貴方は一般的な生徒である。   作:ホシのユメ

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書きだめ尽きたから不定期更新になるかも(小声)

5/10追記
日刊18位に入りました! 本当に本当にありがとうございます!
コメントと評価とお気に入りとここ好きを見ていっつもニヨニヨしながら励みになっています!

〘前回の誤字修正者〙
【トロル】さん、誤字修正サンクス!


五話 よるさんぽ

『──てな具合でさ。またユメ先輩が詐欺に巻き込まれてたんだよね』

 

 夜間、気分でホシノと電話していたら、貴方の知らないうちにユメがまたしても詐欺に引っかかりかけていた(正確には引っかかったが有耶無耶になった)らしく、またしてもそれを小鳥遊ホシノが理不尽の暴力で潰してきたらしい。それも貴方が行ってきたその明日に起きていたのだとか。

 しれっと語りやがって。ぶっ飛ばすぞピンキーユメキチドチビ女。こうも事後報告ばかりなホシノにそろそろ嫌がる呼び名である「暁のホルス」呼びでもしてやろうかと思惑を飛ばしながら、貴方は電話の口でホシノを罵る。

 

『誰がピンキーユメキチドチビ女だ! そう言ってくるならこっちも言っておくけど、その第一人称有り得ないくらいに似合ってないからね! 高校生デビューのつもり!?』

 

 おっと心は硝子だぞ。かなりストレート気味な暴言に気持ち半分傷つきながら(もう半分は「そんな子に育てた覚えはありません!」とジョークの種にした)貴方は不満を垂れ流す。

 どうせなら呼び出せば良かっただろうに。ホシノに呼ばれたのならいつどの場所どの瞬間であってもやっていた事など即座に放り投げて駆けつけられるのだから、折角なら頼ってほしいものだ。これでも友人の自覚はあるつもりなのだが。

 

『そうは言うけどアビドスとミレニアムは距離が遠いじゃんか。どうやって駆けつけるつもりなのさ。それに私一人でもどうにかなると思ったし。あんな奴ら、拳銃1丁でも十分だった』

 

 それはそうだがと言うに詰まる。

 実際ミレニアムとアビドスとではかなりの距離離れている。貴方の筋肉で押し通ることができるとはいえ、それでも自転車込みで相当な時間がかかる訳だ。

 加えて言えば、ホシノの実力は控えめに言ってぶっ壊れである。戦車はまだ理解できる(一応貴方も弾薬を多めに用意すれば不可能な訳ではないから)として、ヘリを12ゲージのショットガンで潰すなど信じられようか。大規模拠点を一人で制圧するなど信じられようか。本当にホシノ一人で十分かもしれない。

 天パ搭乗の白い悪魔が重なって見えた瞬間などあのくらいである。ホシノの髪色はピンクだが。

 とはいえそれでも呼び出せば良かろうに。普段から人使い、特に自分使いが荒いのだから、そんな感覚で出来ただろうと。

 ついででいえば試作レールガンの試し打ちもできたというのに。あと設置型クラスター爆弾とか特攻型UAVとかも試せていただろうな──そういった貴方特有のマッドサイエンティストじみた思索は何もなかったことにしつつ話す。

 

『そうしてたら私が言わない限り瀕死までやってたでしょ。知ってるよ。知ってるってか確実にやるよ、やらかすよ。ユメ先輩を賭けたっていいね』

 

 前者はともかく(あんまりにも実証例がありすぎるので笑って誤魔化すしかなかった)、なんとむごい最後の1文だ。

 おおブッダよ、またしても梔子ユメは売られるらしい。それも唯一の後輩にだと。なんと悲劇(シェイクスピア)的で可哀想な事態であろうことか。神はユメにどれだけ試練を与え続ければ気が済むのか。

 キヴォトス目ガクセイ科のアビドス属ユメ種はレッドリストに「絶滅の深刻な危機に瀕している種」と国際的かつ正式的に指定され、また保護すべきだと記されているのだから早急にその存在を保護しておく必要がある。具体的にはミレニアムに転入させる方針で。

