徒然泡沫亭ものがたり   作:えめめっと

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気ままに始めます。よろしくね


牛さん奪還戦/少女との出会い(1)

……アルフレイム大陸、ドーデン地方。マグノア草原国とゴケルブルグ大公国の間に位置する大草原。

遮る物もなく、ドーデン全体を結ぶ鉄道網の線路から少し離れれば危険な動植物や蛮族に襲われる。そんな土地の中に位置する一つの小国。

大破局(ディアボリック・トライアンフ)〉を生き残った城塞都市、シトリス。この街から、私の平凡で、色彩の無かった人生が変わりゆく。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

「おはよう、ユイ。起きたら降りてきてもらえる?少し急ぎの依頼があるから」

 

私の部屋の扉を叩く音がし、優しい声が掛けられる。

枕元にある鈴を鳴らしその声に応えると、満足したように踵を返し、階段を下りる足音が後に続く。

伸びを一つし、軽く身支度を整えた私が部屋の扉を開けると、騒々しい声の波がわっと耳に届く。

私が住む冒険者の宿【揺蕩う水底の泡沫亭】。昼と夜の営業中は食堂として、街の人々に親しまれているのだ。

鼻に届く香辛料や脂、肉の焼けるいい匂いが一日の始まりを私に告げる。

 

「おはようございます、アンズさん。おすすめを一つ。依頼は受けるから、食べた後にでも内容を教えて」

「あいあい。今日のおすすめはチーズと香辛料の効いたグラタンだよ。説明聞く前に受けるって言っちゃっていいのー?」

「私に振ってきたんだから、何とでもなるんでしょ?アンズさんの目利きは正確だし」

 

苦笑しながら厨房へ向かうアンズさんを見ながら数分待っていると、目の前に温かな湯気を放つグラタンが置かれる。香ばしい匂いを肺一杯に吸い込むとお腹がきゅうと鳴る。

両手を合わせ、スプーンを取り小さく取ったグラタンを口に運んでいると隣に座ったアンズさんが口を開く。

 

「依頼は牛の奪還。昨日のオーロラ、〈奈落の魔域(シャロウ・アビス)〉の前兆……が、街外れでゲンさんのやってる牧場に開いたらしくてね。そしたら放牧中の牛が何匹か巻き込まれちゃったから、助けに行って欲しいって」

「報酬は4000と牧場で作ったお肉。ちょっと遠いけど、往復の馬車は用意済。悪魔の血盤で十分ってことはユイなら余裕でしょ」

「牛はどうやって連れて帰ったらいい?魔域から何匹も連れてくるなんて経験ないんだけれど」

「首輪に縄繋いで数珠繋ぎにでもしとけばいいんじゃない?馬車は大きめの用意しておいたからさ」

「ん、分かった。じゃあ、用意してくるから。馬車は少しだけ待たせといて。あと、ご馳走様でした」

 

空になった皿を置き席を立つ。消耗品は十分、工房に手入れで出した剣も帰ってきた。準備は出来ているし、空も快晴。いつもの依頼と同じく、無事に終わるはず。

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