ポケットにあかいいと   作:奈火騎士

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まだ見ぬ明日にりゅうせいぐん

 

 

 あぁ、やっぱり──

 

「ポケモンバトルは楽しいなぁ……」

 

 ねんりきとテレポート。ラルトスを支える生命線を攻略され、絶体絶命の危機に陥っているこの状況で、いつしかおれは笑っていた。

 

 持ちうる全てを出したと思えば簡単に上回ってくる。

 最強だと思っていたものが予想外の方法で破られる。

 問いを投げれば答えが返ってくる……そんなポケモンバトルが好きだ。

 

 なればこそおれも返さなければならない。アンナとミミロルが示したように。

 予想を上回る攻略法ってやつを……!

 

 

 おれは頭の中にあるポケモン図鑑を開く。ラルトスが将来覚えるであろう技、進化までの道筋、沢山の情報が溢れ出してくる。

 しかし、そのどれもが無駄な情報だ。おれのラルトスはねんりきとテレポートの2つの技しか覚えてないし、進化なんてもっと先の話だ。

 おれはポケモン図鑑を閉じた。

 

 

 無駄な情報を漁っている間にも状況は刻一刻と変わる。本来ならば考えている時間などない。

 しかし、今回に限っては少し事情が違った。こちらが動かなければミミロルが攻めてこないのだ……恐らくねんりきは見切れるが、それはよくよく注視していないと難しいものなのだろう。今も試合開始直後と同じように歩いて様子を見ていることからそう考えられる。

 そして試合が動かなくとも攻めてこないということは、アンナはこの動きを最強だと思っていることに他ならない。

 

 

 続いて幼少の頃より書いてきたポケモンノートを開いた。戦術からトレーナーの個性まで書き記しているこのノートなら何かヒントがあるかもしれない……そう思いカルネさんのページを開いてみた。

 『カルネさんとサーナイトは阿吽の呼吸で、全ての攻撃をひらりと優雅に躱し、強力な遠距離攻撃を叩き込むことで相手を倒す』

 ……おれはそっとノートを閉じた。何一つとして参考にならなかった。

 

 

 頭にある知識は全てゴミ同然だった。遠距離技は封殺されていて、受けに回ればスタミナ切れが待っている。

 ハッキリ言ってかなり詰んでいるように感じられる。同じように考えているからこそアンナも現状維持をし続けているのであろうが。

 

「どうするん?このまま行ったらうちが勝つ、攻めな始まらんでー」

 

 いい加減退屈になってきたのだろう、挑発に乗って攻めたところを狩り取ろうとしているのが見え見えだ。

 

 いや……?待てよ?

 

「あーもう!そっちが攻めないならこっちから行く!」

 

「ヤケになるのはあかんで、それじゃうちには勝てへん」

 

 挑発が効いたフリをすればアンナはため息混じりに諭してきた。

 

 何も策がないわけではない、おれは一つの可能性を思い描いていた。しかし、それは出来るかわからない、頭の中を探ってもそんな事をしていたトレーナーは思い当たらない。博打に等しい選択肢だった。

 

 ──いや、そんなものは要らないか。

 

 知識も常識もなにもかもおれ達を足止めする錘でしかない。

 ラルトスはこう戦うべきだ、普通ならラルトスはそんなこと出来ない。そうした思い込みや固定観念から抜け出すんだ。

 おれとラルトスならもっと遠くに羽搏いていける。もっと先にいける。

 

「行くぞラルトス!テレポート!」

 

 誰が下がれと言った、誰が距離を取れと言った。……そんな後手後手じゃああいつ(アンナ)には届かない。

 おれのラルトスは──前に飛ぶぞ。

 

「ねんりき!」

 

 ミミロルの目と鼻の先に突然現れたラルトスがねんりきを構える。

 ゼロ距離で打たれたねんりきは驚きのあまり間抜けな顔をしたミミロルに直撃した。

 宙に浮いたミミロルを勢いよく地面にたたきつける……ラルトスの黄金パターンだ。

 

