「つまり、私に協力してほしいと?」
「......不甲斐ない限りだが、頼む」
調印式を数週間後に控えたある日、私のスマホを震わせたのはサオリさんからの連絡でした。
内容はある意味想像通りでしたが......
「あなたたち......アリウススクワッドに手を貸すというのは吝かではありません。
ただ、私へ協力を依頼した経緯を教えてください」
「......ほとんど、私の独断と言ってもいい」
「ほう......?」
「
だがこれでは───調印式そのものへの攻撃を防ぐことができない」
計画はシンプル。調印式における襲撃で手薄になったベアトリーチェを少数精鋭で叩くというものですが......彼女たちでは期日までに巡航ミサイルの発射ポイントを割り出すことが不可能であると判断したようです。
ラムジェットエンジンを搭載し、現代のキヴォトスにおける技術では再現不可能なオーパーツを詰め込んだ広域破壊兵器。
最大射程は推定1000kmオーバーであり巡航速度はマッハ2~4に達します。
搭載可能な弾頭重量は数百㎏を超え、その威力は絶大。
そして何より───脅威は原作のそれを大きく超える可能性があります。
「......仮にベアトリーチェの元から逃げ出すことに成功したとしても、その先に待つのは"調印式を破壊したテロリストの仲間"という烙印を押され常に追われる生活。
身勝手な話だということは重々承知の上だ。だが......それでも私は
「───サオリ、
......おっと、昔の口調が戻ってしまいました。
これはいけない、今の私は"西水チトセ"でしたね。それは......それだけは履き違えてはいけない。
私はあくまで仲介者。彼女たちが彼女たち自身の力で、彼女たちの望む未来に辿り着けるように点と点を結ぶ者。
私はもう───
「......あいつらが、日の当たる場所で真っ当に生きていける───そんな
「ちゃんと言えたじゃねえか───」
以前の私はアリウスの生徒たちの行く先を見届ける前に死んでしまったので、私は彼女たちに対して責任を果たすことができないままでした。
ずっと行ってきた支援も個人的な感傷や心残りに起因するものです。
ですがそれだけが原因ならベアトリーチェを早々に始末し解放するだけでよかった。その後に社会復帰可能なレベルまで支援を行えばいい。
とっくの昔に私は先生でないと自認しているにも関わらず、なぜ先生の真似事を通して彼女たちに関わろうとしているのか。
理由はきっと、言葉にすれば歪んでしまうから。
今だけはまだ形のないままにしておきましょうか。
「元から巡航ミサイルに関してはこちらで対処する予定でしたからね。サオリさんは予定通りに計画を進めてください」
「感謝する......本当に、何と言えばよいものか───」
「お礼は全てが終わった後でミカさんに伝えてください。私は私のやりたいようにやっているだけなので」
「そういう訳にもいかない。私を含めアリウスの中にもお前に感謝している者は多い」
───そんなものを受け取る権利なんて、
「何か言ったか?」
「......いえ、何も」
◇
「───来ましたね」
「ええ、それじゃあ手筈通りに」
「了解!!」
原作及び前回との明確な相違点、拡大した脅威の正体。
それは至ってシンプルな話───
(異なる方向から同時に6発───これを一般的な方法で迎撃するのは物理的に不可能ですね)
I.S.Cモジュールの複製とI.P.Aの解析を行う過程でオーパーツ級の遺物に関する技術は一気に進展。特に解析困難な理論及び技術を含む機構のI.P.Aによる再現は、一気に技術的ブレイクスルーを引き起こしました。
その恩恵を最も受けたのは私ですが───また同時にゴルコンダ氏も多大なるインスピレーションを受けたようでして。
結果として、巡航ミサイルの量産という最悪の事態を招いてしました。これ私が悪いんですかね?
