まさか80を超えるセーフティハウスの位置とローテーションまで把握されてるとは思わんやん......
●AM8:00
試験開始まであと───1時間。
タイムテーブルは全体的にキツめ、敢えて時間的余裕を無くすことで反撃の手立てを完璧に潰します。
私と
私たちの苦労で彼女たちの努力が報われるのであれば、再び悪名がキヴォトス中に轟くような大立ち回りをこなすことも厭いません。
「それでは、また後で」
「き、気を付けてくださいね......?」
「ぜ、絶対に無事で戻ること!!約束だからね!!」
「うん、また後で」
「......無茶、しないでくださいね?」
「おう!!」
皆さんからの応援を背に、いざ行かん────!!
"───チトセ、"
「何ですか、今いい感じの空気だったんですけど」
"......色々と考えてたんだけど、全部忘れちゃった"
「えぇ......」
本当にこの人大丈夫かな......?
"......まあ小難しいことはいっか。───いってらっしゃい、チトセ"
「......ふん、今日のお昼はとびきり豪勢なやつ作りますから遅れないでくださいね。
───行ってきます」
◇
●AM08:20
まず第一段階。試験会場である第19分館にて保管されているエデン条約に関する機密書類を盗み出します。
目的は配置されている正義実現委員会の方々の戦力を分断し───なんてことは考えていません。これだとナギサさんのシナリオ通りなので。
(正義実現委員の戦力を分断できても、今日は気合入れてハスミさんとマシロさんの他にイチカさんまで投入されてる。残りを補習授業部の面々だけで突破するのは不可能ですし、そもそも───)
「───第19分館への戦力投入、攻撃の口実になる」
ここが問題です。タイミングが早すぎれば建物内に戦力を配置する口実になりますし、遅すぎれば"残存勢力の制圧"を理由に建物そのものへの攻撃を行えます。
いくら戦力を分断し、こちらに先生が付いているとはいえホームグラウンドであるトリニティ内の建物でゲリラ戦を行うのは愚策。
試験中に突っ込まれたら答案が無事でも時間不足で普通に不合格ですし、建物ごと砲撃なんてされた暁には試験なんてやっていられません。
故に、仕掛けるのは今───8時20分。
この20分間何してたのかって?それは今から分かりますよ()
「はっはっはー!!エデン条約に関する機密書類はこの西水チトセが頂いたぁー!!(棒読み)」
「な、なんてことを......」
「速やかに投降してください!!」
「チトセちゃーん!?いや本当に何やってるんすかー!!」
いやー見覚えのある面々から"何を四天王!?"って目で見られるのも慣れたもんですよ。
彼女達も私の意図はうっすら理解していることでしょうが、それはそれとしてやってることはガチでヤバいので()
「捕まえられるものなら捕まえてみやがれー!!」
「くっ......」
「ハスミ先輩っ!!チトセさんが相手だとすぐに逃げられます!!」
「仕方ないっすけど戦力を分散するしか......」
戦力を分散し、建物の警備と私の追跡に割り振るべき。
私が本当に盗み出したのか、機密書類の一部あるいは大半がまだ残っているのではないか。
普段であればその場で即座に判断を下すべきですが───今回は状況が異なります。
「......一度ティーパーティーに連絡して指示を仰ぎます。マシロ、あなたは最小限の人員を連れて追跡に」
「......了解!」
「いやー、とんでもないことになっちゃったっすね......」
コール音が、1回。
2回、3回......5回。
15を数えたとき、ついに自動で録音サービスに切り替わります。
応答は無し。電源が入っていないか、或いは電波の届かない場所に居るという定型文のみがスピーカーから響く。
「───連絡が、つかない......?」
◇
●AM08:05
「ちわーっす、FoxEatsでーす。
......時間稼ぎの嫌がらせをお届けに参りました」
「───こいつ!!」
はいズドンと。
ほんの少しだけ開いたドアに手榴弾と焼夷弾を投げ込み、ドアへの接近を封じます。
「っ、何事ですか!!」
「......(無言で扉を固定する)」
「くっ......」
ナギサさんのセーフティハウス、その入り口を"快く協力を持ちかけてくれた友人"に開けてもらいましてね。
いやーまさか偶然にもタイミングよく仲良くなれるだなんて......
そんでミレニアム製ウレタンフォームの出番です。即座に硬化し鉄筋コンクリ並の強度になるこいつであれば、特殊な工具か馬鹿力の持ち主でない限り破壊は不可能。
「通信も絶ったので大人しくしててくださいね~」
「......っ、チトセさん」
「恨み言なら後でゆっくり聞きますんで。あでゅ~」
「......私は───」
......お互いゆっくりと、腰を据えてお話ししましょう。残念ながら今それを行うのは難しいですが───全てが終わった後に、また皆で。
◇
ミレニアム製の超高性能ジャミング装置により、ナギサさんは動けないし指示も出せない。
正義実現委員会は現場の判断で動く他ないですが、本来の指示である"建物の警備"と"盗み出された機密書類の回収"を両立しながら指示を待つのが最適。
つまり......
