旅立ちと言えば寝坊
「数々の強豪トレーナーを打ち倒し、見事優勝を掴み取ったのはサトシ選手!!!みなさん盛大な拍手をー!!!!!」
海を越え、山を越え、そして液晶を越え、見る者全てを魅了する少年の姿がそこには映し出されていた。
「うおおおおお優勝した!すっげえ!!!」
おれがずっと応援していたサトシ選手の優勝、しかも世界チャンピオンとなった姿におれは感極まって大声を上げた。
興奮のあまり体を動かさずにはいられない。明日は待ちに待ったトレーナー試験だというのに、そんなことも忘れて奇怪に部屋を飛び回っていた。
「そうだ録画!……録れてる〜よかったぁ〜、あそこどうなってたか見返したかったんだ!」
生中継が終わるや否や、対戦の見返しをするほどに少年はポケモンバトルが好きだった。
時間も忘れ何度も何度も繰り返し、ノートに殴り書きするのだった。
「ママー!なんで起こしてくれなかったんだよー!」
当然のように寝坊してしまった。あれほど夜更かししていては仕方ない。
でも起こしてくれたっていいじゃん!反抗的な目を向けると当のママはあらあらなんて擬音を撒き散らしながら鼻歌を歌っていた。
「ちょっとぐらいいいじゃないスグル、今日からしばらく会えないんだし、ママ寂しいわ〜」
「あー!もうバス来ちゃう!ごめんご飯食べれない!」
リュックよし、スマホよし、ノートよし、水筒よし、髪は……ちょっと跳ねてるけどまあいいや。
慌てて支度を終え、靴を履いていたら聞き馴染みのない声で止められた。
「スグル、これから先大変なことが沢山あると思うけど、絶対に折れちゃダメよ。でももし辛くなったら言うのよ、ママはいつでも帰りを待ってるから」
そこにはいつものゆるふわなママは居なくて、真剣な目でおれを見つめるママが居た。
だからおれもそれに応えるように大声で──
「いってきます!!!」
やっぱり慌てて飛び出した。緩やかに閉まっていくドアからはいつも通りのゆるふわなママの声が聞こえた。
「……待ってくださーい!乗ります!乗ります乗ります!」
間一髪、全力でアピールするとバスは止まってくれた。
「っぶねぇ、ギリセーフ……」
遅れて来たおれに大量の視線が突き刺さり、まるで針の筵を通る気持ちで空いている奥の席に座った。窓際が空いていたのはラッキーだった。
一息ついて辺りを見渡して見れば、乗客はみんなおれと同じ10歳ほどの子供だった。
10歳……それは自分のポケモンを持つことが許され、旅に出られるようになる年齢だ。ポケモンを持つことはおれにとってずっと憧れていたポケモントレーナーへの大きな一歩なのだ!
今こうして乗っている全員がポケモンが好きでトレーナーになりたいんだ……そう思うと言いようもない高揚感が体を突き抜けた。
ゆくゆくはここにいる全員とポケモンバトルするのかな。
みんなどんなポケモンでどんなバトルをするんだろう。それを考えているだけであっという間にバスは止まった。
「さ、みんな降りて降りてー」
運転手さんに言われるがままバスを降りると、そこには巨大な山……いや遠くには海、洞窟なんかも見えた。
そしてそれら全ては囲われており、目の前に立ちはだかる門が雄々しく自己紹介してくる。そう、ここが──
「明日からみんなが試験を受けるトゥルー学園だよ!」
おれのポケモントレーナー生活が始まる……!