獣人オリ主ちゃんは何処へ消えた。A:虚空です 作:ナナの四六三
悪魔憑き研究開始から2週間が経過した。私も魔力暴走の反応については気になっていたので研究中は毎日隣で魔力反応を観察していたのだが遂に成果が出たらしい。魔力量を上げる方法が分かったと兄は小躍りしていた。私もありがたく学ばせてもらった。
さらに1週間ほどが経過したある日。うとうとしながら作業を眺めていたら唐突に肉塊の魔力暴走が治った。何事かと目を開くと肉塊のいた場所には小柄な金髪美少女エルフがいた。耳が尖っているから間違いない。
てか裸じゃねえか!お兄ちゃんあんまり見ないの!お前も元男だろうがだって?知るかボケ今は女じゃい!心はどうあれ不本意ながらな!兄にグーを放つが避けられる。その間に清潔な布を異空間から取り出して被せ、とりあえずの応急処置完了。ふう、さてと……
「誰よこの女!」
「僕らの肉塊君……だと思うけど」
魔力暴走治したら腐ってたのが勝手にこうなったらしい。むむむ、じゃあ仕方ないか。おいおいどうするよ、家とか返したほうがいいんか?と顔を見合わせて相談するがいい考えは思い浮かばない。ていうかそもそもまともな意識があるのか、もしくはあったのかも問題だ。脳みそまで腐ってたら何も判別できない可能性もなきにしもあらず、もしも残ってたら肉塊状態で弄りまくったせいでめっちゃ痛い思いをしていたら恨まれるかも。
そうこうしているうちにんん、と声を上げて金髪エルフが目覚めた。とりあえず私が話すから、と兄に合図して金髪エルフのそばにしゃがみ込む。
「ここは……?」
「目が覚めた?」
「っ、誰!?」
後ずさる金髪エルフ。ああ、こら布が取れるでしょうが。捕まえて布をかけ直す。ちょっと抵抗されたが復活したてだからか流石に弱々しい。私が健全に育った普通の幼女だったとしても簡単に抑え込めるくらいだ。
「どーどーどー。まあ敵じゃないから安心しな?」
「やめて!離して!」
「聞いてないねコレ」
しょうがないので抱え込み、慈愛の心でもってひたすら頭をよしよしと撫で続ける。怖くない怖くない(以下略と唱えるのも忘れない。気分はナウなシカである。気持ちを伝えるにはやっぱりふれあいが大事じゃろ?撫で続けるうちにやがて抵抗が弱くなっていって最後には大人しくなった。
「落ち着いた?」
こくりと頷く金髪エルフ。ん゛ん゛可゛愛い。こういう時にまだ前世の感覚が残っていることをちょっと自覚する。もう自然に私ってつけちゃうくらいだし完全に死んじゃったかと思ってたわ。え?女の子が可愛いものを愛でる時の心境なんじゃないかって?……そうかも。
「……あなたが悪魔憑きを治してくれたの……?」
「んーん。あっちのお兄ちゃんが治したの」
ヒラヒラと手を振る兄。その目はさっさと出て行かせて、と私に仰せである。了解。
「とりあえずお家に帰してあげるね。どこか分かる?」
「っ、ダメ、もう村には帰れない。それに、助けてもらった恩を返したいの!……まだ出来ることは少ないけど、それでも、なんでもやるから……」
目を伏せる金髪エルフ。んん?そういえば悪魔憑きって呪い子みたいな感じだから忌み嫌われてるのか。じゃあ帰ってもまた追い出されるのがオチか。……どうしろと?へい、兄。そういうわけだがどうするネ。思考加速をかけて会議を要請。*1兄が応答したのを確認して、早速脳内会議が始まった。
「(で、どうする?お兄ちゃん)」
「(困るよね帰ってくれないと。いっそ服と食べ物与えて放り出す?あの魔力ならそう簡単に死なないと思うし)」
「(流石にそれは……やっぱり育てるしかないか。まあ私たちが助けたんだしその責任は取らなきゃなぁ。パパンとママンになんて説明すれば……その辺で拾った。……捨ててきなさいとか言われそう。ママン優しいけど、どう対応するか分かんない。一体どうすれば……)」
「(いや、待った。ちょっと思いついた。あるよ。親に内緒で育てる方法。僕に任せてくれない?)」
「(ほんと?じゃあ頑張って。できるだけサポートする)」
何やら相当自信ありげな声だったので私は兄に全てを委ねることにした。クイッと顔を上げさせて兄の方へ向けた。
「……君の気持ちはよく分かった。なら、僕らのために働いてもらおう。まず、君の名前を教えてくれるかな?」
「……以前の名前は捨てる。私に新しい名前をつけて欲しい」
そう言って頭を垂れる金髪エルフ。ああ、もうまた布が捲れる。しょうがないので魔力の糸で服を編む。急に現れた服に驚いてる間に兄に名前考えろ!と念を送る。
「……それなら、アルファ。君は今日からアルファと名乗るといい」
アルファ?まあ即興で考えたにしてはすごくいい名前だ。金髪エルフ──改めアルファも分かったわ、とちょっと嬉しそう。