「
「───落ちて」
デストロイヤーMk-Ⅱの性能は単純明快。ヒナさんが持つ神秘を最高効率で弾丸に込めて威力に変換するだけ。
素の状態で街を抉るその威力を最大限まで高めれば───射線上に存在する全てを灰燼に帰す致死の暴風雨と化す。
ですが最高速度でマッハ4を超えるラムジェットエンジン搭載巡航ミサイルに着弾させるのはほぼ不可能。そこで私の"必中"が活躍します。
この能力は自身が発砲した銃だけ弾道を弄れるのではなく、より正確には"自身の手から一定範囲内に存在する銃から発射された弾丸の軌道を任意に変更する"ものなんですね。
仮に私が発砲しなければならない場合は
ということで───
「───迎撃完了」
「お疲れ様です、ヒナさん。体は何ともありませんか?」
「ええ、2秒も撃っていないし問題ないわ」
ヒナさんのデストロイヤーは毎分1200発という超高レートの連射速度を誇るMG42を魔改造し多くのアタッチメントを付けたもの。
そこへ更に改良を加えたデストロイヤーMk-Ⅱの発射レートは毎分1800発に達します。圧倒的な威力と連射力により他の追随を許さない制圧力を持つヒナさんの戦闘スタイルを更に強化するもの。
───万が一、想定外の事態が起きてもヒナさんなら問題はないでしょう。
「先生と合流して迎撃の報告をしておくわ。チトセは───」
「そうですね......約束の時間まで30分はありますし、同行させて頂きましょうか」
「分かった」
ベアトリーチェが次に何を仕掛けてくるのか、ここについては正直分かりません。
アリウススクワッドによる強襲がこの直後に控えている上に、古聖堂地下のカタコンベは発掘した上で封鎖したので爆薬を仕込むことは不可能。このルートを用いて戦力を投入することもまた同時に不可能なはず。
古聖堂外部は当然ながら厳戒態勢。半径数km圏内に戦力を配置することは不可能ですし、更に遠くからチンタラ侵攻してきたらゲヘナ&トリニティの治安維持部隊がボッコボコにします。
何せ───エデン条約はもうあと数分後に締結される。
正式な効力を持つまではしばらくかかるでしょうが、ここには先生が居ます。彼女の声が掛かり、またエデン条約というルールが生まれた以上は協力するのが当然の流れ。
......一度、ベアトリーチェの目的について整理してみましょう。
あのババアとしてはエデン条約に水を差すのはあくまでおまけなんですよね。
私の存在により、色彩に触れることなく恐怖の力を扱う分野に関してはかなり研究が進んでいます。アツコちゃんの血を取り込んで上位存在に至るというのはあくまで手段の一つでしかなく、ユスティナ聖徒会の顕現はそれに付随するオマケみたいなもの。
つまり、今日この瞬間にベアトリーチェには"ユスティナ聖徒会の確保を諦める"という選択肢が存在します。
(とはいえ巡航ミサイルを撃ち込んできたということは、先ほどの時点までユスティナの確保を狙っていたということ。
......これは私たちにとって朗報とも言えるでしょう)
ユスティナ聖徒会の顕現にはアツコちゃんとマエストロ氏の存在が必要不可欠です。
上位存在への進化にアツコちゃんを"消費"していればユスティナ聖徒会の顕現は不可能、つまり───現時点ではアツコちゃんは無事。
アリウスが出払わなければ戦力差で磨り潰される可能性が高く、私やミカさんが介入すれば調印式直前まで逃げられるだけなので手を出せませんでしたが......どうやら読みは当たったようですね。
上位存在に至る、ユスティナ聖徒会も手に入れる。
二兎を追う強欲さ故に───お前は今回も負ける。
(しかし───エデン条約に端を発した一連の事件が片付けば、次にティーパーティーが"処理"しにかかるのはアリウスになる。
正義実現委員会とミカさん、そこに私と先生が加わればアリウスなんぞ数時間で制圧できるでしょうし......)
違和感。
その正体を探って辿り着いたのは一つの結論。
当たり前と言えばその通りですが。
「......あのババア、自力での目的達成をかなり早い段階で諦めてるな」
「───それが、今回の"敵"なの?」
「ええ。あの醜く肥大化したプライドだけが存在証明だったくせに、今回は全て人任せのスカスカな計画なんですよ」
アリウススクワッドの離反に気付いておきながら、私という脅威に何も対処できず。
トリニティに送った刺客は誰一人任務をこなすつもりもなく裏切られ。
研究成果を横からクレクレして大して理解もしないまま兵器転用、優秀な同僚に作ってもらった武器を無為に使い捨て、挙句に生徒を生贄に捧げて力を得ようとする。
マエストロ氏の
「───ッ、先生!!」
「チトセ!?」
マズい、技術的な問題と動力源の欠如により
それに......まさかそこまで手段を選ばないとは───プライドを捨てるとは思っていなかった!!
先生が視界に映る。
今まさに調印が行われようとしており、その歴史的な握手が結ばれんとした瞬間。
背後に開くのは、見慣れた次元の断層。
何度か耳にした声と共に放り込まれるのは厳重に梱包された高性能爆薬入りコンテナ。推定重量は───200kgを軽く超える。
「全員伏せろぉぉぉぉおおお!!!」
"チトセ!?何を───"
一か八か。
それを先生に強いる事だけは許容できない。賭けるのは私、失敗した場合に喪うのも───私。
(I.P.A発動───ッ!!)
だからまあ。
最悪、
でもどうか先生だけは。生徒たちの、未来だけは───
位相振動を引き起こし
エリドゥにおいては地下に予備動力と発電機が存在しており転移を妨害していました
もしチトセが検討していたとしても対策を実行に移すことは不可能であり、先生の傍に張り付いておくことが限界でした
次に書くかもしれないもの
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アビドス編
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アビドス(過去)編
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エデン条約編の後