貴方は一般的な生徒である。 作:ホシのユメ
ゲームとプラモ作成とその他諸々、具体的には自分の関心があるものに現を抜かしているばかりであったこの頃の貴方としては、珍しくジャージ姿でない、従来のミレニアム生徒らしい様子で何かしらの制作に気力を注いでいた。
無論、仕事や誰かからの頼み事が起点ではない。これもまた貴方の興味の方向であり、また同時にミレニアム生としての義務でもあったからである。
さて、以前にアクトという仮称の兵器を1年を通して制作する、というようなことを言っていたが、それをウタハが「折角ならミレニアムプライスに出したらどうだい?」と言い、それを受けた貴方が折角ならという理由で出すことにした。
しかし、ただそのままにするのは面白くない。ぶっちゃけ、同じことをするならドローンでいい。というか、それ以上に他の人を呼んで数で叩けばいい。ロマンチストから現実主義者に戻って言うなら、そうなる。
ならばそれのデモンストレーションとして、単なる無線駆動砲台ではなく、いっそ人型をとらせて脳波で動かし、同時に自分自身も動きながら説明をすることで大きなインパクトになるのではないかと考えたからである。
この開発品についてをエンジニアらしい言葉を用いるなれば、「理論上は可能」。現実主義者らしい言葉でなら、「現実的でない」。
理論上は可能だと言う点として、一つに「脳波コントロール機自体は完成している」という所だ。
射出して、巻き取れて、考えた通りに動く。浮遊の段階まではできておらず、精度も自身の拙い操縦技量を加味したとて大いに荒いが、それでも大前提が完成しているといないとでは大違いだ。
もう一つに、「人形作りはこれで二度目」という点。
およそ1年前あたり、貴方の作品の主人公機を模した機体を制作したワケであるが、その経験は機体を解体した際に一緒に失われたハズもない。
流用するというのも考えたが、それでは面白くないし、第一大きく手を入れる必要がある。そんな手間より、また制作する方が早いと見て、貴方はこうして動いている。
一方で現実的でないという評価をする理由は、まず「脳に絶大な負荷が掛かる」のが一点。「死ぬほど時間が掛かる」のがもう一点だ。
前者は単純明快に、大きくなればなるほど、そして緻密になればなるほど、求められる通信強度が大きくなり、それに比例して負荷も高くなる。これは砲台型のアクトで実験済みである。
前もって制作するつもりの頭部に装着するタイプのアンテナ(そこまで大柄でない)である程度緩和できる予測ではあるが、それでもたかだか大きめの弾が出る背丈並の砲台ごときで鼻血を伴う絶大な頭痛を起こすのだから、それよりも複雑な人型など、それこそ1年は寝込むかもしれない負荷が掛かるだろう。
後者はもっと単純で、機構が複雑な分、当たり前だが時間もかかる。件のアクトの試作機とて、製作の完了には様々な技術的困難によって2ヶ月を要した。それを人型にするというのだから、時間の必要度合いなど、より一層と酷くもなろう。
また徹夜をするのは嫌だ。それが貴方の本音であった。
……まあどれもこれも貴方のとっさの思いつきが足を引っ張っているので、つまりほとんど自業自得である。
ハッキリ言ってしまえば、そうする意味も必要もない。ただ単に貴方が「でもそれはつまらないじゃん」という、自己中心的で下らないにも程がある内容でロマンに走ったという、いつもの良くないロマン厨である。
己のオリチャー癖を反省すべきだと、どこぞのピンク髪やカス四天王も言っている。
そんなことなど振り返りもせず……厳密には振り返ったら負けな気がするというみみっちいプライドで、ついでに正気を吹き飛ばして制作に取り組んでいた。なぜ正気を吹き飛ばすのかについては、1度マトモに考えたら「こんなことやらなくてもよくない?」と自分で自分にマジレスしかねないからだ。
なんともまあ、難儀な人格である。
