魔神ちゃん止まって!/錬金の魔女と魔神ちゃん:第一章は「1滴の泥を落とされた楽園の中であっても」   作:電子サキュバス

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ep9:謎と安堵と放置されてたクゥちゃん

「敵は…あなたです」

 

「ッ!!」

 

アーリーシャがマキーリュイの腰に手を回し抱き着いたその瞬間、理解した。この人形の魔女はずっと、三人を『殺すつもりだった』のだと。

 

人形の魔女、アーリーシャはその「躯体」から高魔力反応を起こし、メキメキとあちこちヒビを入れながらどんどんとその身を爆散させようと隙間から光を溢れさせる。

 

「クソッなんだっ力が…っ!」

 

マキーリュイはすかさず引き離そうとするが、力が入らない。そればかりか意識は薄くなっていく。自分の意思に反してどんどん、微睡んでいく…まるで空腹を満たした後の白昼の午後の様に。

 

「だめぇええッッ!!!」

 

光縄がマキーリュイに巻きつき、勢いよく椅子から引き離す、しかしその体には今すぐに爆発せんとするアーリーシャを纏う。

 

ザンっ!と木材の斬れる音が聞こえる。

 

ガタンッバコンッ

 

木片に変わり砕ける音が響いた。

 

トレイルが、絡みついていたアーリーシャの両腕を切り落とし、その体を蹴り飛ばした。その音が、マキーリュイの意識が飛ぶ寸前に聞こえた。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

ドォオオオオン!!!!

 

耳を劈く(つんざく)体の芯まで響くような音が鳴り、アーリーシャだったものは破片と化した。

 

「師匠!師匠!」

 

「起きない…起きないよぉっ…師匠…っ!」

 

「トレイルさん、大丈夫です、これは魔力を一時的に失っているだけです」

 

「キスアさん…?」

 

トレイルはキスアの言葉に顔を上げた。

 

「この首の斑紋をみてください、私と離れる前にはこの位置に目立った痣はありませんでした、この短時間で出来る斑紋は…打撲か、魔力欠乏症だけです…打撲は青あざと内出血で紫ぽくなったりします、ですがこれは紫というよりは黒と白…この特徴的な反応をするのは魔力欠乏症なんです」

 

続けてキスアは言う。

 

「ですので、このエーテルを飲ませます」

 

「え、エーテルって本でしか、見たことない…ほんとに実在したの…?」

 

「これは私が造りました、その本を書いたのも私です…それはともかく、これを飲ませてあげてください」

 

キスアはトレイルに、透き通る水面から注ぐ光の様に淡い水色に発光する液体の入った瓶を差し出し、トレイルはそれを両の手で、うっかり手を滑らせないように、絶対に割らないように、慎重に慎重に受け取った。

泣き顔で、涙でぼやける視界を何度も袖でぬぐいながら、慎重に、慎重に、マキーリュイの口へと注いでいく。

 

色んな感情で震える手を必死に堪えながら、注いでいく。

 

「ぶふっうっ!えほっ!けほ……」

 

すると、マキーリュイがせき込んだ。無理な姿勢でただ液体を注いだものだから。

 

「意識はなくても、呼吸はしてましたからね…むせますよね」

 

キスアは少し困った笑顔で当たり前のことを言う。きっと一生懸命で気が付いていなかった、見えていなかったのはトレイルだけ。だけれど、今はそれでよかった、それが良かった。この気休めが何より大事だった。

 

マキーリュイは少しふらふらとしつつも、立ち上がり、トレイルに寄りかかる。

 

「師匠…よかった…」

 

トレイルは泣きじゃくり、大好きな師匠を抱きしめた。

 

「ありがとう…だが、今はまだ、それ以上はだめだ、トレイル、剣を…」

 

「あ…はい…」

 

トレイルは借りていたマキーリュイの剣を返し、騒動の間に拾っていた自分の剣をキスアから受け取った。トレイルの男のような口調はいつしか、見られなくなっていったが、今はまだ、誰もそのことに気がついてはいなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

人形の魔女は自爆したが、未だ辺りには煙の中を、彼女たちを探し動き続ける人形たちの音が聞こえる。

 

「師匠、もう動いて大丈夫なんですか…?」

 

ゆっくり立ち上がるマキーリュイを、座ったままのトレイルが見上げながら心配する。

 

「少し眩暈はするが、動ける――もとより私は戦闘に魔力をほとんど使わないからな、戦うには支障ない」

 

「マキーリュイさん、今動けるといっても急激な魔力喪失で体が魔力を生成しようと過剰に働いているはずです、その状態で動けば貧血のような症状がまた来てまともに動けなくなるんです、ですから…ひとまず人形たちは私たちがなんとかしますから、もう少し休んでください…」

 

「…すまない」

 

「………なら、少しの間だけ、頼む…」

 

そういうと、マキーリュイは苦悶の表情で壁に寄りかかりずるずると力無くしゃがんだ。不甲斐ない自分を責めているのだろう、その暗く影を差した顔からは覇気がなかった。

 

