魔神ちゃん止まって!/錬金の魔女と魔神ちゃん:第一章は「1滴の泥を落とされた楽園の中であっても」   作:電子サキュバス

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ep44魔神ちゃん止まって!:キスアは夢にみた。苦しみの理由と、神の正体について。しかし未だ声の正体は不明。

 

「なんだキスア、その程度で意識を飛ばしてしまうとは情けない……。かわいいが過ぎるぞ、愚かな人間だな、全く貴様は」

 圧の伴った声が暗闇に響く。二度目ともなれば、すぐに気が付いた。

「あの時の……声?」

 

「そうだ、お前の敵だ。 忘れていなかったようでなにより。 そんなお前に、褒美をやる。 しかと受け取るように」

 

 

 

 

 暗闇から、ぐちゅ、ぐちゅ、と音が聞こえ始めた。それは傷口を弄る手術のようであり、しかし無作為に、手慰みに遊んでいるかのように、忙しなかった。

 

「いだい……。いだい……。いだい……。いだい……。いだい……」

 一定の感覚で涙とともにこぼす言葉には、覇気が無く、ただ気を紛らわせるためだけに吐かれているようだ。

 

 徐々に暗闇から浮かび上がるのは、四肢を何かに拘束された少女だった。

 肥大した胴体を持つ、馬のような何かの正面に全身を押し付けられ、少女の体は磔にされていた。

 馬の正面は、大の字に張り付けるには表面が狭すぎるせいで、腕と足は異常なほどに反らされ、根本が音を立てて千切れる。

 

 何度も、何度も。千切れては、再接続され、傷は何事もなく修復される。

 新鮮な痛みが、幾度も与えられ、とうに少女は心が壊れてしまっていた。

 

 「ひどい……」

 キスアは思わず、口を手で押さえてしまった。それは、吐き気を抑えるためでもあり、無意識にその出来事から目を逸らそうとする、『自己親密行動』でもあったかもしれない。

 あるいは、その『馬』から見つからないように、悲鳴を聞かれないよう、声を抑えようとする『防衛本能』によるものだっただろうか。

 いずれにせよ、キスアは恐怖と、その不快感から逃れることができない。

 

 ここは、意識の中。

 キスアだけが見る、夢に近い場所。

 一番自由で、一番不確かで、そして――。

 

 『一番精神が無防備になる場所』

 

 今にあっては、そこは『キスアだけの場所』ではない。キスアだけが見れても、そこの自由はキスアに与えられていない。認識の領域は、イリアスの領域だからだ。

 

 

 「お前が知らなかったものを、教えてやる。いつまでも、夢、幻だと思い込むのは許さん。()()()()()()()()であるお前に、しっかりと教えてやる。安心するがいい」

 

 

 

 ――――娘が出会ったのは、異形の魔物。魔獣などではない、この世に(あら)ざる異形だ。

 

 収納の魔女、マイカ・トゥスニンケ。彼女の最期は、()()()()()()()()となった。

 

 希望をもって町を()、外を見て、この世界の様々な美しい物に触れることが、何よりの幸せと感じる人物だった。

 

 収納の魔法で、多く人の役に立とうとしていた。お前が錬成の力をもって人の役に立とうとしているようにな。

 役に立つこと――それは、神が与えた人の心根だ。ほとんどの人々はこれを動機に生きる活力を()、互いに力を合わせて発展するように設計された。

 (すべて)が善であるように。

 生きとし生けるものすべてが善であるように――。

 食物連鎖以外の命の取り合いはできぬよう、人々から認識、概念が欠如するのを善しとした。

 

 収納の魔女は荷物持ち――。あらゆる道具、施設、全てを縮小させることができる力は有用な為に、彼女を引く手は数多(あまた)だった。

 それゆえ、どこにでも行く。どこへでも行くことが彼女の仕事となった。

 

 だが、最期となるに至ったのは、ただただ、自分の趣味。

 

 『世界を見て歩きたい』、その唯一の楽しみを、満たすための冒険。その行動こそが最期へ導いてしまった。

 

 好奇心は、この世界の善をまた一人殺してしまったのだ。あの人形の魔女と同じように……。

 

 キスア、お前は知っているだろう。あの時王都で狂ってしまった傀儡のことだ。

 

 あれは、人形の魔女の傀儡だったのではない。あれこそが彼女。

 もう過ぎてしまったことだ……。

 

 彼女もまた、好奇心に殺された者の一人だ。

 お前は、この『好奇心』というものを消したいと願うか――?そうすれば、この(あやま)ちは二度と起きることはないだろう。だが、その代償を考える必要もまた、それを取り扱う者の責務だがな。

 

 しかし、現状それは出来ない。

 おまえがそのままだからだ……。そのままのお前でいるのなら、このやりとりも意味を為さず、好奇心を消すという選択肢もまた、お前が選ぶ権利としては与えられない。

 

 お前がまず最初にできることは、マイカを救うことだけだ。

 

 クーラ・ミスティア――お前が名付けたその小さな、力の結晶。クゥちゃんなどと呼ぶそれの願いを叶えてやる自由などない。

 今はただ、お前のその苦しみに向き合う選択だけを与えてやる。存分に、克己に励むといい。

 

 今お前を悩ませている痛み、吐き気、体の様々な不具合……それは異物への肉体の拒絶反応。魔法(れんきん)の力を行使する際に起こるそれらの症状は、これからも起こり続ける。

 何故なら、お前は世界との繋がりを持ち、全生物の苦しみを解決する存在であるからだ。

 

 大昔に人々はこの存在を『神』と呼び、崇め奉らんとした。だが、そもこの世界における最初の存在者は、神のみであった。だからこそ、エレムリアス()は誰の助けも受け取らず、ただ一人だけが、箱庭の管理者として在るのを選んだ。

 

 ――それが今の失敗となった。こうして、自らの選んだことの積み重ねで、(おのれ)が苦しみ、世界を管理することも出来ず、神としての意味をすべて失った。

 

 今のお前が出来るのは、そのあらゆる事象から目をそらさず、苦しみを乗り越える術を身に着けることだけだ。

 まずは世界の歪みを探せ。

 あの忌まわしい魔物を殺せ。

 マイカが出会った魔物、お前はそれを殺さなくてはならない。彼女を救済するために。

 お前の苦しみを一つ取り除くことにもなる。

 

 ふふ、だが彼女は手強(てごわ)いぞ……。

 

 今はもう、魔物と同化した彼女は、本来の力の解釈を捻じ曲げている。ふふふ、人の域を超えた、バケモノだ。お前に、それを殺すことはできるかな?

 

 だが、まずは探せ、そいつを。それまで、存分に彼女の苦しみを享受するといい……。

 

 私も一緒に楽しむのだ、寂しくなかろう?

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