迷い込んだが乙女ゲーム、生まれ変われば悪役令嬢、斬って捨てるは悪しき者共、喰い止めるべきは異世界滅亡   作:渾沌炎

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第六話『討伐任務/封印の祠』

「何、入学試験と言っても学力を試すわけではない。要はスレイヤーが普段行っている魔物の『討伐任務』、その簡易版を一つ試してもらいたいのだよ」

 

 セイブンは机の上に地図を広げ、三人へ来るようにと手招きする。

 

「今回、入学試験で討伐してもらう魔物はロウウィード王国西部にある。ここだ。転移魔法で向かって欲しい」

 

 地図の左側にある一点をセイブンは抑えた。

 

 地図は世界地図らしく、ヴィオラが授業で習った通り中心に巨大な大陸『マウルス大陸』がある。

 ロウウィード王国は、その西部にあった。

 この世界はマウルス大陸にある『五大王国』と、その周辺にあるいくつかの島国によって成り立っている。

 ロウウィード王国は、その五大王国のひとつである。

 

「この地域には、かつてスレイヤーが封印した魔物が一体眠っている。それを討伐してほしいのだよ。長年の封印により、ある程度魔物も弱体化しているはずだ。スレイヤー候補……の卵である君たち三人でも、充分討伐できるだろう」

 

 ザイルはまたセイブンに質問する。

 

「機関長。もし自分たちが討伐に失敗した場合はどうすればいいのでしょうか? いや、討伐する自信はありますが、魔物が逃げるという可能性もあります。そういった時は?」

「ああ、勿論その可能性も考慮している。君たちの合否判定役として、そこのサリー君を同伴させるつもりだ。彼女もスレイヤーでね、特に封印系の魔法に詳しい。君たちが倒せなかった場合は、彼女が代わりに再封印する」

 

 しかし、ほっとするザイルに釘を刺すようにセイブンは言った。

 

「だがそうなった場合は恐らく、高確率で君たちは不合格だ。それだけは忘れないようにしたまえ」

 

 顔を引き締めるザイルとミレイユに続き、ヴィオラも唾を飲み込む。

 

「では、今から入学試験を開始する。諸君らの健闘を祈っているよ」 

 

 セイブンの激励と共に、入学試験はスタートした。

 

 ヴィオラ達はサリーに連れられ、機関内にある転移魔法の部屋まで行き、並んで魔法陣の上に立つ。

 

「……なんだか緊張するなぁ」

「大丈夫だ、三人力を合わせれば何とかなる。そうだろ、ミレイユ?」

 

 冷や汗をかくヴィオラをザイルは宥めつつ、ミレイユに話しかけるが、しかし。

 

「私は一人でやれる。邪魔だけはしないで」

「なっ」

 

 もう学園の同級生ではないから、とばかりにタメ口で冷たい態度を取るミレイユに、ヴィオラとザイルは絶句する。

 

「そんな言い方はないんじゃ……!」

 

 ヴィオラが言い返そうとしたその時、三人は眩い光に包まれてサリーと共に転移した。

 

 ― ― ― ― ―

 

「うわっ!?」

 

 ポンッ、とどこかから放り出されるような感覚と共に、ヴィオラは地面に転がった。

 上を見上げると、突き抜けるような青空が広がっている。

 

「転移完了です。すみません、ここの転移魔法陣は少し特殊だということを言い忘れていました」

 

 若干焦りながらサリーはヴィオラを起こす。

 ザイルとミレイユは何事もなかったように立っているのを見ると、どうやらヴィオラだけが転がったらしい。

 でもなんで地面に転がるようなことに……と立ち上がりつつ周りを見ると、ヴィオラたちの近くにある一本の大木に、転移魔法陣が刻まれていた。

 

「あの木から出てきたってことですか?」

「えぇ。昔からあるものなんですが、何故か木の側面に彫られているんですよね。たまに転がる人が出ます」

 

 服に付いた土をヴィオラがパラパラと払い終えるのを、サリーは眼鏡を拭きつつ待つ。

 やがてそれが終わると、四人は歩き始めた。

 

「近くに冒険者たちで出来た、小さな村があります。そこに住む冒険者たちが封印を管理しているので、まずはそこまで行きましょう」

 

 四人が歩き続けること二十分と少し。

 ヴィオラたちの眼前には、質素な外観の村があった。

 

