獣人オリ主ちゃんは何処へ消えた。A:虚空です 作:ナナの四六三
10歳になった。今はお昼の鍛錬中。カゲノー男爵家は、というか貴族の家は大体魔剣士をやっているらしく、私たちもちょっと前から剣と魔力の扱い方、戦い方を教えられている。しばらくはこうして家で習い、そのうち魔剣士のための学校へ姉や私たちも通うことになるらしい。初めて学院のことを知った時は前世の灰色学校生活をすっかり忘れてワクワクしていたものだが──もちろん漫画知識だが──女の子の界隈ってなかなかドロドロしてるらしいことを思い出した。どうにもまたもや灰色の学園生活になる気がしてならない。
いずれ訪れるであろう試練に想いを馳せて、軽く現実逃避した私は目の前の問題に向き直った。目の前には大きな岩。隣では凡才と称される兄が深々と剣を突き刺し、その奥では天才と称される姉が岩を細切れにしている。私は秀才で通しているので二つの中間を狙わなくてはなるまい。この10年で数々の盗賊を斬り殺し、魔法で蒸発させてきた私は隠し財産の在処を聞き出すため、ちゃんと手加減も学んできた。まあいっつもあんまり上手く行かないんだけど(小声)いざ参らん!一閃!
スパーンと叩き込んだ剣は岩を豆腐のように切り裂き、真っ二つにした。よし、手加減成功である。嘘である。姉はさすが私の妹!と叫んでアンタも見習いなさい、とシドを蹴飛ばし、剣術講師(姉にいつも負けてる人)は素晴らしい!と手を叩き、顔にはこの子にも負けるかもと書いている。兄が同年代の平均ちょっと下なのに対し、私は同年代でもすごく優秀の枠に入る。10人以内ってくらいだ。妬まれたりしないようにもうちょっと下げたいところだが手加減苦手なんだこれが。
このままではチッ、貧乏貴族のくせによおとか言われかねん。その点、兄は私よりもめっちゃ強いし手加減も上手い。チート使いよりも強いってどういうことだってばよ。魔法を使えば分からないが剣だけじゃ確実に負ける。そんな兄が凡才を演じているのは夢に関わることだから言えないらしい。私のように人間関係を気にしたわけじゃないようだから何かあるのだろう。兄は変人だからな。
◇◇◇
夜、私はいつものように兄と一緒に盗賊狩りに行く。兄のルーティンとしてまずは軽くトレーニング。トレーニングは別日で前世でやったら絶対体壊すようなものをやるので盗賊狩りの日は控えめだ。私も魔力に頼らない基礎体力をガッツリ鍛え、全身をむちゃくちゃにいじめ抜く。このあと魔力で上手いこと回復すれば兄曰く超回復!してすごく筋肉が付くのである。なお、別日は大抵ぶっ壊れるまでやる。
普通にやっていれば(出来るかどうかは別にして)秒でとんでもない筋肉ダルマになっているはずだが、そうはなっていない。なぜかと言えばまあなんでか知らんが私は筋肉が付かない体質(見た目は)、兄は魔力で無理やり筋肉を圧縮してウンタラカンタラしているからである。なので二人とも見た目に反してそのへんの筋肉ダルマの盗賊よりも筋力は遥かに上なのだ。
トレーニングが終わったら盗賊を探して森を駆ける。この世界は盗賊が雨上がりの筍の如くポンポン出てくるタイプの世界だが、流石にほぼ毎日狩りをしていると偶に全く見当たらないことがある。そんな時は遠出だ。兄を抱えて飛行魔法で飛んでいく。が、幸いにも今日は近場の森で盗賊の気配がする。そんなわけで今日は連携強化のためにへい、パースと兄特製のスライムボールを投げ合いながら──どんどん勢い上げていきますよ〜^──気配に向けてダッシュダッシュダッシュである。
シュタッ、と盗賊のキャンプ地、の近くの木に着地した兄、の背中に飛びつく私。結構な勢いだったがスライムに完璧に衝撃を吸収されてしまった。兄は最近スライムに凝っている。さっきのスライムボールも、兄が纏うこの服も、兄が使う武器も全てがスライム製だ。魔力をよく通す素材ですごく便利なのだそう。私は全部魔力で作ったもので代替出来るから使わないからよく分かんないんだよね。
例えば服は魔力で作った糸を編んで作る*1し、武器なんて魔力をそのまま光の剣的な感じで召喚できるし、魔法で伝説の武器()を作り出してもいいし、異空間に収納しておいた剣を使ってもいい。まあ兄のスライムの仕込み武器的な感じも好きだが、やっぱり使う必要性を感じないのである。全部魔力で良くね?(ばなな)
