【奇跡の対偶証明】
ミカの口から語られたのは、"アリウス"という名の歴史に葬られたとある派閥の歴史。
そうして───ミカがアズサをトリニティに招いたという事実。
「───私は、アズサちゃんならトリニティとアリウスの"和解の象徴"になれると思ったの」
"......そうだね"
「私は今もそう信じてる。アズサちゃんとエデン条約っていう平和の芽は絶対に守らなきゃいけない。そのどちらも、ね。」
"一つ、いいかな"
「うん、何でも聞いて!あっ、でも私はナギちゃんやセイアちゃんみたいに頭がいいわけじゃないから何でも答えられるわけじゃないけど......」
"ミカの意見、というか思いが聞きたいんだ"
───エデン条約について。
"チトセもナギサも、エデン条約そのものについては明言しなかった。機密ということもあって私でもまだ把握できていない事ばかりでね......
───エデン条約は、本当に平和条約なの?"
「......うん、先生の懸念してることは分かるよ。でも大丈夫」
先の話に出てきた第一回公会議、アリウスという異分子の排除に際し巨大組織と化したトリニティが牙を剥いたように。
ゲヘナとトリニティ、現在のキヴォトスにおける三大校のうち二つが手を組むことで何らかのトラブルが発生するんじゃないかと......ほんの少し思ったんだけど。
「エデン条約はETO───相互に戦力を出し合って両校間のトラブルに対処する組織を作るけど、その規模自体はそこまで大きいものじゃない。
権限も分割されてるし、エデン条約そのものが大きな争いを呼ぶってことは無いんじゃないかな?」
"よかった、安心したよ。こういう難しいことは私も良く分かんなくってね......"
「すっごい分かる~」
一度は頓挫しかけたエデン条約を再度調印まで漕ぎ付けたナギサの手腕は本当にすごいよね......てかアビドスの戦闘能力もミレニアムの科学力もそうだけど、みんな常に私の想像を超えてくるよね。
まだまだ学ぶことばっかりだよ......
"ちなみにアズサのことはナギサには......?"
「えっと......(目を逸らす)」
これさては何も言ってないな?
「ナ、ナギちゃんはちょっと疑り深いとこがあるっていうか......そういうの、聞いてくれないだろうなって思っちゃって」
"......ちなみにチトセはどこまで知ってる?"
「たぶん、全部。全部分かった上で、私には思いつきもしない最良の結果を求めようとしてるんだと思う」
"それは......なんともチトセらしいね"
きっとミレニアムの時と同じ。チトセは多少のリスクを負ってでも最良の結果を求めて動くだろう。
そのリスクは常にチトセ自身が背負い、私は彼女の目的も知らないまま近くで見てるだけ。なんか腹立ってきたな......
「あと、昨日面談した時に気付いたんだけど......」
"あれ?ミカも面談に参加したの?"
「うん。ただ───アズサちゃんの時だけ同席したの」
"あっ(察し)"
この事実が意味するところは───まあ、そういうことだよね。
「まあでも補習授業部の中で唯一暴力事件で正実に捕まってるバックボーンがあるから、そういうことかなと思ってたんだけどね......」
"......他にも何かあったの?"
「他愛ない世間話だとかの中で、チトセちゃんとの関わりについてすっごい遠回しに鎌をかけてたの」
"───ちょっと待って?チトセもアリウスとの関わりがあるの?"
「あ、言ってなかった?チトセちゃんは私よりも早い段階からアリウスに接触してたんだよ」
え、全然知らんかった。
チトセが手を回しているということはつまり、アリウス自治区にはチトセの興味を引く何かがあるのか───もしくは。
(───ミレニアムの時と同じ、大きな被害が予測される事件の予防?アリウスにはチトセが動かざるを得ない
この一件、いや繋がっている一連の流れはもしかすると。
私の想定を遥かに超える何かが裏で動いていたりする───?