「はぁ!?なんやそれ!」

 

 さっきまで余裕の表情を浮かべていたアンナの顔が驚愕に崩れる。

 最強だと思っていたものは予想外の方法で破られる。おれがここ数日で学んだことだ。

 

 おれが立てた作戦は至ってシンプルだ。遠距離から打つねんりきが突破されるなら至近距離で打てばいいじゃない。マリーアントワネットもビックリの脳筋戦法だ。

 

 当然、何度も通じる戦法ではない。トレーナーからの指示で相手にも意図がバレるからだ。

 しかし、おれとラルトスなら話は別だ。テレパシーを持つサーナイトのように細かく指示を飛ばす事は不可能だが、大雑把なイメージならおれが念じ、ラルトスが望めば伝わるのだ。

 

 故に──

 

「ラルトス!」

 

 おれが叫ぶと同時かそれより一瞬早くラルトスは飛んだ。

 不可避の速攻となったねんりきをミミロルはどうすることも出来ずに被弾する。

 二度の直撃、恐らく次で倒せるはずだ。

 

「ミミちゃん!」

 

 アンナの悲痛な叫びが響き渡る……恐らくここまで一方的な展開は初めてだったのだろう。顔からは笑みが消え、汗が頬を伝っている。

 

「トドメだ!」

 

 考えさせる暇など与えない。またしてもおれが声を出すよりも早くミミロルの背後に飛んだラルトスはねんりきを放った。

 初見殺しに次ぐ初見殺し、先ほどまでとは違い背後に現れてからの一撃は完璧な形でミミロルの背中を捉えたはずだった。

 

 ミミロルにとって死角であるはずの背後からの一撃をミミロルは最小限の身の捻りで避けて見せた。

 

「……ッ!今や!がむしゃら!」

 

 くるりと回転したミミロルは流れるようにラルトスへとがむしゃらを叩き込む、一戦目と同じように。

 

「テレポート!」

 

 一戦目と違う点があるとすれば今回はおれがキチンと見ていた事とラルトスの体力にまだ余裕があった事だろう。

 がむしゃらは綺麗に喰らってしまったものの追撃の飛びつきはテレポートによって拒否することに成功し、事なきを得た。

 

「大丈夫か!ラルトス!」

 

 ……きゅりぃ!

 

 手痛いダメージを喰らってしまったもののまだラルトスからは闘志を感じられた。

 

「ミミちゃん!?…………そっか、せやな!まだ負けてへん!」

 

 一方のアンナはミミロルの気迫に当てられ、笑みを取り戻していた。

 側から見ていたアンナですら口を開けて見ているだけだった不可避の速攻を、ミミロルは三度目にして対応して見せた。

 二度の直撃を受けたミミロルが土壇場で出した答えは、気配を感じてからの対応。目を瞑り、ラルトスが姿を現したことを気配で察知してからの回避……超人的な反射神経と現れたラルトスの位置からねんりきの位置を計算し、的確に避ける脅威的な計算能力が不可避と呼べる攻撃の攻略を成功させた。

 

 ……間違いなくこの場で1番ヤバいのはミミロル。全員の心の中で意見が一致した瞬間であった。

 

 

 

 お互いあと1発直撃すれば終わりそんな状況となり、独特な緊張感が場を支配していた。

 勝負は一瞬。トレーナーがほとんど関与できない反応の世界。

 一歩でも動けばヤられる……!そう思わせるほどにミミロルは集中していた。

 

 そんな静寂を破ったのはもちろんおれだった。

 

「いくぞ!!!」

 

 精一杯の大声でラルトスを鼓舞する。おれ達トレーナーにとってはもはや祈る事しか出来ない。

 

 ミミロルの背後に突如としてラルトスが現れる。当たり前のように……いや、さっきより数段早く反応し、ミミロルは回避と同時に攻撃に転じる。

 体を捻りながらの蹴りには遠心力が乗り、当たれば一撃でラルトスを倒す威力が見て取れた。

 しかしラルトスはなにもしていなかった(・・・・・・・・・・)。予想より数倍早く目の前に迫る蹴りをテレポートで避ける。

 

