貴方は一般的な生徒である。   作:ホシのユメ

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二十五話 デュエルスタンバイ案件

 ニート生活(真性ニートかは疑わしい)を始めて以来、貴方はそれなりに元気である。

 サラダと適量の肉を食べ、ある程度は真面目に授業を受けては早々に帰り、ゲームをし、時にプラモを組んではブンドドし、また時には音楽だけを聞いて過ごし、課題を終わらせてから夜の散歩をして、寝る。

 ……変なところで真面目さを発揮しておいて「怠惰です」とはどういう冗談かと考えさせられるが……まあ、そこは問題でもなかろう。

 色合いのモノトーンな服を着て、趣味をこなすばかりの一日。それは貴方が本来、理想としていた怠惰生活であったゆえに、少しばかり気が安らいでいた。

 

 スっと手馴れた早さでメールの確認をして、そういえば別に仕事しなくていいんだったと、社畜精神の過ぎる自分自身に一瞬目を逸らしたくなっているらしいが、元気である。

 時々嫌なことを思い出しては、膝を抱えるかフローリングに寝転び、普段とは異質極まる真顔の貼り付いた虚無虚無プリンになり、気がつけば日の色が赤らんでいたり日が月になっていたりするが、今のところは問題ない。

 悪夢を見ては度々跳ね起き、無性に人智を超えた何かへと縋りたくなる気持ちが沸き起こっている時が微力に増えた気がするが……とりあえず肉体的には健康である。

 

 ……ちなみにこんな状態でも、まだ根底だけは友人の誰一人として──ホシノに関しては貴方が避けているから知りようもないとも言えるが──、兆候すらも認知させていないあたり、演技力については他の追随を許さないものであるようだ。

 こういう部分でも貴方は天才的であるともいえるが、実際のところ何一つとて良くない。

 自分でも知らず知らずのうちに精神状態が某赤塗りで有名なマザコンか終盤の人の業仮面、もしくは秘密結社の若いリーダーの同類になっているかもしれない。

 だというのに貴方は「やってみせろよ、お前!」「なんとでもなるはずだ!」「だと!?」とばかりに押し通ろうとするばかりか、見えないものとして扱い、振舞っているのだから始末に負えない。

 

 ……念の為ではあるが、貴方のサイン(オートグラフともいう)の筆跡は綺麗な状態で維持されている。「なにこれ?」となるほどでもないし、一目見て以上状態だなとわかる程の異常さも無い。

 貴方の趣味を感じるデザイン性があるというだけの、至って小綺麗なものである。

 

 

 

『ア゙゚ァ゙゚ッ゙゚!゙゚』

『えっ何?』

『いや、ちょっと……』

『時々エイリアン産むの辞めてもらってよろし、ママーッ! ママァッオム゙ツッ!

『高二……いや、人間の姿か? これが……』

『なぁ今人間じゃない扱いしたんか? したんか、なぁ?』

『キチボゲヘカス、汚常様トリカス、存在がミレカスとか控えめに言って焼却処分が妥当だが──ンアァ死んだ! 助けて全能!』

 

 さて貴方が微妙に安心しているんだか人間の正気を疑っているんだかわからない顔をしていたところで、現在は件のカス四天王、全能ことユズクイーンも添えてのゲーム中である。

 近頃において若干放置していた、カス四天王との付き合いで遊んでいるのだ(放置していても良い関係なのが幸いしたといえる)。

 

 このゲームにおいては、基本は相対的にマトモよりのトリニティ側が度を飛び越したとち狂いで、ゲヘナ側は相対的にマトモ、喜び(悦びかもしれない)の感性がアレなだけで現実で立派に警察ができるヴァルキューレは、基本キチの世界からは除け者フレンズである。

 こんなインターネットの片隅にいる時点で「そういう」素養があるとは言ってはいけない。

 ユズクイーンは当然のように全知全能、そういう貴方はカスムーブ──かと思いきや、このゲーム限定では超丁寧系。堅実の度を越した、良くいえば基礎を重視した、悪く言えば面白みをドブに捨てた正真正銘の氷河期ムーブ野郎である。

 まあ貴方の過去持ちキャラだったのが揃いも揃って丁寧系だったことを鑑みれば、元はこれが性に合っているのに間違いない。動かしてリソースを消費させ、無くなった所を攻撃する。

 合間合間でさも当たり前のようにクズムーブ──無限滞空編だのミサゲロピョン格だの核雪だるまだのゲロビ反射マンだの──をしてもいるが、普段と比べれば明らかに少なく、程度もやや低い。

 ゲーム内のどいつもこいつもイカれた動きができるから、というのも理由としてはあるだろうが。

 まあ貴方としてはこんな女子がそれっぽく動いているだけ、というよりも本場の、人型ロボットが動く方を楽しみたいというのが本音であったりする。

 アレはいい物だ。例え周りからプレイヤー人口が動物園だの猿山だの滅びゆく者の集まりだの、運営がアレだのエアプだのやる気がないだのと罵られたとしても、アレはいい物だ。

