その片割れであるフラミンゴが先に目覚めたというifストーリーです。
長い、長い夢を見ていた気がする。
夢の内容はぼんやりとしてるけど、1つだけハッキリと覚えていることがある。
大事な貴女が傍にいたこと。
「波瑠...。」
呟きとともに目を開ける。目の前には明らかに自分の部屋ではない天井...いいや四方が囲まれていて、まるで箱の中に入れられているような状態だ。
寝ぼけた頭も徐々にその異常性に気付き始めていた。
「えっ...ここどこ...」
身動きを取ろうにも狭いここでは、思うように体が動かせない。
大声を出して助けを呼ぼうとしたとき、目の前の蓋が音を立てて開いていく。
急に差し込んでくる光に目を閉じてしまう。
「フラミンゴ、目を覚ましました。」
「バイタル、異常ありません。」
人の声が聞こえてゆっくりと目を開ける。
見たことのない機械、忙しそうに歩き回る人。
そこはドラマで見たことのある研究所のような場所だった。
しかし、違和感があるのは視界に映るもの全ての色が変なこと。
美術の時間に見た近代アートの絵みたいな見たことない色...。
試すように自分の髪を触り、視界に収める。
「嘘っ...。」
ピンク色の髪は、自分の視界にはピンク色ではない、様々な色が混ざり合っているような表現が難しい色に見える。
呆然としているところに、1人の女性が話しかけてくる。
「目が覚めたようだな。私はミヤマ、ここの責任者をしている。」
ミヤマと名乗る女性は、何か説明しているが全く聞いていなかった。
最初はこの場所がおかしいのだと、逃避していたが自分の髪と目の前にいるミヤマという女性も普通の色ではない色に見えることから、おかしいのは自分の目であると嫌でも理解してしまったから。
「では、少し経ったら副司令のウグイスが迎えに来る。それまで少し休んでいてくれ。」
「あの...!!ワタシの髪って何色ですか..?」
「...君の髪の色は鮮やかなピンク色だ。何か問題があるのか?」
離れようとしたミヤマは、戻りジッと顔を見つめた。
「あの、色が分からなくて、色んな色が混ざっているというかなんというか..。」
自分自身でも説明ができない色の問題に、言葉が出てこない。
「ふむ。軽く説明をしたが、君は今トリという存在だ。トリには稀にギフトと呼ばれる力に目覚めるものがいる。もしかしたら、君もギフトに目覚め、その影響によるものかもしれないな。」
ギフト。この色の世界が?
突然の環境、突然失った通常の色覚。全てが突然過ぎて思考がまとまらない。
それに家族は、友達は、波瑠は...。
そんな不安そうな顔を見て、ミヤマは表情にこそ出さないが慰めるように言った。
「ただ君は長い間眠っていたし、トリとなったばかりだ。一時的な異常の可能性もありえる。副指令と司令の話が終わり次第、検査をしてみよう。だから、今は少し休みなさい。」
そう言い残しミヤマは、部屋を後にした。
「どうなっちゃうのかな、ワタシ」
ボソッと呟いた言葉、不安で押しつぶされそうになる。
目を開けている限り、不思議な色の世界が広がってしまうため目を閉じて考えないようにする。
気分が落ち込んでる時は楽しいことを思い出さないと!
