ポケットにあかいいと   作:奈火騎士

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てかげん無用、きりふだ最強?

 

 

 一夜明け、おれ達はベルに連れられヒオウギジムへやって来た。

 

「おうい!チェレーン!いる?」

 

 オレンジをベースとしたジムは、トレーナーズスクールを彷彿とさせ、初心を思い出させてくれる。

 キッチリと並べられた椅子には珍しく誰も座っていなかった……休業日らしいのだが、ベルはいけるいけると豪語していた。

 

「ああ、ベルか。休みの日に何の用だ?」

 

 チェレンと呼ばれた男はこちらを一瞥し、ベルに対しため息混じりに返事をした。

 シワひとつないスーツに手垢ひとつない赤縁メガネ。その風貌からは彼が真面目なジムリーダーであることが感じられる。

 確か彼は最近ヒオウギシティにジムを作った新米ジムリーダーだったか。

 

「連れてきたよお!チャレンジャー!」

 

「……僕いま言わなかったか?今日は休みだって」

 

「うん聞いた聞いた!それで今日のチャレンジャーなんだけど……じゃじゃーん!スグル君!」

 

「いや全くわかってないじゃ──何?」

 

 一方的に話を展開するベルに彼は頭を抱えた。紛うことなきゴリ押し……おれは思わず彼に同情した。大変だなぁ。

 しかしベルがおれの名前を出すと彼はピタリと止まった。少しばかり考えると素敵な笑みを浮かべてこちらに向き直った。

 

「そうか、キミがスグル君か。話は聞いているよ、早速だがジムバトル始めるかい?」

 

「え?でもいまさっき休日って……」

 

「問題ない。キミと勝負出来る日を楽しみにしていたんだ」

 

 疲れ切った表情から一変して爽やかな笑みを浮かべてこちらに迫ってくる姿に少し恐怖した。

 有無を言わさぬその様子から返事ははいかYESしかないことがわかる。

 しかしバトル出来るならおれにとっても好都合。丁度ママがここを初めのジムとして推薦したワケも気になってたんだ。

 

 力強く頷くことで返事をした。

 

 

 

 

 

 

 校庭。屋内だと言うのに辺り一面に広がるグラウンドにおれとチェレンは立っていた。

 

 白い線で作られたコートは日頃から使われているのだろう、ところどころ掠れていた。

 いざコートに立ってみると妙な緊張感に襲われる。

 

「それじゃあルールを決めよう。スグル君は何体ポケモンを持っている?」

 

「ラルトス1匹です!」

 

 きゅりぃ!

 

「OK、ルールは1体1の真剣勝負。どちらかが戦闘不能になった時点で勝負は終わり。ベル、審判は任せる」

 

「まかされた!」

 

 おれに合わせてくれるらしい、チェレンはモンスターボールを一つ選びこちらに突き出した。

 さあ、何が来る……ノーマルタイプを得意とするジムだ、ここに来るまでで見かけたところで言えばヨーテリーかミネズミか?

 軽くあたりを付けているとチェレンが言い忘れていたとばかりに口を開いた。

 

「キミのことはバッジ一個持ちのトレーナーとして扱っていいと聞いている。僕も全力でいかせてもらう」

 

「……望むところです!」

 

 いけ!ラルトス

 

 いけ!ハーデリア

 

 

 モンスターボールから勢いよく飛び出してきたのはハーデリア。本来駆け出しのトレーナーに出すようなポケモンではない。

 正真正銘、チェレンは手加減する気がない。

 

「ラルトス!ねん──」

 

「先手はもらうよ、ハーデリア!かたきうち!」

 

 こちらの声をかき消してハーデリアがその少し重そうな見た目からは想像できない速度で地を蹴った。

 ほとんど跳躍の域、それが上方向ではなく前方向に跳んだなら……ついしてしまった瞬きの間にラルトスの目と鼻の先まで肉薄していた。

 

 ばうっ!?

