貴方は一般的な生徒である。   作:ホシのユメ

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スミカがエリート層の理由とネフティス中学校にいる理由を考えてたらこんなことになりましてね。
まだ何も言及されてないから書ける……まだ曖昧だからどうにかなる……
〘前回の誤字報告者〙
【[緋乃]】さん、【KJA】さん、誤字修正サンクス!


八話 最強だから

 1人の生徒が通学していた。

 自転車を漕ぎながら、中学校へと通う生徒がいた。

 その生徒の顔は今から楽しみだとばかりのような笑顔で、しかし内心は一欠片たりとて思っていない。

 ──始まる前から帰りたい。帰ってプラモの組み立てとゲームがやりたい。

 そんなことを思いながら一見は軽快そうに、しかし見るものが見れば「ああ、かったるそうだな」と分かるような、そんなゆったりとした速度で漕いでいた。

 

 

 

 ──貴方はアビドス自治区と呼ばれる、今や衰退した高校の自治区の生まれであった。

 還来地、という苗字はかつてのセイント・ネフティス内だとそれなりどころか下手な幹部職以上に権力を振りかざせるような地位であり、それが遥か昔、栄華を極めていたころのアビドスで金融機関を担っていた際に代々総裁を担っていた家系──日本でいうところの日本銀行のトップであったといえばその規模はわかるだろう。

 当時のアビドスの金融を支えた銀行の名を「アビドス中央銀行」。

 ネフティスの影響を受けながらも同時にネフティスにも影響を与え、また当時の生徒会に貨幣の発行権限の委任先の1つの、超大規模な金融機関であった。

 しかし環境の変化による砂漠化により、事態は変わる。

 生徒数の減少。それに伴う事業団体の撤退。撤退に引きずられ、アビドス高校の衰退。そしてそれによる生徒数の減少と、負のスパイラルが生じてしまった。

 それをどうにかしようとネフティスの大企業にあるまじき博打打ち。

 ダメだなこれと還来地家の当時総裁は既にアビドスの衰退を予見していたが、それでも企業の保持のためにと動くことはしなかった。動けなかったではなく、動かなかった。

 なにせ既に骨を埋める所を決めていたから。アビドスに骨を埋め、アビドスが無くなるときはこの金融機関も共に埋もれようと決めていたからだった。

 そこに1つの情報が入る。

 セイント・ネフティスによる大規模な鉄道開発事業。

 だからなんだという話にもなりそうだが問題はその次であり、還来地家に一切の相談もローンの持ちかけもせず、恐らくはCEOの血迷いで勝手に着手し勝手に大爆死したことである。

 つまるところネフティスからは何も聞かされていなかったのだ。今まではどのような事であれ事業開拓では相談をされていたにも関わらずである。

 ただ実際のところ、そこまでならまだ「テメェコラウチに相談もローンの持ちかけも何もせんといて随分と良い度胸しとるなぁ、えぇ?」と盛大に圧力を掛けながらも何だかんだで笑って快く許していた。

 あくまでもちゃんとした体裁で「お願いします事業を失敗したので借金させて下さい、キッチリ耳を揃えて返しますから」と言えば、の話だったが。

 それを笑う笑わないどころか許す許さないの域さえぶっちぎり、確実にぶち殺すとまで判断させたのは、その大爆死による多大な負債のほとんど全てをアビドス中央銀行に尻拭いさせようとした事である。それも高圧的に、挙句無断で。

 還来地家はキレた。盛大にブチギレた。元々血の気が強く「舐められたら殺す」という金融機関の管理職にあるまじき鎌倉武士が根付いている当時の総裁とその娘はこれを「舐め」と見なして烈火怒濤にキレ散らかし、宣戦布告を決意した。

 してその当時のブチギレ総裁が宣戦布告した際の演説が残っている。それも全文。

 

 諸君。私は戦争が好きだ。

 諸君。私は戦争が好きだ。

 諸君。私は戦争が大好きだ。

 (中略)

 諸君。私は戦争を──ネフティスを地獄に落とす戦争を望んでいる。

 諸君。今までアビドス中央銀行に付き従ってきてくれた、アルバイター含む聡明で勇猛たる従業員諸君よ。

 君たちは何を望む?

 戦争を望むか?

 邪智暴虐独裁者たるネフティスを地獄に叩き落とす、情け容赦のないクソのような戦争を望むか?

 我々が受けた屈辱を雪ぎ、ネフティスを完膚なきまでに再起不能とする一世一代の大闘争を望むか!?