そうしてふと思い出す。ここ研究所みたいになっていて、前に波瑠がやってたゲームのステージに似てたな..。
どんなゲームかは忘れちゃったけど、波瑠が一生懸命ゲームをしている姿を見てワタシも応援してたっけ。
突然出てきた敵に倒されちゃったとき、悔しがってた波瑠、可愛かったな。
そうして思い出にふけていると1人の女性が近づいてきた。
「フラミンゴさんですね。私はここ特殊災禍対策本部 CAGE副司令のウグイスです。今から司令とお会いしていただくのですが、体調はいかがですか?」」
「はい!大丈夫です!」
ミヤマとは違い、少し幼く見える女性はウグイスと名乗り返事を聞くとニコッと笑った。
「では、向かいましょうか。歩きながらですが色々と説明をしておきますね。」
そこで説明された内容は、現実の出来事なのか疑ってしまいそうな内容だった。
魔獣の侵攻、黒い海、トリという存在。
また、本名で呼ぶことは禁止されていて、フラミンゴというのはコードネームということらしい。
廊下を歩く際も、普段見えていた色とは違う色の世界に中々慣れず、何度か躓いてしまった。
「フラミンゴさんのご家族は、既に我々CAGEの保護下にありますので安心してください。司令にお会いした後に、預かっている手紙もお渡ししますね。」
「本当ですか!」
今までの説明が全て飛んでいくような話に思わず笑みを浮かべてしまう。
良かった、みんな無事で...あとは......。
そんなことを考えていると目的地に到着した。
「司令、フラミンゴさんをお連れしました。」
扉が開き、部屋の中の女性と目が合う。
すらりとして立ち姿は、まさに大人の女性という印象だ。
「やあ君が、フラミンゴだね。気分はどうだい。」
優しい声色で司令は話しかけてくる。
「さっきまでは、少し不安というか、突然の事で何も考えられませんでした。けど、今は少し落ち着いてきました!」
家族は取り合えず無事であるということ。その事実が気分を少し紛らわしてくれる。
正直まだ不安の方が大きいけど、起きたばかりよりは気持ちがマシになった。
「そうか、それは良かった。何日かしたら君には訓練を受けてもらうよ。詳しくはウグイスから説明があるから、よく聞くように。」
「はい!分かりました!」
一通り話が終わり、部屋を後にしようとしたときだった。
「そういえば、君を保護したときにもう1人近くで保護した子が居たね。フラミンゴ、君の知り合いかな。」
「えっ...。」
司令の言葉に思わず手をかけていた扉から手を離し、振り向く。
確信は無い、けど近くで保護された子なら十分に可能性はある。
「その子は今何処にいますか!?」
「君と同じように眠っているはずだよ。確か、フクロウだったね。場所はミヤマに聞くといい。」
フクロウ...。名前だけじゃ波瑠かは分からないのに、不安な気持ちでいっぱいの今はとにかく、そのフクロウという名前の子に会いに行きたい。もし違う人だったら凄く落ち込むとは思うけど、確かめるまでは分からないのだから。
「その前に!フラミンゴさんは各種検査が先ですよ。検査のときにミヤマさんもいますので、その時に聞いてみてはどうですか?」
今すぐにでも部屋を飛び出そうとする姿を見て、ウグイスは注意をするように言う。
「ごめんなさい!司令、教えていただいてありがとうございます!失礼します!」
高校を受験する時に、波瑠と一緒に練習した面接の作法思い出し、部屋を出る前にお辞儀をする。
そして部屋を出ると、一目散に検査に向かう。
その足音はきっと、司令達にも聞こえているが気にせず走り出していた。
「元気な小鳥だね。」
足音を聞きながら、司令は微笑み言う。
「フクロウさんが福富波瑠さんであることは、教えなかったのですね。」
足音が遠ざかっていくのを確認し、ウグイスは口を開いた。
その言葉を聞くと、司令は微笑んだまま答える。
「小鳥達の再開だ。私がここで伝えるのは違うと思ってね。」
「サスガ司令!!ウグイス、何モ分カッテナイ!!」
バタバタと羽音を立てながら、インコのような見た目の鳥はウグイスの周りを飛び回る。
「貴方は相変わらずですね!」
検査は、健康状態のチェックから始まり、軽い運動能力のテストまであった。
色の事を言ったからか、視力の検査は少し長いように感じた。
最後にカウンセリングがあり、専用の部屋に入る。
「さっきぶりだな、フラミンゴ。副司令から話は聞いている。フクロウという少女の場所についてだが...どうやらカウンセリングよりも先に案内した方が良さそうだ。」
ミヤマは、こちらを見ると少し微笑みながら伝えた。
少し恥ずかしい...。
きっと表情に出ていたのだろう。
カウンセリング用の部屋から出て、ミヤマの後を追う。
フクロウという子が波瑠なのか、違う子なのか。
心の中ではその疑問がぐるぐると巡っており、妙に緊張してしまう。
「ここだ。」
着いた場所は、自分が目を覚ました場所と設備的には同じように見える部屋だった。
