シャーレ四方山話   作:鯖人間

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初投稿です(澄んだ瞳


鬼方カヨコと仮眠室

 

シャーレには、仮眠室がある。

 

 

 

先生曰く……仕事の小休憩のタイミングで仮眠を取ったり、そのまま先生が夜に利用する事が殆どらしい。

 

 

……だけど、実際は……まぁ、先生以外も偶に利用している人間は居る。

 

 

 

……そして、私もその中の1人。

 

 

 

初めては、便利屋事業で請け負った任務の中で、事務所からかなり遠い現場の仕事を完遂した時の事だ。

 

 

 

 

 

『これでこそ真のアウトローよっ!!』

 

 

完璧に任務をやり遂げて見せたと力説しながら、実は結構疲労でプルプルしている社長の姿を見た先生は、何かを考え込むようにしてたけど……それもまぁ、そうだろう。

 

 

……先生は、優しいから。

 

 

 

“ 一応、シャワー室と仮眠室があるから…皆が良ければだけど、使って貰っても大丈夫だよ。

 

正直、私一人だとあまり使わない設備が多いなぁって思ってたんだよね…”

 

 

そんな風に、少し申し訳なさそうに。先生は笑っていた。

 

 

 

勿論、皆の気持ちは一緒だったし、何より砂埃に塗れて過ごすのも、身体に纏わりつく硝煙の臭いも……それに、汗も。

 

時間が経てば経つほどに……かなり不快に感じているのも、事実だったから。

 

 

その後も、結構慌ただしかったなぁ…

 

 

 

シャワー室と聞いてムツキが先生を揶揄ったり、ハルカが先生が驚く程に頭を振りながらお礼を言ったり。

 

…アル社長は最初は大人振っていたけど、途中で何を考えたのか顔を真っ赤にしたりして。林檎みたいに顔を染めたまま、あたふたと慌てるから、その場で収集を付けるのが結構面倒だったのは……まだ記憶に新しい。

 

 

…まぁ、成り行きはそんなに出来事だったと思う。

 

 

“…それにカヨコも、いつでもシャーレに来てくれて良いからね”

 

「 ……っ!?あ、ありがと…先生……」

 

 

皆が先にシャワー室へ向かった後、いつものように騒がしいな……なんて、ため息を吐きながら私も向かおうと足を運ぼうとした時。

 

先生は私に、そんな言葉をかけてくれていた。

 

…急にそんな事を言われるなんて思ってなかったから、突然熱が出たかのように。

確か、とても赤くなった顔でお礼を言ったのは……結構恥ずかしい思い出だったりする。

 

 

…それはまぁ、置いといて。

 

 

…そんな事を言われてから。皆も、私も……何だかんだと理由をつけて、結構シャーレの設備を使ってしまっていたり……する。

 

 

 

初めてシャーレの仮眠室を使ったのは、そんな理由だったけど…

 

私はまた、シャーレの仮眠室を借りている。

 

そして、隣には先生。

 

 

 

『……すぅ…ぅ、うぅん……』

 

 

…何か、夢の中で追いかけられているのだろうか?

時折苦しそうな顔をする先生を見て、私も何だか胸が苦しくなってしまう。

 

 

「……先生、大丈夫。私が、傍に居るから」

 

 

先生の顔を覗き込むように、先生の耳元でそう囁く。

いつも見ている先生の顔が、どうしてか、今はこんなにも近い───……?

 

 

 

……?……あれ、唇、近……ッ……!!!?!

 

 

慌てて顔を離す。

私、いま、何を…っ…!?

 

 

 

一旦、深呼吸。落ち着け、私……

 

落ち着いて息を整える。どうやら効果があったかはさも分からないけれど、さっきよりも少し冷静になったのか……少し、頭が冴えてきた。

 

 

……それよりも。

何だか、懐かしい気持ちになってるのは、何故?

 

 

 

先生と過ごす夜。

私にとって、大事な……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はい、先生。この辺りは全部終わったよ。」

 

 

先生は、シャーレで働いているから仕事がとても多い。だからこうやって、そんな仕事に追われている先生をサポートする為に、当番制度がある。

 

 

“ありがとう。本当に助かるよ”

 

 

そんな風に私に対して笑いかけてくれるのは、最初はお世辞だと思ってたけど……

 

 

「……先生も、ちゃんと疲れたなら言ってね?」

 

“ 大丈夫だよ。カヨコも疲れてない?”

 

 

…先生はそう言って、いつも私を気遣ってくれる。

 

 

「あぁ、もうまた……いや、うーん……そうじゃなくて、先生はさ、そんなに私の事は気にしなくてもいいよ。それに、今だって好きでやってるんだからさ…」

 

“ はは……そんな事はないよ。カヨコ、いつもありがとう。本当に助かってるし、今だって私は嬉しいよ?”

