魔神ちゃん止まって!/錬金の魔女と魔神ちゃん:第一章は「1滴の泥を落とされた楽園の中であっても」   作:電子サキュバス

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ep35魔神ちゃん止まって!:血と共になったのだ。二人は。

 

 マネコリスはノクスマリと向かい合い、少しずつ歩を進めていた。

 その様子を、クゥちゃんは後ろからじっと見守っていた。

 背を向けたマネコリスの表情はうかがえず、その静けさがかえって緊張を呼んだ。

 

 (きっと、大丈夫。話せば分かり合えるはず……)

 

 クゥちゃんはそう自分に言い聞かせるように、二人の言葉を頭の中で何度も反芻していた。

 出会ったときの言葉、仕草、その一つひとつに攻撃性はなかった。狂気も感じなかった。ただ、何か大きな誤解と、悲しいすれ違いがあったように思えた。

 

 (大丈夫。私が、間に立てば……)

 そう強く信じ、クゥちゃんは手を握りしめた。

 

「ノクスマリ……私は大丈夫だ。怪我も複製で何も問題ない。君も知っているだろう? 私は自身の分身をメインに据えて状態を初期化できる。あんな出来事があっても、私の心に狂いはもうない」

 マネコリスの落ち着いた声が静かに響いた。

 

「確かに……魔獣と共にやってきたあの異常存在の影響は、今のあなたからは見られませんね……。皆さんも、あの時のことはまだ覚えていますね?」

 ノクスマリの問いかけに、護衛の一人が答える。

「は、はい……あの時は本当に滅茶苦茶でした。他の護衛も、マネコリスさんも狂気に侵されて暴れ……敵味方の区別もつかず、私たちは……」

 言葉を詰まらせた護衛が口を閉ざすと、クゥちゃんの心に違和感が湧き上がった。

 (そんな中で、正気を取り戻すなんて……本当に可能なの?)

 疑念は、少しずつ背中を這う冷たいものへと変わっていった。

 

「……ですが疑問は残ります。なぜあなたが、狂気の狭間に落ちながらも、そこから自分を取り戻せたのか。……覚えているのでしょう? 答えられますね?」

 ノクスマリの問いに、マネコリスは一瞬目を伏せたあと、静かに答えた。

「……あぁ。あれは、偶然だった。混乱の中、ある護衛が放った土槍の魔術(ドリーティア)の破片が、偶然にも私の腹部を貫いた。

 強烈な痛みが、混濁した意識を現実に引き戻してくれたんだ」

 

 その言葉に、ノクスマリの表情が崩れ、ぽろぽろと涙が頬を伝った。

「……そう、だったのですね……。本当に……よく、戻って来てくださいました……」

 涙を隠すように両手で顔を覆うノクスマリに、マネコリスは静かに歩み寄った。

「もう、大丈夫。心配をかけたね」

 

 そう言って、マネコリスはそっとノクスマリを抱きしめた。

 

 その光景を見て、クゥちゃんは胸を撫でおろした。

 ようやく、ようやく二人が向き合えたのだと。

 

 

 

 この世界に嘘は――ない。

 優しい嘘も恐ろしい嘘も、する必要すら、この優しき世界には無い。

 だから気づかなかった。

 誰もかれも。

 

 マネコリスの懐に抱かれた彼女が持っていた物も。

 それを複製した光景も。

 誰もその瞬間を目撃することは出来なかった。

 

 そして、二人はゆっくりと倒れ込んだ。

 

 「え……どうして……」

 クゥちゃんは何が起こったのか理解できず、気の抜けた声でそう口走っていた。

 

 

 

 

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