 ミレニアムはなにせ(多少の知力は必要になるとはいえ)戸口が広い。肝心の知力が足りるかどうかは、まあ……誰かがなんとかするにしろ、1度入ってしまえば勝ちも同然の戦い。

 耐久(と人体の特定部位)以外は全ステータスが平均上下あたりか下の中程度なナマモノだが、それでも入れておいて損はしないはずだ。

 代わりにこちらからはエンジニア部の先輩を一人送るのでそれで堪忍してほしい。

 

『命はオモチャじゃないんだよ! もしそうするなら絶交するからね!』

 

 おお怖い怖い。貴方としてはそうなる前に手を打つが、そうは言ったって冗談であるはずだ。素直に嘘泣きで反応する。

 

『うっわ似合ってない嘘泣き……フッ、フッフフフ……!』

 

 そして一通り貴方のカラカラ笑いとホシノの笑いが収まってから。

 

『……なんでこんな話をしているんだろう』

 

 別に気づかなくてもいい真理に気づいてしまったらしい。

 多分深夜テンションという奴なのかもしれない。貴方はゲーム中だと大体こんなものだが、ホシノはあからさまにテンションが高すぎる。

 疲れが溜まると人間は変になる。1度肉体と精神共に疲れすぎて1週間最高にハイになった貴方が保証する。ちなみにその1週間は貴方の今世の黒歴史と化した。

 ホシノは前線特攻女なので、大方ランナーズハイならぬソルジャーズハイにでもなって気がおかしくなっているのだろう。

 あなたつかれてるのよ。

 

『……うん、多分疲れてるんだと思う。今日はもう寝る』

 

 人間の睡眠時間は8時間が適正であること。そして成長ホルモンの最も分泌される時間帯は午後10時から午前2時の間であること。それをついでに付け加え、おやすみなさいと貴方は告げる。

 

『ああうん、おやすみ。……あとアビドスに来た時は覚えてなよ』

 

 と、通話が切られた。

 何も事実を言っただけなのに、最後まで辛辣だとは思わなかった。……気持ちちょっとは揶揄(からか)う意図もあったとはいえ、しばらくはアビドスに行くと結構本気めに脇腹をつねられそうだ。

 悲しいねアナータ。

 

 

 

 さて、通話を切ったとはいえ貴方の時間はまだ続く。

 繰り返し言う通り、貴方はいわゆるショートスリーパー体質である。具体的には僅か3時間半で十分な休養が取れる。

 というかどれだけ努力してもそれ以上に眠れない。仮眠をしようと目を閉じてもただ時間が過ぎるだけで眠気など一時も来ないし、眠気覚まし目的のカフェイン摂取は1度たりとてしたことがない。

 昼寝ができる人間には一種の羨ましさまで感じるほど。

 草食動物は睡眠時間が短くなりやすいというのを聞いたことがあるが、もしかしたら記憶していないだけで自分の前世は草食動物だったのかもしれないと自嘲したことも何度もある。

 その上で証言するなら草食動物は栄養の少ない食事に時間を取られるから少なくなるのであって、食事時間の全てを合わせても平均的な草食動物の食事時間に満たない貴方は一般草食動物を超越したナニカである。

 

 

 

 まあ、さておき。

 人類の平均睡眠時間8時間のうち、どうしても余ってしまう4時間半を貴方は趣味の時間へと有効活用しているのだが、その時々の気分でやることは変わる。

 そのうちの一つが夜の散歩。

 貴方はいわゆる不良でもなければ優良児であると自認している(ホシノが聞けば「絶対そんなことないでしょ」と疑惑の目を向けてくるだろう)が、それでも優良児のつもりだ。

 反論するなら試作レールガンの錆にする──と、以前ゲーセンをみみっちい理由で占領していた不良を、主犯以外に被害を出さないようパイルバンカー形態のこれ一本で掃討した貴方は本気でやる度胸も気概もある(ちなみに付けた理由はカッコイイからである)。

 なおその後に始末をした調月リオにしこたま叱られた。威力が高すぎるので人型の生命体に向けて使わないこと、可能な限り早く量産型のレールガンを製作してそれに移行することを半ば強制的に誓約させられた貴方はすこぶる不満であったらしい。

