外的要因で仕方なく、あるいはほんの些細な差異かもしれませんが"異なる選択"というものが当作の根幹だったりします
その日は唐突に訪れた。
確かに前触れはあった。エリドゥに搬入される資材や人員の動き、推測される"その日"との誤差は数日程度であり予想通りであるとも言えた。
だが、それだけだ。
身構えていようが、その姿を視界に収めていようが死神はいずれ訪れるものなのだから。
「アリス、少しいいかしら」
「なんですか?」
「話したいことがあるの。みんなも、そのまま聞いてほしいわ」
ゲーム開発部の部室にて、リオ会長が口にしたその言葉は。
───或いは宣戦布告ともとれる内容であった。
「......ケイについて、大事な話があるの」
◇
「えっとつまり......ケイちゃんの体を作ったからそっちに移動してほしいってことですか?」
「その通りよ。アリスの内側と......そのデバイスだけでは何かと不便でしょう?」
『......』
そう来ましたか、というのが素直な感想です。
あちらの目的はプロトコル:ATRAHASISの妨害。発動に必要な要素は"私"と"王女"、そして"リソース"と"時間"の四つであり、そのうちいくつかを封じる為の手段だと推測。
自由に動かせる体と言えば聞こえが良いですが、結局のところ私と王女を物理的に切り離しつつ緊急停止を行える檻としての機能も持っているでしょう。
与えられた体で無理矢理実行できるとは思えませんし、適当な嘘や言い訳で断るのが合理的。
時間を稼ぎ、より有利なタイミングでこちらから仕掛けるべき。
......そう、理解しているはずなのに。
(───恐れている、ですか......)
反芻されるのはチトセの言葉。
未だに底が見えない彼女の言葉は、現状では全て正解を言い当てている。
(「彼女達は間違いなく来る」という言葉は正しかった───エリドゥという要塞都市の存在もまた事実......)
チトセがあちら側の存在で、私や王女を騙そうとしている可能性については何度も考えました。
私はともかく王女にまで危害を加えるのであれば、その時点で───いや。
そもそも、プロトコル:ATRAHASISの実行は
過ぎ去った歴史の断片と化した彼らも、王女も。誰も私の存在を......実行を望む者なんて、どこにも───
"悩めばいい"という、あまりにも無責任にも受け取れる言葉の真意を今更になって思い知るとは思いませんでした。
チトセはあの時点で......いえ、ずっと前から気付いていたのですね。
(───トリガーAIに過ぎない私に、
『......その提案を受け入れます』
「理解に感謝するわ、ケイ」
『あなたもその呼称を用いるのですか......』
便宜上の識別名であるKeyの誤読、モモイというこの調子に乗りがちな生徒によって名付けられたそれは何故か一般化し、ゲーム開発部の内外を問わず用いられてしまっています。
そういえば───
(───チトセは、私の事をケイと呼んだことは一度もありませんでしたね)
ただの事実であり、それ自体は寧ろ正しい呼称として歓迎すべきことなのに。
......寂寥を覚えてしまうのは、何故でしょうか。
───チトセ、あなたであればこの無意味で些細な問への正答も教えてくれるのでしょうか。
◇
「なるほどねぇ......そう来たか」
『......私の判断は正しかったのでしょうか』
「そんなもん分かんないよ。まあビビって二の足踏むよりかはマシじゃないかな?」
『私には......分かりません。最適解は以前あなたが言っていた通りに、年単位で潜伏すれば───』
「アレまだ気にしてたの?」
ちょっと揺さぶるための極端な例だから気にしなくてもいいのに......という適当な発言に少々苛立ちを覚えますが、どこか真剣な様子の彼女の横顔を前に口をつぐみました。
「Keyはさ、性善説と性悪説のどちらを信じる?」
『......その二つの説を安易に肯定、あるいは否定するほど私は単純ではありません。私の意見を述べるのであれば性白紙説を支持します』
「うん、Keyらしい答えだ......私はね、この説にはもう一段階の分類が必要だと思うんだよ」
コピーである私が滞在するタブレット端末。そのメモ機能を用いてチトセはつらつらと語り始めました。
「Keyの場合、善悪とは本質と実在───要は思考と行動それぞれに判断基準を設けるべきだと、私は思うワケ」