 〘闘争を! 闘争を! 一世一代の大闘争を!〙

 よろしいならば戦争(クリーク)だ!

 我々を惰弱で意志の弱い金銭袋と思い込んで眠りこけた連中を叩き起こそうではないか!

 髪の毛を掴み引きずり落とし、腐れ眼を開かせて思い出させようではないか!

 連中に我々という恐怖を思い出させてやれ! 連中に戦火の音を思い出させてやれ!

 

 そしてその演説から僅か3秒後にセイント・ネフティス本社は襲撃された。他ならない総裁の娘とその一派の手によって。

 ちなみに文献の曰くでは、総裁の娘は『12.8cm Flak』(17,000キログラム、数字を分かりやすくするなら約17トンである。控えめに言って数字がアホである)を大雑把に手持ちできる形へと魔改造した、オブラートに包むなら巨砲主義的、有り体に言うならクソバカアンポンタン極まった武器のようなナニカを使っていたらしい。

 控えめに言って正気と筋力と文献を疑うような内容であった。現物もないので恐らく誇張だろうと考えている。

 それはそれとしていつかやってみたいのは否定できない。最高ではないか、ロマンがあって。

 さてそこから1ヶ月に渡り、中央銀行とセイント・ネフティスによる企業間戦争が勃発し。

 その後にカイザーコーポレーションの「ただでさえ不毛な環境なのに、そこで争いやってるとか頭にまで砂詰まってるの?(意訳)」という所感によってようやく下火になり、同日の夜間に痛み分けという形で「停戦」条約が締結された。

 ──これが大体貴方の生まれるかなり前に起きたアビドスでの盛大な内ゲバ、「ネフティス・アビドス中央銀行衝突事件」である。

 その後アビドス中央銀行はこれ以上ネフティスのケツ持ちなんぞやってられっかとキレた勢いのまま金融機関の廃業を宣言し、ネフティスに対する嫌がらせのためだけにその全ての機能をカイザーコーポレーションに譲渡し、その代償として還来地家はカイザー系列及びその後継の経営方針に陳情できる権限を永久的に有するという権利を得て、アビドス中央銀行は「おおよそ綺麗に」幕を閉じた。

 ちなみに現在では総裁の意向でヘリオポリス重工と名を変え、決して規模は大きくないながらも信頼性が高く長持ちする重機、そしてみんな大好き素敵性能の高い産廃銃を製造している。

 恐らく後者は総裁の娘の趣味と考えられる。

 

 

 

 さて、その衝突事件と同じ過去を繰り返さないためか、貴方の実家である還来地家には総裁によって教義が残されている。

 

 壱。幕は綺麗に落とせ。終わりよければすべてよし、とまでは言わないが終わりが綺麗なら清々しく次に一歩を進められる。

 弐。舐められたと感じたなら確実に殺せ。舐められたと感じ取った時点でそいつは自らが思っている100億倍は舐め腐っている。

 参。殴ると決めたなら腰を入れて徹底的に殴れ。中途半端な慈悲は相手を増長させるだけであり、中途半端な暴力は不信感を募らせる。

 終。殲滅すべし、ネフティス。ネフティスにいる大人共は軒並みロクデナシのクソなので下手な慈悲など要らぬ。十六夜家共々一族郎党根切りにしてしまえ。

 追記。もし困った時は暴力で黙らせるがよろしい。クソのネフティスもぎゃあぎゃあと抜かすカイザーも暴力をチラつかせれば即黙り込むので効果は絶大であろう。

 

 ──と残っているが、ではそんなネフティスアンチ一家の末裔な貴方が何故ネフティス中学校に通うのか。

 それは単純明快であり、貴方の両親が親ネフティスだからである。

 残されているとは言ったがあくまでもただ残っているだけであり、現在は大した影響力を有していない。

 教義は廃れ、今となっては単なる嫌大企業の僻みや妬みの果ての産物のように扱われている。

 教義を考案した元アビドス中央銀行総裁、兼初代ヘリオポリス重工CEOも草葉の陰で泣いていることだろう。もしくはキレているかもしれない。

 とはいえその貴方とて教義をそのまま遵守している訳でもない。鎌倉武士スタンスと幕切れ論、腰を入れて殴れ論には同感だったが、終と補足については疑問があった。

 歴史を知った以上はネフティスの態度も嫌いではあるが一族郎党根切りにしてやるとまでは思わないし、困った時の暴力など相当以上のパワーがなければ通じもしないだろう。

 自分にはあるが。

 貴方はそんなことを思っていた。

 重度のネフティスアンチではないだけで、心は立派な総裁メンタルであった。

 