 ……自分で罵っている気もしなくもないが、おそらく、気のせいだ。

 

『PO☆』

 

 と、貴方が観戦していた試合であるが、トリニティの絶命したような──リアルで死んではいない、尊厳は死んでいるかもしれない──声から察する通り、ユズクイーンとヴァルキューレ側の勝利であった。

 数的不利を一人で捌ききり、合間で攻撃を入れ、それを貫徹したユズクイーンの実質一人勝ちのようなものだが、勝ちは勝ちだ。

 

『はーい何もできませーん全然できませーんユズクイーン相手に勝てるわけないじゃんアゼルバイジャン』

『隣がさぁ! 誤射と自爆ばっかでさぁ!』

『対応出来ないのが悪いんだルルォン!? そんな事もできないのかよ、はーつっかえやめたらこのゲーム』

『1番気持ちいいムーブん時にさぁ! 巻き込み誤射自爆かますんのにどうせぇ言うんじゃい!』

 

 とまあ醜い言い争いをしている──どちらかと言えば片方が理不尽を投げつけ、もう片方がごちゃごちゃ言っているのであるが、どちらもそもそもカスである。

 

 トリニティの輩は周りを省みず自爆もするし、何も考えず近接チンパンにもなるし、思いつきで縛りプレイもする、本当にわかりやすい「自分が楽しければ全てヨシ!」の典型例である。

 ゲームをするにおいて「やりたいことをする」は大切な心がけだが、それは周りを、特に味方を不愉快にしてもいい免罪符には勿論ならない。

 これで()()()()()()()一文なので腹が立つ。

 何が腹立つかといえば、この集まりか、そうでなければ大人数系のような、自己責任で取り返しが着くところでしかしない所であり、理性そのものはちゃんと生きているということである。

 だからカス四天王の一人なのだが。

 

 ゲヘナの輩は相手を滅殺できる大火力に脳を焼かれすぎて、近接でコンボを叩き出すか広範囲の火力を撒き散らすしかしない類のチンパンである。

 何がひどいかというと、後退のボタンがぶっ壊れていること、視野角が針穴程度しかないこと、信じられないほどのクソエイムで誤射をやらかす頻度が多すぎることである。

 後退のボタンの問題、視野角の狭さはまだ自分たちが全力でバックアップすればよろしいが、問題はどこぞのクソエイム神すら凌駕するクソエイム。

 クソエイムの自覚はあるのに『でも目の前の火力には抗えないから……』で聞く耳を持ちたがらないし、それで被害を被るのは大抵自分たちだけなのである。

 その癖してエクスカリバーだのゲイボルグだのなんかよくわからないネーミングと設定でカッコつけたがるのだからタチが悪い。

 納得のカス四天王の一員である。

 

 とまあ残り一名と特例一名を除いてカス四天王のクズ性が曝されたところで、テキストチャット欄に、

 

『あの』

『やってみてほしいゲームがあるんです』

 

 と書かれたのだ。

 聞けばそれは自作ゲームで、付き合いの長くなった貴方たち4人に批評してもらいたい、との事だった。

 無論、二つ返事で了承し、他も余計な語録が付属しつつも承諾していた。

 そんなワケでノンコード内に貼られたゲームファイル──『テイルズ・サガ・クロニクル』のアルファ版、タイトルを日本語に直すと『物語・物語・物語』──を早速遊んでみることにした。

 

 とりあえず遊べるようにした、というだけでストーリーは無い状態だそうなので、ある意味ではアクション面のみでゲームを鑑査できるのかと一種のワクワクを覚えながら。

 スタートの象徴たるAを押す。

 ゲームオーバー。

 

 ──意味がわからなかった。

 

 貴方は早々にバグを疑った。流石にゲームをスタートするでさえろくにできないゲームなど、クソゲーというか、クソそのものに違いない、しかしあのユズクイーンに限って、という理由からであった。

 

『??????????????????』

『夜飯の流儀貼るのやめろ、わからなくもないが』

 

 一人は理解を諦めた。試行錯誤すること一つにも思考が回らず、原因究明に走ろうとして、たどり着いたのは己の脳筋であった。

 

『コントローラーが壊れたとかある? ……ありそうだなぁ、だって昨日投げたもん』

『コントローラーのクソ説はある。ある、が……これもうわっかんねぇや、いけっ有志、どうにかしろっ』

 

 一人は投げ出したし逃げた。うっすらと感じる嫌な予感から目を逸らすことで「ユズクイーン、クソゲーメーカー説」という考えもしなかった運命から逃げようとしていた。

 

『あっできた』

『なにっ』

『な……なんだあっ』

 

 その一声を機に、全員が黙りこくった。

 今、この場における唯一絶対の正義にして、愚かにも「クリアするまで寝れない」縛りを課した四天王が自由を得る手段を持つ、全クズの生殺与奪の権利を握る天帝はこのクソゲーハンターただ一人であった。

 

『──これ多分右画面端に雲が出てから5フレ以内に昇龍コマンド打ってXボタンだわ』

 

 ──なんて?