 

 間一髪、真正面から直線的に突進してきていたハーデリアをねんりきが捉え、宙へと浮かび上がらせる。

 

「そのまま地面に叩きつけろ!」

 

 体の自由を縛るねんりきは、受け身を許さなかった。

 相手がいくら強くともねんりきはダメージになる。ミミロル(バケモノ)が十分に証明してくれた。

 勢いよく地面に叩きつけられたハーデリアは痛みに顔を歪めながら受け身を取るように遅れて後ろへ飛び退がった。

 

 

 おれの指示を遮る形で指示されたかたきうち。明らかにこっちの方が早く指示していたはずだ。

 それなのにもかかわらず瞬きをすればもう目の前、ねんりきが当たったのもギリギリのところだった。

 

 ──圧倒的な初動の差。

 

 同時に動けば間違いなくハーデリアに軍配が上がる。すごい速度の突進だった、あれを食らえばラルトスはひとたまりもないだろう。

 アンナ戦と同じだ、後手に回れば一瞬で刈り取られてゲームオーバー。だったらおれ達は先手を取り続けるしかない。

 

「いくぞ!ラルトス!」

 

 きゅりぃ!

 

「ハーデリア!とっしん!」

 

 とっしん。助走をつけることで初動の速さは失われるが爆発的な加速と威力を叩き出せる技。完全に一撃で仕留めるつもりだ。

 でもまあ……遅い。ラルトスは既にハーデリアの真横に飛んでいる。

 

「ねんりき!」

 

 サイコパワーを腕に纏った一撃はハーデリアの脇腹を捉え、コートの端まで吹き飛ばした。

 

「驚いた。面白いことを考えるねスグル君」

 

 まるでラルトスの一撃を受けたかのように口をぽっかりと開け面を喰らっているチェレンの姿があった。

 しかしその顔からは未だ余裕が見て取れる。この程度まだまだ平気ということか。

 

「こういうのはどうかな?ハーデリア、かぎわける」

 

「なんの!飛べラルトス!」

 

 かぎわけたからなんだって言うんだ、今度はハーデリアの背後に飛ぶようイメージを送る。

 ラルトスが消える瞬間、おれは目を疑うものをみた。

 

 すんすんと鼻を鳴らし、ラルトスが現れるその瞬間、耳をピンと立てた。

 

「しっぽをふる!」

 

 どこに現れるかわかっていたと言わんばかりにハーデリアは完璧にラルトスのテレポート先を捉え、しっぽをふった。

 

「そのまま捕まえて地面に叩きつけろ!」

 

 本来攻撃技ですらないしっぽをふるは、ハーデリアの尻尾を自由自在に動かし、ラルトスを拘束した。

 ねんりきのお返しとばかりにハーデリア跳び上がり、空中で一回転するとそのままの勢いで地面にラルトスを叩きつけた。

 

「ラルトスー!」

 

「キミがテレポートを攻撃に使うように、しっぽをふるを攻撃に転じてみたまでだ」

「この手は読めなかっただろう?エスパーでも」

 

 なんだこれは……新米だからって舐めていた。今の口ぶりからしてこれは即興。それもバトルで使っているところなんて見たこともないしっぽをふるを織り交ぜて。

 ハーデリアの全てを引き出して瞬時に最善の選択肢を選ぶ……これがジムリーダー、格が違う。

 

 幸いラルトスはまだ戦える、あと一回アレを喰らったらきっと今度はやられる。

 ここは喰らわないように慎重に……これじゃ後手に回って結局はかたきうちを喰らってしまう。

 

 いや、喰らってやられるならむしろ?

 

「ラルトス、いけるか?」

 

 きゅ、りぃ!

 

 覚悟を決めろ、ラルトスを信じろ。初のジムバトルで負けるわけにはいかないだろ。

 

「飛べ!ラルトス!」

 

「どんな手を打ってこようと!ハーデリア、とっしん!しっぽをふる!」

 

 今度は真上に飛ぶ。今まで見た攻撃手段じゃ届かない位置だと踏んでのことだ。

 ハーデリアがすんすんと鼻を鳴らし耳をピンと立てる。

 

「逆立ちだ!」

 

 ハーデリアは助走を走るためではなく下半身を起こすために使った。これで尻尾がラルトスまで届くようになった。

 問題ない、元より通ればいいな程度だった。勝負はここから!

