流石に泣いていい
お腹を満たし、皆で食器を片付ければ時刻は21時。
シャワーを浴びて体操服に着替え、皆は眠りについた......と思いきや。
"......?どうぞ、入って"
「あ、えと、失礼します......」
「何か用かな?ヒフミちゃんや」
「用という訳でもないのですが......何だか眠れないと言いますか」
あれこれ考えすぎと言いたいところですが、何せ退学が懸かっているわけですからね。
こんな訳の分からない切羽詰まった状況でゆっくりと眠れるほど彼女は呑気では居られない。
(この時点でヒフミちゃんは"3次試験に落ちた場合は全員退学"ということをナギサさんから聞いているはず。
誰に話すべきか、そもそも話してもいい内容なのかすら分からない訳ですよね)
"......もしかして、ヒフミもナギサからなにか聞いたの?"
「あ、えっと......はい」
「......」
言うなれば「仕方なかった」ってやつです。
原作では誰一人として思い描いた通りに動いた生徒は居ませんでした。
誰しもが誰かのために心を痛め、身を削り、時に命を賭して決断した選択の連鎖。
ただ巡り合わせが悪かった、誰かを想う心を利用する存在が居た、それだけの話です。
「私には......分かりません。ナギサ様が何を思って、私にこの話をしたのか」
"......その件については、ヒフミは心配しなくていい"
「こっちで何とかしますからね。大丈夫、私たちは最強なんだ」
"ほら、チトセもこう言ってるし"
「だ、大丈夫なんでしょうか......」
◇
「ハナコ?こんなところで何を?」
「......あらっ、アズサちゃん。まだ起きてたんですか?それに制服で......?」
「ある程度休息はとれた。だから見張りでもしておこうかと」
「見張り......?いえ、それよりもアズサちゃん......もしかして全然寝られていないんじゃないですか?」
「慣れない場所だと、あんまり寝られなくて」
普段過ごしている自宅と違う、という意味でないことを。何気ない言葉の裏にあるそれを感じ取る。
......感じ取れてしまう。
「心配しなくてもいい。夜通し動くための訓練もちゃんと受けてるから、5日間くらいなら寝なくても問題ない」
「いえ......そういうお話ではなく......」
「ハナコも散歩?ヒフミもどこか散歩に行ったみたいだし、みんなもなれない環境で不安だと思ったから見張りでもした方が良いのかもしれないと思って」
「......アズサちゃん、あまり無理しないでくださいね」
遠ざかっていく背を見つめる。
時折感じられる、正規でないものの厳しい訓練の跡を思わせる動き。
何度か目にしてきた
───およそ、一般的な生徒が身に付けるようなものではないそれ。
(vanitas vanitatum et omnia vanitas───
この言葉を初めて聞いたのがいつだったか、もう思い出せない。
私が私でなく、"私の能力を持つ誰でもいい誰か"として求められるようになる、ずっと前。
ただ求められるがままに振り返ることも顧みることも無く、無邪気に歩んでいた頃だろうか。
それでも、この言葉が刻み込まれた日は今でも覚えている。
どこにも行けずに雨に打たれていた日。瞳から滴り落ちる雫ごと何もかも洗い流していたあの公園で。
冷めきって震える私の手を握ってくれた、誰にも打ち明けることのない懊悩で震えるあなたの手。
自己すらも疑いながら恐る恐る紡ぐ心からの言葉と、それらを覆い隠そうと取り繕う道化の空っぽな虚勢。
チトセちゃん。
あなたは一体───いつからそんなに嘘を吐くのが上手になったんですか?
◇
「そろそろ日付も回りますし寝たらどうですか?もう仕事は済ませたでしょう?」
"いや、ちょっとね......"
「何かあった時に寝不足だとか二日酔いで使い物にならなかったらお話になりませんからね?ただでさえ指揮以外はあんまり役に立ってないのに」
"辛辣過ぎない!?......まあその通りだけどもさ"
へいへい寝ますよ~とふてくされながらベッドに潜り───あっ!!
「おいこら着替えろ!!皴になるでしょうが!!」
"チトセがママみたいなこと言う~!!"
まったく、着替えがあるからと言ってスーツのまま寝ていい理由になる訳ないでしょうが。
これだから先生は......
"というかチトセは寝ないの?"
「先生が寝たら私も寝ますよ」
『......嘘です』
"───アロナ?"
「あっ」
アロナさん!?!?!?オンドゥルルラギッタンディスカー!!
"......どういうことかな?"
『チトセさんは、少なくとも私の観測している範囲で睡眠をとったことがありません。たった一度も───私や先生、あるいは第三者を警戒しているのか分かりませんが流石に......』
「いや別にそういうことではなくてですね......」
"......チトセ"
「───あーもう分かりましたって、だからそんな顔しないでください」
露骨に「先生として私がなんとかしなきゃ......」みたいな顔されると困ります。
いや本当に先生やアロナちゃんを警戒したり、守るために起き続けている訳でもないんですよこれ。
喋ってなかった理由は、説明が面倒だし伝えたところで何か変わるわけでもない話だからってだけでして。
とはいえここまで来たら伝えない方が面倒ですし......
アロナちゃんも先生も純粋に心配してくれてる訳だし、仕方ないね。
「───私、寝る必要がないんですよね。
"え?......は?"
「睡眠障害とかそういうのではなく、ただ単に身体的な構造として睡眠が不要なんですよ。
なのでご心配なく、空き時間も小テストとか作ってますんで」
"......このことを他に知っている人は?"
「黒服さんだけです。特に話す必要もないので」
"......そっか。分かったよ"
一応、睡眠に近い休息をとることは可能なんですがね。
脳疲労はごくわずかですが存在するので、キツい戦闘の後とかは寝転がって休んだりはしています。
「そういうワケなんで先生はさっさと寝て、どうぞ」
"分かったよ......じゃ、おやすみ"
「おやすみなさい、そこそこ悪い夢を」
"最後まで呪いの言葉を吐くなよ......"
───って、結局この人着替えずに寝やがったよ......
これ初期からある設定なのに適当に書いてたから一部サイレント修正したぜ(小声)
まあ別に変えたところで矛盾とか生じる類のやつじゃないから......
次に書くかもしれないもの
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アビドス編
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アビドス(過去)編
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エデン条約編の後