とはいえ、そうもいかないのがチートを持つ者とそうでない者の差だ。私はテキトーに魔力を出してチョチョイのちょいでなんか魔法が使えちゃう。そんな感じの簡単ツーステップなのだが兄が使う魔術というものは私が使う魔法と違って幾つもの工程で魔力を加工して魔法と同じ現象を起こす技術らしい。
そんな魔術で魔力の糸を作って服を編むとなれば常に加工を施す必要があり、どんだけ面倒くさいか想像に難くない。ていうか実際に兄の頭の中を見せてもらったがはちゃめちゃで大惨事なことになっていた。魔術使うのにあんな苦労してるとは知らなかった。*2私なら早々に使用を諦めてただろう。しかしどんなに苦しくても兄は魔術を使う。なぜならかっこいいからである。
「今日はスライム装備の試運転だからあんまり手出さないでね」
「あいあい」
隣の木に座って私は観戦モードに入る。あ、実況でもするか。んっン!え〜今回の
「どうも、夜分遅くにすいません」
「あぁ?んだ、このガキ?」
「こんばんは!死ね!」
お〜っと自分から話しかけたくせに会話拒否のスライムソード!盗賊たちが慌てふためき武器を抜いたァアアアアア!!!!っ、ゲホゲホ。あ〜疲れた。やっぱ実況やめやめ、普通に書きづらい。
「テ、テメェ!よくも!」
「う〜んでも良く考えたらアイシャのおかげで耐久性は分かってるんだよね。攻撃力もまあ十分だし、あとは汎用性と実戦練習くらいかなぁ」
「ごちゃごちゃとワケのわからないことを!」
もう何度聞いたか分からないモブらしいセリフを吐いて切り掛かる盗賊。二人の盗賊の頭が宙を舞い、残りの一番強そうな盗賊──ボスと呼ぶことにしよう──が兄に襲いかかった。残りはくれるそうなので適当に魔法で撃ち殺す。兄とボスはしばらくの間キンキン、カンカンと剣を打ち合わせ、遂に兄の剣が弾き飛ばされた。そしてその隙にボスが切り掛かる。う〜わバッサリいったな。
「は、ハハッ。調子に乗りやがってこのガキがぁ!」
と大喜びするボス。まあ切れてないんだけど、兄の足から伸びたスライムソードがボスの体に突き刺さった。
「君弱すぎ、練習にもならなかったね」
「な、んで……お前……」
ン、死亡確認!全滅!カンカンカーン試合終了ー!リザルト!圧倒的勝利!木から飛び降りて兄の元へ、ピョーンと跳躍してライドオン。
「お疲れ様ー」
「んー、まあ別に疲れてないけど」
ヨシヨシ、と頭を撫でたら撫で返される。いつもならこの後戦利品を拾ってまた次の賊を探しに行くのだが、今日はちょっと変わった荷物を見つけてしまった。
「兄上〜」
「どうしたの?」
「これこれ、見て見て」
「おお、珍しいね。悪魔憑きかなコレ」
私が示した先には一つの檻。手当たり次第に時間停止する系の異空間魔法に食料も酒も絵画も馬車も何もかも、死体とかネズミとか以外のの全てを放り込んでいたら最後に残ったものである。被せられていた布をみると中身は腐った肉塊。大事に管理されているようだったので持って帰ったほうがいいかと思って兄を呼んだのである。
にしてもこれが悪魔憑きか。確かある日突然に体が腐り始める奇病だったか。教会に持って行くとささやかながらお金が貰えるらしいからおそらく運ぶ途中だったのだろう。私が解析魔法と呼んでいるなんか見た物の状態とかがぼんやり分かる魔法によれば別にうつったりはしないみたいだ。
「って、もしかして魔力暴走してる?」
「んーたぶん?」
魔力暴走か……一度兄が魔力の制御に失敗して暴走しかけた時に見かけたくらいでほぼほぼ初見の現象である。
「ちょうどいいや。これちょっと使おうよ」
「でもこの魔法生き物は入らないけど?」
「そこの家を補修して入れておけばいいよ」
魔力もそこそこ多いみたいだし、練習にはピッタリでしょ?と言われて気がついたが兄と同じくらいかそれ以上に魔力量が多い。兄はチート抜きでほぼ人類最大だと思ってたけどまだまだ上がいたらしい。悪魔憑きのせいなのか、はたまた魔力暴走のせいなのか、ちょっと分からんが確かにいい練習台だ。
前世の自分は倫理的にどうかと叫んでいるが一度魔力を暴走させかけた兄は魔力暴走に何やら可能性を感じたらしく、あれから度々意図的に魔力を暴走させて研究しようとしていて危なっかしい。肉塊には悪いが、身代わりに研究対象になってもらうことにしよう。
適当に家を補修して綺麗にして肉塊を設置。ノートなんかも物質創造して置いておく。簡易研究所の完成だ。すまんな肉塊。まだ楽にしてやれそうにない。
妹の前でははっちゃけないカッコつけお兄ちゃんなシドくんだった……?