とはいえ正気飛ばしも長くは続かないのも事実であり、それに疲れて集中力が保てなくなってきた。ふう、と貴方はため息を大きく吐き、肩を揉んで首を回しながら顔を上げた。
それにしたって、ここは人が依然多いな。貴方は辺りを見回して、そう思った。およそミレニアムプライスを視野に入れるべき時期だからというのも相まってか、最後に訪れた時期の倍はあるかもしれない。
悪いワケでは無いんだけども、と貴方は独りごち、制作台の隅に体重を預けた。
個人感情のみとしては微塵も好ましくない──『騒々しい』と捉える側だ。しかし過去の感性(つまり、日本人的感性)を持ち出すなら『賑やかだ』と答える。
還来地スミカ、および彼女の内部にある人格が人嫌いであることと社会がどうあるかは別問題。かつ当たり前だが社会の維持の方が重要であり、そこに個人感情を持ち出さない程度の大人らしい分別はできている。
嫌なことには疲れもするので、近頃は表情を好意的に、内心を過去の末期1歩手前がごとく無にして取り合うのが常ではあるが、嫌悪感をそのまま露呈させるよりマシだろう。
大体、今の自分は外見こそ学生だが、中身はおっさん、それもロボット厄介オタと特撮厄介オタ、付け合せに平成臭い偏屈さを拗らせた、素晴らしくみみっちい野郎なワケで。ゲームでもなければ、現実の、しかも学校という青春の場で、中身が大人の癖して大人気なさを発揮するのは論外じゃないか。どこぞのちびっ子名探偵でもやらかさない所業だろうに。
こういう理由も兼ねていた。
「ごめん、待たせてしまったようだね。少しばかり周りの手伝いをしていたらこんな時間に」
閑話休題。
そうして頭と気を休めていた貴方のもとへと駆け足気味によってきたのは、エンジニア部部長を務めてそろそろ一年が近くなっていた白石ウタハであった。形式的に貴方は遅刻への注意をし、念入りに小言を多くした。
「わかっているとも、遅れない努力はしようじゃないか。……いっそ部長枠の交代でもしてみるかい? 所感だけど、多分私より向いていると思うんだけどな」
嫌である。面倒じゃないか。貴方は全力で拒否した。予算確保も規律の設定も面倒だと知っていて、わざわざやりたいと思うほど殊勝でない。
「そこまで拒否しなくたっていいじゃないか! 予算確保と部長会議をするだけなのに……血も涙もない!」
面倒じゃないか。貴方は拒否した。
前述もしたが、貴方は徹夜をしたくない。当然ながら部室篭もりもしたくない。どちらも平穏とは程遠いためであるからだ。
心の奥底から求めるのは【健康的で文化的な精神的余裕のある生活】──それを目指しているのに、悪くいえば、たかが開発品1つでそれを崩されては話にならないじゃないか、とかつてネルを相手に熱弁したほどだ。
とはいえ今回は内容が内容なので、それを回避するためウタハに「一人でやるには規模が大きいので、協力してくれ」という口実で、合同開発を持ちかけたのである(なお本音は「クソ面倒だから力が欲しい」だ)。
ウタハも「どうして私を誘ってくれなかったんだ!」とすこぶる楽しそうな様子で、二つ言葉で快諾していた。
なので、多少なり楽ができる。楽していられるかいられないかだけでも、貴方の追い詰められ具合は大きく変わる。例えていうなら、何が当たっても一落ちする体力の時に、「落ちたら負け」か「落ちても勝てる」か、という具合だ。
「よし、話を戻そうか。それじゃあ早速始めていこう! 安心してもらおう、なるべく設計通りにやっていこうか!」
お前から始めた物語だろうが。貴方は思ったが封印することにした。
……うっすら、なるべくという言葉が聞こえた気がするが、それも咎めたって仕方ない。ウタハとはそういう人であると割り切って作業にとりかかることにした。
自分の好きなことだから、と理由づけたとしても、疲れることやつまらないことというのは往々にして存在する。