「フクロウはここで眠っている。君と同じ日に、同じ場所で保護されたから知り合いであるとは予想していたが」
そう言うとミヤマは箱のようなものを開ける。
音と立てながら蓋が開かれると、そこには1人の少女が眠っていた。
「波瑠っ!!」
眠っていたフクロウという少女は紛れもなく、幼馴染の福富波瑠だった。
目から自然と涙が溢れる。
「良かった...!本当に...!」
眠っている彼女の手をギュッと握る。
仄かに暖かいぬくもりが彼女が現実のものであると、改めて理解させてくれる。
「あっあの!波瑠は、いつ目を覚ましますか!?」
その質問に対して、ミヤマは少し答えにくそうな素振りを見せる。
「...すまないが、それは我々にも分からない。君よりも先に保護されたのに未だに目を覚まさないトリも少なくはない。」
「そんな...。」
手を握ったまま、彼女の顔を見つめる。
穏やかな寝顔、今にでも起きてくれそうなのに。
「目覚めたらすぐに君に知らせよう。だからまずは、君自身の状態をしっかりと知っておかないといけない。」
ミヤマはそう言うと蓋を閉めようとする。
蓋が閉まる前に、手を再びぎゅっと握る。
「波瑠、またね。」
そう言い、手を離すと蓋は音を立てながら閉じていく。
カウセリング室に戻ると、ミヤマは、検査結果の書いてあるであろう紙をまとめていた。
「概ね検査結果については、問題ないな。特に体力・筋力面は他のトリと比べてもかなり上昇している。」
ミヤマは検査結果と照らし合わせながら説明をしていく。
そしてある程度説明が終わると、一息ついて本題に入った。
「さて、君が気にしていた色覚についてだが、検査の結果やはりギフトの影響であることが分かった。我々通常、赤・青・緑の3原色によって色覚を得ている。しかし、今の君はその3原色に紫外線を追加した4原色で色覚を得ている。表現が難しい色と言うのは、その名の通りトリになる前には見えなかった色という訳だ。」
「なる、ほど?」
原理はよく分からないけど、どうやら色の見える範囲が広がった?ということ、らしい。
「我々はこのギフトを"陽光のギフト"と名付けた。そしてギフトは、分からないことが多い。...消すことは現状不可能だ。」
ギフトは消すことが出来ない...。
つまり、ずっとこの色の世界...。
「我々もギフトに関しては研究を続けている。今後の成果によってはギフトの効果を軽減することや消すこともできるかもしれない。」
「そう、ですか。」
正直今にでも泣き出してしまいそうだった。
この色の見え方では、今まで大好きだったオシャレやネイルは難しい。
突然の環境、失った通常の色覚。
全て投げ出してもう何処かに逃げちゃおうかな。
そんな考えも少しだけ浮かんでしまうほどの、喪失感。
だけど、逃げるわけにはいかない。
「でも、ミヤマさん達が研究を続けたらいつかは治るかもしれないんですよね!...よーし!ワタシも協力します!」
まるで自分を鼓舞するかのように宣言する。
その姿を見たミヤマは少し驚いたような表情を見せるが、すぐにその表情は微笑みに変わる。
「君は強いな、フラミンゴ。」
カウンセリングが終わる頃には、辺りは暗くなっていた。
ご飯を食べて、与えられた自室を整理していたら、あっという間に夜になった。
「色々あったなあ...。」
ベッドで横になり、天井を見つめながら呟く。
既に時刻は、就寝するにはちょうどよい時間だが、今日起きた出来事を思い返すと不安で眠りにつくことができない。
「ダメダメ!明日も予定があるんだから寝ないと!」
言い聞かせるように、電気を消し無理矢理寝ようと目を閉じる。
寝ようとすればするほど、今日の出来事を思い出して不安のせいか、良くない想像をしてしまい、眠れない。
「眠れない...。」
電気を付けて、起き上がる。
時刻は寝ようとしてから約1時間ほど経っていた。
気付けば寝間着に、ちょっとした上着を羽織り部屋を出る。
もう夜も遅いためか、誰にも会うこともなく目的の場所へと辿り着く。
「えへへ、やっぱり不安になっちゃった。」
波瑠の眠る箱に話しかけながら椅子に腰掛ける。
蓋の開け方は分からなかったために、姿こそ見えないがその中に波瑠がいるというだけで、少し安心する。
「今日は色んなことがあったんだ〜!」
返事は当然返ってこない。
それでも、波瑠に話しているという事実が不安を和らいでくれる。
そうして今日の出来事を話していると、部屋の奥から物音がした。
「もっもしかして、おばけ...!」
突然の物音に咄嗟に隠れようとするが、隠れられそうな場所はなく、波瑠の入っている箱の横でしゃがんで様子を見る。
物音はどうやら足音のようで、どんどんこっちに近づいてくる。
「なんだ貴様は。」
声をかけられ顔を見ると、おばけでないことはすぐに分かった。
すっとした立ち姿に、キリっとした目でこちらを見ている。