友人がなぜ自分を狙ったのか、なぜ自爆したのか。疑問と、そして自分は何か間違いを犯してしまったのかという不安が襲い、頭を抱えた。

 

「クソっ……はぁ、さっきから、それしか…」

 

それらに加えての自己嫌悪――――――――。

 

 

「トレイルさん、とりあえず私たちで近くの人形たちを倒してしまいましょう!」

 

「キスアさん…、わかりました。やるっスよ」

 

まだ完全に立ち直ったとは言えないが、トレイルは気を持ち直した。剣を構え、エンチャントを掛ける。「爆熱の閃刃をっ!」

 

刃は炎を纏い、炎は光を放つ。黄色く、白く、赤く、赤々と、赫灼と煌めいていた。彼女の心に燃える炎を体現しているかのようなとても明るい赤だった。その黄色い髪がそのまま炎になったように、刃は彼女が振るう度に煙を払い、人形を昇華させ、辺りを包んでいた異様な雰囲気を吹き飛ばしていった。

 

(すごい…さっきよりも動きが早くて、隙が無くなってる…)

 

キスアはトレイルが人形を次々斬り伏せていくのを横目で見ながら、光縄で人形をまとめては地面に叩き崩していく。再生されるまえに炎の魔鉱石を籠手から撃ち出し爆裂させ処理していた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

トレイルにしてみれば、初の実戦で不安を抱えながらの戦いであった。しかし、心配は杞憂に終わった。戦闘を経験する度に成長をしている、訓練所では得られない経験。それが彼女には合っていた、実戦での経験が彼女を急激に成長させた。

 

本当のところ、連れていくのはどうかと思っていた。あの日拾った頃から、最後には自分の手を離れて独り立ちを目指してほしいと思っていた。だからこそ、不器用な自分なりに、生きる術を教えてきた。自分では戦うことしか教えられないから、本当は養子にでもと思って、それをやめた。この子が私のことを求めていたから、求められたことが嬉しくなってしまったから。純粋な心と瞳が、どうしても愛おしくて。育てることに決めた。

 

「なかなかどうして…子の成長を喜ばしいのに…こんなにも切ないのだろうな」

 

訓練の日々、教えたことを覚えて、出来るようになっていけばいくほど、喪失感があるのはなぜだろう。

 

自分の教えたことは戦いのことと、狩り、自炊、洗濯、一人で暮らすのに必要な事。戦いは命を懸けるものだ。下手をすれば命を落とす…それが怖い。それも怖いのだ…そう、『それも』なんだ。それと同じくらい、『私の下から離れるのが怖い』んだろうな…。

 

ようやく視界がはっきりして、トレイルが人形たちを次々倒している姿をみて、マキーリュイは我が子の成長に様々な思いを抱いていた。

 

「ふーっ終わったっスねキスアさん」

 

「なんとかなりましたね」

 

人形をひとしきり片づけたところで、にこにこと二人は安堵の表情をみせた。

 

マキーリュイは二人の様子を見て、『キスアに託したい』と少しだけ思ったが、まぁできれば友人として支えてくれるくらいでいいか…と思い直した。

 

「師匠っ大丈夫スか…?」

 

「問題ない、それよりもお前たちは…?」

 

「私は大丈夫です」

 

「あたしも怪我という怪我はしてないっスよ!」

 

「そうか、じゃあ…一旦この辺りを調べよう…事件の手がかりがあるはずだ」

 

「わかりました!」

 

「そうっスね!」

 

「手分けして探しましょう」

 

「私は崩れたそこの民家を見てくる」

 

「じゃあ私はこの通りを見てきますね」

 

「あたしは他の民家に人がいないか調べてくるっス」

 

戦闘で破壊された箇所にはそれ以上の痕跡が見つかることはなく、民家にも人は誰もいなかった。破壊された建物にも、人はなく、なぜこの通りであった出来事の報告と、この通りでの実態は解離しているのか、それはこの調査で全く判明しなかったが、人形の魔女がどうしてそこにいて、なぜ自分たちを襲ってきたのか。更なる謎だけが残る結果となった。

 

調査の後、三人はこの通りを離れ、調査団に後を託し一度街の中央へと戻った。

 

中央に戻るころには日も暮れ、辺りに薄闇が訪れるころとなっていた。

 

「今日はもう遅い、戦闘で疲弊しているだろうし、今回は二人がいて助かった、ありがとう、キスア、君がいなければ私はこのまま死んでいたかもしれないな…君さえ良ければ今度私たちの家に来てくれ、礼がしたい」

 

「私は…できることをしただけです、役に立ちたい一心でそれ以外のことは考えてませんでした」

 

そういった後

 

「とはいえ…ごちそうがもらえるなら…クゥちゃんも喜ぶし…」

 

「ならいつでも来てくれ、食糧の備蓄ならいつでも用意がある」

 

「やった~~」

 

「キスアさん今日はありがとうございました!」

 

トレイルは深々とお辞儀をして、にっこりと笑顔を見せてくれた。

 

キスアはマキーリュイとトレイルの家の場所を聞いた後、別れ、衛兵がクゥと駄弁っている喫茶店の様子を見に行った。

 

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