アイエエエ!?センセイ!?センセイナンデ!?   作:湊咍人

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謎解き大好きお兄さんなのでチトセの名前に意気揚々と小ネタを仕込んだものの、そもそも本作はそういった層に向けたものでないのでは?と思うなどしました

あり得ないほど暇な人は解いてみてください


告解の番人

 

 戦闘開始からおよそ2分が経過。

 小手調べは終わり、互いの喉元に牙を突き立てんと戦いは苛烈さを増してゆく。

 

 チトセから提供を受けていたベアトリーチェに関する情報───かなり古いものであり信憑性はそこまで高くないと言っていた───と、今回の戦闘で得られた情報を組み合わせる。

 

(......15......12───そろそろか)

 

 断続的に鳴り響く発砲音から、視線をベアトリーチェに向けたまま全員の配置を脳内で組み立てる。

 ミカに対して追いすがる背から目を外すことも無く、ハンドサインで簡潔に指示を下す。

 

(───"ミカ"、"リロード"、"援護")

 

 チトセから受け取った情報は、本来の姿を現したベアトリーチェの大きさや攻撃パターン、些細な癖から攻略法に至るまで多岐に渡るものであった。

 まるで一度相対したかのような───いや、どちらにせよ有用な情報であったことは確かだ。情報の由来など些末な問題に過ぎない。

 

 ただ唯一、提供されていた情報と異なっていた点がある。それは───

 

「撃てぇっ!!」

 

 アズサの放った弾丸が左脚を抉って体勢を崩し、ヒヨリの狙撃がミカへ伸ばした腕を弾き飛ばす。

 ミサキのスティンガーが上空から強かに打ち据え、私の連射は頭部へ確実に着弾した。

 

 ───しかし、届かない。

 真の姿を現したベアトリーチェに対し、私たちの火力は不足していると言わざるを得ない。

 

 そう、唯一の想定外はその"硬さ"だった。

 

(手ごたえはあるがダメージは殆ど通っていないように感じる。だが───)

 

 ミカなら。彼女であれば或いは───通る。

 

「......鬱陶しいですね。やはりあなたたちから───」

「よそ見?随分と余裕なんだね」

 

 ......その場の空気が一瞬ではあるものの、確かな熱を帯びた。

 溢れんばかりの神秘が凝縮され、たった一発の弾丸として放たれる前兆。

 

 私ですら見たことない、ミカの全力。

 

「私たちはこれ以上、チトセちゃんに心配させちゃダメなの。

 だから───とっておきを見せてあげる」

 

 高周波の振動を思わせる共鳴音。

 チトセやベアトリーチェのそれとは異なる、神聖さすら感じる絶対的な"圧"がそこには存在していた。

 

 Mk-Ⅱと名付けられた、チトセが自ら作り上げた銃。

 贈られた直後にモモトークで画像と共に自慢されたのは少々腹が立ったが、なるほどこれはミカの為だけに作り出された専用銃器だ。同様の銃器を贈られたとて私では扱えないし、ここまでの銃をチトセから貰ったのなら喜ぶのは当然だろう。

 

 ......その割に、真っ先に自慢していたのはピアスだった気もするが。

 

「これで───終わりだよ」

「......ッ!!」

 

 砲撃かと錯覚するほどの轟音と共に、ミカの銃口から連続的に閃光が迸る。

 片手で重機関銃を連射することも可能なミカが訓練通りの構えでしっかりと保持して、それでもなお強烈な反動はその華奢な体を震わせる。

 

 だが銃口はベアトリーチェの巨大な身体の中心をしっかりと捉えたまま小動もしない。

 永遠かに思われた一連の攻撃を締めくくり、薬室(チャンバー)に送られた最後の弾丸へ膨大な量の神秘が注ぎ込まれる。

 

 神秘とは、即ち正の作用を齎すエネルギーだ。異能として発現する場合を除けば、その作用はある一定の方向性を持って物質やエネルギーに干渉する。

 