「何か困り事でもあった?」
「───ミカさん!?」
「えっ、マジですか......」
「ていうか一部始終見てたんだけどね......ほんとチトセちゃんは───」
手を翳すだけで職務に忠実な風紀委員を制して建物へと足を踏み入れ......数分後に機密書類らしき何かを手に出てくる。
「チトセちゃんが持って行っちゃったのは機密書類の中でも重要度が低いものみたい。残りはこれだから────そうだね、第12分館の第24教室に保管しよっか」
「分かりました。チトセさんの追跡はどのように?」
「うーん......そっちは私が個人的にやっておこっかな。あの子の逃げ足だと人数が増えてもあんまり意味ないから☆」
「......そうですね」
───現在の時刻は8時30分前。
正義実現委員が全員この場から離れた後に、試験会場となる第32教室に向かえば......ま、問題なく間に合うでしょう。
ほな最後の仕上げと行きますか───
「見つけましたッ!!」
「あっやべ」
◇
●AM09:00
「......結局、来てくれるじゃんね」
「そりゃ友達が体張って筋通すって言うなら、付き合うのが義理人情ってもんでしょ」
「なにそれ───でも、ありがと」
場所はトリニティの外縁、辺境に位置するナギサさんのセーフティハウス近く。
......ま、そこには
「......ナギサさんを押さえて指揮を上書き、正実を動かして試験は行い、同時にアリウスは全く無関係の場所に誘導。
最終的に誰にも知られないまま、抑えられない過激派は自らの手で対処する───今更ですが、何とも大胆な作戦ですね」
「だって仕方なくない?私やチトセちゃんならともかく、スクワッドの皆の意見すら聞いてくれないんだから!!」
襲撃の規模は前回や原作と比べてかなり落ちています。理由はシンプルで、アリウスの中でも過激な者だけで構成されているから。
(ババアとしては特に止める理由もない......エデン条約そのものでの失敗は許されないけど、その前に一部の人員を使い潰してティーパーティーをもう1人殺せるなら無問題。失敗しても特に痛手は無い、と)
「......来ましたね」
「準備はいい?」
「ええ、いつでも」
所詮は小隊規模、ミカさんは物資の援助を行っていましたが武装に関しては一切関与してません。
ただ生活環境を改善し、健康状態を正常なものとするために大量の物資を送っていました。
つまり───ちょっと健康になっただけの、大した武装もない数個小隊の敵です。
「......なっ、聖園ミカ───ッ!?」
「......本当はあなた達にも救われる機会があるべきだけど、今は余裕が無いの。
だから───祈るね」
「さて、君たちの利き腕はどちらだったか。ちゃんと一人ずつ思い出してあげるから、順番に並んでね。
......なーに、順番が来るまでは寝転がって待っていても構わないよ」
大丈夫大丈夫、ちょっと折るね☆するだけだから。
......エデン条約での戦いには参加できないよう、丁寧にね。
◇
●AM10:00
「......そんな、世界の終わりみたいな顔しないでくださいよ」
「......私は、補習授業部の皆さんを......先生を、チトセさんを裏切って───結局、何も......」
「っあ~......何から話せばいいやら」
こういう湿っぽい話は苦手なんですよね。
おそらく補習授業部の試験が終わったころ。私とミカさんはアリウス過激派にお帰り頂いてそのまま来た感じです。
超硬化ウレタンフォームを色々頑張ってブチ抜いた先、椅子に座ったまま項垂れている状態のナギサさんを前にして......めっちゃ良心が痛みまくってます。
ナギサさん目線だと今は自責と後悔の念に押しつぶされている状態ですが......それを言ってしまえば、こちらも同じような状態な訳で。
「......ナギちゃん?」
「ッ、ミカ......?」
おそるおそる上げた顔を覗き込むように。
或いは、自分以上に複雑な感情を内包したそれに疑問を覚えるかのように。
「......ごめんね、ナギちゃん。本当に───ごめん」
「わ、私は謝られる事なんて───私はずっと、何も......」
「そんなことない。ナギちゃんがずっと私やみんなの事を想って動いてくれていたのは、ちゃんと知ってるから」
「......ッ、私......わたしはそんな───」
椅子に座っている事すらできず崩れ落ちるナギサさんを、ミカさんがそっと抱き留める。
ある種の宗教画を思わせるその空間に───もう一つの声が響きます。
「───ミカの言う通りだとも、ナギサ。
君の歩みがどれだけ苦難と憂慮に満ちたものであるかを知らない者に、それを否定する権利など持ちえないのだから」
「......え?」
「素直にこう言うべきだったか。
......心配をかけてすまなかった、ナギサ。私は見ての通り無事だよ」
「......あぁ」
一歩、また一歩。
二度と会うことは叶わないと、既に喪ったのだと言い聞かせた友の姿を前にして。
ナギサさんは───ようやく、感情を一つの雫として吐き出すことが。
......その華奢な両腕に、もう離さないと言わんばかりにしっかりと収めて。
「......セ、セイアさん......」
「大丈夫だ、ナギサ。私は───ここにいる」
「───ぁ」
そうして、ナギサさんは。
数年ぶりに───そして私の前では初めて、声を上げて泣いた。
虚ろな譫言は徐々に明瞭な言葉に、そして少しずつ嗚咽へと変わり。
まるで泣き疲れた子供のように、それが収まるまで三人はずっと抱き合ったまま。
数分前まで水底に沈んだようであったセーフティハウスには、ナギサさんのすすり泣く声だけが響いていました。
次回、説教
次に書くかもしれないもの
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アビドス編
-
アビドス(過去)編
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エデン条約編の後