「そして君の仕事は──魔人ディアボロスの復活を陰ながら阻止することだ」
「魔神ディアボロス…………?」
????????(困惑)どういうこと?私が困惑している間にも兄の説明は続く。曰く、遥か昔にいたこの世界の魔王的な存在、魔人ディアボロス、それを討伐した人間、エルフ、獣人の3人の勇者の物語。実はその物語には続きがあったらしい。私もそのお伽話は聞いたけどそんな話は初耳だ。
曰く、勇者たちによって倒された魔人ディアボロスが死の間際に勇者たちにかけた呪い。それこそがディアボロスの呪いであり、子々孫々と英雄の力と共に受け継がれてきた悪魔憑きと呼ばれている病であり、昔は英雄の子孫の証として感謝され、讃えられていた、治る病であったのだ*2。
「でも、今はそうじゃない……」
「そう、何者かが歴史を書き換えてしまった。治療法を隠し、蔑まれる存在へと貶めた者がいる」
曰く、悪魔憑きは英雄の子孫だからみんな魔力が高くて強い。そいつらにとっては邪魔な存在だ。だから悪魔憑きと称して始末している。
「それこそがディアボロス教団。僕らの敵。彼らは決して表には出てこない。だから僕らも陰に潜み、陰を狩る」
「それほどの影響力を持っているなんて……敵は権力者にも紛れているでしょう。何も知らずに操られている者も……なら、もっと人員を集めて……」
アルファが、おそらくは怒り、義憤とやらに駆られているのだろう。覚悟完了顔をキメている。
「その通りだ。これはとても困難な道……だが、僕らが成し遂げなくてはならない。協力してくれるね?」
「貴方がそれを望むなら……」
不敵に微笑むアルファ。ダメだ全くノリについていけない。そもそも兄が言ってるのは冗談?本気?顔を見ても今はどちらか分からない。あれは本当に私の知る兄なのだろうか、なんて考えが浮かぶくらいには読み取れない。チラリ、とこちらを見た兄の目に任せろ、という意思を感じ取り、ようやく気持ちが落ち着いた。
「我らは『シャドウガーデン』、陰に潜み、陰を狩る者……」
「『シャドウガーデン』……いい名ね」
「そうでしょ?僕はシド・カゲノー。これからよろしく頼むね、アルファ」
「よろしく、シド。……それで、貴女は?」
一体どういう反応をすればいいのか分からずに戸惑う私にアルファが話しかけてくる。……普通の挨拶でいいよね?
「アイシャ・カゲノー。彼の妹です」
「貴女もディアボロス教団と戦うの?」
と聞かれたのは目線から言ってもほぼ間違いなく私がちみっこいからだろう。この間街で見かけた同い年*3と比べて半回りくらい小さい身長では2、3歳は幼く見られてしまう。アルファより10cmは小さいんじゃないかこれ。
「それでも僕と同じ年齢だよ。アルファ。つまりは君と同じ10歳だ」
「そう、ごめんなさい。……えっと、なんで私の年齢が分かったのかしら?」
少し不思議そうにアルファは問う。随分確信を持って言った感じだったから、違和感を覚えたらしい。
「あ〜まあ教えてもいいか、いいよね?」
どうぞどうぞと目で伝える。了解、と返ってくる。
「これは失われた技術の産物、魔術だよ。魔法を人工的に再現したモノなんだけど、色々な情報が分かる優れものさ」
「魔術……?魔法……?……それ、詳しく教えてもらえるのかしら?」
「んーまだ早いかな」
それはそうだろう。いかに魔力量が多いとは言え、魔術は操作技術がものを言う。魔力を加工できなきゃ魔術は使えない。
その夜は仮研究所の整備をして寝られるように軽く()改造を施してアルファにはしばらくここに住んでもらうことにした。
帰り道、私は兄に問いかけた。
「ディアボロス教団とかシャドウガーデンってどういうこと?ていうかそんなの本当にいるの?」
そしたらきょとんとした顔をして兄は言う。
「そんなのいるわけないじゃん。ごっこ遊びだよごっこ遊び。ああ言っておけばアルファにはオトンにもオカンにも正体を隠してるって言えば大丈夫だし、ディアボロス教団って言って適当に盗賊を狩ったりしてれば暮らしていけるでしょ?」
なるほど、策士だな兄よ!まあ、僕らもちょっと付き合わなきゃいけないけど、と付け加える兄。まあ楽しそうだからいいんでない?
「ついでに僕も影の実力者ごっこ出来るしね」
「なんか言った?」
「ん〜ん、何も?」
そんな兄を見て、私もふと気がついたことがある。これはもしかすると……原作のイベントだったりしないか?美少女を偶然拾ってしまうとか、ありがちではないか。それなら捨てなくてよかったと、私はそっと胸を撫で下ろした。
おし!(ご満悦)いい感じの設定に纏まりました!次回にはオリ主ちゃんが世界の真実に気がつくんじゃないかな!最近忙しいので次回は遅れます