 振動、爆発、あるいは他者の神秘そのものに干渉する神秘。そういった属性を持ち現実世界において干渉力を発揮する。

 そしてミカが最も得意とする神秘の変質型は───貫通。

 

 その貫徹力はあらゆる現代兵器を凌駕し、神秘を込めた攻撃はたった一発で"戦略級攻撃"とも称される。

 

 ましてやチトセ自ら、ミカの為だけに作り上げたMk-Ⅱであれば。そこに通常を遥かに超える神秘を注ぎ込めばどうなるか。

 

「───やったかな?」

「それはフラグというものではないか?」

「......」

 

 もうもうと立ち上る白煙が晴れた先。

 

 ベアトリーチェの残骸───かのように思われたそれは一瞬だけ震えると、元の人型へと萎んでゆく。

 ......萎んでいく、という表現は適切でなかったようだ。"凝縮される"という表現こそが、目の前の存在をより正確に表していた。

 

「やはり"あちら"では分が悪いですね」

「......うっわぁ、本当にしぶといね」

「このまま押し切るぞ」

 

 戦況は五分───にも見えた。

 

 ミカの持つMk-Ⅱと呼ばれる銃は消耗が激しい分、もはや個人が持つ火力の枠を超えている。

 

 スクワッドが連携で崩し、隙にミカが差し込む。シンプルだが最も効果的で勝率の高い戦法。

 人型へと変化したことにより攻撃手段は変化したが根底にある戦闘スタイルそのものに変化は無い。

 

 互いに有効打が入らぬまま、牽制と様子見を繰り返している。

 

「くっ......」

「リロード!!」

「了解ッ!!」

 

 チトセから教わった対処法は大きく分けて二つ。

 

 まず一つ、攻撃の流れを絶やさない。ベアトリーチェと比べ私たちは耐久面に不安が残るらしく、守りに回ると不利になる可能性が高い。

 未知の攻撃に対応するのが困難であるなら、そもそも攻撃させないのが一番だと。

 

 そして二つ、決め手に欠けるのであれば時間稼ぎに徹すること。

 ベアトリーチェが得た研究成果はどのような形で応用されるか不明だが、防御面に特化した場合削り切れない可能性も想定するべきだと。

 

 ───その場合は私がケリを付けると。必ず合流するとチトセは約束した。

 

「鬱陶しいですね......本来はあなたたちに使うつもりなど無かったのですが───」

「......何か来る、攻撃の手を緩めるな───!!」

「無駄です」

 

 途端、自身の体重が数倍に増したかのような圧がその場を満たす。

 

 全く未知の感覚でありながら、それ自体が攻撃でないことを頭のどこかで冷静に理解していた。

 この感覚を私は、どこかで───

 

「───あなたも使えたんだね、恐怖(Terror)。チトセちゃんに教えてもらったの?」

「利用したまでですよ。この力だけでも十分なのですが、万全を期する為に儀式を執り行うのもまた一興かと」

「ふーん......てかいいの?こんなに時間掛けちゃって。もうすぐチトセちゃんが───」

「西水チトセは既に死んでいますが?」

「───は?」

 

 ......口角がゆっくりと吊り上がる。

 その嗜虐心に満ちた表情は私たちの精神的外傷(トラウマ)を刺激するのに十分であったが───そんなことはどうだっていい。

 

 ......ベアトリーチェは今、何と言った?

 

「───チトセが、死んだ......?」

「ええ、()()()()()()()()()()()()()()

「い、いや普通にありえないでしょ。だってチトセちゃんだよ?」

「信じなくとも構いませんよ。どうせ同じ場所に行くことになるのですから───」

 

 瞬時に巨大化した右腕。振り下ろされる触手を間一髪で躱すが───側面から一拍遅れて衝撃が伝わる。

 物理的な衝撃に対して敢えてタイミングをずらした未知の衝撃。次の動作に移る瞬間を突かれ、全身に明確な硬直が生まれる。

 

 これは......マズい。

 

(───耐えられるか?)