「えっと、お見舞いに来たというかなんというか...。」
不安で眠れなくて、ここに来て眠っている友達に1人で話しかけていたとは見ず知らずの人には言えず、ごにょごにょと言葉を濁らせてしまう。
目の前の彼女は、そんな様子の私を見たあとに波瑠の入っている箱を見つめる。
箱を見つめる彼女の表情が一瞬だけ、悲しそうに見えた。
「なるほど、貴様が今日目覚めたトリというわけか。あまり夜遅くに出歩くな、何があってもおかしくないからな。」
そう言い残すと、彼女は名乗りもせずに部屋を出ていってしまった。
この部屋には他にも波瑠の入っている箱と同じようなものがいくつか置かれている。
彼女が居た奥の方にも、同じように誰かが眠っているのかもしれない。
「悪いことしちゃったかな...。」
きっと彼女も誰かに会いに来ていたのだろう。
こんな夜遅くに会いに来るのだから、とても大事な人が。
「よし!私もそろそろ寝るね!またね、波瑠!」
先程の彼女を見て、自分だけがくよくよしていてはいけないと少し頑張れそうな気がした。
決意を固めるように、椅子から立ち上がり箱に向かって話しかける。
返事は返ってこないが、それでもきっと頑張ってと言ってくれるはずだ。
そうして、自室に戻りベッドに横になるとすぐに眠りつくことができた。
朝目覚めた時間は、いつも通りの時間だった。
窓を開けて、朝の空気をめいいっぱい吸い込む。
見慣れない自室、見慣れない色。
環境は大きく変わってしまったけど、変わらない朝の空気の味に心なしか少し安心を感じる。
朝食を済ませ、自室で少し時間を潰すと訓練の時間になった。
トレーニングルームに向かうと、そこには一人の女性が立っていた。
こちらに気が付くと、小走りで向かってくる。
「君がフラミンゴだね!私はカッコウ!よろしくね!」
カッコウと名乗る女性は、そのまま手を掴みぶんぶんと振りながら自己紹介をした。
「さて!今日は訓練とは言ってるけどまだ初日だからね。身体能力については昨日ミヤマからデータを貰ってるけど全然問題なさそうだね!なら、今日は君の武器を選んで行こう!」
そう言うとカッコウは、楽しそうに荷物が積んであるところをガサガサと漁り、いくつかの模擬用の武器を並べていく。
「じゃーん!これが今私達が開発してる武器の大まかなカテゴリーかな。剣・槍・槌・弓・銃・杖だね!」
並べられた6種類の武器をカッコウは楽しそうに紹介する。
波瑠のやってるゲームを一緒に遊んだときに見たような感じで、正直現実味がない。
本当に魔獣と戦うのかな...。と想像の出来ない不安がチラついてしまう。
「...まぁ急に言われても分からないよね!みんな最初は戸惑うからゆっくり決めていこう!幸い、フラミンゴはまだペアとなるトリが決まってないからそんなすぐに出撃することもないだろうし!」
不安を察知したのか、カッコウは励ますように伝える。
「でもね、これは君と未来のペア相手を守るためでもあるんだよ。訓練すれば、ここにある武器全てを使いこなすことも出来ると思う。けど、初の任務で慣れてない武器を使うと、その分事故の確率も高くなっちゃう。だからここでのすり合わせは大事なんだ」
少し悲しそうにカッコウは言った。
きっと、過去にそうして事故で怪我をしてしまったトリもいたということが嫌でも伝わってくる。
もし、波瑠が目を覚ましたらきっとペア相手になってくれる。
なら自分にできることは...。
「...分かりました!頑張らないとですよね!」
自分の不安な気持ちを、抑え込んで改めて武器を見る。
練習用の武器だからだろうか、多くの武器に細かい傷があるように見える。
特に弓に関しては、紐の部分の一部だけ色が違い、損傷が激しいように感じられる。
「カッコウさん!この弓の紐、切れそうですけど大丈夫ですか?」
「え?弦の部分が?う〜ん、私には特に分からないけどなあ。」
そうしてカッコウが弦を引っ張り弾くと、弦は見事に音を立てて切れた。
「えぇ!?本当に切れた...!なんで分かったの!?」
カッコウは、興味津々で駆け寄る。
「えっと、なんというか紐の切れた部分だけ色が違うから壊れるのかなって...」
「色?確か君のギフトは、色覚に関するギフトだったね。ふむふむ、陽光のギフト...紫外線の色が見える...そうだ!ちょっと待っててね!」
突然カッコウは走り出して、トレーニングルームの奥に向かっていった。
暫くすると、二本の剣を持って帰ってきた。
「お待たせ!フラミンゴ、ここに二つの剣があるんだけどどっちが新品か分かったりする?」
そう言いカッコウは、二本の剣を見せる。
左の剣は、所々色が違い傷があるように見える。
右の剣は、色が同じで傷のような部分は見えない。
「右の剣が新品ですか?」
「凄い!大正解だよ!これは、私の推測だけど傷や損傷の凹みによって光の屈折度だったり紫外線のあたり方が違うから、フラミンゴにはそれが色の違いとして見えてるんだね!