「先生はさ、チトセちゃんの目的って知ってる?」
"いや全く"
「やっぱりかぁ......」
「チトセちゃんはきっと私とは違う目的で動いてるけど───その目的の道すがら、困ってる子全員に手を差し伸べるんだと思う。自分の身すら顧みずに」
"あー、すっごい分かるそれ"
「でも、それを待つだけじゃダメなの。私たちにだってできるんだって分かって貰えれば......チトセちゃんだって安心できるはずだから」
"......今なんて?"
「ううん、何でもない。先生......みんなをよろしくね?」
"分かった、ミカも無理はしないでね"
大丈夫、私こう見えて結構強いから!と胸を張る。
そういえばホシノも言ってたっけ。トリニティの二強のうち一人がミカで、何でもありの勝負なら自分の次に強いって。
......ティーパーティーであるミカとホシノが何故戦ったことがあるのかは、聞かないでおこう。
"途中まで送るよ"
「!!そういうとこやっぱり似てる!!」
"ええ......"
◇
面談の日、ナギサ様から話を聞いた時からずっと頭の中でぐるぐる回っていた疑問。
補習授業部が始まった日から抱いていた不信感が、殆ど確信に変わった。
「......ハナコ......アズサ」
二人はいない。朝にはいつもいるから、もう少ししたら戻るのかもしれない。
「......ペロロ様がいっぱい───」
「どんな夢見てるのよ......」
......ヒフミは学力的には問題ないけど補習授業部に入ることになって。もしかしたら道連れで退学になるかもしれないのに、それを表に出さずに色々教えてくれる。
ハナコは......エッチな事ばかり言ってるけど分からないところがあったら教えてくれるし。たぶん悪いやつじゃないんだと思う。
アズサは、急に裏切り者だなんて言われても私には分かんない。時々変なこと言うし、全部見られたけど......全力で勉強してる。私ももっと頑張らないとって思うくらいに、いつも何事にも本気で取り組んでる。
先生はよく分かんないけど......たぶん悪い人じゃないんだと思う。悪い大人は水鉄砲であそこまではしゃぐとは思えないし。
「私が、みんなを守らないと......」
でも、一人だけ怪しい奴がいる。
前科は数えきれない。アズサも、もしかするとあいつに騙されてるのかもしれない。
みんなで合格して、正義実現委員会に戻って、ツルギ先輩とハスミ先輩に伝えないと。
(チトセが、トリニティでテロを計画してるって伝えないと......!!)
◇
「......申し訳ございません、チトセさん」
届くはずもない、心の裡に沈殿した鉛のような懊悩を口から吐き出す。
第二次試験の直前に行う、試験範囲の拡大と合格ラインの大幅な引き上げ。
面談の際に確認した勉強の進度では合格は到底不可能、第三次でも不可能に近いでしょう。
ですが、それだけでは安心できなかった。それ故に取ってしまった、最悪の手段。
「私は、私が最も苦痛に感じる
......あなたの存在を餌として」
それの名は不信。
全員の同時合格が必須となる退学回避において、致命的な隙になりうる楔。
多くの真実に致命的な
内部からの瓦解を狙う、最低な一手。
(......もう、退けないところまで来てしまいました)
チトセさんはアリウスに協力している。
ヒフミさんは退学の事実を知っていながら伝えていなかった。
ハナコさんは余裕で合格できる実力を持ちながら意図して点を落としている。
そして───アズサさんはトリニティにて大規模なテロを計画している集団の一人、トリニティに潜り込んだスパイであると。
補習授業部は、トリニティの裏切り者を炙り出しチトセさんの尻尾を掴むためのシステムであり。
......確たる証拠を掴めなければ退学は免れない、などと───
(───最低ですね、私は)
よくもまあここまで口が回るものだと、俯瞰して見れば我ながら溜息が出ます。
呼吸をするように嘘を吐けるものだと、自嘲の笑みばかり上手くなる一方です。
(もう、自然な笑い方なんて忘れてしまいました......)
それでも、止まることは出来ません。
冷めきった紅茶を飲み干し、山のように積み重なった報告書に再度目を通していくことしか───
───疑うことしか、今の私にはできないのですから。
さすがにナギちゃんが可哀そうになってきたな......
次に書くかもしれないもの
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アビドス編
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アビドス(過去)編
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エデン条約編の後