 

「……だ、だから…!もう、知らない!!」

 

 

…それが先生の本心だと分かる程度に、先生と私はそれなりに長い時間を一緒に過ごしてきた。

 

 

絆……というか、なんだろう。

上手く言葉として具現化できないし…少し恥ずかしいけれど。

 

 

…この感情は…嫌いじゃない。

 

 

……今ではもう、仕事の有無なんて、問題じゃなくなってる。

……私は私なりに、先生の力になりたい。

 

 

そんな風に思って居た時、ふと先生の方に視線を向けてみる。

 

“───ふぁ、あ…“

 

 

 

……あ。

 

 

…先生はとても大きな欠伸をしていた。

 

……うん。それだって無理もない。連日こんなに仕事をしているのだから、目に見えて居なくとも疲労だって積もっているはず。

 

事実、先生の瞼は今にも落ちそうで……見ていてとても、眠そうだった。

 

 

「……ねぇ先生?疲れたなら、休んでも大丈夫だよ。残りの書類だって、あと少しだけだから……」

 

今日一日で私もかなりの書類を片付けたと思う。だから私一人でも大丈夫だと、そう伝えるつもりだったけど……

 

 

“ うーん…大事な可愛い生徒に仕事を任せて、自分だけ休むのは…出来ないかな?

その気持ちだけ、受け取っておくね。カヨコには普段から助けて貰ってるから…先生としてはとても嬉しいよ“

 

 

………ッ……!!?

 

 

……先生はいつだって、ずるい。

 

そんな言葉をかけてくれるのは、いつも先生だから。

 

そんなの、私だって、嬉しいに決まってる。

 

「……も、もう。揶揄わないで…」

 

 

 

もう、何も言えなくなった私はただ、真っ赤になりながら……黙々と目の前の仕事を処理する事に決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

目を覚ますと、知らない天井だった。

 

……いや、よく見ると知ってる風景…というかここ、仮眠室…??

 

 

いつから被せられていたのか、見覚えのあるジャケットが私の身体へと掛かっていた事に気づく。

 

私の身体よりも大きく、まだ暖かい。

先生が着ていたから暖かいのか、私の体温の所為なのかは分からないけれど…

 

 

「先生は、どこに……」

 

……辺りを見渡しても誰も居ない。

部屋にある大きめのベットに1人、私は横になっていた。

 

 

先生を探して執務室へと歩き出すと、少しだけ明かりがついているのが分かる。

 

中を覗くと、ソファの上で横になって寝ている先生の姿があった。

 

 

……状況が理解出来た。

 

多分、仕事を終えて2人で話をしていたのは覚えてる。最近の便利屋の話。好きな音楽。そんな日常の話を。

 

そのまま私は眠ってしまったのだろう。

だから、先生は私を仮眠室へと運んだ……

 

 

……何だか恥ずかしい。

先生に、無防備な身体を運ばれた事実に、不思議と羞恥の感情と……ちょっとした、不満。

 

先生は、優しい。

だからこそ私だって、先生の事は憎からず想っている。

 

 

……優しいから、私を大事にしてくれているから。

 

 

 

「……先生、寝てる?」

 

返事は、ない。

なら、覚悟を決めるベき?

 

 

「……これ、恥ずかしいな。」

 

執務室のソファは意外と大きい。

そう、仰向けで眠る先生の横にはまだ、1人分のスペースはあったから。

 

 

「……先生、私だって……」

 

そこまで口にして、思わず冷静になる。

 

……うん。これ、無性に恥ずかしくなってきた。

自分の顔が、どんどん熱くなってるのが分かる……

 

先生の身体は、暖かい。

だけどこんな所で寝ると、風邪をひくかもしれない。

 

 

だから、仕方ない。

 

 

 

「…本当、大人って…ずるいな」

 

 

いつからこんなにも、信用してしまったのかな。

 

 

1人は自由で、縛られない。

あの猫のように、1人で生きられるなら…なんて。

 

昔の私なら、考えてしまうのだろう。

 

けど、この温もりが。

独りにさせないと、差し伸べられた手が。

 

こんなにも、心に安らぎを与えてくれる。

 

 

 

「先生……おやすみ」

 

夜の帳も更ける時間の中で、私はそう呟いていた。

 

先生の身体により深く顔を埋めたまま。

私の意識は溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

────────懐かしい記憶。

 

 

そんな事もあったなぁ……なんて。

 

あの時、朝になってから私が隣で寝ている事に気づいた時の、驚いた先生の顔を見たのは少し面白かったけど。

 

だからといって、先生を困らせたくは無かったから…

 

 

先生に、私の事を気遣ってくれる気持ちは嬉しいけど、自分が風邪をひかない様にして欲しいと伝えた時。

 

 

「先生が一緒に寝てくれると…安心する、から。」

 

 

なんて、今思い出しても恥ずかしい台詞を言ったんだっけ。

先生もすごく悩んでたけど、正直ゴリ押したのは否めない。

 

 

……それから、シャーレの仕事を手伝う時は、いつもこの部屋を借りてるんだから……自分でもちょっとどうかと思う時もあると言えば、ある。

 

 

けど、この時間。

 

隣で寝ている先生の温もりと呼吸音。

 

 

 

「……先生。好きだよ」

 

 

……先生と過ごす静かな夜が、今の私の宝物だから。

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