ポケットにあかいいと   作:奈火騎士

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びりびりちくちくな出会い

 

 

 窓から降り注ぐ光で、泥のように眠っていたおれは目を覚ました。

 体はすっかり元気を取り戻したが、昨日に比べて一段と軽くなっている腕に違和感を覚えていた……まるで何かが抜け落ちてしまったような感覚に目を遣れば──

 

 

「あれ?ラルトス?どこに行っちゃったんだ?」

 

 ──ぐっすりと眠っていたはずのラルトスの姿が消えていた。

 

 昨日去り際に言われた先生の言葉を思い出し、おれの頭に失格の文字がよぎる。

 どうして……そんな言葉が喉元まで出かけてしまう。

 しかし、よくよく考えて見れば出会った時ラルトスは既に意識朦朧としていたし、目が覚めたら隣によくわからない人間がいる。そりゃあ怖くて仕方ない。

 おれがラルトスの立場なら逃げ出すか……無理やり納得し、切り替えることにした。

 

「別に見返りを求めて助けたわけでもない、逃げ出せるほどラルトスが元気になったならそれでいいじゃないか、うん」

 

 これでいいんだ。わかっている。納得もしている。それでも割り切りきれないポケモントレーナーへの憧れが胸の奥でぐつぐつと煮えたぎっていた。

 

「先生に直談判、してみるかぁ……」

 

 

 

 いつまでもくよくよしていられない……次にやることを決めたおれは歯を磨き、汗か泥かわからないほどベタベタした体を洗い流した。

 そこには先ほどまでの暗い表情はなく、スッキリとした顔があった。

 

「よし!今日も頑張るぞ!」

 

 頬を叩き、気合いを入れ直す。

 そんなやる気漲るおれに水を差す存在が一つ……

 

 ぎゅるるるぅ……忘れていませんかとお腹が大きな声をあげた。元気にデモ活動を始めやがった。

 そういえば昨日はご飯食べてないんだった。

 

「食堂〜しょっ!くっ!どう!」

 

 腹が減っては戦はできぬ……マウンテンカツカレーに想いを馳せ、そそくさと支度をしていれば、ふとベッドの隅からこちらを覗いている存在に気付いた。

 

「なんだ、森に帰らなくてよかったのか?」

 昨日のラルトスが不安そうな顔でこちらを覗いていた。

 ラルトスの体力はすっかり回復し、元気そうには見えるが……土で盛大に汚れた足が昨日の出来事を雄弁に語っている。

 

 どうやら神様はまだおれにチャンスをくれるらしい。

 手を伸ばして見れば、恐る恐るといった様子で手を触り返してくれる。

 

「なんだか握手みたいだな、もしお前さえよかったらおれと一緒に来ないかラルトス」

 

 ラルトスの不安気な色を宿す瞳をおれは真正面から真剣な目で覗き込む。

 今度はモンスターボールを手のひらに乗せて差し出すと、ラルトスはゆっくり、一歩ずつ確かめながらこっちに歩いてくる。

 未だその目は不安に塗れているものの、それでも恐る恐るボールに触れてくれた。

 

 ぼわんと気の抜ける音を立て、空の時から幾分か大きくなったモンスターボールだけが手のひらに残った。

 

 ──今ようやく、おれはポケモントレーナーになれたんだ。

 

 今はただ、ラルトスに感謝を伝えたい。今度はおれがボールに触れ、ラルトスを外に出す。

 先ほどまでの不安の色は無く、不思議そうな顔を浮かべていた。ボールの中で何があったんだろう。

 

「ラルトス、おれと来てくれてありがとう!今日からおれとお前はパートナーになったんだ!よろしくな!」

「ほら、手出して、友達の証」

 

 ラルトスはポカンとした表情をしていたが、感謝と新しい門出の祝いに手を差し出すと、やがて意味を理解したようで今度はしっかりと両手で掴んでくれた。

 

「え、かわいすぎないか?」

 

