迷い込んだが乙女ゲーム、生まれ変われば悪役令嬢、斬って捨てるは悪しき者共、喰い止めるべきは異世界滅亡   作:有本

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第十一話『アレン/手合わせ』

 ヴィオラたちの教官……アレンは、ミレイユの頭痛を治した後にいそいそと教壇に立つ。

 

「それでは軽く自己紹介をしておこう。さっきも言ったけど、俺はアレン・シルベクルス。このROXIAでスレイヤーとして働いています。歳は二十七、趣味は……ゲーム作りだね」

「ゲーム作り? チェスみたいなボードゲームってことですか?」

 

 ヴィオラの質問に、アレンは首を振る。

 

「いや、違う。何て言ったらいいのかな。箱みたいな魔道具を作って、そこに動く絵……映像を映すんだ。その映像を操作して遊ぶっていう。色んな人に説明はするんだけど、中々わかってもらえないんだよね、実際やれば納得してもらえるんだと思うけど」

「てっ、テレビゲームじゃないですか!!」

「てれびげーむ?」

「あっ、いや……なんでもないです」

 

 アレンが言っているゲームは、恐らくテレビゲームだということにヴィオラは驚く。

 しかしこの世界にはテレビどころか、映像を映すような魔道具ですら希少なものだった。

 そんな中で、そのようなものを作ろうとしているアレンは、ある種魔道具作りの才能を持っているのだろう。

 純粋にその内容が気になったヴィオラは、アレンに続けて聞いた。

 

「先生のゲーム、ちょっと遊んでみたいんですけど……」

「おっ、テストプレイしてくれるのか! ありがとう、今度部屋までゲーム機を持っていくよ」

 

 そのままアレンは、ヴィオラたちに自己紹介を続けた。

 それによると、アレンの実力はスレイヤーでは中の上くらいで、単独任務もそこそこ任されているらしい。

 先ほどミレイユに回復魔法を使ったように、汎用魔法にもそこそこ心得があり、魔法については良く言えば万能型、悪く言えば器用貧乏だということもわかった。

 

「それと、今日は遅刻して本当にごめん。昨日、つい遅くまでゲーム作りに没頭してしまって」

 

 しばし頭を下げるアレンだったが、やがて三人の方を向くとにっこりと笑う。

 

「とりあえず、今日からよろしく。……さて、早速授業を始めたいところなんだけど『今日は自分の武器だけ持ってきて欲しい』って事前連絡は通ってるよね?」

「はい。ここにいる三人共、武器は持ってきています」

 

 ザイルの返答に、アレンは頷く。

 今更ながらだったがヴィオラは、王族のザイルが教官に敬語を使っていることに変な感慨を覚えていた。

 『尊敬すべき人物には敬語を使うべき』という考えらしいが、前世のヴィオラからすると、ザイルの考え方は王族のイメージとは遠い気がする。

 

「よろしい。じゃあ早速、体育館に行こうか。今日の目的は二つ。ガイダンスと、各々の実力を再認識することだ」

 

 「ついておいで」というアレンに続き、三人は教室を出て機関内にある体育館へと向かう。

 数分ほど歩いて辿り着いたのは、学園の体育館よりもさらに大きい巨大なホールだった。

 薄茶色の滑らかな木の床が広く続いており、天井もそこそこ高い。

 強めの光を当てている照明の下に、四人は立っていた。

 アレンは三人から少し離れると、自然体で声をかける。

 

「実力を測るためだから、相手は全員俺がやろう。一人ずつかかっておいで」

 

 ヴィオラたちはしばらく顔を見合わせるが、やがてヴィオラが手を上げた。

 

「じゃあ私から! お願いします!」

「よし、了解」

 

 ザイルとミレイユが下がった後、黒牢を構えるヴィオラ。

 黒牢が少し心配そうにヴィオラへ話しかける。

 

『真剣で手合わせして大丈夫なのか? いくらアイツが強かろうと、お前ももう全く弱いわけではないぞ』

「……先生、本物の刀で斬りかかっても大丈夫ですか?」

 

