迷い込んだが乙女ゲーム、生まれ変われば悪役令嬢、斬って捨てるは悪しき者共、喰い止めるべきは異世界滅亡   作:有本

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第三十一話『斬壊王竜/再会』

 ラウローは血を吐きながらもゆっくりと立ち上がり、口元を拭う。

 

「……はは、やっと本気になったってことかな?」

「来いよ。私がアンタを、ここで完膚なきまでに叩きのめす」

「いいね。決着をつけようか!」

 

 ラウローはヴィオラに殴りかかる。

 大振りながらも、それは一瞬でヴィオラの顔面に炸裂するかに思われた。

 しかし。

 

「そんなもんなの?」

 

 顔の手前でガッチリとラウローの拳を掴んだヴィオラが、静かに言う。

 ラウローは拳を引っ込めて距離を取ろうとするが、ヴィオラは拳を掴んだまま放さない。

 無理やりにでも離れるため、ラウローはヴィオラに蹴りを入れようとする。

 

「ぐっ……!」

 

 しかし、蹴りもヴィオラのもう片手で止められてしまう。

 そして一瞬手が離れたかと思うと、ラウローの腹部に再びヴィオラの一撃が炸裂した。

 

「がっ!?」

 

 ラウローは膝をつく。

 ボタボタとこぼれる血を袖で拭いつつ、ラウローはヴィオラを見上げる。

 

「つ、強いじゃないか……本当に成長速度が早いみたいだ……」

 

 ヴィオラは傍らに落ちていた黒牢を取ると、魔力を込める。

 黒牢が黒く光り出すのを見たラウローは、それに対抗するために再び結界を張った。

 

本軸……結界(ブック・オブ・ザ・フィールド)!」

 

 瞬間、ヴィオラは突然付与された重力の効果によって、片膝をつく。

 どうやら今度の結界は固有魔法発動を禁じるモノではなく、メルファールで放ったものと同じ、重力を付与する結界らしい。

 

 ヴィオラはなんとか立ち上がろうとするものの、以前よりさらに増した重力によって元の軽快な動きを維持することが難くなっていた。

 しかし、ラウローも重力の効果を受けていないとはいえ、ヴィオラの攻撃を連続で受けたことによって既にかなりのダメージが入っている。

 スピードを重視した動きは出来ないようにヴィオラには見えた。

 

「クソっ……お互い死に体だな。だけど、勝つのは僕だ」

「言ってろ!!」

 

 フラフラとした足取りながらも、ラウローはヴィオラに対し突きを繰り出す。

 それを何とか刀で受けきると、ヴィオラは輝いた黒牢を使って固有魔法を発動した。

 

邪流殲破(じゃりゅうせんは)!!」

 

 しかしラウローは腕に魔力を一極集中させることによって、それを完全に防ぐ。

 

「だから言っただろ、勝つのは僕だって!」

 

 ラウローは回し蹴りを放つ。

 今度は黒牢で受ける暇もなく、攻撃はヴィラの頭に直撃した。

 

「がッ!?」

 

 頭が震える感覚と共に、ヴィオラはその場に倒れ伏す。

 意識はあるが、周囲の全てが真っ白に見えていた。

 耳鳴りがする。

 脳震盪なのかどうかなど、医学的知識を持ち合わせていないゔヴィオラにはよくわからなかったが、それでも確かに一つだけわかっている事実があった。

 

 それはラウローに対する敗北の危機、死という事実だった。

 恐らく、次の一撃でラウローは完全にヴィオラを殺しにかかってくるだろう。

 しかし、ヴィオラにはもう防ぐ術がない。

 手の痺れからか、黒牢も手放してしまった。

 近くで黒牢が必死にヴィオラの名を呼んでいるようだったが、ヴィオラには最早その声が霞がかったようにしか聞こえない。

 

 考えが纏まらない頭のまま何とか立ち上がろうとするヴィオラだったが、手足にほぼ力が入らない。

 最早目の前の死という現実を、ただ受け入れるしかないようだった。

 

 「……こんなことなら、ザイルともっと話しておくべきだったな」

 

 今際の際、ヴィオラの頭にそんな考えが思い浮かぶ。

 しかし時既に遅し、ヴィオラは地鳴りのように聞こえてくるラウローの足音に対して、静かに目を閉じた。

 

 ……しかし、やがて地鳴りは止まると一切音を立てなくなった。

 辺りには街が燃える音だけが淡々と響いている。

 何故ラウローは自分にトドメの一撃を刺さないのか。

 不思議に思っている間に、段々と色あせた世界が戻っていき、彩色されていく。

 手足のしびれや耳鳴りも少しずつ収まって来たヴィオラは重い疲労感を感じながらも、それでも何とかラウローの方を見上げた。

 

 そこには。

 

「なんで、なんで君がここにいる!」

「大丈夫か、ヴィオラ?」

 

 ラウローが渾身の力で振り下ろそうとした拳を、止める者がただ一人。

 その名はザイル・ロウウィード。

 

