴方は過去も含めて、おそらく人生で一番人生を謳歌していた。

 

 ……ただまあ、強いていえば友人と名乗る不審者(今に至ってもなお継続中の認識だ)が割と貴方の部屋に入り浸るようになったという点は褒められたものではないと考えている。

 彼女らは一体、還来地スミカをなんだと思っているのか。別に寂しがり屋でも、ましてや人好きをする性格でもないというのに。

 確かに過去は色々精神的に追い詰められていたし、外見でも「ナーバスっぽそう」が大体は付くくらいには表れていたそうだし、最後に至っては恨み辛みを残したビデオを録画しながら極端な選択をした訳ではある。

 極端な選択をした訳ではあるが、貴方は少なくともそんな過去は一片たりとも漏らした覚えも無ければ、外見にその気弱らしさは出ていないように見えている。……強いて言えば、時折過去の家族を思い出して鬱々しさが醸し出されるくらいだろうか? おそらくそのあたりか。

 現実的に考えるならどこまでも無茶苦茶な根拠だが、とりあえずそうでも考えておかないと、どうにも貴方の感情の据わりが悪いのである。

 

 そんな過去回想はともかく、ただ寛ぎたいなら充てられてる部屋か、せめて自分のではない別の部屋にすればいいのに──というのが貴方の思うところではあるが、別に被害が出ているということもなし、またそんなこと一つで眉をひそめるにしたってしかたない。

 そもそも、言うなら「そんな事ごとき」である。たかだか部屋を使われるごときで怒っていたら、度々意味のわからない発明をしては迷惑を振りまくエンジニア部の後始末担当だなんて外野から言われないのである。

 いつもの尻拭きが板に着いたと侮辱がましい悪口を言われて、それでようやく「なんだァ? てめェ……」*1と決闘を申し込むくらいであるべきであろう。

 それにまだ存在そのものが不快だなんて域には達していないので容認している次第でもある。それならそれで、よくある事だと飲み込めばお終いなので、貴方としては気が楽だったりする。

 ちなみに『存在そのものが不快』の域に達しているのは、『黒服』、仮面ファイター、そして祖母以外の過去親族(両親も含む)である。

 

 さて、話は逸れたが、つまるにこういう事である。

 机の上に散らかったピザの空箱。所々に見える菓子の袋、見開きのまま床上に置かれた雑誌や青図、そして若干の硬直をしながら冷や汗らしきを流している三馬鹿のうち2人こと、白石ウタハ(ロマンバカ)音瀬コタマ(盗聴バカ)、早々に掃除を始めていたらしい美甘ネル(闘争バカ)

 ──ちなみに、ちまたでよくある言い方は、貴方、つまり還来地スミカ(ロボットバカ)を含めた《ミレニアム四馬鹿》である。

 三馬鹿というのは、貴方の認識にすぎない。

 

 さて、これが貴方が三連休明けの旅行から帰ってきて初見の光景である。

 一体何度、自分は……僕は同じことを言えばいいのだか。貴方は目を片手で覆い、ため息を吐いた。

 貴方としては、別に自分の部屋にあるものを食べられようが、あるいは、自分のゲームハードで遊ばれようが、割とどうでもいい。

 存在が不快なクソ親族のそれと比べれば可愛いものだし、後から補填もしてくれるし、第一、故意でものを壊さない。

 万が一過失で壊してしまったにしても、すこぶる申し訳無さそうな顔をして全力で埋め合わせを考えてくれるのだから、人のものを壊しておいてヘラヘラしているカスのクソッタレ共とは、良い意味で存在の格が違う。

 

 だが容認するのは後腐れをなくした場合であって、跡を濁したのなら事情が変わってくる。

 貴方は行動力こそやたら高いが、根幹は凄まじい面倒臭がりだ。できることなら掃除なんてしたくないし、スキンケアとかやりたくない。手入れをするなんてのはかったるくて、本当ならゲームだとかプラモ作成だとか、そういう好きなことだけをしていたい類の人種である。