 黒牢の言葉に怖気づいたヴィオラは聞くが、アレンは一笑に付した。

 

「まぁ、ホントにヤバかったらストップって言うよ」

「怪我しても……知りませんよッ!」

 

 ヴィオラは走り出し、魔力を込めた剣をアレンに振るった。

 しかし。

 

「おぉ、結構力出てるね。中々優秀じゃないか」

 

 アレンは薄い青色のオーラを障壁のように展開し、ヴィオラの攻撃を防いだ。

 驚いたヴィオラは、数歩分距離を取る。

 

「それは……?」

「これが俺の固有魔法、『新蒼奇譚(ブルー・スクリプト)』だ。能力としては魔力を青いオーラにして、自由に操れる能力ってとこかな。うーん、これもゲームと同じで説明が難しいな。実際に使い方を見せようか」

 

 アレンは右手を宙に差し出す。

 すると、障壁と同じように薄い青色のオーラがその手に集まり、一本の剣となった。

 

「さっき下がったあの子……ミレイユの『鉄凍塵法(メタル・フロスト)』と方向性は似ているかもしれない。要は物質生成能力だよ。ただあの子の魔法は、剣がないとあまり使えないらしいけど……俺は違う」

 

 アレンは駆け出すと、ヴィオラに一撃を加えた。

 寸前でヴィオラは黒牢を使って受け止めるが、尋常ではない力に圧し潰されそうになる。

 そのまま二撃、三撃とアレンは剣を打ち続けていく。

 

「ほら、反撃しないとそのまま押し通されるよ」

「くっ!」

 

 瞬間、黒牢は完全に黒く染まり切った。

 黒牢の力で、ヴィオラはアレンの剣を弾く。

 

「そう! やればできるじゃないか、その勢いだ」

『あまり舐められると、こちらとしても癪だな。ヴィオラ、アレをやるぞ』

『アレって?』

『決まっているだろう!』

 

 黒牢はそのまま輝きを増す。

 それを見たヴィオラは黒牢の言葉の意味を理解し、集中してさらに魔力を上乗せした。

 アレンは少し驚く。

 

「おぉ、もうそこまで魔力操作が出来るのか……!」

「いくよ、黒牢!!」

『あぁ!』

 

 アレンに向けて、ヴィオラは跳躍した。

 そのまま渾身の力を込めて、妖刀を振るう。

 

邪流殲破(じゃりゅうせんは)!!」

 

 二重三重の青い障壁をアレンは張り巡らせるが、その全てを打ち破ってヴィオラの攻撃はアレンの剣へと届いた。

 しかし剣でがっしりと受け止められると、段々と黒牢の輝きは鈍くなっていき、そのまま元の刀身へと戻った。

 

 ギロウを倒した攻撃は、アレンには通じなかった。

 アレンはスレイヤーの中でも中の上くらいの強さ。

 つまりまだ、あくまでもヴィオラはスレイヤー候補としての実力しか持っていないのだろう。

 現時点では。

 

 ゆっくりと剣を退くと、アレンは目を丸くして喜んでいた。

 

「すごい! ここまでやる子が現れたのは久しぶりじゃないかな。君の履歴書を読ませてもらったけど、刀を振るい始めてまだ一ヶ月も経っていないのにこれは……まさに才能の塊だ」

 

 アレンに褒め倒されるヴィオラはただ、にへらと笑うしかなかった。

 

「よし、ヴィオラ。君の実力はわかった。次、交代だ……今度はどっちが来るかい?」

 

 手を上げるのを少し躊躇したザイルのすぐ後に、ミレイユが手を上げた。

 

「私、行きます」

「よし。じゃあヴィオラ、君は下がって」

 

 ミレイユはカーディガンを脱ぎ、ザイルへ渡す。

 シャツ姿になったミレイユは、ヴィオラと交代してアレンの前に立ち、剣を構えた。

 

「……いきます」

 