 

 

 まあさておき、では貴方の現状に不満が無いかと言われたらそんな事はなく、むしろ日頃の小さなストレスが積み重なっていた。

 イジメを受けているだとか貴方のとんでもガバによる自業自得、だとかはない。

 だがやはり過去の怨恨が絡むのか、ネフティス系列に務める親を持つ生徒たちは貴方を少しばかり遠巻きにしているような感覚があった。一年も同じところにいれば知りたくなくてもわかるものだ。

 過去のことを気にする必要はないと貴方に親しく接する相手もいたにはいたが、いずれ冗談でもネフティス殲滅しろと口走るかもしれない。

 気分だけは憂鬱に、しかし表にはその素振りの1つさえ出すことなくゆっくりと漕いでいると。

 

『スーミカッ! おはようっ!』

 

 コツンと脇腹に受けた軽い衝撃でコフンと息が漏れる。ああ、また来たなとこれ幸いに自転車を降りて歩き出した。

 聞き馴染みのある声。百鬼夜行の陽だまりのような温かみのある雰囲気。遠慮のないからこそ親しい態度。

 誰であるかなど明確で、だからこそ貴方もまた親しい声で下の名前を呼んで返した。

 

『あの、だっからさぁ! 私君付けされるような性別じゃないんだけどなぁ!?』

 

 女性だから君付けされるのはおかしいという道理は無い。

 そして貴方は本当に女性であることを確認していないため、少女である可能性も女装している少年の可能性も否定できない。

 そんな事も知らなかったのかと貴方はおちょくるようにして言葉を紡ぎつつ目を向ける。

 ピンク色の短髪。橙と水のオッドアイ。キリとした顔つき。

 当然、小鳥遊ホシノだった。

 貴方が心を許してやっても良いなと思った相手など、ホシノ以外の誰もいない。

 

『だっかっらっさぁ! 私はれっきとした女の子! 男じゃあないっての!』

 

 そうプンスコプンスコと怒るホシノに貴方はケラケラと、当たり前だが冗談であろうじゃないかと笑い飛ばした。

 貴方のいつも通りな冗談節に『本当に倫理観をどこに投げ捨てたんだか』と独りごちるホシノだが、遠くに見える人影を視界に入れた瞬間に双方の目を輝かせた。

 

『あっ! ユメ先ぱーい! おはようございまーす!』

 

 緑がかった薄水色の長髪。黄金色の目。愛嬌のある顔つき。

 高めな身長で、しかし今よりも一回りも二回りも小さい姿の梔子ユメが目に入る。

 ……「今よりも」? 貴方はふと思いついた印象の付属語に首を傾げたが、まあ言葉の綾だろうと気にしないことにしてニッコリとした笑顔で下の名前を先輩付けで呼んで挨拶した。

 

「えっ? あー……うん、ホシノちゃんも、スミカちゃんもおはよう!」

 

 と、普段とは違う困惑が刹那に見えた……が、取り繕うように明るさを見せた。

 何か忘れ物でもしたのだろうか。貴方は少しばかり疑問に思うが、そうはしたって今の彼女は第一中学校にいる身なので貴方の管轄外。

 今の困惑の表情を記憶から消去することにした。

 

『ほらほらユメ先輩! 一緒に行きますよ!』

「あー……ちょっと待っててね! 私ちょっと忘れ物しちゃったかも!」

『ユメ先輩……だから私は何度も言ったんですよ! ロッカーに入れた方が良いって!』

「ヒィン、こんな時も厳しいよぉ……」

 

 やはり忘れていたらしい。草と貴方は口走りつつ、それなら早めに取りに行くべきだろうと貴方は進言した。いつも通り、現実主義的に。もしくは悲観的な見方で。

 

「うん……うん! そうだね! それじゃあ取りに行ってくるよ! ……それじゃ!」

 

 そう言ってユメは駆け出していった。

 貴方たちがさっきまで移動していた方向へ。

 南の方向へ。

 

『……いつも通りだったね、ユメ先輩』

 

 実にいつも通りだった。大体はいつも通りだった。ニアリーイコールいつも通りなのでヨシ。

 まあそんな些事はさておき、今日は天候が快晴な割に気持ちがいいほど快晴だ。

 今日は気分が良いからと、貴方は歌うことにした。

 それはJ-POPの『青春アミーゴ』。普段はアニソンやボカロ、洋楽をメインに据えて聞く貴方だが、このJ-POPは好きが高じて3桁回に及ぶまで聞いた覚えがある。その結果たるや、曲を流さなくとも暗唱できるほど。