 綺麗な部屋の方が生活しやすいからそうするだけだし、外見の維持は優位に事を運びやすくするからスキンケアをする。

 ゲーム機の手入れだって、そうした方がラグ死*2だのエラー落ち*3だのとしょうもない負け方をしないためにしているだけだ。

 ただ単にそれだけであるので、他人の出したゴミをわざわざ拾って捨ててやる……というのは好き好んでやりたいとは思わない。つまらない名誉のためにはやったとしても、ゴミの製造者が明瞭なら「仕方ないなぁ」と動く義理さえない。

 

 なので貴方は息を深く吸い、また吐く。それを二度三度かを繰り返し、そして言った。

 掃除をせんか、馬鹿2人。

 

 

 

 

 

 面倒臭がりなのは事実であるが、それはそれとして、綺麗にできるのなら隅々までやっておきたい心理もまた事実。

 面倒と言ったって、貴方も汚い所より綺麗な所が好みである。

 ポージングもせず、地べたにポン起きされている全塗装プラモより、ピッカピカに磨かれた金属製アクリルガラスの向こう側、宇宙か地表を模したケースの中、ディスプレイベースに格好良くポージングされた状態で飾られたパチ組*4プラモの方が、貴方はより美しいと考えている。

 そして塗装とディスプレイベース、その両方が揃っているならより素晴らしいとも。

 無論、一応は自分の部屋であるなら、煩雑よりは整理されている方が気分が良い。

 それに、最近は調月リオなり《ミレニアムにおける随一の超天才病弱属性美少女ハッカーにして全生徒の憧れである『全知』の学位に到達した清渓川と同等なほど清らかな心を持つ》(自称)ヒマリなりが度々来ているのもあって──ヒマリは来ないでほしい、さらに言えば通過地点に塩を撒きたいとも貴方は思っている──、近頃は掃除をするペースも早まっている。

 この辺りに、しっかりと片付けなり部屋の手入れなりをしておいても損はないだろう。

 そういう理由もあってか、貴方は偶然三日ほど休みの取れていたらしいチヒロを召喚して、計5人──一応は貴方も含めて──の体制で掃除に取り掛かっていた。

 

 ……決してピザ食いウタハをつるし上げる訳でもなく、ゴミ箱に菓子袋をこんもりとさせたコタマを叱りつけさせる意図はない。

 ……いや、ほんの少しはあるかもしれないが、少しくらいは健康を意識してもらう必要性はあるだろう。

 ピザは脂肪分が多く、ビタミンを多くは含まない──女性の敵たる肌荒れの原因だ。

 菓子は砂糖が多く、それも元は依存物質だ──麻薬、違法でない上で身近なものなら、カフェインやニコチンと相似している。

 健康オタクというものでもないが、長くオタクをしているために気を使う必要のある貴方は、割と栄養素には気にしいなのである。その点もあって、ウタハやコタマの食生活は、他人事ではあっても考える。

 人間はクソ! という考えは変わらないが、関わりのある人を気にかけてやるくらいは一応できるのだ。

 

「だから何度も言ってるでしょう、すぐピザにしないで少しは栄養配分ってのを考えなきゃ……!」

「しかしねぇチヒロ、ピザというのにはジャガイモなりバジルなり、おまけにトマトなんて万能食材も入っているのだから……」

「……スミカ、やる?」

 

 チヒロが言う場合、「やる?」とはkillのほうでは無く、アイアンクローである。

 承った、よしやろう。貴方はさながら頭部を粉砕するつもりで、利き手を開いて構えを取った。

 

「わかりました……セットのサラダも食べます……」

「セットのサラダだけじゃ……今はそれでいいけど!」

 

 ダメだろう。

 貴方は思わず言いかけたが……まあ、ピザバカよりは一旦はマシかと、チヒロと同じ結論を下すことにした。

 貴方も割と甘ちゃんであった。

 

 と、貴方も貴方でそろそろ掃除に手をかけようと、プラモデルの陳列されている棚の周辺に向かい合い、ふと疑問を覚えた。

 まったくの被害が出ていない。

 いやまあ、それはいいことである。もし出ていたら即刻で犯人を追求し、軽く顔面ニギニギ(握力全開ver)してからアビドスファイト国際条約第一条*5によって失格にしていたであろう。

 しかし、キヴォトス、とくに軽い気持ちで引き金を引く指しか持たない連中であるのに、アクリルガラスにも、なんならプラモの1パーツすらも欠けていない。

 条件違反をされてから以来、人を欠片ぽっちとて信頼も信用もしなくなっていた貴方にとってはそれが驚愕であり、ウタハに問いかけた。

 

