ポケットにあかいいと   作:奈火騎士

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ついに旅に出ます、今回から原作キャラとの絡みが増えてくれる……はず。


旅はみちづれ世はてだすけ
これもまたイッシュのテロ


 

 

 スグルとラルトスは窓から広がる絶景に食いつくように見入っていた。

 ガラス越しに広がるはどこまでも続く雲海、何を隠そうここは雲の上……空を泳ぐ飛行船は彼の地を目指していた。

 

 

 

「うおおおおすごいぞラルトス!これ全部雲だぜ!?」

 

 おれ達は今、絶賛雲の上にいた。

 トレーナー適正試験になんとか合格することが出来たおれは、どの地方に旅に出るべきなのか決めあぐねていた。

 アンナ、先生、昔トレーナーだったママに意見を仰ぐと、口を揃えて雰囲気が好きという理由だった。

 

 数日前までバトルのことしか頭になかったおれにはなかった視点だ。

 さっそく各地の資料を取り寄せ、街の景観から人とポケモンとの距離感など色々調べた。

 ……その結果、おれ達は雲よりも高く飛ぶ飛行船に生まれて初めて乗っていた。行き先はイッシュ地方。

 

 近年、ポケモン解放活動があり、他の地方とはポケモンとの距離感が違い、独特なのが特徴だ。

 なんでもポケモンにも人権を認めようだとか労働するポケモンにも給料をだとか何かとポケモンと人の在り方を追求するような話題が尽きない。

 変わっているのは人だけじゃない。高いビルが立ち並ぶそのすぐ近くに大自然があったりと相反するものが密接に繋がり共存している。

 

 ……歪なもの同士が尊重しあい共存する。イッシュ地方とは多種多様な在り方が一つに共存し、まるで一種のようだ。そんなところから名前が付いたらしい。

 

 そんな全てを受け入れるイッシュという地方におれは惹かれて来たんだ。機内の窓から広がる見たこともない景色が、今まさにイッシュの地に近づいていることを意識させてくれる。

 

 

「そうだラルトス!そろそろお腹空いてきただろ?どれ食べたい?」

 

 機内食というにはなかなかに豪華なメニューにラルトスは釘付けとなり頭を悩ませた。

 

 きゅりぃ!

 

 答えが出たようだ、手元の呼び鈴を使ってCAさんを呼ぶ。

 

「すみませーん、これ2つください」

 

「少々お時間かかりますがよろしいですか?」

 

 言うまでもない、美味い料理のためなら何時間だって待てる。ラルトスもこくりと頷いた。

 

「かしこまりました」

 

 

 

 

 ……なんだか飲食店みたいだったなぁ。CAさんとのやり取りを思い出しそんなことを思う。ラルトスもそう思ったのか腕を組んで頷いている。

 

 地獄のトレーナー適正試験を終えてからというもの、ラルトスに少し変化があった。

 おれの行動を真似することが増えたのだ……より詳しく言うなればラルトスとおれのシンクロ率が上がっていた。

 ラルトスとイメージの共有を行ってからというもの、ラルトスにはおれが何を考えているか筒抜けのようだ。

 心の中が筒抜けというのは怖いものだが、見られているのがラルトスとなれば不思議と嬉しいという気持ちすら湧いてくる。

 

 きゅりりぃ!

 

 ラルトスも嬉しかったのか手をあげて喜んでいる、なんだこのかわいい生き物は。

 

 ラルトスと戯れていると鼻を独特な甘い匂いが襲った。

 

「お待たせいたしました、こちらトロ〜りハチミツ香るポケットサンドです」

 

 CAさんが持ってきたのは、赤と白で彩るりんごときつね色にこんがり焼き上がった肉を挟み込んだポケットサンドだった、

 そして目と鼻を引くのはなんといってもポケットサンドの上に豪快に垂らされたハチミツの存在だった。

 

「すんごい甘い匂い……」

 

 肉が入ってるとは思えないほど甘い匂いが漂っていた。待ちきれないとばかりにラルトスが手を合わせたのを見ておれも手を合わせる。

 

「いただきまーす!!!」

 

 きゅりぃ!

 

 最初に飛び込んできたのはもちろんハチミツ、独特な甘みが口いっぱいに広がる。

 ワンテンポ遅れてハチミツによって覆われていた肉とりんごがサンドイッチの柔らかい生地と共にやって来た──

 

「肉の甘みが絶妙にハチミツと絡み合ってすげーうまい!なんだこれ……ガツンと来るかと思いきや肉の塩っけとりんごのシャキシャキ感が相まって甘ったるくもなく後味はむしろスッキリとしている!?これは、これはー!合うなぁ……」

 

 思わず立ち上がって叫んでしまった。それほどまでに衝撃を受けていた。

 正直言ってスイーツの代表とも言えるハチミツとガッツリ食べたい時No.1食材の肉が合うなんてこれっぽっちも思ってなかった。

 ポケットサンドのかわいらしい形状とりんごとハチミツの鮮やかな見た目からは想像できない……昼食に適した料理だった。

 

 あまりの衝撃にぼっ立ちしていると、つかつかと足音をたてて桃色の髪をした太眉が特徴的な人がやって来た。

 その人はおれの前で立ち止まるとわなわなと震え出した。

 

「急に大声を出して周りのお客さんを困らせる。そういうのよくないと思います!」

 

 彼女は腕で大きくバッテンを作ると高々とそう言い放った。しかしその口元は緩み切っていてよだれが溢れていた。

 もしかして食べたいのか──ラルトスもそう思ったようで、半分ほど残っているトロ〜りハチミツ香るポケットサンドを差し出した。

 

「えっと……食べるか?」

 

「ブブーッ!わたしは今!『迷惑』の話をしています!」

 

 話を変えようとしたことが気に障ったのかぐいっとこちらに乗り出して来てバッテンを強調してくる。

 しかし身を乗り出して来たために彼女はその独特な甘い匂いを鼻にダイレクトで受けてしまった。

 

「……でもいただきます」

 

 彼女の意思は石ころよりも脆かった。見た目からは想像できない大口を開けると一口でパクッと食べてしまった。

 彼女は再びわなわなと震え出し、目を輝かせた。

 

「お肉が入っているのにとってもかわいい味!りんごの甘みとハチミツの甘みがサンドイッチ生地と最高のコラボレーションを発揮して……合いますね」

 

 思わず叫んでいた。彼女は途中で冷静になったのか恥ずかしそうに合うと締め括った。

 仕方ない、このポケットサンドを食べれば誰だって驚きのあまりこうなってしまうのだ。

 恥ずかしがる彼女を慰めていると、不意にじゅるりと音がした。誰が鳴らしたのか、はたまた幻聴だったのか。

 その音を皮切りに次々に呼び鈴が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 その日、2人の飯テロリストによってハイジャックされた機内では、トロ〜りハチミツ香るポケットサンドが売り切れたそうな。

 

 

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