 貴方は理解ができなかった。

 

『オッケ耳腐ってんな、右画面端の雲でたら5フレで中パン昇龍。……画像貼るな、お前は何を言っているんだと言われてもそうなんだから』

 

 本当に意味がわからなかった。

 より厳密には意味をわかりたくなかった。

 ユズクイーンから長時間受け続けた拷問(ちょうきょう)のせいかはたまたお陰でか、とうとう全ての攻撃動作、それも初動の1フレームを見てから最速フレームで二回転コマンドを打てるようになった貴方には、それもできなくはない技ではある。

 しかし「それができるか」と「それをやりたいと思うか」は別であり、たかだかスタート如きで超絶技巧を求めてくるとは思わなかったからである。

 もっと言えば、ユズクイーンはカス四天王の幻の5人目になり得る可能性が浮上してきたからである。

 

 カスの殿堂、ミレニアム通い(あなた)

 キングチンパン、ゲヘナ通い。

 動物園(揶揄)の帝王、トリニティ通い。

 厨パ、ヴァルキューレ通い。

 そして無自覚パワハラのUZQueen。

 ……失礼がすぎるか? 貴方はこの並びを脳から抹消することにした。

 

 閑話休題。

 気合いを入れて、こんなク……ではなく、ゲームに取り組まねばならない。

 貴方は久方ぶりにエナジードリンクを冷蔵庫から取り出し、徹夜の構えを取った。

 

 

 

 

 

 結果として、貴方たちはクリアすること「自体」は、三日三晩の時を掛けて達成することはできていた。それも全員。ク……ではなく、【超理不尽系高難度死に覚えゲー、度々の難解なコマンド入力を添えて】にしては、あまりに重畳と言えよう。

 しかし、その対価として、クズ四天王は屍山血河の様相を呈していた。

 

 手始めに、還来地スミカは廃人と化した。具体的には、オンドゥル語しか話せなくなった。

 トリニティは反動で「スロー、スロー、クイッククイックスロー」としかほざかなくなった。脳に重度の負荷がかかりすぎて、全てのシナプスが死滅したのだろう。

 ゲヘナは退化していた。より具体的には、ありとあらゆる行動がチンパンジー同然と化していた。

 最後の砦であったヴァルキューレは「至って」いた。

 極度のクソゲープレイヤーであった彼女は、純度の高い理不尽さか、虚無さか、面白みの無さを摂取した時は大抵こうなっていた。

 

 ちなみにこの至り癖のせいで、一応は友人である後の公安局局長からは「このよくわからないゲームを作る会社は摘発すべきじゃないか?」と思われている。

 

 さて、久々に『修羅の国』産以外の高純度なクソゲニウムを摂取したせいか、肌がやけにツヤッツヤな一人を除けば、悲惨の過ぎる有様であった。

 憐れみの心を喪っているクズ四天王とは違ってちゃんと人間をしているUZQueen、改め花岡ユズにとって、まさかこんなにもなろうとは、想像できたものでなかったのである。

 それゆえにか、頭には困惑があった。皆楽しんでくれるものだと思っていたもので、「自分はこれで歯応えを感じる」という感性の下に制作していたというのに?

 ただ分からなかったユズに、ようやく「至り」から帰ったヴァルキューレ通いは口を開く。

 

『ふ……う。じゃ、全能さんや……難易度、下げよう!』

『ダメだったんですか?』

『いんや? 個人的にはとても良かった。良かった、けども……目的によっては厳しい判断をせざるを得ない、というのが公平な評価になる』

 

 割と虚無なのにエンカウントしやすいフィールド、即死持ちばかりの雑魚敵、回復手段と火力に乏しいターン制バトル。合間に挟まる高難度コマンド。

 キヴォトスのクソゲーによって研ぎ澄まされたハンターとて、応えるものがあったのには違いない。

 一方で、愛。それは間違いなくあった。

 いわゆるアセットゲー──店売りだけの低コストで作った、金しか考えていない恥とは違う。

 いわゆるバグゲー──プレイヤーをデバッガーかテスターかと思ったような会社の恥とも違う。

 ストロングスタイルな──仕様通りに完成していて、それでも技術不足ゆえに「そう」なってしまった、愛も感じる出来映えを感じ取れていた。

 無論、クソはクソである。だがクソで罵り、それで終えるには、あまりにも惜しい。そんな逸品さを、感じ取れたのだ。

 だから至りもする。

 

『──そうは思わないかな?』

『そうかな……そうかも……』

 

 そんなことを長々と、愛情を込めて説明したクソゲーマニアの後ろにはカンナ。

 

『というワケでこの美しきアルファ版のそれはもらっ──まあ待てよカンナさんよ、何も変なクスリじゃなくてこれは単なるゲームであって……痛ァい! 僕の事をぶっ、二度もぶっ、ねえ最後まで言わせてよやだっ拙僧やだっ説教はまだ早いってばカンナさん──!』

 

 そうして引きずられてゆくクソゲーハンターの画面の向こう側、ユズクイーン──花岡ユズは一つ決意した。

 勉強して、今度こそ誰もが楽しめるゲームを作ろう。

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