「......それで、アズサちゃんのことなのですが」
「わ、私も聞いていいのでしょうか......」
「ヒフミちゃんも一緒に聞いていただければ」
そういって視線をこちらに流すハナコさん。こりゃ"私がアズサちゃんについて知っている"ことを知っていると見た方が良さそうですね。
ハナコさんを騙すつもりは微塵もないのですが、彼女は賢すぎるが故に───そして臆病なのに優しすぎるが故に巻き込みたくは無かった。
───まあ、今更の話ではありますか......
「実はアズサちゃん......毎晩のように、どこかへ出かけては夜明けまで戻ってこないことが続いていて」
「そう、だったんですか......」
「最初は
......おいこら先生、こっち見んな。
ほらもうハナコさんが意味深な表情しながらこっち見てんじゃん!!
「......アズサちゃんが一体何をしているのかは分かりません。ですがそろそろ、多少無理矢理にでも寝かせてあげないといけないのでは、と」
「それは......」
「何だかアズサちゃん......どこか、すごく焦っているようで」
「......」
......実は昨夜、久々にサオリさんから連絡が来ました。
彼女たちの目論見、現在抱えている問題、そして───助力の要請。
それを知ってしまった以上、アズサちゃんの内心がどのようなものであるか......彼女の背を焼く焦燥感は察するに余りあります。
「このままでは、いつか倒れてしまいます。どんな事情なのか分かりませんが、どうにかその不安を軽減してあげたくって......」
"......"
「......先生とヒフミちゃんと───チトセちゃんもですよ?しっかり寝ないとダメです。
確かに試験も大切ですが、ただ落第というだけです。身体の健康と比べられるものではないと思いませんか?」
「そ、それは......」
「先生、潮時なんじゃないですか?」
"......うん、そうだね"
「───やはり、何か事情があるのですね?」
ハナコさんが思い至らない筈がない。前回や原作ならまだしも、ここには"私"が居る。
私の行動原理をおおよそ理解しているハナコさんなら......
「......チトセちゃんがここまで積極的に動いていれば、流石に察してしまうというものです。
補習授業部を組織したのはナギサさん......エデン条約を目前にしたこのタイミング......最悪の想定も───」
「......その最悪ですよ。第三次試験に不合格だった時点で退学です」
"ちょっ、チトセ!?"
「どうせハナコさんならすぐ答えに辿り付きます。ここまで来た以上は余計な手間を省いた方がいい」
どうせ巻き込むなら、ハナコさんは手元に置いた方が良い。
彼女は優秀過ぎるが故に気付き過ぎる、そして───真っ先に狙われる。
「......なるほど、それで超法規的権限を持つシャーレを組み込んだと。
であれば───チトセちゃんは一種の保険、ということでしょうか」
"......!?"
「理解が早くて助かります。もしかして面談の時点で割と察してました?」
「
「おぉこわ......」
ナギサさんとの面談で───いや、それ以前のタイミングで怪しんでいたと。
お互いに鎌をかけていれば自然と相対距離は縮まる。その刃に触れずとも、それほど近くであれば情報は
「第二次試験、ナギサさんは是が非でもみんなを不合格にさせるつもりです。ほら───」
"......試験範囲を3倍の上に、合格ラインを90点まで引き上げる───!?"
「きゅ、90点!?そんな......私でもまだ80点にも届いてないのに......」
「なるほど......これがナギサさんのやり方というわけですか」
「あとはコハルちゃんに色々吹き込んでたみたいですね。いやー本当にやり口がエゲつない......」
普通に考えて試験範囲3倍って......界●拳みたいなノリで3倍にしていいものじゃないんですけどね。
その上合格ラインは90点、落としてもいい問題数で言えば4分の1まで減ります。
この2つの変更点により難易度は大きく跳ね上がる───はい、合格させる気が無いというのはよーく分かりました。
「......ごめんなさい。皆さんもう気付いているかもしれませんが、今の私の点数はわざとです」
「や、やっぱり......!?ハナコちゃん、どうしてそんなことを......?」
「......ごめんなさい。
「......!?」
「私の、すごく個人的な理由なので......ですが、それでみなさんが被害を受けてしまうのは望むところではありません」
ハナコさんは"今はまだ"と言った。そう言えたのは、彼女なりの変化と受け取ってもいいのでしょう。
補習授業部もまた、彼女の懊悩を───私とセイアさんしか知り得ないそれを明かしても構わない存在だと。
......新しい居場所なのだと。
「なので、安心してください。みんなとの勉強も、今後の試験も頑張りますので」
"......ありがとう、ハナコ"
「い、いえ......!?先生に感謝していただくようなことでは......むしろ私が謝罪するべきことです、裸で手をつくだけで足りますでしょうか......?」
「いえそれは逆にやめていただけますと......!?」
さて、私としては特にやることは変わらない訳ですがアリウスの子たちのお願いを聞く以上は少し予定変更です。
とはいえそれは、この補習授業部が無事解散した後の話になる訳で......
「ところで私について話したいことがあるとか言ってた気がするんですがそれは......」
「......ああ、その件でしたらもう解決しました。忘れてください♡」
「ええ......」
一体何だったんすかねぇ......
"あっ、そういえばチトセに伝えなきゃいけない事があったんだった"
「え?この流れで?」
"仕方ないじゃん忘れてたんだから......明日のゲヘナとの会合に、私の名代としてチトセが指名されたんだよね。よく分かんないけどよろしく"
「......え?」
......え?
◇
マジで舐めてんじゃねえぞあんの【自主規制】がよ......
普通前日に言うか?前回の会合いつだよマジで。忘れないようにリマインダー設定してたんだ―ドヤッじゃねんだわ。ドヤるなバカが。
......まあ伝えられないよりかは数百倍マシなので今回ばかりは大目に見ましょう(寛容)
「うーっす失礼しやーす」
「キキッ、来たか」
やってきたのは
増えた装飾品としては......イブキちゃんの絵が飾られた額縁くらいですかね。
......おや?
「他の人たちはどうしたんです?議長室にマコトさん一人だなんて珍しいですね」
「ああ、
「......ほう?」
例の件と言うと......アレですか。
「奇遇ですね。私も彼女達から先日連絡を受け取りまして───」
「キキキッ、随分と思い切ったものだ」
「ええ、まったくです」
いやー、ゲマトリアの面々とは違う方向ですがマコトさんと一緒に黒幕ムーブするのもなかなか乙なものですねぇ!!
「貴様のことだ、返事は聞くまでもないが───」
「流石、よく理解しておられる」
「キキキッ、そう褒めるな。───一応、答えを聞いておこうか?」
「ええ───」
アリウスの子たちからのお願いは些細なものです。私の手に掛かれば容易いもの、ですがそれを彼女たちの口から引き出せたことが何よりも喜ばしい。
「───"悪い大人"に任せておけ、と」
「キキッ......キャハハハハハ!!
ああ、それでいい!!それでこそ"感興の瘋癲"だ!!」
「フフフ......」
「......そうだ、キヴォトスはいずれこのマコト様の手に収まるべきものなのだ。
それにつまらん野望ごときで傷を付けるなど───」
彼女は笑っているのではない。
その目は真っ直ぐに───
「───小鉢にも劣る器を粗悪な
このキヴォトスを支配するに足る存在が誰であるか、その腐り果てた脳髄に叩き込んでやるぞ」
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次に書くかもしれないもの
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アビドス編
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アビドス(過去)編
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エデン条約編の後