例えば自分を鍛錬するもの。ゲームでいえば、エイム練習や立ち回り、およびキャラ対策の座学などがそれに上げられるだろうか。時間は取るし、自分の感覚で動かせば良いというものでもない。身体に馴染むまで続け、馴染んでも錆びないように手入れし続ける必要がある。
自分の実力に直結するとはいえ、疲れるし、ゲームの本質たる「楽しむ」ことはできない、心身に中々堪えるものだ。
例えば一手のミスがやり直しに繋がる作業。プラモデル制作でいえば、プラ板からパーツを切り出す作業や塗装剤の調合などが考えられる。すこぶる気を使って対応しなければならないし、手元が狂えば工程の最初から。後から間違えたのに気づいた時の、自分自身への怒りはそりゃあもう言葉にしようがないものだろう。
それに比例して完成した後の達成感も高まるとはいえ、高い緊張感に晒されるのをずっと許容できるか、できないかなら、変なところで完璧主義なきらいのあったりする貴方にはあまりできない側だ。
つまりどういうことかというと、長期性と重大性の性質を併せ持つミレニアムプライスに向けての成果物制作は、貴方にとってはとてもとても面倒だということだ。
まあもちろんやらなきゃいけないからやる──それはそうだろう。目の前の現実をすっぽかして夢に浸るのは、貴方の現実主義的な感性を通すと重篤な花粉症レベルの拒否反応を示すのだ。
それはそれとして、じゃあ面倒くさくないか、他のミレニアム生、例えばウタハやノアやそれ以外のように全霊を賭けて取りかかれるかといったら、「んなバカなこというでねぇ!」と罵詈雑言をのたまいたくなるのである。
だって、面倒くさい。それ以外に何があるのか。楽をするために苦労する理屈は納得できるけれど、それはそれとしてそもそも苦労をしたくない。
しかし目の前の問題を投げ捨てれば十中八九立場は悪くなるし、卒業の道まで遠のくのだ。自分の尻拭いもロクにできないとは思われたくない。
気分はさながら卒論制作だ。それも、かなり丁寧に作らないと担当教授にちゃんと詰められるタイプの。
だからなんだ努力しろ、と貴方の感想に批難しながら、少しばかりの休み時間で地べたに座って目を休めていた。
休まないか、30分……いや10分でもいいから、と提案したのは貴方からである。それが悪いやら良いというのはともかくとして、時間としては割と妥当な頃合だ──太陽が真上の時から西に完璧に沈むまでを費やしていたのだから当然だ。ほぼ半日食事もしないでぶっ続けでした作業なのである。
むしろ、これで「確かに、私も少し疲れてきたから休もうか」と言うウタハの方がおかしい。「少し」とはなんだ、少しとは。貴方は改めてウタハの無尽蔵な体力を意識した。
ピザが頼まれたので水分と食はどうにかなるにしても、いかんせん一度気力のガス欠を起こしたので、気持ちの復帰には時間が掛かりそうだ。
折角ならと、貴方は一つのことを尋ねてみることにした。
「『ロマン好きを維持できる理由』だといっても……理由なんてないだろう? スミカがよく言う人型ロボットとか特撮作品とかになったら熱弁したり、それの再現に力を入れるのと同じさ」
「不思議なモノでもないだろう?」とウタハはさらに付け加える。
「それを言ったら、今の私にとってはスミカの方が少し心配なまでだ。最近じゃあ目に力が無いとも言うべきか、目に光が無いと言うべきか……ロマンはこうだ、それではない、と規定されるものでも無いし、第一そんな輩、私が叱り飛ばしてやろうじゃないか」
「食べていないから暗く考えるんじゃないかな、ピザを食べてからにしよう!」──ウタハのそういう物言いに、貴方は頷いておくことにした。
こういうロマンを追い求める一点には頼もしさもあるウタハだが、だからこそ時々、貴方は嫉妬をするし、自分自身とも比較する。
今回については、「そう言える環境に生まれたかったな」という嫉妬と、「なるべく早く忘れる努力はしよう」という諦観だった。