──まもなく、イッシュ地方。これより着水します。少々揺れますので乗客の皆様は席を立たないよう、お願いします。
飛行船は飛沫をあげ着水し、空の旅はあっという間に終わりを迎えた。
飯テロ事件によって機内に充満した様々な食欲を唆る匂いに耐えるのもここまでだ。
はじめての場所、はじめての風の匂い。おれはついにイッシュの地に降り立った。
「おっ、雲も晴れてきたな!まるでおれ達を祝ってるみたいだなラルトス」
きゅりぃ〜!
新天地におれもラルトスも胸が高鳴る。兼ねてより夢に見たパートナーとの旅、わくわくドキドキするなって言う方が無理な話だ。
さてまず目指すは──
「楽しそうですねスグル君、ようこそイッシュ地方へ!あなたを歓迎します!」
「そっか、タロはイッシュ出身なんだっけ?」
「そうですね、一度言ってみたかったんだこういう待ち受けてます!ってセリフ」
なんちゃって。そう照れ臭そうに笑う彼女はタロ。同じ飯を食べたもの同士、すっかり意気投合して今に至る。
タロはブルーベリー学園という海上学園の生徒らしく、休学して帰省しに来たんだそうだ。
理由ははぐらかされたが、おれがジムバッジを集めてチャンピオンを目指して旅をすると明かせば、ウッキウキでついて来た。
「あっ、なんだったらわたしが案内しようか?こう見えて結構詳しいんだよ?」
右も左もわからない
「ごめん、最初に行く場所は決めてるんだ。ヒオウギジムに挑戦するつもりでな」
「珍しい!サンヨウジムじゃないんですね」
まるで初めてフラれたとでも言わんばかりにショックな顔をしたタロはそんな事を言った。
たしかにカノコタウンからまっすぐ行けるサンヨウジムが駆け出しのトレーナー御用達ということはおれでも知っている。
「あぁ、おれはトレーナー適正試験を受けていて既にパートナーがいるからアララギ博士に用がないのもあってな」
「その子……ラルトスちゃんでしたっけ?スグル君のパートナーだったんですね〜かわいい!!!」
タロはドヤ顔をするラルトスを持ち上げ持て囃した。
まあ、理由はそれだけじゃないんだけどな。実は飛行船に乗ってる時にママからメッセージが来ていた。
なんでもヒオウギジムリーダーのチェレンはバトルが好きなおれにとって面白い事を教えてくれるとか……そんなことを言われては一刻も早く知りたくなってしまうというものだ。
「あっ、でもここからヒオウギはちょっと遠いですよね?車呼びましょうか?」
「え?」
おれがマップを見て顔を百面相させているとタロはすごい事を言い出した。
「もしもし、パパ?今わたし友達とイッシュに帰って来たんですけど、その友達がヒオウギに用があるんです。ちょっと遠いので車に乗せて行ってあげたいんです!だめですか?」
驚いている間にもあれよあれよと話は進んでいく。バッジ集めの旅とはいえそんなに急ぐつもりもなかったのだが、気付けば黒塗りのオープンカーがこちらに走って来ていた。
「はやっ!?どうなってるんだ?」
「あはは〜、まあちょっと」
タロは舌を出して冗談っぽく笑う。飛行船の中でも見たはぐらかす時の仕草だ。そういうのよくないと思います!
大きくバッテンでも作りたい気持ちだったが、あっという間オープンカーはおれ達の目の前までやって来ていた。
「お嬢様……とそのご友人ですね?ヒオウギまでお連れしますので後ろに乗ってください。運転には自信がありますのでお任せください」
運転手は体を筋肉の鎧で覆っていてとてつもなくゴツかった。
しかもお嬢様?タロ……一体何者なんだ……
黒塗りの車にとてつもなくガタイのいい運転手、からのお嬢様呼び……もしかしてヤクザ?
オープンカーに乗るヤクザなど聞いたことがないが、頭によぎった想像を拭うことが出来ず、震えながら車に乗せられた。
…………怖くて聞けねぇ……
イッシュ地方で1、2を争う高さを誇る山が見えてきた。麓に栄えているのが目的地、ヒオウギシティだ。
「見えてきましたね!相変わらず立派な山……」
「お、おう……」
やっと張り詰めた空気の車内から解放される……心なしか空気も美味く感じる。
「着きました、お嬢様。また必要になればいつでも呼んでください!すぐに駆けつけます」
「ありがとうございます!またお願いしますね」
「あ、ありがとうございました……」
なんらかの組を想像してしまう黒い車はおれ達を迎えに来た時同様、あっという間に消えてしまった。
なにはともあれヒオウギシティに辿り着くことが出来た。おれは慣れた手つきでライブキャスターを繋ぐ。
「ママー、ヒオウギシティに着いた」
──あら、随分早かったのねスグル。隣に見えるその子は?
「あーこっちは──」
「初めましてスグルのお母様、わたしタロって言います!」
「飛行船の中で仲良くなったと、友達……」
──タロちゃん!スグルと友達になってくれたのね〜これからもスグルのことよろしくお願いします。
「そんなそんな!こちらこそよろしくお願いします!」
「あーもう終わり終わり!それでママ、言われた通りライブキャスター繋げたけど何の用?」
──そうそう。ヒオウギで是非会って欲しい子がいるのよ。
「会って欲しい子?」
──金髪に緑の帽子を被ったベルって子なんだけど……あっパン焼いてたの忘れてたわ!……まあ後のことは自分の目で確かめなさい!町一番の高台にいるはずだから!それじゃあまたねばいばー──
「あっ、まだ話は──これだからママは……」
ライブキャスターはプツッと音を立てて切れてしまった。
言いたいことだけ好き放題言って切りやがった、なんてことだ。
「ふふっ、素敵なお母さんですね」
「危なっかしいだけだよ……」
昔から楽観的でちょっと忘れっぽくて何度ヒヤヒヤさせられたことか。
それでなんだったか……町一番の高台だったか。きっとここから見えるあの小高いとこがそうだろう。階段も付いてるし。
車に乗ってちょっと電話をしただけなのにどっと疲れが溜まった気がする。
重い体に鞭を打って高台を目指した。
〜車内のタロ〜
「あそこに見えるのが最近流行りの──ってスグル君!?大丈夫ですか!?」
「体もこんなに震えて顔色も悪い……もしかして車酔いですか?」
「あっ、とりあえず水飲んでください!わたしの飲みかけですけど」
「えっなんで余計に震えて!?うわぁ顔が真っ青に!す、スグルくーーーーん!!!」