Average story 作:鏡乃 有栖
叫び声や悲鳴が聞こえる。助けを求める声に答えるものは誰もいない。
辺り一面が火の海となって日常を燃やしていく。当たり前だった日々の生活が簡単に崩れていく。
友達と遊んだ公園が、両親と買い物に出かけた市場が、幸せな思い出で溢れる自分の家が、火の海に飲み込まれて消えていく。
「ノア!何処にいるの!?返事をしなさい!」
「お母さん!おれはここだよ」
「すぐに逃げるわよ!」
「でも、お父さんが!」
「お父さんは私達を逃がす為に魔族を引き付けてくれているの。だから、お父さんの為にも逃げなきゃ!」
「でも・・・」
父親を犠牲にして逃げることを親子が揉めている。
だが、ここはもはや狩猟場。獲物がモタモタしていると必ず狩人がそれを狙いにやってくる。
「まだあそこに生き残りがいるぞ!」
「絶対に殺せー!」
「皆殺しだ!」
「気付かれた。こうなったらノア、アナタだけでも逃げなさい!」
「嫌だよ!お母さんも一緒に逃げようよ!」
「我儘言わないの!私はアナタがここで生き残って幸せになればそれでいいの。それはお父さんも同じはずよ。ノア、親って生き物はね自分のことなんかよりも愛する我が子が幸せに生きてくれればそれで満足なのよ。だからね、アナタは生きて幸せになりなさい」
母親はそう言うと、魔族のもとに走り出した。この世界で何よりも愛しい我が子を逃がす為に。
残された子供は泣きながらも町の外に向かって走り出した。
「それでいいの、ノア。アナタは絶対に生き残りなさい」
「何言ってんだ?この女は」
「どうだっていいだろ。そんな些細なことは」
「それよりもさっさと殺して宴会でもやるべ」
「ぎゃあぎゃあ騒いでんじゃないわよ糞魔族の分際で。あ、でも人間の女一人も殺せない貧弱種族だから仕方ないかしら」
遠くで母親と魔族の声が聞こえる。
「黙れ!そんなに殺されたいなら殺してやんよ」
魔族はそういうと母親を巨大な戦斧で両断する。
母親はいとも簡単に殺せれた。
「ああああああああああああああ」
母親が殺される瞬間を目の当たりにした子供は叫んだ。
「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる!」
子供は狂ったように走りながら叫び続けた。その心に強い復讐心を抱いて。
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墓が二つある。父さんと母さんの墓だ。
魔族から逃げ延びたあの日。力尽きて川に落ちそのまま流されていた所を偶然、近くを通りかかったクラインという人物に助けられた。その後はクラインが神父をしている教会で今日までの十年間お世話になった。
「父さん母さん、俺明日から旅に出ようと思うんだ。クラインにはもう伝えてある。二人はきっと魔族への復讐なんか望んじゃいないと思うけど、俺が幸せになるにはこれしかなかった。だからこれは二人の為じゃない。俺の個人的な復讐のための旅に出る。今日はそれを伝えに来た。それじゃ、行ってきます」
二人に別れの言葉を伝え終わると来た道を戻っていく。
「行ってらっしゃい。気を付けてね」
「行ってこい。そして必ず戻ってこい」
二人の声が聞こえた気がする。それでも振り返ることなく前へ進む。
立ち去った二人の墓には綺麗な彼岸花が何本も咲いていた。
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