 トレーナーは祈る事しか出来ない……しかし、ラルトスにとっては違った。

 スグルから受け取るなんとなくのイメージで、ラルトスはミミロルにとって今最も来て欲しくない場所、ミミロルの真下に飛んだ。

 

「いっけええええええ!」

 

 ラルトスはねんりきを使い、己の腕を操った。サイコパワーを乗せたその一撃はかろうじて反応したミミロルの耳と衝突し、爆発を起こす。

 

「ミミちゃん!」

 

「ラルトス!」

 

 立ちこめる煙も無視してラルトスの下へ駆けつける。

 

 きゅりぃ……!

 

 勝ち誇るような鳴き声と共に煙は晴れ、咳き込みながらも堂々と立つラルトスと全身ボロボロで地に伏し目を回すミミロルの姿があった。

 

「勝った!勝ったぞラルトス!!!おれ達の初勝利だー!!!」

 

「うちらの完敗……やね」

 

 

 初めての勝利はおれの目の前を色鮮やかに彩り、ラルトスがいつもより数段愛おしく見えた。

 

 ──現在の所持金、2088円。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気合いでもぎ取った一勝はおれ達に試験通過の権利を与えた。

 ついに跨ぐ事が許されたおれは晴れてゴール出来た。

 下から見ても立派だった塔は実際に登ってみると、眼前に広がる景色にその偉大さを感じさせる文句のつけようのないグレートなタワーだった。

 

 最上階からは月が随分と身近になり、手を伸ばせば届きそうな雰囲気すら感じた。

 

「随分長い間バトルしてたんだな、おれ達……」

 

 アンナとバトルする前は一番星しか見えなかった夜空が、今となっては百点満天の星空へと進化していた。

 

 試験を完走した余韻に浸っていると不意に水を差された。

 

 ぎゅるるるるぃ〜

 きゅるる〜

 

 忘れないで欲しいとばかりにお腹から大きいデモの声が聞こえてきた。

 思えば三日間なにも食べていない、そりゃあ大規模なデモの一つや二つ起きるというものだ。

 

 おれ達は無粋なデモ隊を落ち着かせるために食料袋を取り出した。ほとんどはラルトスが平らげており、袋の底にぽつんと残っていたおにぎりを二つに分けて食べる事にした。

 

 おにぎりはこの学園仕様でとてもデカかった。二つに割って尚一口に収まらないその巨体は、味の方もぎっしりと詰まっており、噛めば噛むほどに甘みが口の中いっぱいに広がり、食べ応えのあるスイーツと言われても納得するほどであった。

 ぎっしり詰まっているもののその病みつきになる甘さとモチモチの食感でいつまでも噛んでいたい、そんな一品だった。

 

 甘いお餅のようなおにぎりはラルトスに大好評で、おれが食べ終わってからもしばらくの間一心不乱にかぶりついていた。

 

 

 

 

 

 憧れていた時はバトルの世界が言いようもなく煌びやかに見えたけど、こうして満天の星空の下で美味しそうにおにぎりを頬張るラルトスを眺めることが今のおれには何より輝いて見えた。

 

 こんな日々がずっと続きますように。ラルトスがずっとお腹いっぱいご飯を食べられますように。

 

 

 





                                              拝啓

                     ママへ

            おれは元気にやっています

          試験の成績は最下位だったけど

              無事に合格できました

       試験中、何度も挫けそうになったけど
                               それでも頑張っていたら最高のパート
       ナーに出会えました

       ママの知ってるおれはバトル好きの男
       の子だと思うけど

       この試験を通してポケモン自体がもっ
       ともっと好きになったよ

       旅に出る地方が決まったら家に一度帰
       ります

       その時にでもおれの最高のパートナー
       を見て欲しいな


気をつけて帰ってくるのよ

何か食べたいものとかあるかしら?

       
                    カレー!
   
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