ねえ、フラミンゴ。もし良かったならなんだけどさ、今後武器とか防具の簡易メンテナスを手伝ってくれないかな!勿論、環境に慣れてからでいいから!お菓子もあるよ!」
カッコウは自分の見解を説明した後に、手伝いのお願いのために手を合わせてお願いする。
正直、なんの役にも立たないと思っていたこの力にこんな使い道があったなんて...
今までは、通常の色覚を失った不安や恐怖が大半を占めていたがこうして、誰かの役に立つものなら少しだけ悪くはないように感じられた。
「分かりました!もちろんお手伝いします!」
少しでも役に立つならと喜んで了承する。
「ありがとう!助かるよ〜!って本題に戻らないと。今の感じから君と私達では大分見えてる世界が違うみたいだね。となると、精密な動作が必要な弓・銃・杖は慣れるまで少し難しいかな。と言うわけで、私のおすすめはこれ!」
と言うとカッコウは槌を持ち上げた。
「少し重いけど、君の身体能力なら十分に取り扱えると思うよ!それにハンマーなら精密な狙いをつける心配もないから色覚に慣れるまではちょうどいいかも!」
カッコウは槌の持ち手を、こちらに向ける。
受け取るように持ち手を握り、槌を持ち上げる。
見た目よりも軽く扱えるのは、トリとしての力の表れなんだろう。
「どう?重くない?」
「はい!思っていたよりも軽くて、これならワタシにも使えそうです!」
「うんうん!良かったよ!一応本格的な訓練は明日からになるから、もし使ってみて微妙だなあってなったらいつでも言ってよ!調整したり別の武器にも出来るからさ!」
そう言うとカッコウは、槌を受け取り他の武器と一緒に片付け始めた。
「昨日色々検査してもらったデータを元に、君に扱いやすい武器を見繕っておくから楽しみにしててよね!今日は取り敢えずここでの予定は終わり!他にミヤマとか副司令に何も言われてなかったら今からは自由時間だね!」
カッコウは武器を片付けながら、軽く鼻歌を歌っている。
「そうだ!中庭には行ってみた?ちゃんと手入れされてるから、色んな花が咲いてて綺麗だよ!私も発明が煮詰まったときには行ったりするんだ〜」
「そうなんですか!行ってみます!」
特に何かをする予定も無かったし、オシャレやネイルも今は上手くできないので、丁度自由時間の過ごし方を考えていたところだった。
トレーニングルームを出る時に、カッコウはいくつかお菓子を渡して送り出した。
その後、昼食を取り自室で少しゆっくりしてから中庭に向かった。
中庭は、綺麗に整備されており風が心地良く吹いていた。
「綺麗...。」
彼女の目を奪ったのは、中庭に咲く多くの花々だった。
紫外線を多く浴びている花は、多種多様で鮮やかな色を彼女の瞳に映し出す。
普通の人には見えない、彼女だけの色の世界。
少しの間、その場に座り込み呆気にとられたようにその光景を眺める。
最初は絶望に感じたこの色も、人の役に立つことやこうして綺麗な景色を見られるのなら、少しだけ受け入れられそうに思えた。
「それでね、中庭に行くとすっごく沢山の花が咲いてて!」
時刻は既に夜になっていた。
今日も波瑠の元へやってくると、今日の出来事を報告する。
「それでねワタシ、カッコウさんと話したり中庭の景色を見て思ったの。ネイルとかオシャレは難しくなっちゃったけど、でもこのギフトを持ったワタシも少しは悪くないのかなって!それに、ネイルとかオシャレは波瑠に色を見てもらえば良いもんね!」
返事はない。
ただこれは、自分への決意表明。
家族のことやギフトのこと、トリとなった自分のこと、波瑠のこと。
逃げても何も始まらないのだから。
「よしっ!じゃあまた来るね波瑠!」
椅子から立ち上がり、波瑠に向かって手を振る。
部屋から出ようとしたが、カーテンが開けられている窓が気になって近づいた。
「...また良いもの見つけちゃった!」