「ザイ、ル……!?」

「お前が魔力操作を使って起こしてくれたのを、俺も感じていた。まさかお前にそんな力まであるとは思ってなかったが。この通り、元気一杯だ」

「クソッ!」

 

 ラウローが拳を次々と打ち付けていくが、それに対しザイルは華麗に最小限の動きで狙いをずらして、攻撃を弾いていく。

 ザイルがメルファールで倒れる前とはまるで違う、ザイルの中で何かが変化したような動きだった。

 

 気付くと、ヴィオラたちの周囲に張り巡らされていた結界はきれいさっぱりなくなっていた。

 恐らく、ザイルの相手に手間取ったラウローはその維持が困難になり、解除してしまったのだろう。

 

「ヴィオラ! 立てるか?」

 

 ラウローの相手をしながら、ザイルはヴィオラへと声をかける。

 黒牢を杖代わりにしてヴィオラは立ち上がると、ザイルのアシストをするために満身創痍ながらも駆け出した。

 

「それでこそだ。暁の雷帝(エレクトロ・エンペラー)!」

 

 魔法を発動したザイルは、雷を繰り出してラウローを追い詰めていく。

 雷を躱したところをヴィオラが追撃することによって、攻撃の隙をなくしていく作戦だった。

 やがて、黒牢をまともに食らったラウローが腕から血を流して後退する。

 

「ぐっ、まさかここまで君たちがしつこいとは。見誤っていたよ」

 

 ヴィオラはザイルの隣へと並び立つ。

 

「ザイル、前よりも魔法の出力が上がってる……?」

「あぁ、お前がくれた魔力のおかげだ。普段より使える魔力量が格段に増えている。これなら、二人でアイツも倒せるさ」

「……うん!」

 

 ヴィオラは黒牢に再び魔力を込める。

 黒牢は黒く光り輝くと共に、今度は竜のような形の黒いオーラを形成し始めた。

 

『ヴィオラ、お前はもう破倒殲斬(はとうせんざん)を完全に使いこなせる。今こそ、俺の魔法の最後の技を使う時だ』

「最後の技?」

「あぁ、その名も!」

 

 竜の形になったオーラはヴィオラの周囲をとぐろを巻くようにしてゆっくりと回転し始める。

 

斬壊王竜(ざんかいおうりゅう)!!」

 

 完全に竜の形が形成し終わると、それは地面を削りながらラウローに突進していった。

 間一髪で避けるラウローだったが、ほんの少し足が掠ったことによって、足の一部が削れてしまう。

 

「ぐああああっ!?」

 

 釣竿を振るうように黒牢を振るって、ヴィオラは斬壊王竜を操っていく。

 それの隙間を縫ってザイルが細かい電流を発射し、ラウローをさらに追い詰めていった。

 やがて、ラウローの足は逃げ切ることが困難なほどに裂傷していった。

 

「……こうなればもう、この技で決着をつけるしかないか」

 

 ラウローは両手を前面に出し構える。

 

絶希終撃(デッド・ブレイク)結界砲(エンチャント・キャノン)!!」

 

 ラウローの両手に対し器型に展開された結界が、回転しつつ魔力の収束を始める。

 それを見て、ザイルはヴィオラに声をかけた。

 

「奴はあの一撃に全てを込めるつもりだろう。乗ってやろうじゃないか」

「……どうするの」

「合体技だ!」

 

 ヴィオラは斬壊王竜を自分の眼前に戻し、そこにザイルが暁の雷帝を付与していく。

 黒い竜は段々とその縁を黄金色に、鋭い雷の竜へと変化させていった。

 雷を纏った黒竜と成ったそれをヴィオラは構える。

 同時に、ラウローの結界砲も充填を完了させた。

 

「これで終わりだ、スレイヤー機関ッ!!」

斬壊王竜(ざんかいおうりゅう)雷ノ果(いかづちのはて)!!」

 

 二つの巨大な力がぶつかり合い、その雌雄を決する。

 しばらくは押しあっていたそれら二つだったが、やがて雷の黒竜は結界砲を切り裂くように突き進み、ラウローの胸へと直撃した。

 

「がッ……」

 

 黒竜の力によって、左胸に大きく円形の穴を開けられたラウローは吹き飛ぶ。

 数メートルほど転がった後、その動きを静かに止めた。

 因縁の戦いに勝ったのは、ヴィオラたちだった。

 

「勝った……?」

「あぁ。何とか、な」

 

 言葉の割には余裕そうなザイルに対し、ヴィオラは既に今にも意識を失いそうな体勢だった。

 黒牢を支えにしないと立っていられないほどの疲労が溜まっているらしい。

 倒れかかったヴィオラをザイルが抱き寄せると、そのまま抱える。

 

「セイブン機関長に聞いたが、アレン先生やミレイユも王都に来ているらしいな。俺が足になって探すから、お前はしばらく眠っていろ」

 

 ザイルが走り出すのを感じ取ってから、ヴィオラは最終決戦前のしばしの眠りに着いた。

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