 ミレイユは剣を素早く下ろして、地面に打ち付ける。

 すると、打ち付けた場所から二筋の氷が地面を這って急速にアレンへ伸びていく。   

 それと共に、ミレイユは走り出した。

 

「へぇ、面白いね」

 

 三方向からの同時攻撃。

 アレンと言えども全てを一度には捌ききれない。

 ヴィオラが単純に考えるならば、ミレイユは恐らくそういう考えで攻撃をしているだろう。

 

 しかしアレンは飛び上がると、青いオーラを円盤のようにして足元に出現させる。

 それに乗り、瞬く間に氷とミレイユの攻撃を回避した。

 攻撃が通じなかったと見るやいなや、ミレイユは剣から多数の小さな氷柱を撃ちだす。

 それはさながら、ガトリング・ガンのようにアレン目掛けて発射を続けた。

 やがて一部の氷柱がオーラの円盤に当たると、円盤は弾けるように消える。

 

「おっと!」

 

 アレンは危なげなく着地すると、再び青いオーラを作り出し、今度はそれを複数の小型ナイフにしてミレイユ目掛けて投げつけた。

 ミレイユは氷柱を撃ちだしてそれを全て落とす。

 そしてそのまま接近戦に持ち込むため、氷の足場に乗って一気にアレンへと距離を縮めた。

 

 アレンは再び、オーラから剣を作り出してミレイユと打ち合う。

 ミレイユはその間にも自分の足元から氷を伸ばし、アレンの足元を氷で固定した。

 そのすぐ後、アレンの剣をやや力任せに打ち破ったミレイユは、勝利の笑みを浮かべる。

 

 しかしその時、ミレイユは腹部にオーラの塊を当てられ、その衝撃により数メートルほど吹き飛んだ。

 アレンは、足にまとわりついた氷が溶けていくのを見ながら言う。

 

「君の欠点は、魔力のリソース配分とスタミナ不足だね。だが、上手く魔法を使いこなせばヴィオラと並ぶか、それ以上の力を発揮できるだろう」

 

 剣を支えにして立ち上がりつつ、ミレイユは荒い息を吐いている。

 そこにアレンは近づいて、手を伸ばした。

 

「とりあえず、君の実力はわかった。ここで修行を積んでいけば、もっと強くなれるよ」

「……ありがとう、ございました」

 

 一礼すると、ヴィオラたちの方へミレイユは戻っていった。

 

「さぁ、最後はザイルだね。こっちに来て」

 

 ザイルは少し顔を曇らせつつ、歩み始める。

 ヴィオラには何故暗い表情をしているのかわからなかったが、とりあえずは応援することにした。

 

「頑張って、ザイル! ザイルが強いの知ってるんだから」

「……おう」

 

 無理矢理笑顔を見せると、ザイルはそのままアレンの前へと立った。

 

「お手合わせ願います」

「あぁ」

 

 しかし、二人が構えたその時。

 

「あれぇ~先客がいるじゃないですか!」

 

 体育館の扉が開き、四人の男女が入って来た。

 どうやら声を上げたのは、その中で真ん中に立つピンク色の髪を持った、緩い雰囲気を漂わせている少女のようだった。

 アレンは構えを解いて、誰が来たのかを見る。

 その中に背の低い、少し暗い雰囲気を持った少女を見つけると、急に笑顔になった。

 

「ルナ先生じゃないですか! お久しぶりです」

「……ゲーオタか。めんどくさい奴と会っちゃったな」

 

 暗い少女はアレンを心底鬱陶しそうな目で見つつ、ため息をつく。

 

 四人の男女はそれぞれ、ルナと呼ばれた小柄な少女、緩い雰囲気を持つ少女、鋭い目つきをした几帳面そうな少年、終始ヴィオラたちを見てオドオドする少年で構成されていた。

 ヴィオラはアレンの方を向く。

 

「先生、この人たちは……?」

「あぁ、君たちと同じスレイヤー候補とその教官さ。チーム名は光明華(ライト・ブルーム)

 

 光明華のメンバーは、初めて会うヴィオラたちに思い思いの視線を向けていた。

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