いくぞいくぞいくぞ
「......お待ちしておりました。ご無沙汰しております、先生。
あれからお変わりはありませんか?合宿の方はいかがでしょうか、何か困った事などはありませんでしたか?」
"おかげさまで何とか。ところで今日はどんな用事?"
以前より化粧が少し濃くなっていた。
より正確に言えば『本来は濃いと認識されないように不調を覆い隠すための化粧』が、その手の分野においてはあまり詳しくない私ですら分かるほどに。
「今日まで補習授業部の顧問として彼女達を見てきて───いかがでしたでしょうか?何か気付いたことなどはありましたか?
......もっと直接的に申し上げた方がよろしいですか?」
"......うん、いくつか分かったことがあるよ"
「......伺いましょう」
"コハルはね、ハンバーグが好きなんだ"
「えっと、そういった意味ではなくてですね......」
"アズサは可愛いぬいぐるみが好きで、ハナコは補習授業部みんなのことをよく見て心配する子で。
ヒフミはみんなで合格するために寝る間も惜しんで模試を作ってる"
誰が裏切り者なのか。誰を排除すれば解決するのか。
そういったやり方は私が選んじゃいけない。そういったやり方を、生徒に選ばせるわけにはいかない。
......きっと、これが最後のチャンスになる。
"そして───ナギサはずっと一人で戦ってる"
「......っ!!そんなことを聞いているのでは───!!」
"ナギサ、聞かせて欲しい。本当にそのやり方しかなかったの?まだ間に合う、私やミカにも相談して───"
「───はぁ......」
重い、重い溜息を吐いて。
......ゆっくりと、視線が交錯する。
「......ミカさんから、何か聞いたのですね?」
"......"
「沈黙は肯定と受け取りますよ、先生。
しかし───この様子では私からの提案は受け入れて頂けそうにありませんね......」
"提案......?"
「"トリニティの裏切り者"を、シャーレの権限を以て例外的に即時退学処分とする......そういったお話です」
「......!?」
想定していなかった訳じゃない───ナギサが既に確信を持って"トリニティの裏切り者"を特定しているという可能性。
面談、そしてチトセから聞いていた監視の存在......隔離という、ある種受け身の対応に見える補習授業部というシステムは実のところ。
「......白洲アズサさん。彼女の退学を以て補習授業部の解散を提案しようかと考えていたのですが」
"それは、先生として聞き入れられないかな"
......もっと能動的で、攻撃的なシステムだったらしい。
「つまり、白洲アズサさんが"トリニティの裏切り者である"という点については認めると?」
"それとこれとは別問題だよ。
そもそも、アズサが裏切り者だなんていう事実は確認できていないからね"
状況証拠やミカからの話はあくまで判断材料だ。私は───いや、私たちはまだアズサについて知らないことがいくつもある。
判断を焦り過ぎだと言いたいけれど......彼女の焦燥はあまりにも切実な問題だ。
「ええ、先生の言い分は尤もです。
ですが私にはもう......手段を選ぶ余地など残されていないのです」
"待って、ナギサ。まだ───"
「先生もお分かりでしょう?......私がもう、まともな手段に頼って彼女達を退学させようとしていない事は」
"それは......"
「私は
この問題に対して先生が取れる手段が元より用意されておらず、正解など最初からどこにもなかったのです。
補習授業部の皆さんも、もちろん私のことも
"......諦める?"
何故か、その言葉が喉に引っかかって飲み下せなかった。
諦める?何を?
今も合格するためにひたむきに頑張っている彼女達を見捨てろと?
目の前で疑心暗鬼の闇に囚われ、大切な物すら切り捨てて親友の身やキヴォトスの平穏を守ろうとする生徒を敵として切り捨てろと?
......意図も読めないし、いつも揶揄ってくるし、妙に口うるさくて。
毎日美味しいご飯を作ってくれて、一緒に勉強して、誰も居ない夜を一人で明かしている彼女の思いを踏み躙れと?
"......
「......先生?」
"私は皆の頑張りが報われるように進み続けるだけ。補習授業部のみんなも、チトセも......そして、ナギサも。
......絶対に誰一人諦めたりしない"
「───そのようなことは、不可能です。いくら先生でも......」
"チトセならそうする、でしょ?"
「......ッ!!」
彼女なら、絶対に諦めたりはしない。
ミカの言っていたことが少しわかった気がする。私とチトセはきっと、重要な場面で同じ選択をする。
"ナギサ。絶対に君を、その疑心暗鬼の闇から出してみせる"
「......そうですか」
まるで子供の喧嘩別れだ。
それでも、初めてナギサに本心を伝えられた気がする。
これが正解かどうかは分からないけれど......きっと、何も言わずに後悔するよりかはマシなんじゃないかな。
全てが終わった後に、お互いに苦笑しながら顔を合わせられるような。
そんな何てことのない日常みたいな話で締めくくる為にも、今の私にできる事を───
◇
「という訳でハナコさんは何か欲しいものとかありますか?」
「でしたら、ハグをしていただけませんか?」
「すみません、"ハグをしていただけませんか?"の辺りがよく聞き取れなかったのですが」
「......きちんと聞き取れていますね」
アズサちゃんにはスカルマン氏のラバストを、コハルちゃんには特製チーズハンバーグをプレゼントしたわけなんですが......まあ冒頭の通りです。
「あのぉ......流石にハグは気恥ずかしいと申しますか......」
「でしたら膝枕などはいかがですか?これ以上譲歩するとなると私としても少々心苦しい手段を取らざるを得ないのですが......」
「そちらでお願いします(即答)」
脅迫()込みのドアインザフェイスとは......さしもの私とはいえ速攻で折れざるをえません。
しかし膝枕ですか......ノノミちゃんにやってもらった(半強制)以来ですね。
「......今、別の子の事を考えていましたね?」
「なんだろう、思考盗聴するのやめてもらってもいいですか?」
「読みやすいチトセちゃんが悪いです♡」
「うーむ......」
ベッドの上で座り、膝をぽんぽんと叩き促される。
しぶしぶ......いや特に疑問とか抱いてなかったんですけどこういう時って普通逆じゃないですか!?ノノミちゃんのせいで感覚バグってたけど、ご褒美って言ったら普通枕してもらう(最悪の語弊)側でしょ!!
「チトセちゃんの細い足だと、あまり寝心地はよくないかもしれませんね」
「それは確かにそうかも。その点ハナコさんの足は───」
「何か言いましたか?♡」
「イエナニモ」
言葉選びには気をつけよう!(ゆうさく)
「......あまり、無茶はしないでくださいね?」
「それヒナさんにも言われましたよ......そんなに無茶してる印象あります?」
「───今度はゲヘナの風紀委員長さんですか?♡」
「アッ」
同じミスを二度繰り返すのは......やめようね!!
この先生は、原作先生とかと比べるとこういった点でガキです
ただ大人であることだけが正解では無い、そういった状況もあるかもしれません......
次に書くかもしれないもの
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アビドス編
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アビドス(過去)編
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エデン条約編の後