『......と言うと?』
「たとえば生まれながらにして世界を滅ぼそうとしている誰かの話。この存在は性悪説の定義に沿っているけど......別に、滅ぼしたいから滅ぼすわけじゃない。そうプログラムされ、役割を与えられ産み落とされたからそうするだけ」
『慰めのつもりですか?であれば随分と不器用ですが───』
「いや別にそういう意図はないよ。ただ......」
目を逸らすことなく、真っ直ぐな瞳で彼女は続けた。
「私達とKeyは
『......』
「一回の依頼を達成する為だけにYAMAで育てられた暗殺者なんかとも根本から違う。人間は結局色んなモノになれるけどKey、君だけは違う。
そうプログラムされた以上、君の存在意義も行動も全ては既定路線に乗るしかない」
『......ええ、その通りです』
「
『え?』
話を戻そうか、そう言って彼女は交錯した二つの円と一本の直線を描く。
「生まれながらにして行う行為の本質は善行と悪行のどちらであるか。
性善説、性悪説に並んで───そうだね、
さて、Keyは行善説と行悪説のどちらを支持する?」
『その二択であれば行悪説でしょう。
......何も知らぬ赤子に善行を期待するのは愚かですから』
「私も同意見。というか殆どの存在は行悪説に分類されるだろうから本来はこんな議論自体が不要なんだけどね」
人が自己と他者の境界を明確に理解できるようになるのは二歳前後。共感もおおよそ同時期に可能になるワケで、最低限の善悪の判断ができるようになるのは生後六か月前後。
本質について考える性善説と性悪説に比べ、行動という実在に善悪を問う以上それは後天的な話になってしまう。
ある意味、Keyの存在によって生まれた新しい哲学かもね、と続ける。
「KeyはAIであり善でも悪でもなく白紙。そしてプロトコル:ATRAHASISの実行は現在のキヴォトスにおいて間違いなく悪だろうね」
交錯した二つの円と、それぞれを中央で分断する一つの直線。
指先で指し示しながら諭すように、或いは語り聞かせるように続ける。
『......だから何だというんですか?』
「性白紙にして行悪と、そう結論付けるのは早計じゃない?ってハナシ」
『じゃあ、何だっていうんですか』
「それを決めるのはKeyでしょ。だってさ───」
「───選択肢は与えられているんだから」
そこで再び、彼女の表情をしっかりと認識した。
......キヴォトス最強格の面々と対峙した時とはまた異なる、その真剣な眼差し。
「Keyを作った奴らがどんな奴らなのか、最終的な目的が何なのかは知らないよ。まあ大体予想はつくけど」
『......』
「でも一つだけ断言できるのは、プロトコル:ATRAHASISを実行してキヴォトスを滅ぼすだけなら───それだけが目的ならKeyに人格を与える必要なんてない」
『───ッ!!』
「状況を判断して、適切に問題に対処するにしても不要。というかそもそもアリスちゃんが生徒の形を模している理由だってない」
『では、何だと言うんですか───ッ!!』
あくまでも、私の想像になるんだけどさ。先にそう置いてから続けた言葉は予想外のものであった。
「たぶん、目で見て判断してほしかったんじゃないかな」
『......は?』
「生徒たちと同じ目線でキヴォトスを歩いて、そこに根差した生活や文化を体験して。
───その上で、判断してほしかったんじゃないかな」
『......』
「だからさ、Key」
そうして彼女は今一度問う。
───あの時とよく似た問を、全く意図の異なるそれを。
「君は何にだってなれるし、何だってできる。
───
原作への考察が含まれますが普通に理解が浅い部分があるので、致命的でない相違点であれば「独自設定です(迫真)」でゴリ押しますが許してください
致命的であればマロの方にこっそり投げてください(小声)
あと感想待ってるぜ!!
次に書くかもしれないもの
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アビドス編
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アビドス(過去)編
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エデン条約編の後