ポケットにあかいいと   作:奈火騎士

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しおづけは歯車に1/4のダメージ

 

 

 朝食を終え、元気ビリビリエレクトリカルなやる気に満ち溢れたおれは2日目とは打って変わり、厳しくなると思われる試験に備える。

 3日目以降の試験内容はおれ達には伏せられていた。しかし、例年通りであればポケモンのタイプ相性や特性……そういった知識問題が出されるはずだ。

 

「知識だけは自信がある、ここからはおれのターンだ!」

 

 捕獲試験では散々な結果になってしまったが、筆記なら話は別だ。

 幼少の頃よりどこに行くにも何を見るにもポケモン図鑑を持ち歩いていたおれの頭の中にはポケモン図鑑がある。

 ボロボロになる程に読み込んだ図鑑知識はおれの唯一の特技だ。

 虫タイプなどのややこしいタイプ相性もバッチリ把握している。満点以外取れる気がしないなぁ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて調子に乗って息巻いていたのは過去のこと、おれは白髭の先生から伝えられた訳のわからない試験内容に絶望していた。

 

 

 3日目の試験は旅を模したサバイバル試験。

 試験は3日間に渡り行われ、スタート地点からゴール地点まで辿り着くだけのシンプルな内容。

 

 しかし、この後のルールがおれを絶望へと突き落としていた。ルールは以下の通りだ。

 

 

 1人10000円を所持金とし、所持金が100円以上の状態でゴールする。

 道中、ポケモンバトルを仕掛けられた場合はそれに応えなければならない。

 ポケモンバトルに負けると所持金の10分の1を相手に譲渡する。

 ゴールした時点での所持金に応じて褒美が与えられる。

 テントを張り、野営している状態のトレーナーにはバトルを仕掛けてはならない。

 支給品はキャンプ道具一式に救急キット、2日分の食料。

 

 

「超不利だ……」

 

 あまりの理不尽さにおれはついついそんな言葉を吐いてしまう。

 それもそのはず、周りを見ればみんな3個から5個のモンスターボールを持っている……対しておれの手元にはラルトスただ1人。ハッキリ言って勝ち目がない。

 分配の難しさの観点から食料2日分というところがポケモンの数が多いトレーナーに対するバランス調整なんだと思う。にしてもこれは──

 

「……少ないな」

 

 配られた食料袋を見てみればおれとラルトスにとっての2日分の食料が入っていた。

 食料が2日分しかないことはおれ達にとっても辛く、かなり手痛いデバフだった。

 

 厳しい現実に打ちひしがれていても時間は非常にも流れて行く……おれにとっては今最も聞きたくない言葉。やる気溢れる周りのトレーナー達にとっては今最も欲している言葉が先生の口から紡がれる。

 

「10分後の鐘の音を合図に本試験を開始する!それではスタートじゃ!」

 

 

 

 

 

 

 おれは捕獲試験の際人気の少なかった森ルートを選んだ。出来るだけトレーナーに遭遇しないようにゴールすることを目標とする。

 バトルを避けて避けて10000円でゴール出来れば結果としては中の上以上になると踏んでの判断だ。

 

「よし、気合い入れていくぞラルトス!」

 

 きゅりぃ

 

 気が沈んでいたおれを励ますかのように、ラルトスは元気いっぱいに鳴いた。

 そうだ、トレーナーが凹んでてどうする!気持ちを切り替え森を進む。

 

 

 

 

 木々を掻き分けて、道無き道を進んでいるとそれは深々と鳴り響いた──

 

 ゴーン……ゴーン……ーン……ゴ……

 

 鐘の音は静かな森全域を揺らすように鳴り響き、木々を、周囲のポケモンを、トレーナーの心をざわつかせた。

 さっきまで静かだった森は戦いの鐘によって火蓋を切って落とされた。あちこちで威勢のいい声が上がり、無数の衝突音が森に駆け巡った。

 

「まずいな……」

 

 早くもおれは自分がとんだ勘違いをしていたことに気付く。

 おれから見れば今回の試験、出来るだけバトルを避け、体力消費を抑え食料を節約しながらゴールを目指す試験。

 しかし、彼らは違う。バトルに勝てば勝つほど良いことがあるこのルール、そしていつでもどこでもバトルし放題!そんな言葉を昨日ポケモンを捕まえたばかりの彼らにかければどうなるか……無邪気な戦の始まりだ。

 辺りから勝っただの負けただの楽しそうな声が聞こえて来ておれは確信する。

 

 この試験……想像以上にやばい……!

 

 

 

 

 

 バトルジャンキーに目覚めてしまった彼らから逃げるべく、息を潜めながら道無き道を進んで行く。

 効率はお世辞にもいいとは言えないが、極力見つからないように進もうとすれば自然とこうなった。

 

 思ったより森ルートを選ぶトレーナーが多かったことも誤算だった。いや、これに関してはゴールまで最短で行こうと思えば森を通ることになるのだからおれの視野の狭さが原因だ。

 なぜこうも毎回裏目裏目になってしまうのか、自身の浅慮さを嘆いていると、どこからともなく元気そうな声が聞こえて来た。

 

 ──息を殺せ。身を屈めろ。

 

 緊急アラートがおれの頭に鳴り響き、急いで茂みに隠れる。

 遠くから聞こえて来た元気な声はやがて近付いて来て、何を喋っているかまで鮮明にわかった。

 虫取り網を揺らす少年は、ひどく機嫌が良く、耳を立ててみれば鐘の音と同時に始まったバトルに見事を勝利を収めたらしい。

 

 普段であればすごいやら気になるやら沢山の感情が湧き出て来るが、今はその元気な声が、揺れる虫取り網が、勝利に浸る感想が……その全てが悪魔のように思えるのだった。

 

 

 そんな悪魔がおれの隠れる茂みの真横を今まさに通ろうとしている、ポチエナの時より恐ろしい存在を前におれは無意識に後ずさってしまう。

 

 パキッ

 

 足元の枝を折ってしまい、ほんの僅か音を出してしまう。その音は人間にとっては些細なもので、事実虫取り少年は意にも介することなく茂みを横切っていく。

 

「……なんとかなったか」

 

 そう安堵したのも束の間、虫取り少年は踵を返して来た。

 先ほど彼が聞き逃した枝の折れる音は、彼が連れていたキャタピーにとってはひどく違和感がある音だったようだ。

 

「なーキャタピー、ほんとに何かあったのかー?オレはなんも聞こえなかったけどなー」

 

 その声はあまりにも間の抜けた声で怯えているのが馬鹿馬鹿しく思わせた。

 しかしキャタピーの違和感センサーはあまりにも正確でついにはおれの隠れる茂みの前まで来てしまった。

 

 少年の手は無造作に茂みを掻き分け、覗き込み……まるくなっていたおれと目が合うや否や、その口を三日月状に変形させた。

 

「や、やぁ……こんにちは。もしよかったら見逃してく……」

 

 引き攣る顔を抑えて出来るだけ気さくに声をかける。

 これで見なかったことにはしてくれないか……そんな想いは通じるはずもなく、嬉しそうな声でかき消された。

 

「オレとバトルしようぜー!」

 

 

 

 

 

 

 

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