窓の外には満天の星空が広がっていた。
それは一般の人から見ても、綺麗に見える星空だった。
星には紫外線を放つ紫外線源というものが存在する。
彼女の瞳には、より鮮やかな星空が広がっている。
そして星空を眺めていると、目の前で一筋の光が空を横切っていく。
「えっ…!嘘っ!流れ星!」
あまりにも突然の流れ星だったために、願い事なんて間に合わなかった。
でも、願うくらいは。
「波瑠が目を覚ましますように。」
目を閉じ、星空に願う。
「エマ...?」
突然の声に目を開け、振り返る。
箱の中から微かに声が聞こえた。
そして同時に箱の蓋は音を立てながら、開いていった。
寝ぼけた顔で目をこすりながら、起き上がる。
「えぇ...!?どこここ...?なんかリアルイベント参加しに行ってたっけ...?」
起き上がった波瑠は、辺りを見回し少しずつ異常に気付いてキョロキョロと見回す。
そんな波瑠を、力いっぱいに抱き締める。
「どうしたの、エマ...?」
「良かった...!本当に波瑠だ...!」
溢れる涙を拭く余裕なんてなく、ただ大事な人の熱を確かめるように抱き締める。
「もう少しだけ2人にさせてあげよっか。どうせ夜でそこまでスタッフも居ないしさ。」
「そうだな。」
「丁度私はコーヒーを飲もうとしていたところなんだ!ミヤマもどう?」
部屋の外では、トリの目覚めを受けて様子を見に来たカッコウとミヤマが2人の様子を見ると少し笑みを溢してカッコウの研究室へと向かっていった。
廊下の反対側では、1人の少女が拳を力強く握っている。
「急いで来たみたいだけど、君の眠り姫じゃなかったみたいだね。タカ君。」
「黙れ。貴様に構っていられるほど、私は暇ではない。」
拳を握り締める少女に、あとから来た少女は少しからかうように声を掛ける。
拳を握りしめた少女は、そのまま振り返りその場を後にする。
「本当に堅物なんだから。」
後から来た少女は、その様子を見て少し面白くなさそうにして道を戻っていく。
「えぇ、なんでそんなに泣いてるの...!?というか、ここどこなの?分からない事だらけ過ぎるよぉ...。」
突然の状況に、あたふたしている波瑠を見ると、いつもの波瑠であることがしっかりと感じられる。
折角起きたのにずっと、泣き顔を見せるわけにはいかない!と精一杯の笑顔を作る。
「おはよう、波瑠!」
「...うん。おはよう、エマ。」
〜〜〜オマケ〜〜〜
「フクロウ!フクロウ!フクロウ!」
時が経ち、明日は初のツガイでの任務の日。
そんな日の夜に、フクロウとフラミンゴはフクロウの自室に集まりコードネームで呼ぶ特訓をしていた。
「大丈夫だと思うよ、フラミンゴ。禁止されてるけど、本名を言ったからって罰を受けるわけじゃないし...。」
「でも!先輩が怖いトリの人だったらどうしよって!怒られるかもだよ?」
「確かハクチョウさんだっけ...?名前的にはとても優しそうだけど
...。」
「確かに...!ハクチョウさん、どんな人なんだろ〜!」
そうして時刻は過ぎ、そろそろ就寝の時間となってしまう。
「もうこんな時間!明日に備えて寝ないと!明日は頑張ろうね!フクロウ!」
「うん...私も頑張る。でも無理はしないでね。」
「もちろん!無事に任務を成功させるんだから!」
「うん、じゃあお休み''エマ"。」
「うん!お休み!波瑠!...あれ?」
普通に返してしまったが、今名前を?とフラミンゴが考えているとフクロウは微笑んでいる。
「引っかかるかなって思って...お休み、フラミンゴ」
「......ずっずるいよぉ!」
久しぶりに本名を呼ばれたこと、そしてイタズラが成功したときの笑みを見てしまったフラミンゴは部屋を後にし、自分のベッドに着いた後に脚をバダバタしながら悶えていた。
次の日の任務でフラミンゴが少しだけ寝不足だったのは、なんとか誰にも気付かれませんでした。