 なんなら隣のホシノとも何度だって歌い、その域はカラオケで100点を取る時用の持ち歌とも言えるまで。

 なのだから、出だしを歌うだけでホシノも見事に反応し、歌い出した。

 ──2人で1つで、地元じゃ負け知らずで、笑いあって生きていて。

 何より。

 

──俺たち。

『私たちは』

 

 ──最強だから。

 

 『……なんてね……フフ、フフフフフっ……!』

 

 声が奇跡的に合わさった、ラスサビ前の伴奏。

 貴方もつられて笑った。心底から愉快そうに笑った。

 何もわざわざ明言しなくたって、貴方たち2人がこの世の誰よりも強いことなど分かりきっているではないか。

 ──「ホルスの両目」が、甚だ弱い訳があるものか。ラーの目(小鳥遊ホシノ)が、ウジャトの目(還来地スミカ)が。その2人が合わさったホルスの両目が、まさか負ける訳があるものか。

 そうやって笑い合いながら、貴方たちは前へ前へとゆっくり歩き続けていく。

 通学していく方向へ。

 北へ。

 

「──行ってらっしゃい、ホシノちゃん、スミカちゃん。どうかどうか、幸せにね」

 

 ふと、大人びたユメの声が聞こえた気がした。

 

 


 

 

 ──死ぬほど懐かしい夢を見た気がする。

 貴方の寝起きからの第一声はそれだった。

 具体的には貴方とホシノが中学二年生でユメが高校一年生だった時の夢のような気がする。

 あくまでも気がする、なので詳しくは覚えていない。ぼんやりとこんな感じだったような、としか貴方は思い出せない

 こんな時に自動夢の内容執筆機でもあれば、もしくは自分に超記憶能力があれば。貴方は歯噛みした。

 それさえあれば中身が見れたろうにな。

 と、1つの通知音が静かで薄暗い部屋に鳴った。

 中身を見る。

 

『たすけて』

 

 たったそれだけの1文。それ以上もそれ以下もないと断言できる「たすけて」の1文。

 ただしその送り主は小鳥遊ホシノ。

 つまるところ貴方が動くにはあまりにも充分すぎる理由であった。

 即座に顔を洗って口内洗浄。幸いにも長髪でありながら寝癖は1つもついていなかったのでそれらを終えればすぐに早着替えし、スマートフォンを愛用の肩掛けカバン(フル充電の大容量モバイルバッテリー入り)にぶち込みつつスナイパーライフルを担ぎつつ靴を玄関から調達。貴方は緊急手段として窓から出る方法を選んだ。

 ちなみになぜ窓から出るのかと言えば、純粋に窓から飛び降りて空中で履きながら外に出た方がタイム上は速いからである。

 お前は何を言っているんだと言われそうだが事実なので仕方がない。過去に3回試してその3回とも玄関から出るより速かったので確かだ。

 朝ごはんは抜かない派の貴方は渋々買うことにしつつ、どの方法で行くかを考えた。

 最近マウンテンバイクを全力で漕ぐよりも全力で走った方が気持ちちょっと、具体的には時速5キロメートルの差で後者が速いということに気がついた。

 それなら多分走った方が速く付く。貴方はしばらく疲労で脚が筋肉痛に苛まれることを覚悟した。

 なお前者でも電車の最大時速と同じくらいなことは言ってはいけない。

 すう、ふうと1度深呼吸し、窓縁に片方の手をかけ、上斜め45度方向に力を入れて飛び降りた。

 わずか数秒にも満たない自由落下の最中でもう片方の手に持っていた靴を即時に履き、またもう片方も調整して履く。片方の靴紐が解けそうだったのでしっかりと固く結び直して地上が近くなったので着地体勢。

 そのままゴロリと一回転して身体にダメージをかけない立派な着地。着地事後にはヒーロー着地こと五点着地を交えて。

 悲しいことに歓声はないのでブラーヴァ、と貴方は貴方自身を褒めたくなった。

 とはいえそうもしていられない。今はホシノが助けを求めているのだからそちらに専念すべきだろう。

 貴方は思い直し、キリと表情を真剣なものに切り替え全速力で走り出した。




スミカとホシノのシーンを書いてる時は『青春アミーゴ』を聞いていました。いいよね青春アミーゴ。
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