 ともかく、そんな貴方でも不良の真似事をすることはある。

 時折吹く夜風が心地よいし、なによりほどよく冷えた夜という環境がストレス由来の火照りを冷ますのに快い。アビドスではゲームでの負け続きやプラモのフルスクラッチ中で頭が煮えてきた時によくやっていたことだ。

 制服の白衣からシャツジャケットへと着替え、頭にはソフト帽を。スマートフォンの代わりにポータブルオーディオを。

 流石にカセット式のものは古すぎたのか売りに出ていなかった。風情は薄れるがポータブルオーディオは新しいものを選択している。

 音楽プレーヤーなら配信サービスのあるスマートフォンでいいのではと思うだろう。しかしこれは貴方の自論だが──何も1つに集積し、多機能化されたものが良いという理屈はない。またなにも最新鋭でなければならないという理由もない。最新鋭には最新鋭の良いところがあり、旧式にも旧式の良いところがある。

 貴方が良く唱える通り、今となっては旧式な戦車や先込め式の銃器を風情があると好むし、それはそれとして現行のスナイパーライフルや今持ち出した最新のポータブルオーディオも使い勝手が良いからと手元にある。

 どこぞのゲームの煽りメッセで送られた通り、臨機応変に対応することが重要であるのだ。

 まあそんなことはどうでもよく、果たして初のミレニアムの夜散歩であるが、ここも貴方にとっては心地よいところであった。

 風は変わらず快く、しかしアビドスの夜よりもほのかに温暖だからか、肌寒さは薄い。夜の星々が見えないのが残念ではあるが、電灯が灯ってはそれが街中にきらめいているのも中々良いものだ。

 そう思いながらイヤホンを耳に嵌め込んで再生を始める。流れてくるのはボーカロイドの電子音が歌う声。

『幻』と銘打たれたアルバムは激情を迸らせる強さは無く、代わりに『初夏のような温かさ』と例えられるような穏やかさを残す曲調。貴方が夜の散歩で聞く曲調である。

 ──貴方はボーカロイドと呼ばれるような、この電子音で歌われる音楽も好きである。

 『レッド・ツェッペリン』に代表されるような洋楽も、『GReeeeN』の輝かしい過去を振り返っているように聞こえるJ-POPも──『Queen』のような人を乗せる気概が見えるロックも『ルイ・アームストロング』の血脈が感じられるジャズも、『QUIET RIOT』の抑えきれない情を叩きつけるようにも思えるヘビィメタルも──全てが。

 バラードもクラシックも何もかもを含め、この世にある音楽が大好きである。

 理不尽ばかりの現実も、音楽にまで侵略してこないからだ。

 ──貴方は現実主義者ではあるが、その実現実など心底嫌いな人間である。

 周りが散々言ってきた「現実を見ろ」「夢を見るな」などと夢のないことを言われたくないから、可能な限り現実を見て、可能な限り夢を見ないでいるだけで、現実など心底嫌いである。

 身の丈に合った生き方をする。不正解ではない道を歩む。誰かの作った物をただ享受する。

 それが生きていく上で一番楽だと、貴方の周りの誰かは言っていた。

 敷かれたレールに、唯唯諾諾と導かれて生きていき、普通に生きて普通に死ぬ。

 ()()()()()()()()()()

 それだけが正論であるのなら、それだけが世界にまかり通るのなら今頃音楽など廃れているし、その上位互換のアニメなどあるはずもない。人間の文化などとっくのとうに死に絶えて、あいも変わらず、今も変わらず槍投げ生活をしている事だろう。

 だから、そんな人間の文化を導いてくれるのだろう理想家たちが貴方は好きだった。

 ……だが少なくとも、貴方にはもう到底無理である。自分が理想に生きることなど無理だと貴方は思っている。

 なぜも何も、貴方は現実主義に適応し過ぎたからである。くしゃくしゃに丸められた紙がその前に戻る訳がないのと同じように。

 だからか。あるいは純粋に、羨ましさからか。

 ──目が眩むからと。

 ホシノとユメと、周りにいるミレニアムの誰かを見ていると、ふとその輪郭から目を逸らしたくなる思念が、貴方にはあった。

 