「いやあ、アレは間違いなく力作なのは、深く見なくたって伝わってくる──とくに丁重に手入れされてるだろう3機と……一 1人? は特にね。手をつけたら失礼な気がしてならないから、なるべく万一が起きないようにしておいたんだ」

 

 もし万一でもしたら痛い目を見そうだし、と冗談めかして、その割には目線を逸らしながらウタハは言う。

 言葉の裏、ウタハは「もし追求したらユニコーンとかニューとかダブルとかドライブとかの話になるんだろうな」と、シリーズ知らずにとってはどれも同じに思える話題を、作品こそ異なれど、数十以上は開発の合間で聞かされていたウタハはそこそこ辟易していた。

 

 それに対し、ふうん、と貴方は相槌する。

 ──実際に、ウタハが言葉にした懸念は正しい。痛い目は間違いなく見るだろうし、それ以上に、貴方という人格にも直結していると過言でない存在が、そのプラモデルである。

 とくに、ウタハの挙げたその4つは、貴方の『全て』と言える。

 それほどまでに、貴方におけるプラモデル──なけなしの資金をはたいて機材をそろえ、プラ板を買えるかぎり多量に買い、何十度も繰り返し見ては目に焼き付けた立ち姿を可能な限り思い出し続けて、必死の思いでプラスチックを切り出して完成させた、可能な限り『原点』に近づけた3機と1人は、貴方に言わせてみれば「凡俗一匹の命」より重い。

 無論、それ以外の主人公機や特撮ヒーローにも重みはある。そうもなければ軍資金の乏しい中学生期にフルスクラッチをしたり、その上で今でも改修を重ねるなどしない。

 そもそも、全ての作品をくまなく視聴し、読書し、知覚して、批評はすれど批判をする事はなく、うんうんそれもまた別の在り方だねと結局は肯定してきた貴方が、特別何かを排斥してきたことなど一度もなかった。

 貴方が神聖視しているそれらが、特別に──特別? それですら陳腐な表現にされるような……執念とも、あるいは妄念か、こびり付いた固執、そうでなければ、自身を確立するアイデンティティそのものか。

 文字通り命と替えても良いほどに、そう重く見続けているということである。

 

 どうやら季節違いの寒気に当てられたらしいウタハが震え上がったのを横目に、貴方はまた向き直り、手入れを始めながら考える。

 

 それにしたって、自分も随分と甘くなったらしい。

 以前なら誰であろうが部屋には入れなかっただろう。……唯一例外として、現在ならホシノくらいしか。

 そうだというのに、今は追放するのも面倒、だなんて建前で人を部屋に招き入れるのを、消極的でも許している。

 どうしたものか?

 そこまで行き着き、まさか優しくしたいと思った訳でもあるまいと頭を振る。

 自分が単に今まで以上に怠惰になっただけだ。そも、現実的に考えて、今まで入れていたのを急にダメだと言いだしたら、そりゃあもう反発される。その反発を、どうして自分一人で抑えられるものか?

 そんなの、面倒で、手間で、非合理的で、非現実的。

 怠惰、怠惰! そう、自分は怠惰な生き物だ! 面倒だからしない!

 現実的に、合理的に! そう、自分は現実主義者で、合理主義者だ! そうすると余計な手間だから選ばない!

 何も、そんな深く考えなくたっていいじゃないか!

 ……最悪、本気で嫌になったなら、キャンピングカーでも買うなり、アビドスに本拠地を移すなりでもすれば良い。それでいい。

 最終的に、無理に他人を押し退けたって仕方ないのだし。

 何も求めなければ、何も信じなければ、何も思わなければ……《無》になれば、それで、楽だ。

 楽な道が一番だ。

 

「……大丈夫ですか?」

 

 当然。

 貴方は首を縦に振ることで、コタマの言葉に答えた。

*1
なお元ネタはこの後舐めプされた上で負けた。いわゆる負けフラグのセリフだったりする。

*2
ゲーマーの言い訳その1。

*3
ゲーマーの言い訳その2。

*4
塗装や合わせ目消し、改造をせず、そのままプラモデルを組むこと。別の言い方をすると「素組み」。

*5
そんなものはない。

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