「キキキッ、全員今日は早く帰って寝ておけ。明日は───長い一日になるぞ」
「具体的に何を計画しているんですか?あまりイブキの教育に悪いことなら一緒にここで待っていたいのですが」
「そう言うなイロハ。未来の
「そうですか......」
彼女自身は計画に組み込まれていない。実行される計画も彼女が発案したものではない。
ただ、
流れ、とでも呼ぶべきだろうか。
葛藤し、苦悩し、それでもなお手を伸ばして選択した者たち。
彼女たちの理想に感銘を受けた訳でもない。絞り出した言葉に胸を打たれたわけでもない。
ただ求めるゴールがほぼ同じであり、それらは共存できた。それだけで十分だった。
「キヴォトスの歴史に残る、伝説的な一日になることを私は確信している。
そして当然ながら計画は完了している。───キキキッ、実行の瞬間が待ち遠しい......!!」
「はあ......何事もなければよいのですが」
◇
「......明日の調印式、何もなければいいのだけれど」
「西水チトセの情報網は確かです。ゲヘナ諜報部とは活動範囲が大きく異なるため一概に比較はできませんが、この手の事柄においては信用できるかと」
「───分かっているわ」
ミレニアムでの一件。チトセの介入を察知した時点から諜報部を何人か派遣しており、顛末はおおよそ把握していた。
名も無き神々の王女、そしてその従者が引き起こしかけた未曽有の大災害。
キヴォトスそのものを焼き払うという、無関係な人間が耳にすれば荒唐無稽な与太話として切り捨てられかねないそれ。
(チトセの情報網はゲマトリアによるものだけじゃない。チトセ個人にも何らかの手段があると見ているけど───彼女ほどの存在が私に忠告するほどの
その情報は、その脅威は
調印式当日にはヒナを含めキヴォトス最強格とされる生徒が4人集結する。
これらを同時に相手取りながら調印式に───或いは、もっと異なる何かに致命的な損害を与える何か。
「───
「......!?委員長、まさか───」
「その可能性も考えておくべきよ。
......何より、チトセがわざわざ警告したということは」
あらゆる問題を、誰の目にも触れぬうちに己の力のみで解決しようとする彼女が。
或いは自身の手に余り、問題を処理しきれない可能性を述べるということは。
「───
「......ソウデスネ(───許しませんよ、西水チトセ)」
◇
「あ~......」
やることねえなぁ......どうもシャーレの休憩室で寝ころびながらポテチ食ってます西水チトセです。
明日の調印式に向けてみんな忙しいので顔出すだけで迷惑だろうしなぁ......
なんかアビドスも最近治安悪いみたいですし、そっちに顔出すのも悪くはないと思うんですけどホシノさんとばったり顔合わせたら気まずいもんなぁ......
やることって言えばアレです。I.P.A.のセットアップを組んで、緊急時に私の脳を介さずに瞬時に発動できるようにしておくやつ。
今のところグレネードとか弾薬とかは自動生成できるようにしてあるんですが、一応ユスティナ対策に刀とかも作れるようにしておきますか。
ユスティナ対策と言えばケセドくんもそうでした。後で集めてたリソース回収して適当な形にしておきますか。
......と、色々とやれることはあるはずなのですが思考がイマイチ纏まりません。私らしくも無いですが、やはり調印式という一大イベントを前にすれば緊張くらいはします。
あの時私は瓦礫に巻き込まれた結果として左手の指を二本失い、右大腿と左上腕を撃ち抜かれ死の淵を彷徨いました。防弾チョッキを着ていなければ右肺と肝臓を撃ち抜かれて死んでましたかね。
原作においてはミサイルによる直接被害は軽微であったものの、その後にサオリさんに脇腹を撃たれていましたし。
そう考えたら私の時のサオリさんエイム良すぎない?普通に死ぬかと思ったわ!!
......懸念はたった一つ。調印式を無事に乗り切れるか否か。
私という存在がどこまでやれたのか、その答え合わせは明日行われる事でしょう。
「......ん?」
ピロン、という気の抜けた通知音。
普段は友人や先生からの他愛のない内容が表示されるプッシュ通知には......およそ学生間のやり取りとは思えない、緊張した内容が記されていました。
〈緊急事態だ〉
〈アツコが居ない〉
「......おいおいおい、マジですか」
最悪の事態、それは想定外の要素により最終目標の最低ラインを下回る事。
今回の出来事は一応想定内ではあるものの......想定しうる限り、最悪の状況です。
「あのババァ、やりやがったな......!!」
◇
「......おや、飲まれないのですか?」
"流石にね。明日のことを思うともう胃が痛い......"
「先生というのもなかなかに難儀なものですね」
調印式前日。本来はさっさと寝て体を休めて、万全の状態で迎えるべきなんだろうけど。
"......で、私をあんな言葉で夜の街に誘い出しておいて嘘なんてことはないよね?"
「ご安心を。私としても今回の件は慎重に扱うべきだと思ってはいるのですが......何せ、時間が限られているもので」
"時間が無い、ねえ......"
そんな日が来るかもしれないと。いつか向き合う日が訪れるかもしれないと覚悟はしてたけれど。
まさか、
(本当は、本人から聞きたかったんだけどなぁ......)
「私では不満かと思われますが、今回だけは許して頂けると」
"だからしれっと思考を読むな。そんなだと彼女できないよ......黒服"
「おや、あなたにパートナーの有無について心配されるとは......w」
"はいライン越え、ブッ〇す"
クリスマスケーキとか言ったやつマジでコレ(目潰しの素振り)だからな。
って、そんなことは今どうでもいいの。
"......本当にあのメールに嘘は無いの?"
「ええ、勿論です。今回の件───」
アビドス組の力を借りて午前中に仕事を終え、ゆるりと午後のティータイムを楽しんでいた私の携帯端末を震わせた一件の通知。
彼女たちが居る手前、必死で表情を変えないように努めたその内容は───
「───チトセ嬢の、正体について。
この件......先の名も無き神々の王女を上回る規模の災厄、或いはキヴォトスを根本から揺るがす何かが潜んでいる可能性があります」
"......詳しく聞かせて"
「ここから先の話は、あくまで既存のデータ及びそこから導かれる推論を踏まえて私が構築した仮説です。平たく言ってしまえば事実とは限らない推測です。
───ですが、一つ確信していることがあります」
それは、仮説と呼ぶには絶望的すぎる
的中など誰も望まない───だが、最も論理的で合理的で整合性のある仮定。
「チトセ嬢の言葉を借りるのであれば───この物語は、きっと
......勘と言われてしまえば、それまでの話ですが」
チトセが望むハッピーエンドには、自身の幸福を求めるという必要十分条件が欠落しています
これに気付けない愚かしさこそカスがカスたる所以です
次に書くかもしれないもの
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アビドス編
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アビドス(過去)編
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エデン条約編の後