 自分から仕掛けたものの、あまりの破壊力に思わず声が出てしまう。

 さっきまで普通に見れていたラルトスが、うちのラルトスに変わった途端、急激に愛おしく見えて来た。これが親バカってやつかもしれない。

 

 そんなおれとラルトスの幸せ空間を邪魔する存在が一つ……

 

 きゅるるっ

 

 ラルトスのお腹もデモ活動を開始した。

 

「あっははは、お前もお腹空いてたのか!昨日から食べてないもんな!」

 

 おれ達は共にお腹が空いて空いて仕方なかったらしい、そうとわかればすぐに食堂へ出発だ、ひょいとラルトスをリュックに入れて部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 やって来たのは食堂。変わらず賑やかで美味しそうな匂いがあたりに広がっていた……でも昨日とは大きく変わっているところが一つある。

 机の上、椅子の上、膝の上、地面の上。至る所にポケモンの姿が映えていた。

 

「みんな色んなポケモン連れてるな〜」

 

 森エリアで見かけなかったポケモンが沢山いて、おれにとっては凄くいい眺めだ。一緒にご飯を食べている……それだけで絵になるとは素晴らしいものだ。

 食事という日常の一コマに混ざることで、一気にポケモンが身近に感じられて気分も爆上がりだ。

 

 

 テンションを爆上げしたおれは鼻歌を歌いながら食券機に辿り着く。

 

 さて、ここはやはりマウンテンカツカレーを頼むべきか。

 はたまた、他のメニューを開拓していくべきか。

 おれの頭に二つの選択肢が浮かび、メリットを主張してくる。なんとも選び難い、二つとも悪魔が作った選択肢に違いない。おれは唸った。

 

「そうだラルトス、お前が食べてみたいやつにしよう」

 

 考え抜いた結果、おれは天使に助けを求めることにした。

 リュックを前にかけて呼びかけてみれば、ちょこんと顔を覗かせメニューを隅々まで見ようと背伸びしている。なんてかわいいんだ。

 ラルトスの動きに一喜一憂している間に決まったようだ。ラルトスは短い手を伸ばし一生懸命伝えてくる。

 

「ビリビリエレクトリカルパフェ……パフェね、甘いのが好きなのか?」

 

 丸一日ご飯を抜いたおれにとっては少し物足りないが、朝食としては悪くない。天使様の言う通りに注文する。

 呼び出しを待つ間、ビリビリエレクトリカルパフェについて調べると少し面白いことが書いてあった。

 なんでもあのナンジャモさんが監修したメニューらしい。

 あの奇抜なナンジャモさんだ、パフェとは言ってもそもそも本当に甘いのかすら怪しい……などと失礼な感想を抱いていれば早くも呼び鈴が鳴った。

 

 なんと驚きの3分で出来たそうだ。これはマウンテンカツカレーが長いのかビリビリエレクトリカルパフェが早いのか。

 

「それじゃ、いただきまーす!」

 

 パフェにはナンジャモさんを意識したピーチ味とソーダ味の巨大なコイル型アイスが盛られていた。

 しかし特筆すべきは見た目では無く、アイスの中にあるつぶつぶ……噛むと一気に口の中にビリビリっと来るこの感覚だ。

 食べていて楽しいという感情になるとは思ってもいなかった。流石ナンジャモさんだ。

 

 ビリビリが病みつきになってアイスなのにドンドン手が進んでしまう。その感触からは本当に電気が流れているんじゃないだろうかと思わせる現実味がした。

 

「んーこれうまぁ〜」

 

 しかし奇抜なだけでは終わらないのがナンジャモさんだ。

 パフェの下の方はクレープ生地で覆われており、二つの味にビリビリ食感、クレープとアイスの親和性がいい感じに作用して最後までしっかり楽しくいただけた。

 

「ごちそうさまでした!」

 

 マウンテンカツカレー一択だと思っていたけど、これはなかなか良いかもしれない。

 特におれがビリビリを噛んだ時にラルトスが楽しそうにしてくれるのがいい、また食べようと心に決めた。

 

 

 

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