 

 見事に逆立ちを決めたハーデリアはラルトスがねんりきを使うよりも早く尻尾でラルトスを捕まえた。

 こうなってはサイコパワーを扱う関係で集中を求められるラルトスにとって非常に厳しい展開だ。

 

 ……だが、元より被弾覚悟なら。いいや、おれのラルトスなら。

 

 ハーデリアは先ほどと同じように跳び、空中で回転しそのまま地面に叩きつけようとする。

 それはさっき見た。ねんりきを模して地に叩きつけるそれはねんりきと違い、叩きつける瞬間自身がダメージを喰らわないようリリースしていることを確認している。

 

「いっけえええ!!!」

 

 ハーデリアの尻尾から解放され地面と衝突する僅か0.0何秒の間で、ラルトスはテレポートを成功させてみせた。

 飛ぶのはもちろん真上。しつけの悪いハーデリアを黙らせるなら今、空中で無防備なこの瞬間。

 

 精一杯のサイコパワーを纏い、ハーデリアの背中めがけて思いっきり叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はははっ!面白い!流石だスグル君!」

 

 おれ達の全身全霊を込めた一撃は非常にも倒すには至らず、息も絶え絶えながらも立ち上がったハーデリアの姿があった。

 

「スグル君とラルトスのその勇姿に敬意を表して、とっておきを見せてあげるよ」

 

 本当は見せる気がなかったなどと言いながらチェレンはゆっくりと口を開いた。

 

「かたきうち+でんこうせっか……」

 

 ──仇討ち一閃(あだうちいっせん)

 

 一瞬、ハーデリアの体がブレて見えた。かたきうちに非常に似た所作から放たれた神速の一撃は目にも止まらぬ速さで迫り、ラルトスを捉え切り裂くかと思われた。

 

 きゅ……り……ぃ……

 

 反応することも敵わない超速攻撃が眼前まで迫ったその時、奇跡的なタイミングでよろけたことによってラルトスに命中することなく……行き場を失った突進は急には止まれずけたたましい音をあげながらジムの壁に衝突し止まった。

 

 

 

 

 

「え、えーこの勝負!チャレンジャーの勝ちです!」

 

 困惑した様子で審判もといベルの声が響く。

 サイコパワーを使い果たしよろけたことで奇跡的に回避。勢い余ってハーデリアが壁に激突。ハーデリアが目を回しておれ達の勝利ということらしい。

 

「か、勝ったのか……?」

 

「……恥ずかしいところを見せた。だが安心して欲しい、勝ちは勝ちだ」

 

 メガネなのか肌なのかわからないほどに真っ赤になった顔でチェレンはおれに勝ちを告げた。

 

「勇敢な強き者スグル、キミとのバトルは久しぶりに初心を思い出させてくれたよ。本当にありがとう。ジムリーダーに勝った証としてこのベーシックバッジを贈るよ」

 

 初めてのジムバトル、初めてのバッジ。だというのにあまり心が躍らない。

 なんだかなぁ……胸の内から溢れるやるせない気持ちでいっぱいだ。

 もっと華々しく勝利を収めたかった。自信を持って声高らかに旅をしたかった。

 それでもあと一歩。勝ちきれなかったのが今のおれの実力……だから少し苦くてもこのバッジは受け取らないと。

 

「チェレンさん!またいつか!おれが強くなったら勝負してください!」

 

「すまない、煮え切らない勝負をさせてしまったね。その勝負、いつでも受けよう。今度は勝たせてもらうよ」

 

 

 

 初めてのジムバトルはほろ苦い味で心に僅かなシミを作った。

 

 




 バトルの途中に出てきた仇討ち一閃。
 頭にハテナが浮かんだと思いますが独自設定なので安心してください。多分次話で解説が入ります。
 
スグル「えーなになに?『ネーミングセンスが不足していてタイトルやら技名やらでとても時間が取られるので良かったらアイデア投げてくれると喜びます!』だそうだ、まあ気が向いたら助けてやってくれ」

タロ「『ベリーキュートでかわいいタロちゃん
』とかどうですか!?」

スグル「主張強いなおい」
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