獣人オリ主ちゃんは何処へ消えた。A:虚空です 作:ナナの四六三
私たち兄妹は13歳になった。それはつまり二つ年上の姉であるクレア・カゲノーが15歳になったということ。そして15歳とは学園に行く年齢である。バイバイお姉ちゃん元気でね。と別れようとしたのだが、学園に行く前日、どうやら姉は攫われたらしい。ディアボロス教団に。
え?ディアボロス教団ってのは兄の妄想じゃないのかって?私もそう思ってたんだがどうやら違ったらしい。私がディアボロス教団が実在することを知ったのはちょうど1年と半年ほど前である。なんか勝手に活動していたらしいアルファが作ったディアボロス教団に関する資料があまりにもなんか具体的だったから二つほどそこに書かれていた拠点を襲ってみたのだ。
軽い
それ以外の構成員は洗脳教育で操られていたり幹部になって老いない体を手に入れたい人がディアボロス教団に所属しているようだった。ディアボロス教団が実在したのは驚きだが、まあその辺のことはどうでもいい。問題は教団が実在したことを兄に話すか話さないかが重要だった。
推測するにやっぱり兄はなんかの作品の主人公だと思われる。しかも兄と七陰──アルファ、およびアルファが連れてきた獣人、エルフ達七人のこと、たぶん幹部らしく四天王的なノリの名前だと思われる──の様子から推測するにおそらくは勘違い系。勘違い系の主人公なら勘違いしたまんまの方が幸せかも知れない。そう思った私は兄にはこの事実を隠すことにしたのである。
いい方向に転ぶかどうかは分からない。原作を知らない私には判断がつかない。*1そもそも私は原作にいたキャラなのか?オリ主の可能性も全然あるし、あるいは私こそが本当は主人公なのかも知れない。そこらへんの判断がつかない今の私に出来ることは明らかに敵組織であるディアボロス教団をボコること、大切な人を守ることだけだ。もしも派手に動きすぎて原作から流れが変わったりしたら、世界が滅ぶかも知れないからね。マジ世界脆すぎだろいっつも滅んでるよねこいつ。
まあそれが今の私の方針である。だというのに、早速姉を教団に攫われてしまった。わざとなんだけど。近頃の教団では貴族とかのお偉いさんを付け狙っているらしい。アルファがそう言ってた。おそらくはまだ調査段階らしいが怪しい動きがあるとかなんとか。
どうやら姉もその1人のようで、今回姉を攫わせたのは攫われたら何をされるのか見るためである。姉の様子は常に魔法でモニタリングしているので命の危機に陥ったら遠隔で助けるので安心である。
え?そういう問題じゃないって?せやなあ。
さて、屋敷では姉ちゃんがいなくなった!と大騒ぎである。ちょっと物が散らかっている姉の部屋で私の父、オトン・カゲノー、またの名を「ハゲ」という──がハゲをきらりんちょ☆させながら言う。
「俺が部屋に来た時はすでにこのありさまだ。争った痕跡は無いが、窓が外からこじ開けられている。クレアも、俺も気付けなかった。相当な手練だな」
ハゲではあるが、顔はまあまあ、ダンディなおじさまなのだが、
「それで?相当な手練れだから仕方ない、とそういうことかい?」
そう言ったのはお母様だ。こっちはハゲと違い、割と美人である上に目立った欠点もなく、胸もまあまあある。そして何より強い。凍えるような声に、ハゲは萎縮する。
「そ、そういう訳じゃなくてね、ただ事実を述べたまでで……」
「言い訳すんなこのハゲェェェエエエーーーー!!!」
「ひぃ、す、すいません、すいません!!」
そして始まった虐殺、こうなると長い上に止めるのは非常にめんどくさい。まあ可愛い私ならうえ〜んって泣いてママ、怖いよ〜で片付くのだが、流石に一応ほんのちょっとばかしは元男としてのプライドがある。
ハゲのために一欠片くらいしか残っていない大事な元男としてのプライドを浪費するわけにはいかない。故に私たちは速攻アイコンタクトをとり、撤退を選択した。
ひっそりと修羅場を抜け出し、兄の部屋へ避難した私たち。兄はベッドに転がり、私はソファーに腰掛けて姉のモニタリング作業に戻った。
「出てきていいよ」
「はい」
兄がそう声をかけると、カーテンが揺れて、次の瞬間にはベータがそこに立っていた。何それかっこいい。私も練習しようかな。ベータの場合は身体能力によるものだが、私の場合は魔法が使える。どんな魔法でカッコよく登場しようかと対抗心を燃やしていると、気になる会話が耳に飛び込んできよった。
「アルファは?」
「クレア様の痕跡を探っています」
んん?あ、そういえばみんなには監視をつけてることを伝えてないんだっけ。じゃあ今姉がどこにいるかわざわざ探してるのか。教えてあげようかとも思ったが、なんで知ってるんだという話である。それはもちろん常日頃私の大切な人に分類される全員の監視をしているからなのだが、まあ私生活が監視されててよく思う人はいないだろう──から黙ってよ。これは乙女の秘密♡ということで。
「──シャドウ様、もしくはヘキサ様の助力が必要です」
「ん?え?何?呼んだ?」
唐突に自分の
「えっとお、まだ呼ばれ慣れてなくて……」
「は、はい、失礼しました。その。クレア様の救出に助力をいただけないかと……」
……ベータも心なしか、というかちょっと戸惑ってる。あ、ヘキサってのは私のコードネームね。前回言った通り兄に決めてもらいました。かっこいいでしょ?
