魔神ちゃん止まって!/錬金の魔女と魔神ちゃん:第一章は「1滴の泥を落とされた楽園の中であっても」 作:電子サキュバス
「ちょっと!なんか、魔獣多くないスか?!」
キスア、トレイル、クゥちゃんの三人は、王都の東にある町、ベインに向けて旅をしていたのだが……。
「うん、なんか昔はこんなに多くなかった気がします……」
キスアは
「んん……」
クゥちゃんは
キスアがクゥちゃんを背後に隠し、なるべく戦わせないようにしていたから、クゥちゃんは早く片付けて進みたいと思っていても、そうできずにいた。
(なんで戦わせてくれないの?)
キスアのことがよくわからなかった。
子供のように見えていても、身体能力・戦闘能力が高いのをわかっているはずなのに、どうして任せてくれないのか。
――――――
イリアスはずっと、見ていた。キスアたちが魔獣と戦うところも、どんな思いで在るのかも。
ずっと、キスアの考えを変えたいと思っていた。
人の心では出来ぬことがあると理解してほしい。あるいは、少しでも大人のように、割り切ることを覚えるべきだ。
ずっと、考えを改めさせたかった。時間が無かった。
たかだか20年、人の世を知り、渡った程度ではまだ足りない。
子供から大人へはシームレスだが、曖昧などは許されない。ことそれはキスアにおいて特に……。
明確に、人の心を理解できぬ
兎にも角にも、自分ができることには限りがある。そのうえで、『なんとしても』『一秒でも早く』キスアには強くなってもらわなければならない。
世界が
――――――
魔獣の一体が、トレイルを飲み込んだ。それに気が付いたキスアはすかさず、爆発の輝石をガントレットに装填し、魔獣の喉から胃の間を目掛けて射出する。
飛んだ輝石は狙ったところへ吸い付いて、赤い輝きで点滅した。
数秒のあと、凄まじい爆風と、瑞々しい音が広がった。
肉の残骸を撒き散らし、巨躯が傾き、倒れ込む。
「う、うぇ……気持ち悪い。でも助かったっス」
「そんなことよりも、次が来ます!」
「うぃス!」
――――――
あれから、危険な場面は何度と訪れたが、キスアが考えを変えるようなそぶりは見られなかった。
「そうか……。まだ足りないのか。頑固なものだ」
イリアスはため息をつきそうになる。
ベインまではあと少し、あと数刻の
それまで、もう少し削っておかなければ――。
――――――
一度キスアたちは休憩をはさんで、なぜこれほどまでに魔獣の襲撃が多いのか話し合った。しかし、どれも的を得ず、本や論文から得た知識を使って議論を繰り広げたが、全く役には立たなかった。まるで違うのだ、今までの常識から外れた行動としか思えなかった。
(災害の予兆……)
そんな言葉が脳裏をよぎるが、今までにそんな事例に心当たりがない。
トレイルは危ないことがあっても、なんだかんだ戦うのが好きな人だから、今のところ楽しそうにしていた。
キスアはふとクゥちゃんを見た。特に笑うでもなく、色のない顔をして焚火を見つめていた。
そんなクゥちゃんはというと、『キスアの心がざわついている』。それだけを感じていた。だから、不安そうな顔だけはするまいとした。
もう一度、クゥちゃんは口を開いた。
「キスア、私も戦う」
キスアは、何とも言えない顔で、数秒クゥちゃんを見ていた。不安そうな、悲しそうな、自分が情けない、悔しいような……そんな顔に見えた。
結局、キスアは「……ううん、私たちで何とかするから。クゥちゃんは安全なところで隠れてて」とすぐにでも消えてしまいそうな笑顔で、クゥちゃんの気持ちを切り捨ててしまった。
――――
「愚か者が……」
イリアスは、怒りとも、憎しみとも、はたまた悲しみとも取れない顔で呟いた。
機能でしかないイリアスには、やはり人の心はわからないのか。
そう自覚しておきながら、人に対する愛だけは持ちたいと思い続け、しかし未だに自身の抱く『それ』こそがまさに人の心であることを知らぬまま、イリアスはキスアに対し、容赦ができないことを嘆いていた。
すべては愛しき者のため、愛しき世界の全てのため。
機能としての責務、そしてすべてを知る者として、起こるすべてに対抗しなければならない。
「魔神を使えるように、もう少し数をけしかけるか……」
――――
ベインに到着したとき、キスアは額から血を流し、トレイルがそれをおぶっていた。
あの時、魔獣の群れの中でキスアは最後、クゥちゃんにこう言った。不本意な言葉だった、だが今の彼女の精一杯の言葉だった。
「力を使ってでも……あなただけは逃げて」
魔獣に吹き飛ばされ、体を強打したトレイルは気を失い、キスアは疲労困憊の状態。
キスアが、魔獣に応戦するのがもはや無理筋だと判断してのことだった。
キスアの言葉を許可と捉えたのかは分からない。だが、その言葉を聞いて、間違いなくクゥちゃんは決断した。
クゥちゃんの体から黒い霧のような何かがあふれ出し、風ともつかぬ圧力が周囲を吹き飛ばす。
だがそのせいで、クゥちゃんの側にいたキスアもまた、その力の影響を受けることとなった。
体を地や岩に叩きつけられた――だが、致命となる前に、クゥちゃんは何とか抱き留めることができた。
とはいえ、気が付くのに一歩遅れたし、最後に傷つけてしまったのが自分のせいである事実に、変わりはない。クゥちゃんはこのことを正しく事実として受け止めた。
クゥちゃんは思慮を欠いて無遠慮に力を行使した。この出来事は、クゥちゃんの中でより強く「力の行使に条件を付ける」ことになった。
(守るために一度離れよう、例え瞬間的に見捨てることになろうとも。後で必ず助けられるはずだから……)
無意識にそう思ったあと、キスアをゆっくりと降ろし、魔獣の群れに向き直る。
数歩進み、周囲を薄い影で満たすと、クゥちゃんは短い言葉を呟いた。
「グラ」
その一言で、魔獣は黒い刃に裂かれた。
「ギズン」
その二言目で、二体目が牙にまみれた。
「アンガズ」
その三言目で、周囲が大きく抉られた。
キスアが最後の意識で見たのは、黒い何かで満たされた『魔神』の姿だった。
――――
「…………」
そんな考えでは、死を求めて苦しむ者は救えない。
死から逃れようともがく者の手を引き上げることはできない。
共に落ちるしかないのでは、全く足りない。
お前の価値をそこ止まりにするなど、あってはならない選択だ。
「一度ベインで、あれを見せるか……」
お前が