「ここです。ノエン村、と言うらしいです」

 

 村の門番をしている冒険者にサリーが一言二言話すと、冒険者は快く村の中へと四人を通してくれた。

 公爵令嬢であるヴィオラにとっては、このような小さな村に入ることは初めてだった。

 粗末な作りの木造家屋がぽつぽつと建っており、洗濯中の主婦や追いかけっこをする子供たちがちらほら見て取れる。

 

 四人はジロジロと村人から見られつつも村の中を歩き続け、やがて一軒の家の前で立ち止まった。

 ノックをすると、一人の中年冒険者の男が扉を開けた。

 ぼさぼさの髭が特徴的なその男は、少し不審な目で四人を見る。

 

「失礼します、スレイヤー機関の者です。封印の祠についてお話があり、参りました」

「……おぉ、そうですか。どうぞ上がってください」

 

 四人の身分がわかったことで、若干男の顔は優しくなる。

 

 家の中へ通されたヴィオラたちは、それぞれ椅子へ座……ろうとしたが全員分の椅子はなかったようで、まずサリーが座り、ジャンケンに勝ったザイルとミレイユがもう二脚に座る。

 ヴィオラは三人の後ろで立つことになった。

 ザイルは気まずそうにヴィオラを見る。

 

「……す、座るか?」

「い、いいよ。私は疲れてないから」

 

 ハハハ、と苦笑しつつヴィオラは肩を落とす。

 黒牢が少しおかしそうに口を開いた。

 

『お前、もしかしてくじ運とかも悪いタイプか』

『聞かないで……』

 

 そんな会話をしている間に、男は四人に向けて名乗った。

 

「自分はリジン・スーヴィ。ここの村長兼、冒険者たちのリーダーをやっています。封印の祠は、私が村長に就任してからも依然変わりないですが……今回は何の御用で?」

「はい。ここにいる三人が、今度スレイヤー機関に入学する予定でして。封印により弱体化しているだろう、という上の判断から『入学試験で祠の魔物を討伐する』という任務が出たのですよ。申し遅れましたが、私はサリー・ルールス。この三人の引率役です」

 

胸に手を当て、サリーは座ったまま軽く礼をする。

 

「はぁ、そうですか。ただこの村にいる者たちは全て、祠の監視のために集まった者たちなのですが……封印された魔物が倒された後の食い扶持は、ある程度保証していただけるんでしょうか?」

「仰る通り魔物討伐後はしばらくの間、機関が村の冒険者さんたちのサポートをする予定です。そういうことなので、魔物討伐を了承していただけますか?」

「よし、それならわかりました。ご案内します」

 

 その時、ドアが開いて一人の少年が飛び込んできた。

 

「父さん、珍しい色のトカゲ捕まえた!」

 

 大体十歳ほど……ヴィオラの前世で言うと小学四年生ぐらいの少年は、その手に鮮やかな黄色のトカゲを握っていた。

 その少年の顔を見て、リジンはため息をつく。

 

「カイ、頼むからトカゲ獲りは辞めてくれと言ったよな? 父さんはトカゲ系ダメなんだよ」

「そうは言ってもこれ! 所々まだら模様になってる! 市場持ってったら売れるよコレ!」

 

 カイと呼ばれた少年は父親に駆け寄り、その頬にトカゲを押し付ける。

 

「だわーっ! わかった、わかったから押し付けないでくれ気持ち悪い!」

 

 その様子を見たヴィオラは思わずリジンに尋ねる。

 

「息子さんですか?」

「あ、ああ。カイと言います。今は出かけてますが、妻と三人で暮らしているんですよ」

「父さん! この人たち誰なの!?」

「この人たちはスレイヤー機関の人だ。今は父さんの上司みたいなもんだよ」

「へぇー」

 

 カイは珍し気にジロジロと四人を見る。

 すると、その視線はミレイユの所でピタリと止まった。

 少し鬱陶しそうにミレイユは聞く。

 

「……何?」

「お姉ちゃんだけ、なんだか元気なさそうだなーと思って」

「別に。普通よ」

 

 そっけなく言葉を返すものの、少しだけどぎまぎしているミレイユにヴィオラは驚く。

 どうやら子供相手だと、どうやって返事をしたらいいかイマイチわからないらしい。

 