「我が行こう」
「じゃ、私はパス」
ヒラヒラと手を振り、再び姉の監視に戻る。……これだとなんか私が監禁してるみたいだな。いつでも助けに行けるのに助けに行ってないからある意味間違ってはないんだけど。私の興味が完全に離れたのを見て、二人は話を再開した。今度はちゃんとさっきみたいに恥をかかないように二人の会話に耳をそばだてておく。
「は、はい。分かりました。えと、それでですね。クレア様を誘拐した犯人はやはりディアボロス教団の者です。それもおそらくは幹部クラス」
「幹部クラスか……それで、教団はなぜ姉さんを?」
「クレア様に『英雄の子』の疑いをかけていたのかと」
「ふん、勘のいい奴らめ……」
なんかわかった風なことを言ってはいるが、アルファたちのあの報告書を見てもいまだに兄はディアボロス教団の実在を信じておらず、めっちゃごっこ遊びに真剣なのだと思い込んでいる。私にはわかる。兄は今もテキトーにカッコつけてるだけだ。この前なんて「いや〜僕の遊びにこんなに真剣に付き合ってくれてありがたいなぁ〜」などとこぼしていたし。
前々回の私は感心しきっていたけどよくよく考えたらあれで騙される人間はほんの一部だ。もしもディアボロス教団が実在しなかったら遊びに付き合ってくれているとしか考えられないよね。みんな真剣なのに、兄は遊び気分だし、私はそれを知りつつ誤解を正そうとしない。う〜ん、なかなかにひどいなこいつら。
「こちらの資料を見てください。我々が集めた最新の調査の中にクレア様がさらわれたと見られるアジトが……」
そう言って机に資料を広げ始めるベータ。難解な古代言語(チートで読み放題だが)や数字やらが大量に書かれた紙束を手に、兄に説明している。真剣そうに聞いている兄だが、もちろんのこと全く話を聞いてないしちっとも中身を把握していない。ずっと5年間も頭を繋いでた弊害だろうか、兄の考えてることは近くにいる時限定だがなんとなくわかる。
「(すごいなぁ。こんな小道具まで作っちゃって、雰囲気出る〜。ってかそれっぽい資料作るの上手すぎ。なんて書いてあるんだろ。古代語とかばっかりでよくわかんないけど多分適当だよね……)」
などと失礼なことを考えている。むむむ……せっかく集めてくれたところ悪いけどその資料に載ってる情報兄には読めないし私には必要ないんだよね……ま、まあほら、兄の言うとおり(言ってない)雰囲気作りには一役買ってますしおすし。
ベータの説明が続くなか、唐突に兄は投げナイフを取り出し壁にかかった地図に投げつけた。カッ、と音を立ててナイフがある一点に突き刺さる。 ほら、こんな
「そこだ」
「ここ、ですか? いったい何が……」
「そこに姉さんはいる」
「ですが、ここには何も……いえ、まさか……!」
そう言って、慌てて資料を漁り出すベータ。
「資料と照らし合わせた結果、 シャドウ様の指摘されたポイントに隠しアジトがあると思われます」
そう、兄がテキトーに投げたナイフが刺さった点は、私が監視してるアジトの位置ぴったりの場所だったのだ!!!!アリエナイダロ……アリエールんだなぁこれが。
「しかしこの膨大な資料を一瞬で読み取り、さらに隠されたポイントまで読み解くとは……流石です」
目をキラッキラさせて尊敬してますビームを放つベータ。それに対して、兄は若干のドヤ顔で言う。
「修行が足りんぞ、ベータ」
「精進します」
ほらね?こんな感じの偶然が何回も何回も何回も起こるのだ。これが勘違い主人公でないならなんなんだ?幸運の神にでも愛されてるのかこの兄は。今度すごろくでもしてサイコロ運を試してみようか。
「至急アルファ様に伝えます。決行は今夜で?」
「ああ」
ベータは一礼し、去っていった。いい演技ができて満足げな兄である。うん、よかったね。
オリ主ちゃんのコードネームはヘキサにしました。なんかかっこいい。あざした。