 

 

 ──いけない。夜の散歩だといつも感傷的になる。

 貴方は少しだけ目元が垂れ、寂しいという感情が表へと現れかけていた顔を律する。

 ここ最近では貴方の振る舞いと笑顔が功を奏したのか、知人と言っても良い人物は周りに増えた。ここまで来ればある程度溶け込めた、と言っても大丈夫だろう。

 ただしどこぞの車椅子に乗っている自己紹介の長い誰かさんは「周りをいつ利用できるか考えていて、それを悟られないように、かつ動きやすくいるために笑顔でいるタイプの人間」と貴方に対して辛辣な評価を下している。随分な物言いだ。否定はしないが。

 まあさてと気分転換のために操作し、流し始めたのは『We Will Rock You』。貴方的には『レッド・ツェッペリン』を推しているのだが、世間一般的にはこれこそ洋楽の代表とも言えるもの。

 当然貴方も幾度となく聞いており、その感想とはシンプルイズベスト。人気を博すのも当然だと貴方は思っている。

 そうして何回も聞いたお陰か、暗唱可能な域に達している。

 テンポの良いリズム、観客の踏み鳴らしと手拍子。

 知らず知らずのうちに、貴方は口ずさんでいた。

 ──と、1人の影。

 小鳥遊ホシノとどっこいどっこいの身長、緋色をした髪色、背中に龍が刻まれているスカジャン。

 すなわちは、美甘ネル。

 

「あ」

 

 目と目が合う。刹那やらかしたと悟り、冷える感覚が背筋を伝う。

 貴方は弱みを握られることを酷く嫌う。理由は述べるつもりが無いのだが、とにかく弱みを握られることが嫌いである。

 紛うことなき「弱みを見られた瞬間」であった。しかも貴方が以前「屈服性癖のマゾヤンキー」と、誤解とはいえとんでもない風評被害を発生させかけた人物。なおのことこの後の未来が予期できた。

 ──目を合わせ、ゆっくりと、少しずつ後ろへと下がる。

 焦って背中を向けて逃げると追ってくる可能性が著しく高いため、こうした方が多少なれども生存率が高くなる。また高所に登るのも、相手が振り落としてくる可能性があるのでオススメはできない。

 ちなみに死んだフリは通用しない。厳密には、猛獣の類は死体でも食うので、それよりはやはり前述の対処が主軸となるだろう。

 つまり猛獣、詳しく言うなら熊への対処法を貴方は美甘ネルに向けて行っていた。

 それもそのはず、貴方は美甘ネルからホシノと大体同じ雰囲気を感じ取っていた。

 つまりはバケモンの雰囲気。マトモに相手したら間違いなく瓦礫の一部分になるだろう悪寒。そんなのと相手したいなどという無鉄砲は持ち合わせていない。

 よって良い具合に撒いた後、確実に言いふらすであろう美甘ネルを札束ビンタ(懸賞首潰しで得た金はまだふんだんに残っている)、そうでなければ奇襲で黙らせる。

 なるほど完璧な作戦だ。相手が応じるかどうか、また貴方の奇襲が通るかを除けば。

 ──ニヨニヨとしている、良い弄りどころを見つけたとばかりに貴方を見つめる美甘ネル。

 冷や汗を流している、完全にやらかしたとばかりに引き攣った笑みを浮かべる貴方。

 先に動き出したのは、果たして美甘ネルだった。

 

「──やぁらかしちまったなァ還来地ィ!」

 

 ジェット戦闘機もかくやとばかりの超加速。見なくてもわかる、これはホシノクラスだと。

 逃走? 不可。遅延? 無理。勝利? 戯言。

 これは俗に言うクソゲー、もしくは詰みという奴ではないだろうか。

 一周まわって冷静になった貴方は、見事ネルに捕縛されることとなった。

 

 

 

 しばらくの貴方は、これを種に様々な手伝いやらをさせられることになった。結果的に交友が広がることに繋がったとはいえ、今度は悪意をもって「美甘ネルは人に奉仕するのが性癖なドM」という大嘘でもふりまいてやろうかと考えている。




スミカは地味に蒐集家だったりします。
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