 

 咄嗟に腕を交差させ頭を守るが、想定していた衝撃が訪れることはなかった。

 ただ、彼女が身代わりになっただけ。

 

「───ッう......」

「ミカッ!!」

「前っ!!」

「......クソっ!!」

 

 回避。

 

 先程とは異なるタイミングで衝撃が全身を打ち据えるが、予想しておけば致命的な隙を晒すことはない。

 ......致命的でない、だけではあるが。

 

「サオリ姉さんっ!!」

「リーダー!!」

「くっ......!!」

 

 援護射撃が着弾する音も、先ほどまでと比較して明確に硬質な物へと変化している。

 ......時間稼ぎに徹するか───いや、チトセはもしかすると本当に。

 

(......本当に"そう"だったとして、私はどうすればいい?)

 

 大きく距離を取り、片腕を抑えているミカの元へ合流する。

 折れてはいないようだが、ヒビくらいは入っていてもおかしくない。

 

「......ミカ、私はどうすれば───」

「───そんなの、私にもわかんないよ。でも今やるべきことは一つでしょ?」

「そうだな......」

「そういえば───生徒に付けていたカメラがこんなモノを撮影していましたね。あなた達も見てみますか?」 

 

 無数に蠢く触手のうちの一つが携帯端末を器用に操作し、無造作に投げ渡される。

 

 私たちに隙を生じさせるための行動だと、単なる罠だとベアトリーチェに視線を戻すが動きは無い。

 ただ下卑た笑みを浮かべ、"それ"を見ろと促す。

 

 拾い上げた端末の画面に写っていたのは、真っ赤な───

 

「はい没収。R18-Gを子供に見せるんじゃありません」

「......え?は?」

「ほら、やっぱり生きてるじゃんね!!」

「......ふむ、やはり生きていましたか」

 

 そこには普段通りの───()()()()()()()身綺麗なチトセの姿。

 少なくとも一瞬だけ見えた惨状とは、どうあっても結びつかない。

 

"一応私も居るよー!!"

「あっ、先生だー!!」

「......初めましてになるか。錠前サオリだ」

"君がサオリね、よろしく!!"

 

 状況は把握しきれていないが、先生とチトセが居れば戦力としては十分以上。

 私やミカが把握していないところで何らかのアクシデントが発生したようだが───既に解決したと見ていいだろう。

 

「西水チトセ、そして先生の加勢。なるほど不利な展開ですが......」

「分かってんならさっさとサレンダーしろよババア。いつまでもお前に構っていられるほどみんな暇じゃねえんだからさ」

 

 嘲るように、それでいて一切の油断なく銃口を向けるチトセ。

 事実としてベアトリーチェは不利な状況にあるはずだが、彼女の佇まいには一切の焦りが感じられない。

 

 ───さながら、この状況を最初から予期していたかのように。

 

「分かっていないのはあなたの方ですよ、西水チトセ。最大の脅威であるあなたに対し、私が対策を講じていないとでも?」

「何ができるんだよお前はぁ!!」

「私は何も。故に()()()を呼びました」

「専門家だぁ......?そんな奴居たか?」

 

 そのような存在に心当たりは───いや、一人だけ居る。

 

 数か月前、珍しくベアトリーチェがアリウスを一か月以上離れた後。

 多数の瞳をあしらった不気味な黒い仮面。額に刻まれた18の数字。

 

 あれ以来姿を見ていなかったが、まさか───

 

「───ヒヒヒッ、小生をお呼びですかな?」

「......()()、お前」

「そうですね......小生の事は───」

 

 

 

 

 

 

「───地下生活者、とでもお呼びください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




チトセは地下生活者について一切知りません

追記 
登場人物紹介を更新しました

・白石カレン
・ベアトリーチェ
・地下生活者

次に書くかもしれないもの

  • アビドス編
  • アビドス(過去)編
  • エデン条約編の後
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