「さぁ、では祠まで行きましょうか」

「父さん俺も行く! 祠の近くで虫取りするんだ」

「ダメだ。今からこの人達は、祠に封印されている魔物を倒しに行くんだ。危険だから家にいなさい」

「えー。じゃあさ、祠まで一緒に行くだけ行く。見送りだよ。いいでしょ?」

「……はぁ、しょうがないな。それじゃあ祠まで行ったら、すぐ帰るんだぞ?」

「よっしゃ! 早く行こう!」

 

 ヴィオラたちの前をぴょんぴょん飛び回るカイの姿に、少しだけヴィオラの頬は緩む。

 リジンは四人に謝った。

 

「すみません。育ち盛りなのか体力が有り余ってるらしくて……一人だとすぐ危ない真似をするので、普段は妻や息子の友達に任せてるんですが。すぐ帰すので、連れて行ってもいいですか?」

「えぇ。どうせ封印を解除するにも、ある程度時間がかかりますし。その前に帰ってくれるなら構いません」

「ありがとうございます」

 

 そのようなやり取りの後、ヴィオラたち四人とリジン、それにカイの六人は祠へ向かうことになるのだった。

 

 ― ― ― ― ―

 

 「こんなところにあるんですか、祠って」

 

 目的地までたどり着くと、ザイルはリジンに聞く。

 ヴィオラたちの目の前に広がっているのは、荒々しい岩場だった。

 かなり広いのだが、奥へ行くにつれて足場が少しずつ狭くなっている。

 

「えぇ、ここの最奥です」

「よっ! ほっ!」

 

 ヴィオラたちが歩く前を、カイは岩場を飛び移りながら移動している。

 運動神経は中々良いらしい。

 岩場に到着してからさらに数分ほど歩くと、小さな石造りの祠が見えてきた。

 

「あそこですね。なんでこんな場所に封印したのかはわかりませんが、自分たちはアレを守って生活しているわけです」

 

 祠の前にヴィオラたちは並ぶ。

 カイも岩場から地面に着地し、祠を物珍し気に眺めていた。

 そんなカイに、リジンは諭すように言う。

 

「さぁ、祠に着いたんだ。お前はもう帰りなさい」

「えーやだよ。ここまで来たら俺も討伐見たいよ!」

「バカなこと言うんじゃない! 怪我でもしたらどうするんだ、先に帰っておくんだ」

「ちぇっ。じゃあね、お姉ちゃんたち」

 

 リジンに怒られたカイは不満そうに、来た時と同じように岩場を飛び移りながら帰っていった。

 

「ホントすみません。うちのバカ息子が」

「……いえ。お父さんが構ってくれるのは、カイ君も嬉しいと思いますよ」

 

 頭を下げるリジンに、意外にもミレイユが声をかける。

 ヴィオラとザイルは目を丸くしてミレイユを見つめた。

 

「何よ」

「いや、そういうところもあるんだなぁと思って」

「案外子供には優しいんだな」

「……別に。どうでもいいわ」

 

 サリーは祠の前に膝をつくと、懐からチョークを取り出した。

 

「では皆さん、これから封印を解除していきます。いつでも魔物に襲われてもいいように、準備しておいてください」

 

 その言葉を聞いたヴィオラたちは、それぞれ気合を入れ直す。

 リジンは邪魔にならないように、と少し後ろへ下がっていった。

 

『いよいよ初任務か。腕が鳴るな』

『そうだね、頑張らないと』

 

 ヴィオラは黒牢を抜き、ミレイユは持っていた剣を構える。

 ザイルは籠手を装備した両手を上げ、ファイティングポーズを取った。

 ドラゴンと戦っていた時も素手だったが、どうやら徒手空拳が得意らしい。

 ピリピリとした空気が辺りに漂う中、しかし。

 チョークを用いて祠に紋様を書こうとしたサリーの手が、途中でピタリと止まった。

 

「サリーさん、どうかしたんですか?」

 

 様子のおかしいサリーに、黒牢を持ったままヴィオラは近づく。

 サリーはとめどない汗を流しながら、震える声で呟いた。

 

「封印が、既に解けている……!?」

 

 瞬間。

 後ろから殺気を感じ、ヴィオラたちは一斉に振り向く。

 そこには。

 

「よう。少し来るのが遅かったな」

 

 そこにはカイを小脇に抱えた、全身黒ずくめの騎士が立っていた。

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